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越知月光は見ているだけでよかった11

全体公開 9 2492文字
2021-09-05 12:49:23
Posted by @uk_plus_

 「まだ何か仕事が
「あっ!片付いてる!から!私!教室の様子見て来るね!」

覗いた資材置き場に小さな背中を見つけた越知が声をかけた途端だった。弾かれたように声を出して、そして彼女は目を泳がせながらさっと自分の脇を抜けていく。その肩を掴むために出した手は空を切って、彼女から逃げられてしまった越知は肩を落とした。わかりやすく。

避けられている。

心の中で独り言ちて、そして越知はまた更に肩を落とした。その高い視界には逃げ去った彼女の背中はもう見えない。

「越知ー!前日だぜお前だけ葬式みたいな空気してんなよ!」
「あのね、だとしてもそれは言葉が過ぎるってやつだよ」

そうしている越知の肩を無神経なほど叩いたのは快活な友人で、特に心配することもなく返事をする細い友人もそばにいた。一体この二人はどこからやってくるのかと、自身の友人のことながら越知はげんなりする。

なんなんだお前たちは」
「それはこっちの台詞だって。なんなんだよお前は」
「ていうか、また落ち込んでるの」
「越知だけに!った!だからなんで俺だけぶつんだよ!」
うるさい」

スナップの効いた一撃をうるさい友人に叩きつけてから越知が珍しくため息を吐いている様子を見て、そばの二人は目を合わせた。




 「彼女に」
「避けられてるぅ?」

資材置き場の教室で、男三人それぞれ椅子に腰かける。それは未だ肩を落としている越知を囲むように。

「いつから?」
「恐らく、今日の朝からだ」
「お前何したんだよ」
「見当がつかない」

快活な友人が珍しく怪訝そうに言えば、越知はただ首を横に振る。越知には本当に理由がわからなかった。いつも通りに登校して、そして仕事のことについて声をかければ彼女に距離を取られる。それを朝からずっと繰り返していた。

「えーどうしたんだろうね」
「あれだろ?無神経なこと言ったんじゃねぇの?」
「お前と一緒にするな」
「俺が無神経なのは越知にだけだって」
「質が悪い」
「でも本当にどうしたんだろう、急だよね」
「そう、だな」

小柄な友人の言う通りで、本当に急なことだった。昨日はいつも通りだったのだから。思いつく限りのことを脳内で列挙してみても、越知は全くわからずただ頭を抱えるばかりだった。そして何よりわかりやすく避けられている事実が越知をひどく落胆させていた。

「だー!もう、面倒くせぇなぁ!」
「声が大きい」
「本当にうるさいからそれは越知に同意するよ」

越知と小柄な友人が考え込み黙っていると、唐突に騒がしい友人が声を上げた。それぞれに小言を口にすれば、対して彼は立ち上がり越知に向き直る。

「だからー!もう本人に聞けよ!面倒くせぇ!」
「聞けるわけが

聞けるわけがない。

第一何と彼女に問えばいいのか越知には持ち得る言葉がなかった。それ以前に全力で逃げられてしまっているのだから、捕まえることすら難しい始末なのに。しかしそんなことを思っている越知とは対照的に、同じように考え込んでいた小柄な友人がひとつ頷いた。

「でもそうだね。ねぇ越知」
「なんだ」
「俺、前にも言ったよね?人はお話しないと、何にもわからないんだよって」
……
「覚えてるよね?」

念を押すように問う友人にゆっくり頷いてみたが、しかし妙案が浮かばずに越知は歯切れ悪く言葉を漏らす。

「だとして、何と言えば
「それくらい自分で考えなよ」
「お前意外と冷てぇな」
「違うよ。俺たちが考えても仕方ないだろ?だって、越知の好きな子のことなんだから」

俺の、好きな

その言葉にふっと過った彼女の顔が、越知の眉間に皺を作らせる。

「越知、そうでしょ?」
……
「ずっと見てきた好きな子のことなんだから、越知がよくわかってるんじゃない?」
「そんなこと
「たとえ推測であってもさ、だめだよ、そこを放棄しちゃ。好きなんでしょ?」

小柄な友人が未だ歯切れの悪い越知に立て続けに言葉を投げかけて、それら全てが逃げ腰な自分の心頭を殴り続けた。
 見ているだけでいいと決め込んで眺め続けた景色が、たったひとつの簡単なことで手が届く場所まで来た。逃げ腰でいてはいけないはずなのに、越知の足元は未だ彼女を初めて知った時の自分のままだ。
 ぐるぐると考え事が巡って黙ったままの越知に、小柄な友人は更に言葉を続けた。

「自分の思ってることを、ちゃんと彼女に伝えないと」
……
「言葉にしないと、それはあってもないのと同じなんだからね」
……

あっても、ない

こんな日が来るまで、越知は彼女の隣が自分でなくとも構わないと思っていた。いや、思い続けようとしていた。そうすることで自身の腹の底をずっとずっと守っていたのだ。

今は

「越知?」
「そう、だな」

今一度名前を呼ばれた時、顔を上げた越知の目は落胆よりも強い光が宿っていることを見た友人二人は顔を見合わせて椅子から立ち上がった。

「っしゃー!つーわけで、今すぐ告白してこい越知!」
「お前のその馬鹿みたいな勢い、今だけ越知に分けてあげたいよね」
「そうそうってすっげー失礼だろお前それ」
「はいはい、そうと決まれば行動あるのみでしょ、ね、越知」
……ああ」

己のことのように笑い合っていつも通りに冗談を言い合う友人たちの姿に、越知は肩の力が抜けてふっと笑う。その顔を見て友人たちは更に笑顔になった。

「すまない、行ってくる」
「はいはいさっさと行け!」
「報告しないと、今度は越知がタバスコだからね」
「あれマジきちーから。お前なら回避余裕っしょ」
当たり前だ」

椅子から立って教室の扉へ越知が向かえば、騒がしい友人たちは軽口を言い合いながら手を振る。そんな彼らへ不敵に笑ってから、越知は足を止めて振り返り友人二人を見た。

二人とも」
「あ?」
「何?」
……ありがとう」

巨躯が小さく溢した礼に、仲の良い友人二人は静かに笑いかけてその背中を送り出した。


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