@uk_plus_
一人でワンルームに篭り、更にベッドの中へ篭っていると、巨躯を持つ学友がいつの間にかうちに来て、その真面目な姿勢からは考えられない無遠慮な態度でドアベルを鳴らした。
「…何しにきたの」
「特に意味は無い」
「そんなことってある?」
意味無く私の部屋にやってきた越知は、無骨な右手に下げられたレジ袋を差し出しながら無言の圧力で入れろと迫って来た。
「見ての通りの有り様なんですが…」
「別段いつもと変わらないようだが」
「それすごく失礼ですね」
まとまらない髪の毛を右手で梳きながら言えば、無遠慮な態度は変わらず返答する。もう観念して私は絶対に立ち去らないだろう彼を部屋に招き入れた。
「すぐ帰ってよ」
「何故だ」
「何故ってお前…」
私が思わず絶句していると、持っていたレジ袋を適当にテーブルに置いてそこそこに散らかった部屋の床に彼は座った。狭いワンルームに巨体の越知が座すれば、部屋は一気に密度を増したようだった。
「…何か言いたいことでもあるの」
未だ立ち尽くしたまま珍しく彼を見下ろして聞けば、窺い知れない前髪が揺れた。
「何があった」
「何にもないよ。本当、何にもない」
嘘偽りなどない。本当のことを告げれば、前髪の奥から明らかに納得がいかないといった空気を感じた。
そう、本当に何もない。あるとするならば、昔からの悪い癖が出てしまっただけだった。漠然と感じる、消えてしまいたいという衝動。それを抑えるためにはこうしてたまに何もかもから自分を隔離して、ただじっと時間が過ぎるのを待つしかなかった。
―そんなことは、誰に話すものでもないでしょう?
そう言葉にせずに苦笑してしまうと、越知はふと考えるように俯いた。
「別に何をしてほしいわけでも、何を言ってほしいわけでもないの。ただ」
―ただ一人にしてほしいの。
最後の最後は、本当に言葉に出来ていたか自信がないほど掠れた声に乗ってしまった。もうこの空気も居た堪れない。早く一人にしてほしい。そう思いだした頃、越知はまた顔を上げる。今度は隠れていた前髪の奥がちらりと見えた。
「そうか」
「うん」
「だが一つ問題がある」
「問題?」
「俺が一人にしたくない」
「は?」
素っ頓狂に声を出してしまうが、越知は別段動じることもなく私を見ていた。
「どういう―」
「何もわけがないにせよ、一人でお前が何かに耐えているのだと思うと」
―俺が我慢ならない。
そう声が聞こえた時には、大きなその手で右手を引き寄せられていた。
「一体どういったことで勝手に傷ついているのかは知らないが」
「お、越知、ちょっと」
すっぽりと腕の中に収められてしまい抗議の声を上げるも、彼はそれを解くつもりは毛頭ないようだった。私の声を無視して越知はつらつらと続ける。
「傷つくのも耐えるのも、全て俺のそばでしてくれ」
「越知…?」
「なんだ」
「それはなんか、まるで、好きだって言ってるみたいだよ」
「?…好きだが」
「好きだが!?」
腕の中、大声で繰り返すと、声量で越知が顔を逸らした。
「声が大きい」
「そりゃ大きくもなると思うんですよね」
信じられないといった顔をすれば、越知は心外そうにため息をついた。
「間が抜けすぎじゃないですか?え、むしろ今だったの?言うタイミング今だった?」
「…存外元気そうで安心した」
「それを言うのも今なの?」
全てのことに驚いていると、ようやく彼はその腕を解いて私を解放する。
そして立ち上がってから私を見やって提案、いや命令した。
「夕飯に行くぞ」
「えっ」
「支度しろ」
「え、急―」
「奢る」
「行く」
たった一言で身の振りを変えれば、呆れたようなため息と微かな苦笑が聞こえた。
「そういえば私は返事をしていないわけですけど」
「そうだな」
「冷静ですね」
「返答は決まっていると思っていたが」
「……好きです」
目の前で湯気を上げるオムライスに私は強くスプーンをぶっ刺した。