@uk_plus_
動悸の理由は明白であるし、胸の悪さも然り。それをどうすれば解決できるかなど、わかりきっていることだった。だのに越知はそれをどうにかすることができないでいる。
見つめた先のスマートフォンを二度ほど電源ボタンで明滅させて、しかしため息を吐いてからそれをベッドの上に放った。そして自分も同じようにベッドへ寝転ぶ。
時刻午後十一時。
カチリカチリと猫の装飾を施した時計が秒針を震わせて、越知の手先までもそれに呼応しているようだった。
―なんと返事をしたらよいのだろう。
再度ため息を吐き出してから、越知は放ったベッドの端末を見やる。
他人が今の状態を見れば小事であろうが、越知自身にとっては大事であった。それは思いを寄せる子との簡単なメッセージのやり取りを、如何にしたらいいのかということだった。自分自身がそんな悩みを持つなど越知は想像もしていなかったし、そしてそれは生来の性格がより解決し難いものにしていたのだ。
―怖がらせてしまっては…。
それだけは避けたくて打ち込んだ―恐らく極端に短い―言葉を何度も何度も推敲したが、どうあがいてもそれは淡白なものになってしまった。
―それで、いいのだろうか。
打つ度そう思えば、書き出したものを消してしまっていた。
多感な時期とは困難なものだった。いらぬ心配が何度も脳裏をよぎっては、起こるかどうかもわからない結末を想起させる。そして越知自身それが若さのせいだということに気付かず、翻弄されるままに文章を何度も直しては約二時間メッセージツリーに返答できないでいたのだった。
丁度いい言葉が出てこない自分の頭と経ち過ぎた時間にうんざりして、もうこのまま寝てしまおうかとスマートフォンへ背を向けた瞬間だった。聞き慣れた通知の音が静かな部屋に秒針の音よりも大きく響いた。
「っ!」
声にならぬ声を喉奥から出して、ゆっくりと越知はそれを振り返る。
―誰だ?
大事な会話は自分が止めてしまっているし、こんな時間に連絡を寄越すような友人は特に思いつかなかった。訝しみながら端末の電源ボタンを押して、越知の目は見開かれた。
文面の端から端までに目を通して、しかしそれでも心配になってまた文頭に視線を戻す。
それを恐らく五回行った。可愛らしい彼女の言葉に。
―考えていたところで、仕方のないことか。
そう腹の底で思って、越知はするすると指を動かし始めた。
完遂してしまえばそれはとても簡単なことに思えるのにどうしてそこに踏み切るまでが難しいのだろうかと、返事を打ち終えて脱力した越知は思う。
部屋の電気を消してベッドに潜り込み、越知はその切れ長の目を閉じた。彼女の「おやすみ」という一言を確認してから。
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すまない、少し手が空かなかった。
いや、お前が謝ることじゃない。
むしろこちらこそ遅くまでありがとう。
ああ、また明日。おやすみ。
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