@uk_plus_
「デートに」
「誘えないだぁ?」
二人の友人が席に着く越知を挟み素っ頓狂な声をあげた。正確には制服を少々着崩した煩い友人の方だけだったが。
「どういうことなんだよ…」
「だってもうお付き合いしてるんでしょ?」
誘っちゃえばいいじゃないと小柄で柔らかな物腰の友人が事も無げに言えば、越知は無言のままに俯いた。
「その、何と伝えるべきなのか」
「わからないの…?」
「まあ越知にとっては初めての彼女なわけだしなぁ」
溢されたその巨躯からは想像もできないような弱々しい言葉に小柄な友人が少々絶句気味に返せば、傍らにいる大仰なリアクションのもう一方の友人は頭を掻く。
「にしたって、それくらいわかるでしょ…」
「まぁまぁまぁまぁ。そう言ってやるなって。百戦錬磨のお前と違うんだし」
眉を顰めながら普段は温和で小柄な友人が言うと、煩い友人はにへへと笑いながらその肩をひとつ叩いた。その態度に珍しく冷徹な顔を向けて、細い肩に置かれた手をさっと払いのけ柔らかな友人は口を開く。
「…ま、お前みたいなクソ童貞の意見じゃ、参考にならないだろうね」
「いつもの五倍は棘がありすぎるっつーの」
「付き合った数で正解が出せるなら苦労なんてしないから」
どうやらこの三人の中では彼が一番様々な経験があるようだが、依然眉を顰めているそんな彼は未だ俯いたままの越知へ向き直った。
「嫌がられることはないだろうし、さくっと誘っちゃいなよ、越知」
「だとして、何と言えばいい」
お前は普段どうしているのだと聞き返されて、そんな純真無垢に近しい越知へ小柄な友人は苦笑いを浮かべた。
「そう言われてもなぁ~意識してやってたことじゃないし…」
「悩まなくても引く手数多ってのがわかりやすくて腹が立つわお前」
「…またタバスコ飲みたい?」
「ちっす、すいやせんっした」
いらぬいがみ合いを目の前でする友人たちをよそに、越知は本日何度目かわからないため息をついた。
「そもそも越知、デートはどうしたいとかあんのかよ?」
「…は?」
「いや、行きたい場所とか連れて行きたい場所とかって話」
「……」
「まさか越知…」
「ノープランでそもそも悩んでんのかよ!?」
「今隣でヘラヘラしてるクソ童貞よりもレベルが低いよ…越知」
「俺だって怒らないわけじゃないぜいい加減」
驚愕する友人たちよりも問われた越知自身が一番驚愕していた。約束を取り付ける方法にばかり頭がいって、その先のことを全く考えていなかったからだ。
「俺、越知ってもっと頭のいい奴だと思ってたわ」
「違うよ。彼女のことになると思考がフリーズしちゃって回ってないだけだよこれは」
そうなんでしょ?と急に話を振られて、越知はそうかもしれないなと声を落とした。誰が思うだろうか。この恋に悩む巨躯瘦身の男が高校テニス界の日本代表選手であるなどと。
「何かそれっぽい会話になったことはないの?」
「…一度だけ、あった」
「お?何々?」
「俺と彼女の休みが合う日に、受験の勉強をしようかと、一度だけ話題に上った」
友人二人にずいと詰め寄られて遠慮がちに越知がぽつりと言えば、聞いてきたはずの二人はしんと無言になった。どうしたのだろうと越知がその二人を見返せば、自分を見つめる四つの目は驚きで見開かれている。そしてほぼほぼ同時にわっと声があがった。
「そこだよ!越知!」
「は?」
「馬鹿野郎越知!俺でもわかるってのそれは!」
「な、なんだ?」
「その話題は結局どうなったの!?」
「…そのまま彼女が頷いて、終わったが」
「……馬鹿野郎かよ」
「愚か過ぎて越知の書庫を燃やしたくなったよ俺は」
「やめてくれ」
憂うような表情の小さい友人の言葉に若干青ざめた越知だったが、それはすぐに冷や汗となった。その友人が本当に珍しくこめかみに青筋を作っていたからだ。そしてその細い手からは考えられない力を含んで、越知の肩をがっつり掴み上げた。
「いい?今すぐ、彼女に連絡して、その話の続きをしな」
「い、今か?」
「当たり前でしょ?何言ってんの?お前もタバスコに塗れたいの?それとも書庫燃やす?燃え尽きたって俺の蔵書を貸してなんかやらないよ。あと必ず彼女に謝っておきなよ?」
わかった?と青筋はそのままに微笑む顔に仏など存在していないようだ。越知はだらだらとかく冷や汗をそのままに―というよりかは拭わせてももらえない―こくこくと何度も頷いた。
「よしよし。あとはまあ、自分で頑張ってよ」
「おいおい冷てぇな…」
「ええ?誘い方まで教えなきゃダメなわけ?最初頑張ったなら後も自力で頑張ってもらわないと」
「結局振り出しに戻るかも知んねーじゃん」
「それはないでしょ~。馬鹿がつくほど片思いしてたんだし、ね、越知」
念押しのように付け足された言葉に越知がまた何度も頷けば、柔らかな笑みの友人はにっこりと口元で弧を描いた。そして懐からスマホを一応取り出してみたものの、再び襲う小さな不安に越知はまたため息を吐く。
「くよくよすんなって越知。返答は間違いなくいいもんだろうしさ」
「だといいが…」
「あーもー暗っれぇなあ!じゃあ俺が彼女誘うわ!」
「……くたばれ」
「おい越知今なんつった」
「ほら、馬鹿がうるさくなる前に連絡しなよ。で、直接でも約束つけといで」
それから後で結果を教えてねと綺麗に笑う小柄な悪魔―もとい友人の言葉に越知はひとつ頷いて、席を立ちながら手元のスマホを操作した。