@uk_plus_
いつもより少々豪華な夕飯を済ませて“サンタさん”の来訪を待ち望む素直で可愛い我が子を寝かしつけてから、私と夫の月光はリビングで一息ついていた。深く沈むソファに二人並んで座り、淹れたてのコーヒーを口にして。
「今日はお仕事、早く切り上げられたんだね」
「前もってそうできるようにしていた」
「流石」
プレゼントの準備こそ抜かりなかったけれど、家族の時間についてまでしっかり考えて事前に行動しているところが彼らしいなと思わず微笑めば、月光は首を傾げながら私を見つめた。
「どうした?」
「ううん、なんでも」
「…そうか」
親になって何度目かのサンタ役。いよいよ我が子の自我がはっきりしてきたこの頃はその夢をしっかり支えられるようにと、夫婦二人でプレゼントの準備をしてきた。その準備期間を思い出して私が口元を緩ませていると、ああそうだと月光がソファから立ち上がった。
「なに?」
「いや―」
少々遠慮がちに声を漏らしてから、いつの間にかダイニングテーブルに置いていたらしいひとつの小さな紙袋を彼は私へ渡してくる。
「…?…これ」
差し出されたそれを受け取って中をちらりと覗けば、そこには正方形の白い箱がひとつ入っていた。それは丁度掌にぽんと乗るサイズだ。
「月光―」
「開けてみてくれ」
促されるままにその箱の蓋を開くと、そこにはいつも身に着けているものとは違うデザインの指輪が二つ並んでいた。大小のそれぞれがリビングの照明を反射して、ちかりと光る。
「え、ペアリング、月光これって」
「ああ」
未だ私の手の箱の中で光るそれの小さい方をさっと取って、月光は口を開いた。
「結婚した頃に言っていただろう」
「え、私、何か言ってた?」
「だいたい五年毎に揃いの指輪が欲しいと」
「…言って、いたと、思うけど―」
覚えていてくれたのという言葉は月光に左手を掬い取られて出せなかった。
若気の至りだと思う。なんとなしにそう口にしたことは自分でも微かに覚えていた。しかし安価なものでない指輪などそう頻繁に買えるものでないということも、十分にわかってはいたのだ。だからもちろん期待もしていなかったし、それ以降強く求めることもしたことはなかった。なかったはずなのに。
「そんな、だって…覚えてたの」
「ああ」
「あんな子供みたいなこと」
「お前がそう望むなら、叶えたいと俺はずっと思っていた」
すでに結婚指輪がはめられた左の薬指に新しい指輪をはめて、そう言った月光は私のその手を両手で優しく包む。
「わあ…ぴったり」
「やはりサイズは変わっていなかったな」
「こっそり確認してたの?」
「……さてな」
安堵するように漏らされた言葉に茶化すように返してから彼を見れば、私の手元を見ていた月光の目元が優しく細められていた。
―ああ…好きだなぁ。
長く居ても感情は変わらないと思っていたが、どうやら私は夫婦になった一番最初の気持ちを少々忘れていたらしい。月光の表情を見て胸に去来したそれに、申し訳なさと言い表せない位の愛しさを込めて私は彼の名前を呼んだ。
「月光」
「なんだ」
「…ありがとう」
「さして、問題ない」
恐らく月光にも同じ感情が湧いていたのか、言葉を交わし視線を私と合わせてからひとつくすりと笑った。
「いつも、感謝している」
「私も」
言葉と共にどちらからともなく唇を合わせてから、今一度笑い合う。そして先ほどの彼と同じように箱からもうひとつの指輪を取り出して、私は月光の左手に触れた。