了遊(ほんのり)。
秋の了遊大感謝祭タグみてわーい!てテンションあがって書いたやつ
@d9_bond
すん、と遊作が小さく鼻を鳴らした。
見やった了見の隣でなにか探すように辺りを見回す。
「どうした」
「何か、いい匂いがする」
「これは金木犀だな。どこか近くの家の庭先ででも咲いているのだろう」
遊作は小首をかしげた。
「あの芳香剤の? だいぶ違うんだな」
「……まあ、普通はそういった香料のほうが遭遇する機会は多いだろうが」
どこか不思議そうにも見える顔で、すんすんと小動物のように香りの元を探す遊作は年より少し幼く見える。了見は無意識のうちに口元を緩めた。
「風向きからするとあちらの方だろう」
もとより大した目的もない散策だ。二人は金木犀を探すことにした。
匂いの元を探して、路地裏を並んでゆっくり歩く。
ひと月前と打って変わってすっかり和らいだ日差しが心地よい。夏空とまた違った透明感のある青空にはうろこ雲が浮いている。
どこか冴えた気配のする空気の中、金木犀は戸外でそれと分かるほど強く香りながらも香りそのものは丸みがあり優しい。
「この時期になるとどこからか香るな」
「そうなのか」
遊作はいくらか目を伏せた。
「知らなかった」
「まあ、近くに木が無ければ感じる機会もないだろう」
了見が言うと首を振る。
「そもそも今まで、こんな風にゆっくり外を歩いたりしてこなかったから意識したことがなかった。たぶん、匂いがしていても気がついてなかったろうな」
小さくため息をつく。
それから、目的を思い出したように周囲に視線を巡らせる。
住宅街を縫うようにして小径は続いている。
時折聞こえる生活音や、ペットらしき犬の声。微風に揺れる庭木の葉擦れ。柔らかな日差しの中に淡く香る金木犀。並んで続く二人の足音。
呆れ返るほど平穏で平凡な景色。
「だからか、お前とこうやって外に出ると色々なことに気がつく。季節で空の色が違うとか、空気が違うとか」
はにかむ遊作に了見は微笑した。
「……私も同じだ」
そのすぐ後で横道の先に橙の花の咲く木を見つけたが、了見は黙っていた。そのまま通り過ぎる。
もう少しだけ、二人でこの空気の中を散策していたかったので。