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【サガフロ】人魚の恋は叶わない【ジーナ】

全体公開 サガフロ 1 3046文字
2021-09-22 23:15:57

妖魔エンドを迎えた直後、オルロワージュを倒してすぐくらいの時間軸の話です。妖魔の君となったアセルスとまだ人間のジーナの話。こんなやりとりがあったらいいなという私の妄想です。あとラスタバンがめちゃ酷いやつになってます。すみません。

 あなたの噂を聞き、あなたの服を縫いながら、私はまだ見ぬあなたに恋をしていました。
 ようやくその姿を初めて見た時にはたいそう驚いたことを、昨日のことのように思い出します。——あなたに話かけれる度に舞い上がってしまっていたことも。
 かの姫君と逃げたと聞いた時には悲しみと嫉妬で気が狂いそうになりました。御城主様が追っ手を差し向けたと聞いた時には心臓が張り裂けそうになりました。けれどもあなたがそれを退けたという話を聞く度に安堵したものです。
 そして私があなたの話を聞く度に一喜一憂していたその時、針の城からやってきたラスタバン様の手により捕まりました。私は逃げることも抵抗することも出来ず、お城の一室に閉じ込められ、怪物の腹の中に収められてしまったのです。
 ——いつかきっと、あなたが助けてくださる。
 それだけ、たったそれだけがこの暗闇での私の生きる希望でした。
「ジーナ。ごめんね、こんなところに閉じ込めていて」
「アセルス様!!」
 そうして私が助けられた時には——全てが終わったあとでした。そう、全てが。
「よかった……ずっと待っていました。あなたが来るのを」
「よかった。私のことを待ってくれていて。それじゃあジーナ、私の最初の寵姫になってくれる?」
「えっ」
 ——寵姫。それは御城主様に選ばれた女性の呼び名。
 私は急なことに理解が追いつかず、何度も瞬きをしてしまいました。そんな私をみてアセルス様がクスクスと笑います。私は恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じました。
「あのね、ジーナ。私が今度はこの城の主になったんだよ」
「ええと、それではあの、御城主様……オルロワージュ様は」
「私が殺したよ」
 私が恐る恐る尋ねると、アセルス様が目を細めてたった一言そう言いました。その時のお顔は……いえ、なんと言い表せばいいのか、語彙の少ない私にとっては分かりません。ただなんとも言えない表情ではありました。私がこんな風に悩むくらいに。
「そう……でしたか……
「ジーナは私が城主になったのは嬉しくないの?」
 こてんと首を傾げながら言うアセルス様は愛らしくもあり、それでいて恐ろしさを感じてしまいました。私はあなたを否定するつもりはないと必死で言葉を紡ぎます。
「い、いいえ! いいえ! そんなことはございません!! とても良きことだと思っています。ただあの、びっくりしてしまって」
「そう、それならよかった! じゃあ、私の寵姫になってくれるかい?」
 私の言葉がうまく伝わったようで一安心したところ、最初の話に戻りました。私は一瞬躊躇ってしまったのです。このまま素直に頷いて良いものかと。私が何か言葉を発しようと息を吸い込んだその時、カツンと足音が響きました。ぼんやりと明るいこの場所では近づかないとよく顔が分かりません。そのまま足音がゆっくりとこちらへ向かってきますと、その方が誰なのか判明しました。
「アセルス様。ジーナ様は今目覚めたばかりです。そんなに急いてしまってはジーナ様が困ってしまいますよ」
「ラスタバン、邪魔をするな」
「ラスタバン様……
 ニコニコと微笑みながらやってきたのは、まるで絵物語に出てくるような貴公子然とした出立ちのお方……ラスタバン様でした。
 ——私を、あの仕立て屋から攫って行ったお方。
 そういえば親方はどうなったのでしょうか。今更思い出して、あんなに世話になったというのに我ながら酷いと思ってしまいました。もし針の城へ乗り込んで上級妖魔の方々の怒りでも買っていたらと思うと背筋がスッと冷えてしまいました。
 そんな風に、まるで先程のアセルス様の問いかけに対して逃避するような思考をしていた私を現実へ引き戻したのは、やはりアセルス様の言葉でした。
……分かった。お前の話も一理ある。ここは一度引こう」
「アセルス様?」
「ジーナ、答えをすぐに求めてしまって悪かったね。君がオルロワージュに捕らえられたままだと聞いて、すぐ助けなきゃって思って焦っていたんだと思う。返事はまた後で聞かせてくれ。次に私が訪れるまでに聞かせて欲しいな」
「あ、あのっ」
「いい返事、待ってる」
 そうしてアセルス様は私の頬に口付けを一つ落とすと颯爽とその場を後にしました。ラスタバン様に「ジーナに侍女をつけて服を整えるように」と言い残して。
 私は先程口付けされた頬を押さえながら、ただニコニコと微笑むだけの、私を攫った張本人たる妖魔に向かって叫んでいました。
「ラスタバン様……アセルス様にウソを吐いていらっしゃるのですか!? 私は貴方に攫われたのに!!」
「いいえ、私は何も言っていませんよ。アセルス様がそう思っているだけです」
「なんて卑怯な……!」
「なんとでも言いなさい。これはファシナトゥールのためなのです。この澱んだ国を一掃するために、新たな王が必要だった。ただそれだけなのですよ」
……ひどい。アセルス様を利用したというのですか!? 優しいあの人を!!」
「利害が一致したのですよ。この国を変えたい私と、オルロワージュ様を倒すアセルス様の」
「ひどい……ひどい。こんなのって、ない……!!」
 私はその場で顔を覆い、崩れ落ちて泣き叫ぶことしかできませんでした。
 ここから出たいと言っていたあなた。こんなところにいたくないと言っていたあなた。ジーナはすごいね、こんな服が作れるのだからと私を褒めてくれたあなた。あなたがこの城を出るまでの短い記憶が、激流のように押し寄せて——やがて先程の、妖艶に微笑んで私を寵姫にしたいと願い出たあなたが全て押し流していきました。
 ああ、もう私にはあなたを受け入れるしか道はない。あなたがたった一人ゆく茨の道を、付き添い歩くしか私にできることはない。孤独なあなたの心を守れるのは私しかいない。
「もう泣いても変わることはありませんよ、ジーナ様。永遠に、ね」
 ラスタバン様がフッと口角を上げるがその目は笑っていない。きっとこの人は誰も信じていないのだ。アセルス様だって利用した人だ。ならば私だって貴方を利用してやろう。ちっぽけな自分がどこまで太刀打ちできるかわからないけれど。
 私は袖で乱暴に目を拭うと、できる限りラスタバン様を睨みつけながら言いました。
……ええ、分かっています。私たち人間の永遠とも言える時間が妖魔の皆様方の生きる時間。それならばその時間、ずっとアセルス様に捧げます。誰も味方がいないこの城で、私だけがアセルス様の味方になります」
「おや、嫌われたものですね」
「当たり前でしょう。私はこれから未来永劫、死ぬまでずっと貴方を許さないと決めました。アセルス様を利用したことを後悔するといい」
「さて、どうでしょうね。とりあえずそのお顔をどうにかしていただかなくては。私がアセルス様に消滅させられかねない」
 くつくつと楽しそうに笑いながら、ラスタバン様は部屋の影に溶けるように消えてゆきました。そうして、代わりにこの城の侍女様が入れ替わりに音もなく瞬時に現れました。
「ジーナ様、湯浴みの準備が整っております。どうぞこちらへ」
……わかりました」
 そして私は侍女様の後に続いて、部屋を後にしました。私は最後に一度振り返ると頭を下げました。——これからもう二度と振り返りはしないと決意を込めて。
【終】

夢見月*お題bot
@neko_soragotoより
「人魚の恋は叶わない」


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