遠く異国から嫁いできた者同士。
というにはあまりに歪な友人関係が、彼女との間にはある。
ユスティエナ自身に彼女に対する好悪の感情はそもそも存在しない。ただ、隙を見せれば捕食される、いわば天敵のような相手だ。そこに付け加えておきたいのは、ユスティエナは彼女を警戒こそすれ、一度も恐れたことはないということ。
先方は間違いなくユスティエナを嫌っている。憎んでさえいよう。
だというのにこの二十年と少し、彼女はユスティエナを殺すに殺せなかった。
社交界では表向き、自分達は一人の子供を通じた無二の親友ということになっているが、その裏で二人が凄絶な駆け引きとにらみ合いを続けてきたことは誰もが勘づいている。
それでもユスティエナと彼女は、顔を合わせる度ににっこりと微笑んで挨拶を交わさねばならなかった。
この関係に持ち込み維持してきたという点では、ユスティエナが天敵の首を抑え優位に立っているといえよう。
だから彼女はますますユスティエナのことが嫌いになるのだ。
「ごきげんよう、ユスティエナ」
この日も、二人の〝友情〟に基づいて彼女は自ら開いた茶会にユスティエナを呼んだ。
数多の貴婦人が招かれた茶会で、ユスティエナは彼女の隣の席へと案内される。
「お招きに感謝いたしますわ、妃殿下」
「春野菜のパイを持ってきてくださったのですって?」
「ええ、殿下のお嫌いなそら豆は入っておりません」
「うれしい。あとで皆さんにも振る舞いましょうね」
そう言って屈託ない笑みを浮かべる大公妃ハイデマリーは、嫁いできた当時となんら変わらない少女のようだった。夏の女神に例えられる容姿――明るい金の髪に縁取られ青緑の瞳をはめ込んだ白い肌も、少しも衰えたように見えない。
「今年の春はさみしいわ。あなたもそうではなくて? なにせ息子達がいっぺんにいなくなってしまったのですもの」
「もともと家にはいないような子達でしたから、少し遠くに出掛けているのと同じですわ」
「そう……でも、出掛けているだけなら帰って来るわね。そう遠くないうちに」
「お帰りにはならないでしょう。ディルク様はシヴィロのお世継ぎになられたのですから」
ユスティエナが返した言葉に、ハイデマリーはふふ、と声を漏らして笑った。そして音を立ててカップを置く。
その乱暴な音を聞いた近くの席の貴婦人達に緊張が走った。
大公妃が何かの拍子に機嫌を損ねると、まるで幼児が暴れているような騒ぎになる。この国で最も尊い貴婦人を力尽くで押さえつけられる者はいないので、茶会のテーブルなど二つか三つはひっくり返って当たり前なのだ。
ところが、しばし沈黙していたハイデマリーはつい今し方の会話を忘れたように手を叩いて言った。
「あちらのお庭でリラが満開なのよ。見に行きましょうか」
貴婦人達の肩から力が抜け、誰からともなく賛同の声が聞こえた。
「あなたも一緒にいらして、ユスティエナ」
この無邪気な暴君、大公妃が君臨するウゼロ公国の宮廷、とりわけ女の社交場は、この十年で一気に華やかさを増した。特に仲のよい女友達をつくって、幼い娘のように手を繋いだりくっついたりして歩くのが流行っている。
ハイデマリーがその相手として選ぶのは、いつもユスティエナ。
「はい、殿下」
差し出された華奢な手を取り、甘い香りを漂わせる少女のような大公妃と腕を絡めて歩きつつ、ユスティエナはいつでも盾に出来るよう鉄の骨でつくられた扇子(ファン)を利き手で握りしめた。
この扇子が、あの時もユスティエナを助けたのだ。
* * *
殺気に気づいたのは幸運と言ってよかった。嫁いでからというもの、少女時代のように剣の稽古などしていなかったから。瞬時に身体を動かせたのもほとんどたまたまだ。
お産のあと、しばらく静養していたユスティエナが久しぶりの外出から戻り、一緒に抱えて出掛けていた赤子をゆりかごの中に戻してほっと息をついた時だった。
着替えを持ってきたはずの女中が短剣を手に躍りかかってくるのが視界の端に見えたので、ユスティエナは一度置いた護身用の鉄の扇子を握って振り向きざまにその一撃を弾き返した。
反撃されるとは思っていなかった女中が狼狽えた隙にもう一閃。硬く閉じた扇子で相手のこめかみを殴打する。
「そなた、何のつもりか!」
ゆりかごを背中に庇いながらユスティエナが一喝すると、痛みに悶えていた女中は裂けたこめかみの血を拭って再び向かってきた。
数日前に前にテナ家で召し抱えた女中だった。それ以外は分からない。彼女がなぜ襲いかかってくるのかも。
いや、もしかすると――
明確な殺意で充血した相手の目を見据え、ユスティエナはテーブルの上から花瓶を花ごと、次いで開いた扇子を投げつけて相手の視界を遮り、的も定めず突き出された短剣と相手の手を掴む。
掌が切れる感触があったが怯むわけにはいかない。今力を抜けば至近距離から刺される。
短剣を持ったまま揉み合うことしばらく、実際にはごく短い時間だったのだろうが、女中もユスティエナも冷たい汗を浮かべながら攻防を続けている内に、ユスティエナの叫び声と赤子の泣き声にほかの女中が気づいた。
「奥様? 奥様、どうかなさいましたか」
いつもより強く叩かれる扉の音に、相手の気が一瞬逸れる。
ユスティエナはその瞬間を逃さず渾身の力で相手を押し返した。女中は脚をもつれさせ、追い詰められるまま背中から壁に叩きつけられた。彼女の短い悲鳴が上がったあと、ユスティエナの手に熱い液体が吹きかかってくる。
扉が開いたのはその時だった。入ってきた女中は室内の惨状を見るなり悲鳴をあげて卒倒したが、異変に気づいて呼ばれていたらしい家臣の騎士が遅れて駆け込んできて、ユスティエナと女中を引き剥がした。
「これは、いったい何があったのですか!? 奥様、手にお怪我を……!」
「たいしたことはありません。それより、この女中の素性を調べなさい。後ろからわたくしに襲いかかってきました」
腹に短剣を刺したまま〝女中〟はか細く喘いでいる。もう〝事情〟は訊けないだろう。
ユスティエナは脚をふらつかせながら、事切れようとしている彼女の傍へ歩み寄り首元をまさぐった。
緩めた襟から金の鎖に繋がれた家紋のペンダントが現れる。
描かれた花はテナ家のスミレではなく、鈴蘭。
それをそっと女中の首から外し、見る間に目の光を失っていった彼女の頬を申し訳なく思いながら撫でた。
恐らく、この女中はユスティエナを殺しに来たのだろう。ゆりかごで激しく泣いている赤子の母親に命じられて。
鈴蘭のペンダントを無くさないように自分の首にかけ、血が出ている左手にひとまずハンカチを巻いて、ユスティエナは赤子の傍に歩み寄った。
赤子はユスティエナが産んだ子ではなかった。ユスティエナはこの子が生まれる十日前に娘を産み、その日のうちに亡くしていた。
赤子は公子エッカルトの妃が産んだ、〝大公の血を引かない〟世継ぎの子だ。
生まれはどうあれ、様々な巡り合わせでユスティエナがこの子の乳母を務めることになり、テナ家が赤子の身柄を引き取った。
公子の妃ハイデマリーが、赤子と引き離されるときに烈火のごとく怒って産褥の上で暴れ、ユスティエナと彼女の夫に恐ろしい呪詛を吐きかけてきたのが思い出される。
ユスティエナと同じように体力を取り戻したハイデマリーは、赤子を奪い返すための手段を考え始めたらしい。手始めに思いついたのがユスティエナの排除か。
(黙っていては、同じことを繰り返しそうね)
「もう一度出掛ける支度を。クリスティアンも連れて行きます」
騒ぎを聞きつけわらわらと部屋に集まってきた使用人達にそう告げ、ユスティエナは血を拭いた手で泣きわめいている赤子を愛しげに撫でた。
十八歳の元王女、ウゼロ大公の継嗣の妃ハイデマリーは、静養中の館にある温室でうとうとしながら寝椅子に寝そべっていた。
その傍には、赤毛の少年がちょこんと座って女神のように美しい姫君のかんばせを眺めている。この子供は確か、シヴィロ王家から嫁いできたハイデマリーの小姓だったか。
ユスティエナの来訪に気づいたのは彼だった。
「ひめさま、おきゃくさん」
彼はそう言いながらハイデマリーの肩を揺すった。子供とはいえ未来の大公妃の身体に触れるなど許されないはずだが、ぼんやりと目を覚ましたハイデマリーの顔に不愉快さは一つもない。彼女は自分を揺り起こした少年にとろけた笑みを向け、親しげに頭を撫でてやる。
「お客さんてだぁれ? ルウェル」
「うーん」
首を傾げ、主の問いの答えを探す小姓の少年こと、ルウェルとは、ハイデマリーから赤子を引き取る際に一度顔を合わせていた。しかし、彼はもう三ヶ月前のことを覚えていないらしい。
それでも、ユスティエナが抱いている赤子を見てぴんときたようだ。
「ひめさまの赤ちゃんを抱っこしてる」
その言葉を聞いたハイデマリーは、初秋の心地よい陽射しに溶けてしまいそうなほど眠たげにしていた目を見開いた。
彼女はがばっと起き上がり、ユスティエナの姿を捉えると、寝乱れていた髪を逆立てんばかりに怒りを燃え上がらせたのが分かった。
「わたくしの赤ん坊を盗んだ女!」
ハイデマリーは寝椅子から飛び降り、裸足で駆け寄ってきた。先ほどまでのいとけない少女の笑みが嘘のような形相でユスティエナに掴みかかろうとする。しかしハイデマリーとユスティエナ、それぞれの護衛の騎士にそれを阻まれ、姫君はじたばたと暴れた。
彼女の気配に驚き、腕の中の赤子が泣き始める。ユスティエナのあとを大人しくついてきていた息子のクリスティアンも、青ざめて母のドレスにぎゅっとしがみついてきた。
「姫様には長らくお子様のお顔もお見せせず、大変ご無礼をいたしました。今日は姫様に会いに参りましたの。ぜひお話ししたいことがあって」
ユスティエナはその場の異様な空気にも動じず、静かに言った。何がハイデマリーの心に響いたのかは分からないが、姫君は空気が抜けてしぼむように大人しくなった。
「お前を殺すように言ったのに、なぜ生きているの?」
再びまあるくあどけない形に戻った青緑色の目で、ハイデマリーは天気でも尋ねるように言った。
テナ家の騎士がぎょっとしているのを視界の端に見ながら、ユスティエナは召使いに抱えさせていた包みをハイデマリーの寝椅子の傍にあったテーブルへ運ばせる。
「姫様への手土産です。お納めくださいませ」
一見すると、大きなケーキかパイでも入っていそうな包みだ。ハイデマリーはのろのろと寝椅子へ戻り、腰掛けて、その包みを開く。
中から漂ってきたおびただしい血のにおいに顔を顰めたが、悲鳴はあげなかった。それどころか彫刻のように冷ややかで妖魔のように妖しげな笑みを浮かべた。
「その者の顔に見覚えがございますでしょう。姫様の鈴蘭の紋を身に着けておりましたもの。誤って殺してしまいましたが、亡骸はお返しに参りました」
「恐い人。首のケーキなんて初めて貰ったわ。これは食べられないのよ、ルウェル」
ハイデマリーはそう呟きながら、包みの中にある人の首を覗き込んできょとんとしていたルウェルの赤毛を優しく撫でる。
「申し上げておきますが、またそのような者を当家に送り込まれても、わたくしは同じようにいたします」
「お前がわたくしに赤ん坊を返せば誰も死なずに済む話なのに」
「それは出来ません。お子様は、大公殿下と公子エッカルト様のご命令でテナ侯爵家がお育てすることになりました。姫様のご一存に従うことは出来ません」
「わたくしが産んだのに!! 知っているわよ。お前、その子を盗む前に自分の子供を死なせたのでしょう。だからわたくしの子を代わりに連れ去ったんだわ、自分の子供にするために!」
ユスティエナは赤子を抱く腕に力をこめた。奪われたくない、と思った。
ハイデマリーが言ったことは真実かも知れない。ようやく産んだ娘が、弱々しい泣き声を一つあげただけで徐々に動かなくなっていった日のこと、それからの数日間、明けない夜の中に閉じ込められたような絶望感を味わったこと。
この子がいなければ、ユスティエナはそこから出られなかったかも知れない。
死んだ娘の代わりにすぎないかも知れない。
でも、この子は今日までユスティエナの乳を飲んで育ってきた。
もう、ユスティエナの子だ。
そんな思いはすべて隠し、ユスティエナは毅然と言った。
「なんとおっしゃろうと、お子様はテナ家でお預かりいたします。必ず立派にお育て申し上げます。ですから、姫様にはただ見守っていただきたいのです」
ハイデマリーはうっそりと目を細めて嗤った。ユスティエナの心を見透かしたようだが、もう何も言わない。
「そう。ではお前の息子を代わりにちょうだい。そのために連れてきたのでしょう? ルウェルにも、わたくしのほかにお友達がいたらいいなと思っていたのよ」
ユスティエナの足許で、クリスティアンがもぞもぞと動いた。母達が何の話をしているかは分からないだろうが、不穏さだけははっきりと感じている。泣くことも出来ないほど恐ろしいらしく、まだ四つにもなっていない息子はドレスのひだを身体に巻き付け隠れようとしていた。
ユスティエナがクリスティアンを連れてきたのは、赤子と交換するためではなく息子の安全のためだ。テナ家の使用人の中には、まだハイデマリーの息のかかった者がいるかも知れない。特に今日は義父も夫も留守にしており――それを狙われたのだろうが――、使用人達の素性を調べ直す時間もなかった。だから自分の目の届くところに置いておかねばならない。
それこそ、本当に赤子の代わりに連れ去られるかも知れないし、人質にされて赤子を返すように要求される可能性だってある。
しかし、この場にはユスティエナも騎士もおり、例え力尽くだろうと無理に奪うことは出来まい。
それゆえユスティエナは、自信に満ちた、それでいてハイデマリーにも負けないほどの冷え冷えとした笑みを浮かべた。
「それも出来ません。この子はテナ家の跡継ぎ。むしろ姫様、そこにいるルウェルのことも当家でお預かりいたしましょうか」
すると、ハイデマリーの表情がすっと消える。
「嫌よ。ルウェルはわたくしのお友達だもの」
「ですが、男児に必要な教育というものがありますわ。当家は武門の家、剣術も馬術も、身に着けられる環境がいくらでも用意してあげられます」
「そんなことを言って、わたくしからまた奪う気ね」
「いいえ。それに姫様、〝お友達〟がお子様の傍で様子を見ていてくれるなら、姫様もお心安く過ごせるはずです。姫様がおさみしい時は、いつでもルウェルをお返しします」
「……」
ハイデマリーは感情の抜け落ちた目でユスティエナを見つめてきた。
ユスティエナの意図に、ハイデマリーは気づくだろうか。
どうやら、ルウェルは彼女にとってよほど特別な〝友人〟らしい。
彼こそユスティエナの人質にする価値がある。連れて行きたい。ハイデマリーが、今後ユスティエナやテナ家の人間に危害を加えられないように。
ハイデマリーにとっても悪いことだけではないはずだ。ユスティエナを排除出来なくなっても、信頼できる連絡役がテナ家に送り込めるのだから。
「姫様、いかがでしょう」
ハイデマリーはなおも沈黙していた。
その様子は己の感情に振り回される少女のものではない。ユスティエナが切り出した束縛と好機の札をどう利用するか考える、謀が出来る者の顔だ。
ハイデマリーは、やがて傍にいた少年の身体をぎゅっと抱きしめた。
「ルウェル、わたくしの赤ん坊がちゃんと大切にされているか、見てきてくれる?」
「うん」
意味を分かっているのか怪しいほど元気のよい声で、赤毛の少年は返事をした。そしてハイデマリーに背中を押されると、トコトコとユスティエナの許へ走ってくる。
「赤ちゃんのこと、だいじにしてる?」
「していますよ。あなたのことも、大切にしますからね」
それはルウェルにというより、ハイデマリーに聞かせた言葉だった。
自分達の敵対関係を膠着させるために使うとはいえ、子供は子供。健やかに育って欲しいと思うのは、赤子に対するのや息子に対するのと変わらない。
ルウェルはユスティエナの後ろに隠れていたクリスティアンのことが気になっていたようで、スカートに埋もれるようにして硬直していた彼を見つけると面白そうに笑い声を上げた。
それにびっくりしてとうとう泣き出したクリスティンを宥め、ユスティエナは二人を連れて行くよう召使いに命じた。自分もそれに続こうとしたところで、ハイデマリーに呼び止められる。
「赤ん坊に名前はつけたの?」
名前など、とうにつけてあった。それは大公と公子にも諒承を得ていることなのだが、この三ヶ月、生みの母にそのことは伝えられていなかったらしい。
裏切り者、と、邪険にされている若い姫君が、哀れでないこともない。
しかしそれは彼女の罪が原因だ。国母となるはずの女が、夫以外の男と契って子を孕んだ――どうしてそんなことをしたのか、してしまったのか、ユスティエナに本当のことは分からない。
「姫様のお祖父様であるテオドリック陛下から御名を頂戴して、ディルク様と、名付けました」
「……そう」
ハイデマリーの湖面のような瞳は、一見すると静かだった。
「時々、わたくしのところへ連れてきてね。ルウェルと、あなたの息子も一緒によ」
けれどその底には、赤子を抱いているユスティエナへの烈しい嫉妬が燃えていた。
* * *
「ディルクを産んだ時もリラが咲いていたわ。もう花の時期も終わりかけで、咲いていたのはその株だけだった。それでもひどいにおいがしたの。気分が悪くなるからって、剪ってもらったわ」
「あら、よい香りですのに」
「あの時はとても嫌だったのよ。花も目障りだったわね」
そう言って、ハイデマリーはリラの一房に手を伸ばし、掴んだ花をむしり取った。途端に良い香りがあたりに漂う。
花を棄てて歩き出す公妃に寄り添いながら、ユスティエナは散り落ちていった花にちらりと目をやった。
この方は相変わらずだ。他者が愛でているものを平気でむしり取って棄ててしまう。
だから武器を隠し持たずに隣を歩くことなど出来ないのだ。
「ねぇ、ユスティエナ。わたくし、あなたがいつも持っているそのぴかぴかした扇子(ファン)は好きよ。でも、この頃の流行は白檀の透かし彫りではなくて? わたくしとおそろいのをつくりましょうか?」
ハイデマリーも、そんなユスティエナの警戒心を楽しんでいる節がある。
「いいえ、殿下。これでないと落ち着きませんの。白檀では剣を受け止められませんから」
「おかしなことを言うのね。〝それはもうしない〟と約束したのに」
微笑み返すだけで、ユスティエナは言葉では答えなかった。
信用などしない。隙を見せたら終わり。
自分達は永遠にそういう関係だと、分かっているのだから。
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