了遊(付き合ってない)。
遊作とAiの会話で、了見は不在。Aiちゃんが過保護。
@d9_bond
「それじゃ、出かけてくる」
いつものパーカー姿でボディバックを肩にかけた遊作に、ソルティスに入ったAiはつまらなそうに口を尖らせる。
「またアイツとデート?」
「デートじゃない。映画を見るだけだ」
「ハイハイ。何でもいいけど、どんだけ遅くなってもどこに居てもオレが迎えに行くから帰るとき絶対連絡しろよ」
「そう遅くはならない」
「どうかな〜……ま、夕飯いらなくなったら早めに連絡くれよ?」
「分かった」
あっさり頷く遊作に、遅くなるかもとか思ってんじゃん、とAiは心中でぼやいた。
外出を楽しみにしている様子なのも、休日にバイト以外で出かけようというのも構わない。むしろ推奨したい。
ただ、相手が鴻上了見という一点だけが気に入らなかった。
「つか遊作はそうやって気楽にホイホイアイツについてくけどさ〜、油断してたら何してくるか分かんないからね? ヤバいと思ったらちゃんと拒否って通報して逃げろよ」
冗談半分で釘を刺すと遊作は首を傾げた。
「別に、アイツになら俺は何をされても構わない」
Aiは目を剥いた。
「ハァ?! オレは良くないんだけど!!」
「それにそもそも、おまえが俺の身を案じるような事は何もない」
「いやいやいやさっきの回答そういう文脈じゃないじゃん!」
「どうした、落ち着け」
やっぱりオレも一緒に行く、と腰に抱きついてきたAiをべりべり引き剥がしながら遊作は言う。
「理由は三つある。一つ、アイツとは現在敵対していない。二つ、アイツは意味なく他人を傷つけることはしない。三つ、故にアイツが俺を害することはない」
「そういう話じゃないんだって」
「ならどういう話だ」
「どうっていうか」
Aiは遊作から引き剥がされたそのまま、床にあぐらをかいて、腕を組む。
「あのさー遊作、アイツがどんな目でオマエの事見てるか分かってないだろ?」
「……何も気づかなかった。もしかして、俺が気づかない所で面倒をかけていたか」
ちょっと不安になって遊作が問えば、Aiは眉間にシワを寄せた。
「逆!!」
強く言う。
「逆」
「そう、全然逆。あれ下心しかない目だから」
「……」
きっぱり言い切るAiに、遊作は半目になった。
了見が自分に対して謀を巡らせるような必要は何もない、と先程から言っているのに何を聞いていたのか。
「さすがにそんな顔だったら気づく」
「気づいてない!」
Aiは食い気味に言った。
「今度よく見てろよ、了見のやつ遊作のこと見る時は毎度毎度そりゃもー気持ち悪いくらいしまりのない顔しておいて、このキューティAiちゃんが話しかけたらゴミクズでも見るみたいな目向けてくるからな?! 差別すごいぞ! つかオレが遊作にくっつくだけですごい顔してるからな!!」
そうだろうか、遊作は思い返すが分からなかった。了見と会ったり一緒に出かけるようになってからそれなりにたつが、そんなにゆるい顔をしている記憶はない。多少なりとも親しくなったからだろう、たまに笑顔を見るようにはなったがそのくらいだ。
Aiに対する扱いについては、Aiが隙あらば了見に突っかかるせいなのは明白だが。
「だから最近、了見がいるとき妙に絡んで来るのか」
「あー、そこは気づいてたんだ。あのすまし顔が百面相するの見慣れたら面白くなってきてつい」
「百面相?」
「映像記録ならあるぜ」
悪びれもせずAiは言って肩をすくめた。
「つーかあんだけ色々あからさまなのに気づいてない遊作ちゃんがますます心配なんだけど」
「何を心配しているか知らないが、何も心配することはない」
遊作が重ねて言うと、Aiはこれみよがしにため息をついて、がしがし頭をかく。意味はないだろうにそういう仕草をどこで学習してくるのだろう、とどうでもいいことを考える遊作をよそにAiはぼやく。
「いや、オレだって一番は相棒の幸せよ? だから相手がアレなのはとにかくものすごい不本意だけども、ちゃんとお付き合いして合意の上でなら野暮なこと言わないって。──でも付き合ってもないし、未成年だから! 不健全性的行為反対! Aiちゃんは許しませんよ!!」
「だから何の話だ。何もないと言っているだろう」
「ないと思っても気をつけろって言ってんの!!」
分かってくれないと嘆くAiに、遊作は先のAiを真似るようにため息をついた。
「だから──最初から言っているだろう。俺はアイツになら何をされても構わない」
「オレも最初から言ってるでしょ?! オレは良くないんだけど!!」
やっぱりオレも行く、とAiは再度遊作にしがみついた。
遊作の声音でなぜだか分かってしまった。AIに直感と呼べるものが人間と同義で備わっているかは謎だが、それと近しいと思われる最短の閃きのような何かがあった。遊作は、本当に鴻上了見が何を自分に求めても構わないと、そう言っている。
Aiは心の底から思った。聞いたのが了見でなく自分で良かった。あれだけ執着やら何やらを抱え込んでいる人間に対して全て差し出すような真似、火薬庫に爆弾を投げ込むようなものだ。大惨事になるに決まってる。それだけは阻止せねば。
「おい、放せAi」
「行きたいなら約束して! アイツの前でそゆこと絶対言わないって!」
「言うわけ無いだろう!」
Aiを振り解こうともがいたせいで少し上がった息を整えながら言う。
「おまえがいらない心配をするから言っただけだ。それに了見は俺に何を求めたこともない」
「いーや、アイツ据え膳って分かったら屁理屈こねて我慢しようとするけど結局我慢できなくて最終的にがっつり残さず食うタイプだ! 油断ダメ、絶対!」
「何の話だ!」
「ナニの話だよ!」
「とにかく後でなら話を聞くからいい加減放せ! 待ち合わせに遅れる」
なんとかAiを引き剥がし、ずり落ちかけたズボンを直しながら遊作は考えた。
「──分かった、認めよう」
大きく深呼吸して、少しの躊躇をおいて言う。
「いいかAi、俺はこれから了見とデートに行く」
「は?」
とうとつな言葉にきょとんとするAiへ遊作は、びっ、と人差し指を突きつけた。
「お前が言った通り今日出かけるのは、その、デートだ。少なくとも俺はそう思って出かける。そしてデートに普通家族はついてこない。分かるな?」
「……そうだけど。そうだけど!」
ちょっとからかったつもりの言葉が開き直らせてしまうとは。Aiはがっくり床に手をつく。遊作はその様を見て、よし、と意味もなく頷いた。
「文句はないようだな。それじゃ行ってくる」
隙を逃さず遊作は、急いで玄関を飛び出した。
予定よりだいぶ遅れたがギリギリ遅刻しないで済みそうだ。そのまま通りを思い切り走っていく。
頬のほてりは簡単に消える気がしなかったが、走ってきたせいにすれば誤魔化せるだろう、たぶん。