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今日の越知はなんだか様子がおかしかった。

全体公開 24 1604文字
2021-10-20 13:18:41
Posted by @uk_plus_




今日の越知は、なんだか様子がおかしかった。

 「少しいいか」
「うん?いいよ」

お昼ご飯を食べ終えて、次の授業の準備をしながらスマホをいじっていると越知が声をかけてきた。大きな彼が首を傾げながら問うその声に私が返答すると、彼はゆっくりと目の前の席に腰掛ける。

「少し相談というか、尋ねたいことがある」
「うん、何?」

いつも明確に答えを持ち合わせているような彼が私に珍しいことを聞いてくるものだから、本当に不思議で思わず見つめていると少々バツが悪そうに越知は視線を逸らして口を開いた。

「例えば、なんだが」
「うん?」
「ある特定の人間のことを考えた時に」
「特定の人」
「ああ。その人物について考えると、いらぬ不安を抱いたりすることは、おかしなことだろうか」

一言一言を慎重に選ぶように言う越知のその声に、私は首を傾げた。本当に珍しく要領を得ないことを言うから。

「それは、えっと、その人を恐いと思ってる、ってこと?」
「いや、そうではない。むしろ

むしろその逆だ。

それはひどく断定的な物言いで、しっかりとした意思を感じさせるような声音が私の耳に届く。

「逆っていうのは
「そうだな……より、知りたいと、思う」
「知りたい
「近くにいたいと感じている」
「なるほど?」

不安に思うけれど近づきたい。その相反する二つの意味合いに私が更に首を傾げていると、越知が再び口を開いた。

「近くにいる間は、不安ではない。むしろ、心地良い」
「うん」
「離れると途端に……不安であると、思う」
「うーん

聞けば聞くほど首を傾げてしまう言葉たちに私が唸れば、そんな私を越知はじっと凝視してくる。瞳は前髪で隠れてしまっているけれど、その表情はとても真剣であることを伝えていた。

「越知はさ、その人のこと、大事なの?」

越知自身が紡ぐ言葉だけではわからなくて私がそう聞けば、彼は一瞬逡巡してからゆっくりと頷いた。であるならばと私が思うひとつの答えを口にした時、越知にしてはやはり珍しく驚いているようだった。

「ねぇ越知、それって誰の

今一度別のことを彼に尋ねようとした時、教室の扉の方から私を呼ぶ声がしたので、私は言葉を止めてそれに返事をした。

「ごめん、越知行かないと」
「あ、ああ、わかった」
「またなんかあったら話して!」
ああ」

言いながら立ち上がって越知に笑いかければ、ひどく困ったような顔で彼が返事をしていた。そんな越知を不思議に思いながらも、私は扉のそばで控えていた友人の元へと席を去る。
 今日の越知はなんだか様子がおかしかった。






 「越知はさ、その人のこと、大事なの?」

困惑する耳にそう聞こえた時、それが己の彼女へ思う正しい気持ちなのか越知は考えた。そしてある程度間違ってはいないと認識してゆっくりと頷けば、目の前の彼女は悩みながらもぽつりと越知に言った。

「越知、それは好きってことだよ、多分」

好き

全く予想していなかったことに越知が面食らっていると再び彼女が口を開いたが、その言葉は途中で遮られてしまった。そして彼女は呼ばれたままに返事をして目の前から立ち去ろうとする。

「ごめん、越知行かないと」
「あ、ああ、わかった」
「またなんかあったら話して!」
ああ」

狼狽えながらも返事をして、越知は心の中で独り言ちる。

もう、二度と聞けないだろう。こんなことは。

落とされた一滴の確信によって、彼女の背中はより眩しく越知の目に映っていた。



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