X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

覚悟しておけ

全体公開 19 2384文字
2021-10-23 20:13:27
Posted by @uk_plus_



 午後十時を少し過ぎた夜。リビングの大きなビーズクッションに体を預けながら、私は友人と一時間ほど長電話をしていた。同棲している月光が高校時代の友人や後輩と飲んでくるというので、私もだいぶ自由にしていたのだ。

 「ほ~んとにさぁあのどスケベアサシンときたら
そこまで口にして私は言葉を詰まらせた。何故なら今いるリビングの扉が開いてどスケベアサシンもとい彼氏の越知月光が顔を出したからだ。スマホを握る私の手が、じんわり汗をかく。

おかえり」

扉から顔を出した月光が硬直したままだったので張り付けた笑顔でそう言うと、電話の先で何かを察した友人が健闘を祈ると呟いてそのままぶつりと通話を切った。

ただいま」
「あーはーやかった、んじゃない?えー毛利くんとか元気だった?ほら私全然会ってないじゃん?だからさー」

苦笑いと共につらつら並べられる私の言葉を遮るように、テーブルへコンビニのレジ袋ががさりと置かれた。そして言葉を止めた私を一瞥してから巨躯の月光は静かに言う。

「着替えをしてくる」
……うん」

ぱたりと閉じられた廊下に繋がる扉の先を見ながら私は顔を青くする。

やべー怒ってるじゃんあれはねえ!

滅多に怒ることのない彼だがあの態度が表すものは怒りであろうと、察しの悪い私でも流石に理解した。それにしても何故ああもタイミングが悪いのか。

頭を抱えながら今一度そばのビーズクッションにぼふりと顔を埋めていると、月光がリビングに入ってくる音がした。ぱたりと扉の閉まる音と、月光が近づいてくる衣擦れの音がする。私はなんだか顔を上げにくくて、そのままクッションに顔をつけていた。素直に顔を上げて謝ってしまえばいいのに、あーあ本当に自分は可愛くなれない、まで考えた瞬間だった。

「っん!?」

クッションに埋まっている顔が、恐らく月光の大きな手で頭部を掴まれたことにより深くに埋まってしまった。一寸感じた息苦しさと驚きで無様な声を上げるとすぐに頭部の手は離されて、私は慌ててその顔を上げる。

「何!?力つっよ!!!」
「何はこちらの台詞だ」

ぼやける視界の中にいつも通りの表情をしている部屋着の月光を認めて、私は目を擦った。

「擦るな」
「だって押し付けられたからぼやける」
「お前が顔を見せないからだ」
「声をかけておくれよ」

素直な実力行使に抗議するも、対する月光は涼しい顔で返答するのみだ。私はようやく見えた彼の顔を見て頬を軽く膨らませる。

「それで」
「え?」
「何を話していた」

ぎくり。
そんな音が私のどこかで聞こえた気がする。前髪に隠れた眼光は見る必要もないほど鋭いことを知らせていた。その雰囲気で。怒りはしてないまでも、月光は少々不服そうにしていた。

「いや、その、友人と
「一体何の、誰の話をしていた」
「その月光の
「俺の?」

歯切れ悪く言葉を紡ぐ私にいつもの倍の圧で詰め寄ってくる月光から、そっと目を逸らした。メンタルアサシンめが、と悪態をついた内心までも筒抜けのようだ。

「おれの?」
「~っ夜の!夜の話ですぅ!」
「おい」
「だってそんなの話の流れってあるじゃないですか~!女子トーク!女子トークなんですよ月光さん!」
「ない」
「男子は黙ってよ!あるのよ女子には!女子の世界には!」

一気に白状してしまえば、食い気味に声をかけられたので私は更に畳み掛けるように吐露をした。そんな絶叫にばっさりと言葉をかけた月光は、未だおんおんと喚く私にため息をひとつ吐く。

馬鹿か」
「そういう、そういう反応をする!でもあれだよ?!事実、事実しか言ってないからね私は!」
「何をどう話したんだ

吐き捨てられた一言へ錯乱するように反論する私に、若干ドン引きしながらも月光は呆れ顔で言った。

「俺の何を、どう話した」
「は?」
「説明してもらおう」
「え、は?何が、でしょうか」

ほんの数秒で雰囲気が変わったのを感じた。月光の言葉尻で。それに硬直してしまった私の片方の手首をがっちりと掴み、月光はぐっと顔を寄せた。

「どスケベアサシンとは散々な言われ様だからな。経緯を教えろ」
っぶっふふ、ちょっと、月光の、口からそれは、ハードルハードルが高い沸点の、っふふん!?」

澄ました顔のその口から発せられた己が数分前に口にしていた単語を聞くと、堪らず笑いが漏れてしまったが、そんな愚かな私の口は同一人物のそれで強めに塞がれてしまう。

「立場がわかっていないな」
「えぇ?」
「今からひとつずつ確認していくぞ」
「はぁ?うわ!」

意図のわからない返答をされて困惑していると、リビングの床に強めに私は押し倒される。そうすると今まで隠れていた前髪奥の氷みたいな眼光が私を直に突き刺した。

「おこ、怒ってんじゃん!」
「怒ってなどいない」
「うっそだ絶対におこって、んーっ!!」

引き締められた三白眼に睨まれて引きつってしまいそうな声で喚けば、ひどく冷静な声を発するそれが今一度私の唇を塞いだ。圧倒的形勢不利の中、僅かな抗議の為にばたつかせた私の足は悲しく床を叩くだけだ。

 大男の下で、二度と下手なことを言うまいと誓いつつ、これから始まる時間に私は戦々恐々とするばかりだった。



――――――――――――――――――――
「ひとつだけお願いなんだけど
「なんだ」
「もっかい言って?」
「二度と言わん」


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.