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らしさ

全体公開 2300文字
2021-10-23 20:40:35
Posted by @uk_plus_



 「私の彼氏ってさぁ
「えーあれはなしなし!きっしょいじゃん」
「マジでー?ありえないんだけど」


ガヤガヤ、ザワザワ。鬱陶しい。
喫煙室に入室しても雑音が多い喫茶店で、煙草の先を点火する私のライターの炎が不機嫌そうに揺らめいた。



 蓮二がわざわざ指定してこなければ、こんな騒がしい喫茶店には自ら入店しなかっただろう。ただでさえ軽薄そうな会話が、壊滅的に似合っていないリップグロスの色合いから吐き出されていて、私は胸が悪くなりそうだった。

わかってるくせに、どうして。

友人の思惑にうんざりしながらちりりと半分ほどの煙草を吸えば、すらりと背の高い痩身の蓮二が涼しい顔で喫煙室に入ってきた。

「随分と嫌な顔をしているな、名前」

全てわかっているくせにまるで何も知らないといった顔をする友人に、口の端だけ上げて私は笑ってみせる。

……そんなことないよ」

笑っていても震えた声の怒りが抑えられなかったようで、それを聞いた蓮二は満足したような顔をした。それがあまりにも憎たらしく思えて、私は苦々しい気持ちを乗せて口の中に吸い込んでいた紫煙を思い切り吹きかけてやった。

「知ってるか」
「なにが」
「その行為は夜の誘いを表すんだ」
「ないわ」

うちらに限ってと、もう一度火のついた煙草を吸った。

「で、どうしたのさ」

そして私が切り替えるように身を乗り出して問えば、蓮二はがらりと椅子を引いて腰掛ける。
 
 突然の呼び出しだった。深夜ではないが、時刻は夜の八時。仕事終わりで疲れている体には少々堪える呼び出しだった。

「蓮二」
「別に、何かあったわけじゃない」
「ふざけんな、そんなん彼女にやれ」
「いないからな、彼女なんて」
「寂しい奴」
「名前もな」

彼女がいないなら適当な女を相手にしろと笑えば、そうかと鼻で笑われた。なるほど。

「そうか、私か」
「適当という言葉の意味合いが違うと思うがな」
「あーかなしー」
「まぁ彼女はいたんだがな」

昨日まで。

 咥え煙草はいけない。ふと口元の力が抜けると、火種がついたまま落ちてしまうから。

 唐突なカミングアウトに、私はぽろりと口から煙草を落とした。慌てて蓮二がそれを拾い自分で一口吸ってから、灰皿に押し付ける。

「危ないな」
「えっ。いたの!?」
「むしろ社会人になってまで時間を共有していてよく気づかなかったな」
「えっえっ、だってめっちゃそんなん、わかんなかった」

思わずごめんと言うと、蓮二に何故だと顔を顰められた。

「俺とそいつが別れたことに、お前は一切関係ない」
「え、でもなんか私結構一緒にでかけてなかった?」
「それはそれ、だろう」

そんなこと言ってもと呆れていると、蓮二はテーブルに置いてあった箱から私の煙草を勝手に一本取り出してゆっくりと吸い始める。

「ちょっと勝手に
「まぁだからダメだったんだろう」
「だから?」
「彼女は煙草もダメだった」
「そもそも蓮二吸わないじゃん」

あんまりと付け足せば、苦笑いしながら彼は煙を燻らせた。

 私は蓮二のそんな姿は嫌いじゃない。もともと自分が愛煙家だということもあるだろう。しかしそれを抜きにしても紫煙を吐き出す蓮二はそう、とても綺麗だと思っていた。

 彼は私とお酒を飲んだりくつろいでいると、気づけば私の煙草を拝借して吸っている。自分で買えと毎回言うが買うほどじゃないと毎回かわされる。煙草ATMかよ私は!と笑っていたのは先々週のことだ。

「なんでも“蓮二じゃないみたい”なんだそうだ」
「なんだそりゃ」
「さぁ。俺にもわからんな」

わからんかったから、別れた。

そう言った彼は大して悲しそうではなかった。

「あんまり傷心してませんね」
……そもそも好きでもなんでもなかったんだろうな」
「結構ひどいなそれ」
「お互い様にな、ってことだ」

蓮二はそこそこ吸いきった煙草を灰皿に押し付けながらそう付け足した。私はそんな彼を見て首を振りながら椅子の背もたれに全身を預け盛大に溜息を吐き出す。全くの他人事なのに心底不愉快だった。

「あー私にはわかんないや、そういう、つまんなそうなの」
「だろうな。それを確認したくてお前をここに呼んだ」
……どういうこと?」

今日の呼び出し理由について蓮二の言葉を聞いた私が怪訝そうな顔をした途端、待ってましたと言わんばかりに彼は口角を上げてつるりと言った。

「外面だけの話を聞いて、心底嫌そうな顔をする名前が見たかった」

それを見て安心したかったんだよと、頬杖を付いて寂しそうに笑った。

「なんで無理して付き合ってたの」
「さぁ。その時はそういう気持ちがあったんだろう」
「ノリか」
「世の中ではノリと言うんだろうな」

新たに点火した煙草をフィルターの近くまで思い切り吸って、私は一呼吸置いた。ぼんやりと煙の先を見つめれば天井に消えていく。

「蓮二じゃないみたい、か」
「お前はどう思う?」
……ノリってやつに乗っかる蓮二は、蓮二じゃないかも」
「だろうな」

私の回答に満足してにんまり笑うその綺麗な口元が今一度煙草を咥えるのを見ながら、私は困った友人にまた紫煙を吹きかけた。


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