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真夜中のお題交換会 お題【夕日】

全体公開 キバユウ作品 3 3802文字
2021-10-30 15:07:18

ワイルドエリアで夕日を眺めるキバユウのお話

「さーてと。キバナさん。どうします?まだお日さま出てますし、もう一勝負行っちゃいますか?」
 日盛りも過ぎて、そよぐ風が心地よくなって来たワイルドエリア。
 大きな岩の上に腰を下ろしていたユウリは、勢いをつけてぴょんと砂地へ飛び下りた。
「まじかよ。ついさっきまでバトルしてたじゃねーか。しかも、フルバトルの3連戦。そろそろしっかり休憩しないと、オレサマ死んじゃう」
 と、こちらは大の字に寝転がっていたキバナは起き上がることなく、視線だけをユウリに向ける。
 まだ疲労が抜けていないのか、その息は荒い。
「というか、なんでそんなにお前は元気なんだよ。掃除のときはオレより先に音を上げる癖に」
「えーっ。バトルは別腹なんですよ。いっくらバトルしても疲れません」
「マジかよ……
 むしろツヤツヤとした元気な笑顔を振りまくユウリに、キバナはげんなりとため息をついた。
 わかってはいたけれど、この現ガラルチャンピオンは幼いながらもバトルジャンキーの化け物だ。真面目につきあっていたら、いくらなんでも身が持たない。
「でもさ、ちょっとバトルは置いておいて、テントの設営をやっちまわねーか?このままフルバトルをすると、終わった時には、確実に夕暮れ時だぜ。暗闇の中でテントを立てて、料理をするのは嫌だろ?」
「むーっ。キバナさん、疲れてバトルをしたくないだけじゃないですか?」
 鋭いユウリの指摘に、キバナは誤魔化すように咳払いを一つ。ユウリの勘の良さに内心ひやひやしながらも、どうしたら4連戦目のフルバトルを回避できるか、必死に頭を働かせた。
「んなこと無いって。……じゃぁさ、こうしよう。とりあえずテントを建てて、カレーを作って食べる。で、片付けまで終わらせてから、バトルをする」
「えーっ。バトルはおあずけですか?」
「真っ暗闇でのバトルも、普段と違って楽しいと思うぜ」
 不貞腐れていたユウリの瞳が、その一言でキラーンと輝いた。
「いいですね!闇夜のバトル、略して闇バト!そうと決まれば、早速テントを建てましょう!リザードン、ドテッコツ、手伝って!」
 あっと言う間に機嫌を治して、ユウリはモンスターボールを放り投げる。
 鼻歌まで歌いだした少女の姿を、「現金なやつ」と密かに笑って、テント設営のためにキバナもゆっくりと立ち上がるのであった。


 ドテッコツに石の竈を組んでもらい。
 その辺にある枯れ枝を薪にして。
 大きなお鍋にたっぷりのお水。
 皮を向いて食べられない部分を除いた野菜を、ぽいっと上に放り投げて。

「いっけー!リザードン、エアスラッシュ!」
 野菜を細かく刻みます。
「っておい、ちょっと待てー!」
「え?どうかしました?キバナさん?」
 何かトラブルでもありましたか?とユウリは振り返る。けれども、どう考えてもおかしいのはユウリの調理法である。
「なんでエアスラッシュで刻むんだよ。野菜を木っ端みじんにする気か?」
「いえ、大丈夫です!このリザードンは訓練に訓練を重ね、野菜を粉砕しない極限の切れ味、野菜を均等に刻むための命中精度、カット野菜の大きさをそろえるための細かな技の繰り出し。カレー作りにのため、完璧なエアスラッシュを習得したのです」
「ソレハ、スゴイデスネ……
 得意げに胸を張るユウリとリザードンを見比べながら、キバナは呆れ半分にユウリをたたえた。少し棒読み風になったのは許してほしい。先ほどユウリは竈を造るドテッコツに対して、「訓練の結果、石を粉砕せずに積み上げられる力の調節を覚えたのです!」と自信満々だったのだ。
 ポケモンにそのような微調整を覚えさせるのはとても難しいことだ。ユウリならではの稀有な能力だとは思うが、とてつもない才能の無駄遣いである気がするのは、キバナの気のせいではないだろう。
(ったく、末恐ろしいトレーナーだよ)

 感心しながらも、また突拍子もないことをしでかさないかとユウリに注意を払っていたキバナは、ふとユウリの様子がおかしい事に気づいた。
 カレー鍋をかき混ぜながら火力の調節をしている彼女は、どことなくぼんやりしている。その表情が気になって、キバナはそっとユウリの元へと近づいた。
「どうしたんだ?隠し味のきのみの種類にでも迷ってるのか?」
 声をかけると、ユウリはキバナを振り返って、にへらっと曖昧な愛想笑いを浮かべた。
「あ、キバナさん……そうなんですよ。今日は何味のカレーがいいかな……って」
「ふーん。ついさっき、鍋の中にきのみを入れたばかりなのにか?」
……あ」
「ユウリちゃんは嘘をつくのが下手すぎるぜ」
「むーっ」
 むくれるユウリの横顔を、大きな夕日が赤く染めた。まもなく西の空に夕日が沈もうとしている。
「鍋の火力も落ち着いただろ。ま、座りな。カレーはオレサマが混ぜるから」
「ふぁい」
 キバナが引き寄せたアウトドアチェアに、ユウリは大人しく座った。そして無言で沈みゆく夕日を眺める。
 二人はしばらく無言だった。
 どこからか、巣に帰るであろうアオガラスの鳴き声が聞こえてくる。

「もう、今年のチャレンジャーはナックルジムを通過したんですよね」
 ぽつりと零れ落ちたユウリの呟きに、鍋をかき混ぜていたキバナはその手を止めた。
「そうだな。例年より半月ほど早いがジムチャレンジをクリアしたな。……彼は、ユウリと同じ年だったか」
……強かったですか?」
 らしくないユウリの弱気な発言に、キバナはまじまじとユウリを見つめる。しかし、ユウリは無表情だった。不安、恐怖心、危機感、焦り。その瞳は何の感情も見せずに、ただただ夕日を映している。
「そうだな。……でも、ユウリの方が強いぜ」
 その言葉に、ユウリは探るような、ほっとしたような視線をキバナへと向けて。
……っていう言葉を期待していたわけじゃねーんだろ」
 恥じ入るように、視線を下へと落とした。
「そうですね。自分でもよくわからないんです。チャンピオンカップで、チャレンジャーと戦うのが楽しみなのか、怖いのか」
 ユウリの3度目のチャンピオン防衛戦。そこには1度目や2度目とは違う空気が渦巻いていた。
 勝って当然。盛り上がって当然。
 周りの人間が作り上げるその熱狂の渦中にいるのは、とても息苦しい。
「今なら、ダンデさん……当時のチャンピオンが、どうしてあんなに強者とのバトルに固執していたかがわかる気がします」
 この喉を掻きむしりたくなるような息苦しさも、大好きなバトルをしている時は忘れられるのだ。そして、相手が強ければ強いほど、呼吸が楽になる。
 だから、強いチャレンジャーと戦うのは楽しみだった。ただ、そこに辿り着くまでの過程が、苦しくて辛い。
 遥か彼方の強者を待ち望むかのような目で太陽を見つめるユウリに、今度はキバナが口を尖らせた。
「妬けるなぁ。ユウリちゃんとのバトルの相手、オレサマでは役不足かい?」
「あ、ごめんなさい。もちろん、キバナさんとのバトルは楽しいですよ。辛さを忘れられます。楽しすぎて、今日はハッスルしちゃいましたもん」
 なるほど、苦しさを誤魔化すために、ついバトルしすぎてしまったのか。お昼の怒涛の三連戦を思い出し、キバナは苦笑いを浮かべた。
「でもね」
 ユウリは夕日を見つめたまますっと右手を伸ばす。その姿は夕日を掴もうとする幼子のように見えた。
「キバナさんとのバトルは楽しいんですけど、私は欲張りなのでもっと欲しいんです。もっとバトルをしていたい。もっと強くなりたい。もっと、もっと。……あ」
 夕日を見つめたまま、熱に浮かされたように話していたユウリの目を、キバナは右手で遮った。このまま、ユウリが夕日の元へ飛び立っていってしまうような予感に襲われたのだ。
 突然目隠しをされて、ユウリは戸惑い、キバナを見上げる。
「キバナ、さん?」
「あんまり太陽を見つめてるの、よくねーぞ。それに、ぼさっとしてたら日が暮れちまう。そろそろカレーを食べようぜ」
 とっさの衝動を誤魔化しながら微笑むと、ユウリはにかっといつもの笑みを返した。
「そうですね。食べましょう。……お腹、ぺっこぺこです」
 ユウリの瞳には、いつもの快活さが戻ってきた。
 さっきまでの夕日を見つめていた表情などなかったかのように、ユウリは楽しそうにカレーの準備を始める。
 その姿に安堵しながらも、言葉にできない不安を覚えて、キバナはユウリを後ろから抱きしめた。
「キバナ……さん?」
「なんでもねぇ。でも、ちょっとだけこのままでいさせて」
「日が沈んじゃいますよ」
「いい」
「もう。しょうがないですね」
 キバナの長い腕にくるまれながら、ユウリは紫色の空を見上げる。その時、西の山にふっと太陽の端が消えていった。
「あ、一番星」
「お、本当だ」
 まだ仄かに赤い西の空に小さな光が一つ、輝き出した。もうすぐ夜が来て、今日が終わる。
「カレー、食べましょうか」
「そうだな。オレサマ、あらびきヴルストを持ってきたんだ。ヴルストのせカレーにしようぜ」
「やったー!太っ腹!キバナさん、大好き」
 楽しそうなユウリの笑い声がワイルドエリアに響く。
 カレーを頬張る二人の頭上には、いつの間にか満天の星空が輝いているのであった。


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