支部に上げたものそのままです。ハス探。
@hirop573
【きっかけ】
ただ僕はひたすら戸惑っていた。
あの邪神は何故僕に構うのか。何か彼の怒りに触れてしまったのか。それが気になってまともに会話をしようと思えなかった。
のらりくらりと得意の愛想笑いで誤魔化して過ごしていたものの、この荘園では限界があるらしくあっさりと見つかってしまう。
それから彼に連れられて向かった庭で問い質され、観念して正直に話すとあっさりと答えが導き出された。
『そなたの中のモノが気になってな』と。
中?と聞くと触手で腹を突かれすぐに理解した。
磁石だ。
「磁石?」
『うむ。それは外から来た物故、興味があるのだ』
「……殺すの」
口から出たと同時に理解して顔が青ざめた。彼ならやりかねない。いや、ハンターなら皆。
けど強張った僕を他所に彼はケラケラと多数の目を弧に歪ませて笑った。なんで、ここで笑うのさ。
『それも一興だがな。それはそなたが一生を終えてからでも構わぬ』
「へ」
邪神というものは気紛れだ、といつかの祭司は言っていたように思う。猫かよ、と突っ込みたかったが言わないでおいた。
では何故僕に構うのか、という問題はまだ解決できていなかったからだ。
『我といて、そなたはどうだ』
「どう、って…質問の意味が…」
『ふむ…』
思案する素振りを見せるや否や、彼の触手が伸びて僕を捉えた。抵抗する暇もなく間近に迫った彼の体にぎょっとしたけど、次の言葉でそれどころではなくなってしまう。
『思案する隙は皆無であろ。我の側に居れば無駄な知識が増える事はないぞ』
「?知識…?……!!」
どうしてこの邪神は知っている。どうして今まで僕は気づかなかった。確かにそうだったのに。
一人になると考え込む癖があり、その時に誰とも知れない声が頭に響く。
振り払っても、別のことを考えようとしても、その声が消える事はなく、時にそれは仲間といる最中でも起こり、僕は度々迷惑をかける羽目になっている。それが彼といる時はない。日常でも試合でも。思い返せばこの邪神のお陰だったのかと罪悪感が勝ってくる。
現に今も落ち着いている。
「何が望み。僕は金持ちでもないから返せる物はないよ」
貸しを作ることだけはしたくない。世の中ギブアンドテイク、そんなものだ。
けれどこの邪神は僕の警戒心なんてものともせず。
『いらぬ。傍にいるだけでよい。生を全うしろ。それが終えられれば後は好きにさせてもらう』
あっけらかんと即答される返事に僕は開いた口が塞がらなかった。無数の目がこちらを見下ろしているが、殺意はなくまるで慈愛の目。
ぼっと顔が熱くなるのが分かってしまう。こんなの、こんなのまるで。
この邪神は本当に何を考えているんだ。いや、もしかすると何も考えていないのかもしれない。なんなんだ。なんなんだこいつ!
『部屋はいつでも来るといい』
「はぁ!?行かないよ!!」
こんな態度をとってしまったが、数日後には彼の部屋に入り浸っている事をこの時の僕は知る由もなかったのであった。
【慕われたいらしい】
「あ、おいナワーブ!ノートン見なかったか?」
「ノートン?いや」
「あいつ試合なのにまだ来やしない。見つけたら急いで来いって伝えてくれないか」
「おう。分かった」
(どうせあいつの所だろ。行ってみっか)
………
「…やっぱりいやがった」
『む。何用か』
「そいつ試合なんだと。起こしてもらいたいんだが」
『なんと。ノートン、起きよノートン』
「爆睡かよ。触手まみれでよく眠れるな…」
「ん…。何…ナワーブ?」
「おう俺だ。今日試合だって聞いてんだけど」
「………えっ…嘘!?あっ…!うわ、ちょ、あぶっ」
「!」
『落ち着け。遅れてしまっているのは事実なのだ。確と身なりを整えよ』
「あ、えと…ありがとう…ございます…」
「じゃ、俺は伝えたぞ。行く途中でコケんなよ」
「そんな事しないよ!ナワーブもありがとう」
「んー」
(あの邪神分かっててやってるっぽいから面倒なんだよなぁ…)
【慕われたいらしい②】
「すみません。神様でもあるのにあなたの前で寝ちゃうなんて…」
『よい、気にするな。してノートンよ』
「はい?」
『いつ我の名を呼んでくれるのだ』
「は、名前…?」
『左様。よもや忘れたなどとは言うまい?』
「そんな事は…。ハスター…様?」
『ハスターで良い』
「!?え、でも」
『我が良いといえば良い』
「恩人にそんな…図々しくないですか」
『…ではその見返りとしてそなたのあるがままであれ。敬うな。名を呼べ』
「怒っても知りませんからね…」
『このハスターが気にするとでも?』
(他の人が言ったら『不敬である』て言いそうだけどな)
【過保護な王】
「最近あの邪神サマがつきっきりじゃないか。断ったりしないのか」
「しててあれだよ」
「しててあれなのか」
「やんわり断ってるのが駄目なのかな…。はっきり言うと罪悪感がさ」
「お前って変なとこで律儀だよ…うおっ!?なんでこんなとこに触手出るんだ!」
「!?聞いてたなハスター!!どこにいるー!!」
「…律儀で難儀だな…」
【住みたいらしい】
「はぁ?僕とあなたが同室?」
『何故その様な反応をする。当然だと思うが』
「ひと時も休まらないからだけど!ハンターとサバイバーとか、さすがに駄目でしょ」
『……』
「あっ待って書面に書くな判を押すんじゃない!待っ…!なぁっ!?消えるなハスター!!」
(神様に怒るなんて僕ぐらいじゃないか!)
【日常風景】
(最近あっちから近付いてこなくなった。いい事だと思うはずなのに)
「ようノートン、今日はあいつ一緒じゃねぇのか」
「おはようキャンベルさん。今日はあの方と一緒じゃないのね」
「あいついないのか。珍しい」
(隣にいるのが当たり前になってるだなんて)
「……はぁ」
(呼んだら…来てくれるとか…ない?)
「……。…ハスター」
(なんてね…)
『呼んだか』
「うわぁっ!?」
『そなたが呼んだのであろう。何故驚くのだ』
「まさか本当に来るだなんて思わないからだけど!?…か…帰ってもらってもよろしいですか…?」
『………』
「嘘ですごめんなさい待って掴まないで!何処に行くの!!」
(偶々見てたけど、あいつあの邪神が絡むと反応いいから見てて飽きないな…)
【人間モドキ】
「僕もただの人間だよ。どうしてそこまで気にかけるんだか」
『何故だと思う』
「質問に質問で返さないで」
『そうさな…。我も人と関わりすぎた故であろう』
「人間臭くなったって?はは。荘園から出たらどうなるんですかね、あなた」
『さぁな。しかし…』
「?」
『そなたと共に在る事は変わらぬ』
「……。本当に、人間のようで嫌だな…」
【人間モドキ②】
「ハスター、少し付き合って欲しい所があるんだけど」
『む。承知した。何処へだ』
「湖景村へ。用事があるなら待ってるよ」
『よい。すぐに出立しよう』
……
『してノートン。ここへは何用で来た』
「なんとなく」
『ほう』
「他のサバイバー達にも先にお願いしていたんだけど、どうしてか皆『黄衣の王と行け』って聞かなくて」
『…フ』
「笑う要素どこにあったの…。まぁいいか」
『………』
「ハスター?」
『そなたはあちらの石窟から来たのだったな』
「あっち?…あぁ、あっちはそうか。えぇまぁ。あそこに限った話じゃないけど」
『……』
「さっきからどうしたのさ」
『…いや』
(生きていた場所が少しでも違えば、この人間はこのような姿にならなかったやもしれぬ)
(ここで生まれ暮しておれば、我の加護も与えられ…否)
(だがそのもしもは訪れぬ。あるのは事実だけだ。こんな考えを持つようになるとは…我も堕ちたものよな)
【相談、サベダー】
「もうお前さ、ハスターと同室にした方がいいんじゃないのか」
「ナワーブ、君までそう言うのか。心休まらないって言ってるだろ」
「でも助かってるだろ」
「四六時中じゃない」
「この前急に過呼吸になったのどこのどいつだ」
「僕」
「その時に助けてくれた奴は誰だ」
「…ハスター」
「ほら認めろって」
「い、や、だ」
「お前なぁ」
「そもそも、何処にいても急に出てくるんだから部屋まで一緒にしたくない」
「何処にいてもなら一緒でもいいだろ」
「嫌だね。夢の中にまで入ってこられるんだよ。勘弁してよ」
「…ん?お前今まで眠れなかったろ。1人でも眠れたのか?」
「………」
「………」
「ほ、本当だ…」
「自覚無し。ほら誰のおかげだ言ってみろ」
「ぐ、ぐうう…」
「認めた方が楽だと思うぞ俺は〜」
【白の服】
※星座カレンダーネタ
『似合っておるぞノートンよ』
「出待ちするのやめてもらえますか…」
「な、似合ってるだろこいつ。普段暗い服ばっかりだからさ」
『白…。さながら天使のようだな』
「てん…、」
「はは!中々情熱的だ。なぁノート…」
「……なに!」
『………フハハ』
「うわっ!ちょ、何!ねぇ!降ろして!な、ナワーブ!ナワーブ!」
『邪魔をするでないぞ』
「へいへい。てことで頑張れよ〜」
「何の話!?まっ…待って近い!も、もぉぉおお」
【愛瀬】
「ん…誰か来たよ。出ないの…」
『今宵は誰も来るなと断りを入れておいたはずだ。応える義理はない』
「急な…用事だったら…駄目だろ…出る…」
『む。待てノートン、そなた』
「……悪いねハスター。どうして断っていたか理解したよ」
『………』
「………」
『ノートン』
「はい」
『言いたい事は分かるな』
「はい…。うう…もっと引き止めてくださいよ…」
「尋ねた私も悪かった。他言無用にするから安心しておくれ」
………
「なるほど、仲が良いのは噂で聞いていたが。いいじゃないか。別に公私混同してる訳じゃないだろう」
「それは、まぁ、そうなんですけど」
「というか面白がっていただろう、君」
『さて』
「程々にしなよ…。あぁ、ノートン」
「はい?」
「こちらの敷地に来るのは自由なのだけど、一つだけ気をつけて欲しい事がある」
「なんでしょう」
「夢の魔女に気をつけて」
『………』
「夢の魔女?ハンターでしたっけ」
「そう。イドーラと言うのだけどね。彼女もハスターと同じ、」
『アレと同列にするな』
「…まぁこの反応の限りでね。彼女、普通の人には目視出来ない存在らしいようで、気になった対象にちょっかいをかけるみたいなんだ」
「はぁ。もしかして度が過ぎるとか?」
『聞く必要はない。写真家、それだけ言いにきたのなら帰れ』
「……ハスター」
「やれやれ。君が言わないから促そうと私が出向いたのに。見ていない所で手を出されたら困るのは君だろう」
「何の話を…」
『…出向いた件と併せて帳消しにしてやる』
「それで構わないさ。じゃあねノートン、ハスター」
『………』
(会ってるのがバレた事より彼が怒った方が怖いな…。いいんだか悪いんだか)
【異星とプラネタリウム】
僕はこの携帯品が好きだ。
いつの間にか部屋に置かれていたそれは、見た目そのままに中心に宇宙を収めていて、なんとそれは僕の磁石と連動しているのだという。
実際使ってみて分かった。落ちた磁石からまるでプラネタリウムのように星座を映すのだ。
綺麗の一言に尽きる。以前の仕事場からでもよく見た星空を思い出した。
苦しい記憶もあって少し窮屈な感情もある。でもそれ以上に僕はこの景色をよく見ていた気がするからだ。
『随分熱心に何を見ておる』
「うわっ…。もう、驚かさないでよ…って、その姿」
『?』
やってきたハスターを見上げると顔と思しき部分が小さな宇宙と化していた。ブラックホールみたいだ。
背負っている装飾品もまるで星々を散りばめたようだ。まるで全身が空そのもののよう。
見つめていたのが分かったのか、ハスターはずいと僕に目線を合わせる。思わず後ずさろうとしたが、それは触手が許さずしっかりと捕獲された。いつもされるこのくだりはいい加減やめて欲しいんだけどな。
『そなたはこれが好きと見える。良いぞ。存分に見るがいい。…見つめた先の保証はないがな』
からかいまじりに笑うその声に腹が立つ。少し仕返ししてやろうかな、と思い僕から彼の宇宙を覗き込む。すると僅かに驚いたのか、僕の体を少しだけ押し返した。表情なんて分からないけど、その反応で充分だ。思わずにやけてしまう。
「どうして。僕は見たいんだけど」
『…人の子のやる事は理解できぬな。そなたのためだ。やめておけ』
「残念。好きなのにな」
『……ノートン』
たまには振り回す役が僕でもいいだろう。
でも事実だよ。僕は星が好きだ。
あなたの事も、嫌いじゃないぐらいには。