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Hey. Mr.

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2015-06-01 20:19:00

ルディとジェラルドのある日の会話(だいたい2000字)


 よろしいですか──、公園のベンチのところまでくると、黒服の男は念を押すように言いながらルディに紙袋を差し出した。
「これを食べたら、研究所(いえ)に帰るように」
 袋を受け取ろうとするが、相手はその手を離そうとしない。ルディは相手の顔を見た。彼の名は、ジェラルド。現在のルディの後継人であるエドウィン・コートダイクの執事である。
「返事は?」
「あ、はい」
 生返事をするとようやく袋を離してくれた。ルディはしかし、袋の軽さに思わず包みを開ける。なんてことだ! ハンバーガーがたった一つしか入っていないじゃないか。
「そういった食べ物は、人間にも犬にも身体に良くありません。特に食べ過ぎはいけない」
そっけなくジェラルドは言った。「研究所でドッグフードを食べて下さい」
 ルディは眉を下げ、うなだれたようにベンチに座った。彼の住処となった薬物生体反応科学研究所で毎日食べている食事のことだ。犬の健康に配慮した、生活習慣病になりにくい、ヘルシーなあのドッグフード。不味くはないが、一番問題なのは、あれよりハンバーガーの方が数百倍美味いということだ。
「エドウィンは、こないだ三個もくれたよ」
「卿は貴方を甘やかし過ぎなのです」
 悔しまぎれに言えば、にべもない返事が返ってくる。ジェラルドはベンチに座りもせず、彼の前に仁王立ちになっていた。
「あの方は子供を持ったことがないので、貴方への接し方が分からないのです」
「なんだよ、じゃああんたは子供を十分に躾けてるってか?」
「私は……」
 言いかけてジェラルドは押し黙った。
「あれっ、あんた子供いるの?」
「いますが、それが何か?」
 意外な返答に、ルディは紙袋をガサガサやる手を止めてしまう。
「マジで? まともに育ってるの?」
「まともって……」
 非難の色を込めた視線を少年に向けながら、ジェラルドはうなづいた。
「ええ、それはもちろん。今年、就職しました」
「そうなの。そりゃ良かったね」
 ルディは微笑んで、なけなしのハンバーガーにかぶりつく。執事は拍子抜けしたような顔で彼を見下ろした。
「息子? 娘?」
「息子です」
「へぇー。オレよりずっとお行儀が良くて頭いいんだろうな。でもさ、あんたずっと日本にいるだろ、いつ奥さんと息子と会うの?」
「別に、会いませんが」
「何でさ? 家族の団らんとか大切だろ。──あっ、いけね! もしかして別れちゃってる、とか? バツイチなの?」
「……」
 不機嫌そうなジェラルドの沈黙が、ルディの問いを肯定する。彼は自分で聞いておきながら、申し訳なさそうに肩をすぼめてみせた。
「ごめん……。知らなかったんだ。でも、すっごく意外だったから。奥さんはやっぱりアレなの、スパイとか何かなの?」
「違います」
「えー、じゃあ警察官とか」
「別に何でもありません、同じような使用人です」
「メイドか!? なるほどそうだよなー。職場結婚ってやつだ。分かる分かるー。それでどこで知り合ったの、どこかのお屋敷?」
 ルディは目を輝かせながら身を乗り出していた。手にしていたハンバーガーの最後の欠片をパクリと口に入れ、興味津々といった様子だ。
 しかし彼は気付かなかった。相手の──ジェラルドの両拳が固く握られ、彼の苛立ちが頂点近くに達していたことを。
「そうだよな。やっぱり貴族の館とかなんだろうな。エドウィンの家? それとももっと前の話?」
 ううーっと、ジェラルドは唸り、そして──。
「──ワンッ!!」

 吠えた。

 ビクッ。ルディは身体を震わせて押し黙った。咀嚼していたハンバーガーが、衝撃のあまり勝手に喉を通っていった。目をサッカーボールのように真ん丸にして、彼は執事の顔を見つめていた。
「……食べ終えましたね?」
 そう言って、ジェラルドは何事も無かったかのように、ルディから紙袋を奪った。あっけにとられている彼の顔を睨みつける。
「先ほど、食べたらどうすると約束しましたか?」
「いえにかえる」
「よろしい。では──」
 優雅に手をひらりと返し、席を立つように促す。ルディは、恐怖のあまり犬に戻ってしまわなかった自分をほんの少しだけ褒めてやろうと思った。

 その後、ルディはこの執事のことを"ジェラルドさん"と──ミスターを付けて呼ぶようになったという。


...fin



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ふゆしろカナエ
@kanafuyu
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