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Brilliant Rose〜Magia Notes Part.20〜

全体公開 ツイステ二次創作 5951文字
2021-11-29 12:42:42

漆黒の薔薇を枯らし、美しく光り輝く薔薇を咲かせよう。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第20話。
※創作女監督生の名前が出ます
※夢主以外の名前ありのオリキャラが出ます
※捏造設定あり

Posted by @natsu_luv

遠くなる背中に呼び掛けても、愛する人は振り返らずに私の元を離れていく。
向こうには美しくも邪悪な笑みを浮かべる女。
女が私に語りかける。
あなたにこの美麗な騎士は相応しくない。
魔法が使えない、見た目も子供なあなたに価値はない。
女が見せつけるように私の愛する微睡みの騎士と抱擁し、口付けを交わした。
私の視界は黒薔薇の創り出す闇に染まっていった。

「いやぁぁっ!」
「ニコル!」
「お主、やっと目覚めたか。くっ、わしらがもう少し早く来ていれば……!」

悪夢から目を覚ました私は、保健室のベッドに横たわっていた。
周りにはエースくんとデュースくんとリリア先輩がいる。
大食堂で催された出張カフェの売り子だった美しいメイドであるイナンナさんの正体が、邪悪な黒薔薇の魔法士だったとは。
しかも、その悪しき魔法士はシルバー先輩を操って自分のものにした挙句にグリムまで私の元から連れ去った。
悲しみと痛みに心身共に打ちのめされながらも、私は想いの丈をリリア先輩たちに語った。

「あの人は……イナンナさんは……私から……大切な人たちを……奪っていったんです……
「これ、そんなに泣くでない。わしはお主の泣き顔など見とうない」

親と離れ離れになった小さな子供のように泣く私をリリア先輩がぎゅっと抱きしめてくれた。
少し落ち着いた後、デュースくんが現状を説明してくれた。
あの後、知らせを受けたリリア先輩が中庭まで駆けつけ、私を保健室まで運んでくれたそうだ。
出店していたカフェ・アルゴーのマスターであるカノープス氏は、食堂の倉庫に閉じ込められていたという。
たまたま倉庫を開けたシェフゴーストさんがカノープス氏を救出し、今は学園長室に保護されているようだ。

「ローズハート寮長をはじめ、他の寮長たちと先生たちが原因を特定するためにパトロールをしているんだ」
「ニコルはゆっくり休めよ。寮長たちが何とかしてくれるだろうからさ」

エースくんがベッドに潜る私の頭に手を置いてそう言った。
心身の傷を癒すため、今はこのまま眠ってしまおうか。
そう思っていた矢先だった。
焦燥しきった様子のリドル先輩が保健室に駆け込んできた。

「寮長、どうしたんスか!? 血相変えて……
「黒薔薇の魔法士と接触した……
「なんじゃと!?」

リドル先輩は呼吸を落ち着かせながら、今の状況を事細かに話してくれた。
ナイトレイブンカレッジの至る所に黒い薔薇が咲いていて、一部の寮長たちは殖えゆく薔薇の駆除を担っていたという。
中庭の近くにいたリドル先輩は、駆除の途中で黒薔薇の魔法士と対峙したそうだ。

「黒薔薇の魔法士はボクにこう言ったんだ。取引をすればシルバーとグリムに会わせてやると……
「それで、シルバー先輩とグリムとは会ったんですか?」
「いいや、ボクは条件を達成できなかったんだ。その条件はニコルにとって残酷なことかもしれない……
「条件って……?」
「ニコル、キミに黒薔薇の魔法士の元へ来てほしい。これが条件だ」

切羽詰まった表情でリドル先輩が私に言った。
リドル先輩の言葉を聞いたエースくんとデュースくんの顔が、みるみるうちに歪んでいく。
リリア先輩は顔を引きつらせたまま、その場に立ち尽くしていた。

「寮長! 自分が今何言ってるかわかってるんスか!?」
「わかってる! だけど……他に方法が無いんだ……!」
「リドル、黒薔薇の魔法士の元にはわしも同行させてもらうぞ。ニコルひとりを連れ出すわけにはいかん」
……わかりました。こちらです」

リドル先輩の後を追うように私とリリア先輩は保健室を出た。
傷ついたままで黒薔薇の魔法士の元へ向かうのは、ある意味で暴挙かもしれない。
それでも、シルバー先輩とグリムを取り返せるのならば構わない。
私達は黒薔薇の魔法士が待つ中庭へと足を進めた。



さっきまで晴れ渡っていた青空が血のように紅く染まっている。
鼻を掠める薔薇の香りは甘さの中に刺激が入り混じっている。
中庭はすっかり荒れ果てて、黒薔薇の魔法士のテリトリーと化していた。
傷を負った心身を庇いながら、私は再び中庭の地に足を踏み入れた。

「約束どおり、ニコル・シャーロンさんを連れてきてくれたのね。感謝するわ、女王様」
「さて、シルバーとグリムを表に出してもらおうか」
「ええ、もちろんよ。ただ、シルバーだけは返すつもりはないわ」

リドル先輩を一見した黒薔薇の魔法士は、挑発的な視線を私達に向けた。
女は指を鳴らし、中庭の空間に歪みを生み出した。
創り出された歪みから闇に染まったシルバー先輩とグリムを閉じ込めた球状のガラス檻が現れた。
女はグリムの入ったガラスドームを私に目掛けて投げ込んだ。

「その不細工な猫は返してあげる。さぁ、ニコル・シャーロンさん。少しお話ししましょうか」
「何を話そうというのですか……
「私の本当の名はアンザ・イナンナ。あなたと同じ異世界の出身よ」
「私と同じ……!」

どうりで私の名前を最初から知っていたのか。
黒薔薇の魔法士のフルネームを聞いた時、私の頭の中で元の世界の記憶が蘇っていった。
魂だけの存在として万象の魔導師ニコル・イーリスの側にいた頃の記憶。
その時にアンザという名の悪堕ちした魔導師と幾度も対峙していたことを思い出したのだ。

「アンザ・イナンナ、この世界でも私の邪魔をするなんて……。シルバー先輩は返してもらいます!」
「嫌よ。だって好きになっちゃったんですもの。この学園を根城にして私とシルバーだけの愛の城を創るのだから」
「ふざけるな!」
「では、わしらは強硬手段を取らせてもらうぞ!」

リドル先輩とリリア先輩がマジカルペンを構えた。
黒薔薇の魔法士も杖を構え、シルバー先輩に私を殺すよう命令をした。
紅の空が私達を見下ろす中、戦いの幕が上がった。
リドル先輩が愛用の杖から灼熱の炎を繰り出していく。
中庭を巣食っていた黒薔薇が焼き尽くされ、追い討ちをかけるように黒薔薇の魔法士にも炎の鉄槌が下される。
一方で、リリア先輩はシルバー先輩と警棒をぶつけ合っていた。

「シルバー、わしはお主をそのような子に育てた覚えはないぞ。お灸を据えてやろう」
「俺はあなたを知らない。邪魔する者は殺す」
「わしの顔すら忘れるとは……! どうやら、相当の仕置きが必要なようじゃ!」
「くっ……!」

師弟の攻防のやり取りが段々と凄まじくなっていく。
リリア先輩の持つ警棒の先端から光が放たれ、中庭の一帯が緑の炎に包まれた。
眩いばかりの緑の閃光が悪き黒薔薇を燃やしていく。
闇染の騎士と化したシルバー先輩は攻撃を交わしつつ、漆黒の刃を繰り出す。
その黒き刃は容赦なくリリア先輩の放った緑の炎を打ち消した。
強く賢い生徒だと言われているリリア先輩やリドル先輩が圧倒されている。
私は増援を要請しようとした。
その時、鈍い痛みが私の身体に襲いかかった。

「せめて安らかに、美しく散れ……
「シルバー……先輩……

闇色に染まった剣の鋒が私の胸に突き刺さっていた。
身体中の力が抜けていく。
鈍痛を抱えながら、私は地面に倒れ込んだ。
グリムが涙目でガラスを叩いているのが見える。
黒薔薇の魔法士が地に突っ伏している私の手を踏みつけた。
蔑んだ目で私を見ながら、女が語りかけてくる。

「かつて愛した男に殺される気持ちはどんなものかしら? 哀れな子ね。さようなら……

こんなにも早く最期の時が訪れてしまうとは。
薄れゆく意識の中、御守り代わりの小さな紺色のテディベアを握りしめた。
せめて、魂だけの存在になってでもシルバー先輩の側にいたい。
ありったけの願いをテディベアに託し、私は深い眠りの世界へと堕ちていった。



春の陽気のような温かさが私を包み込んでいる。
とうとう私は天国へと辿り着いてしまったのだろうか。
どうせならば、皆の顔を見てからお別れを言いたかったな。
そう思っていると、だんだんと眠気が醒めてきた。
唇に温もりを感じる。
重い目蓋が開かれた途端、夜明けの光が瞳の中に飛び込んできた。

「シルバー……先輩……? 私……生きてる……
「ニコル、すまない。お前をこの手で傷付けてしまった。俺が弱かったばかりに……

今、私の目の前にいるのは美しい白銀の騎士。
涼やかな顔立ちの心穏やかな私の知っているシルバー先輩だ。
シルバー先輩はオーロラ色の瞳にうっすらと涙を浮かべ、私をぎゅっと抱きしめた。
ほんの数時間しか経っていないのに、久しぶりに愛する人の温もりを感じたように思えた。

「シルバー先輩、どうして元に戻ったのですか……?」
「お前にそっくりな男が現れて、俺を操っていた黒い薔薇を全部枯らしてくれたんだ。その男は俺に後は任せたと言って消えていった」
「私にそっくりな男の人……

思い当たる人はただ一人しかいない。
私の元の人格である、万象の魔導師ニコル・イーリスだ。
私が意識を失っている間にイーリスが捻れた世界に降り立っていたのか。
シルバー先輩を正気に戻してくれたイーリスに感謝を伝えるかのように、私は小さなテディベアをぎゅっと握りしめた。
そして、黒薔薇の魔法士との戦いへ赴くシルバー先輩の背中を見送った。

「リリア先輩、リドル、すまなかった。俺も加勢する!」
「シルバー……!」
「待っておったぞ、我が愛し子よ」
「どっ、どういうことなの……?」

黒薔薇の魔法士が顔をひきつらせている。
シルバー先輩が自分の元から離れたことが信じられないようだ。
先輩たちはマジカルペンを構え、一斉に魔法を繰り広げた。
紅蓮の炎、緑の閃光、闇を穿つ白光の剣。
すべてが重なり合い、ひとつの大きな波動を創り出した。
三人が繰り出した魔法の波動を真っ正面から受けた黒薔薇の魔法士は、項垂れるように地面に膝をつけた。

「ねぇ、シルバー! どうして? どうして私を選んでくれないの? 私は魔法が使える! 私の方が美しい! それなのに、どうして……!」
「魔法が使えるかどうかも、美しいかどうかも、俺には関係ない。俺はニコル・シャーロンというひとりの女性を愛している」

私の目の前に立つシルバー先輩が力強く言い放った。
闇の鏡に選定されながらも光に愛された微睡みの騎士の姿がそこにあった。
警棒を構え、シルバー先輩が魔法を唱え始めた。
手にしている警棒が光り輝く剣と化し、シルバー先輩は創り上げた剣を一心不乱に振りかざした。
剣の軌道から白い光が放たれる。
溢れんばかりの光に黒薔薇の魔法士は目を眩ませていた。

「シルバー……、私のものにならないのなら……あなたも皆もこの学園も何もかも滅ぼしてやるんだから!」
「そんなことはさせない!」
「皆の者、構えるのじゃ!」

不気味な呪文を唱えながら、黒薔薇の魔法士が漆黒の涙を流している。
闇染の薔薇の花弁が舞い上がっていく。
女が杖を振り下ろした時、凄まじい黒薔薇の疾風が中庭の一帯に吹き荒んだ。
あまりにも強大な衝撃波に先輩たちは揃って吹き飛ばされてしまった。

「このままでは……ボクたちの方がブロットにやられてしまう……
「こやつがこんな強大な力を持っていたとは……! だが、わしはまだやれるぞ……!」
「俺もだと言いたいところだが……身体が追いつかない……!」
「ふふっ、あなたたちも黒薔薇の養分にして差し上げるわ。そのまま鬼籍にお入りなさい……!」

再び黒薔薇の魔法士が漆黒の衝撃波を創り出そうとしている。
次に喰らってしまうと、先輩たちの命が危うい。
殺気に満ち溢れた顔で黒薔薇の魔法士が詠唱を始めている。
どうか命だけは無事であれ、私はそう祈ることしかできなかった。
黒き疾風が私達に目掛けて解き放たれた。
私は無意識のうちに紺色のテディベアを胸に抱き込んだ。



強い光が閉じていた目に飛び込んできた。
目を開くと、いくつもの雷が大地に降り注ぐ光景と漆黒の竜のような大きな背中が映し出された。
放たれた緑の閃光が黒薔薇の疾風を全て打ち消したようだ。

「ようやくこの場所に辿り着けた」
「マレウス、来るのが遅いではないか!」
「あぁ、済まない。黒い薔薇に行手を阻まれていたんだ」
「あなたは一体誰なの……?」

茨の妖精王の降臨に黒薔薇の魔法士が驚きの表情を浮かべている。
紅い空に雷鳴が轟く。
その轟音に呼応するかのように、妖精王は杖を掲げた。
稲妻が杖に付いた糸車の先端に集まり始めている。
この捻れた世界で五本の指に入るほどの魔力の持ち主である彼の力を間近で見るのは初めてだ。

「僕はマレウス・ドラコニア、ヒトの子たちを助けにやって来た」
「私の邪魔はさせないわ! あなたも黒薔薇の養分にして差し上げる!」
「無駄だ。僕の愛するヒトの子たちを傷付けた罰、その身にしかと受けるがいい!」
「えっ、やだっ、何……? いやぁぁっ!!」

怒れる妖精王の裁きの雷が黒薔薇の魔法士の脳天に降り注いだ。
女は一瞬で全身が焼け焦げ、遺灰のように呆気なく散り散りになって消えていった。
空の紅に紫のグラデーションがかかっていく。
天はやがて、紫色から鮮やかな蒼へと変わっていった。

「シルバー、ニコル、もう大丈夫だ。お前たちを傷付ける者はこの僕が消し去った」
「マレウス様……
「助けてくださってありがとうございます、ツノ太郎さん」

黒薔薇の魔法士に天罰を下した妖精王の顔から、いつもの悠然としたツノ太郎さんの顔に変わった。
ツノ太郎さんは私達の方へとそっと歩み寄り、両方の腕でぎゅっと私とシルバー先輩を抱きしめた。
荒れ果てていた中庭に緑が戻った。
満身創痍の私達を慈しむかのように、明るい陽射しが照らし出された。
少し時間が経ち、セベクくんとエースくんとデュースくんが駆けつけてきた。
リドル先輩はデュースくんに背負われ、保健室へと運ばれていった。

「学園に平和が戻りましたね……
「これで一件落着じゃな」
「若様、リリア様、ご無事で何よりです!! シルバー、さっさと保健室に行くぞ!」
「ああ、すまない」

シルバー先輩はセベクくんに担がれ、保健室へと連れて行かれた。
私達も一緒に保健室へと向かうことにした。
ふと、黒薔薇が咲いていた小さな庭園に目を向けた。
そこには夜明けの光を映し出した美しい薔薇が咲いていた。
輝ける薔薇は黒薔薇の脅威が消え去り、学園に平穏が訪れた証のように思えた。


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