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思慮する彼女

全体公開 8852文字
2021-12-18 21:07:36
Posted by @uk_plus_



 「昨日のご飯なに?」みたいな、そんなトーンと何ら変わりなく問われた一言に毛利は口角を上げたまま間抜けな声をひゅると出した。

「んえ?」
「なんとなく思ったの。いっつも笑ってる毛利くんは面白くて笑わしてくれるけど、じゃあ誰が毛利くんを笑わしてるのかなーって」

相変らず変わらぬトーンで先ほど毛利に聞いたことを言い直した彼女は、机に肘を付きながらスマホを操作しているから毛利の方はちらりとも見ていない。

 机ひとつを挟んで、クラスメイトの彼女と昼休みの間に何とでもないやり取りを毛利はしていた。いつも仲良く時間を潰している男友達たちは所属する部活の都合などで学校を休んでいたから、毛利は珍しく少々長い昼休みを持て余していたのだ。そうしたところに席が真後ろでたまに話をする彼女がいたから、ただなんとなく声をかけてつらりつらりと会話をやり取りしていただけだった。だけれどそれは、彼女のたった一言で一瞬にして毛利へ変化をもたらしてしまった。

毛利くんは、誰に笑顔にしてもらってるの?

特に重たい話をしていたわけではなかった。なんならしていた話は昨晩やっていたはずの音楽番組の話だ。あの曲がよかった、あれの新譜が楽しみだ。そんな音のやり取りたちの間に挟まれた一言だった。

 「なに?倫理の話なん?」
「今日倫理なくない?」
「違うて、今日の話やないて」
「木曜みっつめじゃん、倫理」
「せやけども」
「私倫理は好きだけど、あの先生少し苦手」
「そらぁまあわかるわ」
「でしょ?」
「あらあかんわ。目が」
目。単純に悪口じゃん?」
「え、悪口の時間違うん?」

ちらりとスマホから視線を外して、彼女は毛利を見た。その目に、毛利は何故かどきりとする。しかしすぐに外されたそれは今一度スマホに向けられて、彼女は苦笑いをしながら違うよと言った。

「てかなんで倫理?」
「いやそれはお前がおかしなこと言うからやんけ」
「おかしなこと?」
「その俺の笑顔がどうとかヒーローかお前は」
「違うし」
「今のはボケやろ完全に潰すなや」
「関西ハラスメントやめてほしいでーす」

誰が関ハラや、と軽く毛利が右手で彼女の頭を小突くと、ようやくスマホを机に置いてから、そしてだいぶスナップを利かせた右手で彼女は対する毛利の頭部を強く叩いた。

「ぁいった!」
「はい五分と五分」
「は!?全然十やぞお前!」
「っていうかここからは真面目な話なんだけど」
「無視!」

ぎゃんぎゃんと喚く毛利の百面相など気にすることもなく、腕を組んだ彼女が机越しに顔を寄せてくる。その仕草に流石の毛利もひゅっと黙り込んだ。

「毛利くんさあ、人間ってずーっと同じことってできないんだよ」
「な、なんや
「良いことも悪いことも、ハイテンションもローテンションも、絶対に延々とはできないってこと」
「り、倫理やんけ」
「これはどっちかっていうと科学」
「どっちゃでも一緒や
「馬鹿じゃん」
「やかましいわ」

詰め寄られた彼女の顔が呆れてため息を吐く。その挙動ひとつひとつに、再び何故だか毛利の心拍はばくばくとうるさくなった。見透かされているような緊張感にも似ていたかもしれない。

 この話題がどこに着地するのか毛利には全く分からなかった。そんな中救いの神が如く、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「あ、次移動じゃん?」
「えああ、せやな。机から物取っていかんと」
「あー私絶対にあの教室寝ちゃうんだよねぇ」
「お前そんなんばっかりやんか」
「毛利くんは?」
「お前と一緒に……一緒やわ」
「でしょ」

ぐずぐずと席から立ち上がりながら、二人して緩く背伸びをした。そして無意味な音を適当にやり取りすれば、彼女は先ほどと違う笑い声を軽く毛利に聞かせた。そんな彼女の顔を高い位置から眺めて、毛利はなんとなしに問うてみた。

「なあ」
「なにー」
「なんで俺の、そんなこと気になったん」
「あーなんでだろ」

わからんで聞いてたんかいと笑った毛利に同じように笑った彼女だったが、表情はそのままに言葉を続けた。

「ううん。毛利くん毎日毎日笑ってるから、楽しそうだなって思ってたけど、ただ

ちょっと心配になっただけだよ。

そう笑った彼女の顔があまり楽しそうでないような、そんな曖昧な感覚。それに眉をひそめた毛利がただ突っ立っていると、腕に教科書や筆記具を抱えた彼女が毛利のネクタイをびんと引っ張った。

「ぐっぁ」
「ほれ、行くよ」
「やめーや」
「置いてくよ」

締まってしまったネクタイの結び目に乱暴に指を突っ込んで緩めてから、毛利は慌てて机の中を探った。適当に引っ掴んだ筆箱と教科書。それを手にして彼女のそばに寄った。毛利を見上げる彼女の顔はいつものクラスメイトの表情と、変わるところはない。

「お前は?」
「何が?日本語喋って」
「あんなあ。毎日楽しいん?」
「そうだね、そこそこに」

歩き出した二人がとりとめのないやり取りをまた始めたが、彼女はちらりと視線を毛利に向けてから先ほどよりも幾分か明るく笑った。

そんな笑顔になんとなく毛利は何故だか安堵した。

 毛利はまだその感情を思慮しない。







 「昨日の夜何してた?」そんな感じの声音で問われた何気ない一言が何故だか延々と毛利のどこかに刺さったまま、一週間ほど日が経った。そして後ろの彼女と顔を合わす度に、毛利はその刺さったままの違和感が大きくなるような感覚を得ていた。

 違和感の原因がわからないまま週の明けた月曜日。人もまばらな教室で毛利は自身の机に鞄をどさりと置いたまま、後ろの座席をぼんやりと見下ろしていた。きっかけはわかっているが、原因がわからないのだ。この感情は一体なんだろうか。

「なに突っ立ってんの?」
「ぁっぱ!?」
「どこから声出してるのそれ」

呆けていた耳に突然声をかけられた毛利は素っ頓狂な声を出す。そして声をかけた当人毛利の違和感を作ったきっかけの彼女は、目を丸くしてひょろ高い彼を見上げていた。

「毛利くん声帯どこについてんの」
「どこて喉やろ」
「嘘だ絶対そんな音じゃなかった」
「俺のことなんやと思っとん」
「関西人」
「雑やない?」

いつだって変わらない何ともならぬ音のやり取りをすれば、彼女は毛利を見ることもなく机の中に鞄の物を入れ始める。そんな彼女の態度に毛利の胸中を占めていた違和感は少し軽くなった。

「こっちにはあんまりいないじゃん」
「関西人?」
「うん」
「せやなぁ」
「やっぱり粉ひとつで戦争すんの?」
「何を言うてんの?せんわ」
「じゃあ広島の友達呼んでこようか?」
「呼ばんでええから」
「ええー粉もんプロレス見たかったなー」
「戦争さすなや」

適当なのか本気なのか、けらけらと笑う彼女が全ての片づけを終えて自席に腰掛けながらスマホを出す。それに倣うように毛利も椅子に腰掛けてから鞄のチャックを開いた。そして先ほどまでは体躯の差では合わなかった二人の目線が、ほぼ均等になった。

「なんかそういう意味も含めて、毛利くん目立ってたかも」
「ええ?どういうこと」
「悪い意味じゃないよ。ほら、おっきいし」

関西人だしと付け足す彼女になんやそらと毛利は笑い、一体いつの自分の話をしているのだろうかと思った。毛利はそう思案しながら後ろの彼女に向き合う。しかし彼女は未だスマホに視線を落としたままだ。そんな彼女の指先を見つめて、そして毛利は何気なく言葉を漏らす。

「怖いと思ってた?」
「え?怖い?なんで?」
「いやぁ関西弁言うても、俺のってこう、圧があるっていうか」

気を付けてるんやけどなーと毛利が笑えば、目の前の彼女はスマホから顔を上げた。

「そんなこと、思ったことないよ」
「そう?」
「うん。よく笑う、明るい人だなーって思ったよ」

そう言った彼女はふんわりと笑いながら再び操作するスマホの画面へと視線を戻して続ける。

「人の中心に自然といれる人なんだなーって」
へぇ」

褒められているのだろうかと、若干くすぐったい気持ちになった毛利は苦笑いしながらくせ毛を触った。そんな毛利を知ってか知らずか、彼女はスマホを置いて今度は毛利をしっかりと見て言う。

「だから席が近くなって、こんなに話すとは思わなかった」
「へ?」
「私ってあんまり男の子と話すことないし」
「そ、そうなん?」
「うん」

思わぬ言葉にどぎまぎとしてしまった毛利に笑いかけながら、彼女は更に言葉を繋げた。

「こんなふうに話したりするの、毛利くんだけだよ」

音で表すのであれば、それはぴしゃりという形が正しいのだろう。未だにこにこする彼女の顔を、毛利は微動だにせず見つめたまま驚愕した。たった今自分は彼女に何を言われたのか。耳では正常に受け止めたはずなのに、頭では処理をしきれていない。そして何故自分はそんな彼女の言葉に驚き、体の芯に衝撃が走ったのか毛利は理解できずにいた。

「だからなのかな。こう、勝手に心配になったっていうか」
「えっな、何が?」
「ほら、この前急に変なこと言っちゃったじゃない?あれ、よくよく考えたらすごく失礼なこと言っちゃったなって思ってたんだ。そのごめんね」

少々気まずそうにした彼女の表情を見て、ようやく毛利の思考は動き出した。しかし戸惑ってしまったそれは完全に回ることもなく、毛利の口元をどもらせてしまう。

「え、や、そんなん全然思わんから!その、単純になんや、その嬉しかった、かな~って」
そっか」
「お、おん!せやからそう、その、謝らんといて!な?」

慌てながら紡いだ言葉たちは自身でも意味が分からなかったが、今の毛利が出せる精一杯で。とにかく今毛利が思ったことは“彼女に気に病まないでほしい”ということだけだった。

「なんか、ありがとう毛利くん」
「お礼を言うのはなんか違うやろ!」
「そう?」
「せやで!もっとこう、いつものてきとーな感じでええの」
「ヘラヘラ天パ関西人?」
「そうそってそれただの悪口やろ?」
「血が騒いでるねー」
「ツッコミとちゃうねん、ただの抗議やからな」

いつも通りのテンポ感に、ざわざわとしていた毛利の胸中はふっと静かになっていた。
 そして普段の調子を取り戻した毛利が彼女に軽口の反撃をしようと口を開いた時だ。

「あ、隣のクラスに用あったんだった」

彼女は思い出したようにそう言って、素早くスマホに何かを打ち込んでがたりと立ち上がった。

「あと五分で始業やで」
「うわーすぐ行かなきゃ」

スマホの時計を見て眉をひそめた彼女はさっと机から離れたが、ふと足を止めて毛利を振り返る。どうしたのだろうと不思議に思った毛利が彼女に目を向けたまま首を傾げると、彼女は口角を上げて小さく手を振った。

「毛利くん、やっぱり、ありがとね」

びしり。

そう音がしてしまいそうなほどに毛利は顔面を硬直させた。そして振り向いた彼女が再び背を向けて教室を出て行ってから、毛利は机に体を投げ出した。あり得ないほどに飛び跳ねた心臓と、恐らく急激な血流に赤くなってしまっているであろう頬を静めるために。

なんや、これ。

五分後には彼女が戻ってくるだろう。その時までには平静でいなくては。何故だかそう思いながら机に突っ伏して毛利は深呼吸した。

そして毛利は、いよいよその感情を思慮するのだろう。





 何気ない毎日だ。そう、部活や学校、同級生や家族に囲まれて過ごす毛利寿三郎の毎日は、
とても何気ない。そんな時間の一部の中、恐らく生まれて初めて毛利はたくさん考え事をしていた。
正確には“考えているうちにぼんやりとする時間が増えていった”ようだった。

 「毛利、おーい毛利ー」

本日の昼休みもそうだったのだろう。よくつるんでいる同級生たちと毛利が、廊下で
適当なやり取りをしている最中だった。
スマホを握ってそれを見つめたままぼんやりとしていたらしい毛利に、同級生の一人が
少々大きめに声をかけてきた。

「えあ、ごめん、何?」
「なんか毛利、大丈夫かよ」
「何が?」
「最近そんなばっかじゃね?」

怪訝そうにする男の同級生にそう言われて、毛利は苦笑いしながら天パの後ろ毛を撫ぜた。
大丈夫だと伝えた毛利の言葉は、あまり覇気はない。

 近頃の毛利は寝不足気味でもあった。考え事が及び過ぎて気付けば深夜になることが増えたのだ。
そして授業中や休み時間を睡眠時間に充てることになるのだったが、それはますます毛利の
就寝時間を削る結果になってしまっていた。学校で眠ってしまっては“彼女”と話す機会が減ってしまうから。
 毛利をここまで思考の先に追い立てた原因は、後ろの席で何気なく存在する彼女だった。
なんとでもない日になんとでもないように投げかけられた一言から、気付けば彼女は毛利の中で
重大な意味を持つようになっていたのだ。
 自覚してしまってからは簡単に出来ていたはずの全てのことがとても難しく感じられた。
ひとりで四苦八苦している現実それはつまり彼女とは一ミリの関わりも持てない時間に、
毛利は日々落胆しているのだった。
 今日もまるで逃げるようにいつもの面子へついて行き、教室に長居することを避けてしまっていた。
いや、それはいつものことだったではないか。彼女とはたまたま時間が重なった時に話すだけの
クラスメイトに過ぎなかったのだから。そうして心の奥で再認識する度に、毛利はまた勝手に傷付いている。 

 「つーか毛利さ、最近あれじゃん?クラスに仲良い子いるじゃんな?」
「あー後ろの席の子っしょ?女子。何、彼女?付き合ってんの?」
「え!?付き合って、なんか、ない

するとうじうじと内心で考えていたことが急に話題に上げられて、毛利は歯切れ悪く返事をしてしまった。
そして己の返答にまた少し傷付いた。嗚呼面倒だと毛利が小さくため息を吐くと、また別の同級生が
スマホをいじったまま何気なく言った。

「てかあの子、地味じゃん?」
は?」
「いるかいないかわかんねーっつーか。毛利はあんなんと付き合わんべ」
「あーたしかに、暗そう。毛利のタイプじゃねぇわな」

言われている意味がわからない。毛利は同級生たちが口々に言ったことを咀嚼できず、ただ目を見開いて
その顔ひとつひとつを見ていくことしか出来なかった。一音だけ口から出た掠れた声は、
毛利が理解を全くできていない証だった。

「な、何を言うとん」
「俺らのグループと毛色が違う?っての?物静かそうってか」
「毛利は仲良くしてんでしょ?あれか、キープ的な?」

薄ら笑いのようなケラケラとした笑い声。
断定的で短絡的な言葉たちの、なんと不愉快なことだろう。

……めげとんちゃうかだぼが」
「え?」
「は?」

軽薄に漏らされる侮蔑とも批評ともつかない安い言葉たちに、毛利は気付けば嫌悪を露わにしていたようだ。

「なんどいやお前ら、勝手なことばっかり言いよって」
「も、毛利?」
「彼女の何を知っとるん?知らんくせして、黙っとれや!」

声音大きく語気の強い言葉たちと廊下に響いてしまった関東圏ではあまり聞きなれないその
イントネーションは、周りの同級生たちを静かにさせるには丁度良かったようだ。
ついでに別の生徒たちも黙ってしまったようだったが。

……戻るわ」

周囲の視線を一斉に浴びてしまった毛利は、機嫌の悪さそのままに教室へと戻った。
あっけらかんとしている同級生たちは置いて。
とにかく“彼女を容易に侮辱するこの場”に毛利は長居したくなかった。

 戻った教室、自分の席のその後ろ。そこに彼女の姿はなかった。
いないのならば丁度良いと毛利はすぐに自席に座り突っ伏した。上った怒りの波を引かせるために。

こんなに、好きなんやな。 

ぼんやりと浮かんだ心の独り言は毛利の認識を更に改めさせた。
どうして今までの自分はたまにしか彼女と話をしなかったのだろう。
何故彼女のことを見て考えることをしなかったのだろう。
なんで適当な会話しかやり取りしてこなかったのだろう。

もっと考える時間はたくさんあったはずなのに。

どうしてと何故となんでばかりが毛利の脳内を巡っていく。
関係性などこれから構築していけばいい、答えなど出ているのだ。
それでも今までの“何気なかった時間の悔い”たちが毛利を一斉に襲う。
同級生たちの下品な軽口こそが毛利のそれを象徴しているようだった。
自分にとって彼女が何気ないものだったのなら、彼女にとっての自分もきっとそうだろうから。

 「毛利くん?」

後悔、自責、恥、好意。そろそろ感情がごちゃ混ぜになって寝てしまおうかと毛利が思った頃だった。
一番聴きたい、しかしそばにいたくないような、でも一番好きな声が自分の名前を呼んだ。
突っ伏した顔を上げれば、そばで不思議そうに見下ろす彼女がいた。

「具合でも悪い?」

いつもはスマホにばかり注がれている視線が、じっくりと毛利を見つめていた。
それはとても心配そうにしていた。

「保健室行く?」
「あーやっぱ好きやわ」
「わかったそれじゃ……は?」

それはまるで「明日の晩御飯は餃子」みたいな単調さで、そのせいか彼女は一寸
“保健室へ行く”という意味に受け取ったようだった。

「え、に、日本語で、返してほしい」
「あほかちゃんと日本語やんけ」
「なにが?え、なにが?」
「日本語使えとらんのそっちやんか」
「だって!」

唐突に投げかけられた言葉に狼狽える彼女をよそに、毛利はゆっくりと体を起こし座り直した。

「ほんなら、ちゃんと日本語で言ったるからちゃんと聞いといて」
「ぜ、善処する」
「それ絶対できないやつやん」
「や、え、だって、え、急に、ナンナン、ですカ」
「日本語で返事せえよ」

改まって向き直った毛利の言葉に返答をどもらせる彼女に思わず笑ってしまえば、
いつもは静かに軽口をやり取りするはずなのに顔を更に赤くしていた。
そんな姿を可愛く感じた毛利は目を細めて静かに笑う。

「そんな顔もすんねんな」
……ブスって言いたいの?」
「言うかいなそんなん。ええからじゃあ、席座って」

ほんのり頬を膨らませて尖らせた唇の表情がもっと愛らしく思えて、
更に笑ってしまった毛利は彼女に座るよう促した。
そしてそれに従って座った彼女にもう一度向き直って、毛利はひとつ深く呼吸をした。

「よーく聞いといてな」
「あ、あの」
「何?」
「ひょ、標準語でお願いします」
「あほか」
「つ、通訳が必要になりますので」
「誰が外国人や」
「関西ハラスメントです!」
「聞いて?」

改まったところまではよかったが、状況を察したらしい彼女が不具合のあるテンポ感でいつもの
軽口の応酬から抜け出ることを許してくれない。しかしそんな状態でも毛利はじれったく思うこともなく、
冷静に彼女へ返事をした。

「まあ、それならそれでええから」
……何が」
「単純に思ったんよ。あー俺の心配してくれて、よう見ててくれて嬉しいって」
うん」
「あほみたいにやり取りできるとこも、全部好きやなって思った」

俺が勝手に思ってしまったことやから気にせんでなと、そう付け足して毛利は彼女に笑いかけた。
すると彼女は俯きながら、ぽつりと言った。

「私も
「え?」
「私も、好き?」
……………
「何か、何か言ってよ」
うーん」
「な、に」
「あーよく、聞こえへんかったかもなー!」
「はぁあぁ?」
「あ~~こらあかんわもっかい言ってもらわな~!」

珍しい彼女の声量に毛利が更に調子に乗って返事をすれば、両手で顔を覆ってしまった彼女は
先ほどよりも小さな小さな声で呟く。

二度と言わない」
「ええ~なんで~もっと聞かしてほしいんやけども」
「うるさい馬鹿」
「ええやんか減るもんやないし。ね、もっかい、もっかい」
「絶対に言わない」

攻守交替。いつもは彼女の調子に乗せられてばかりの毛利だが、ここぞとばかりにだる絡みをする。

前言撤回する」
「へ?」
「ヘラヘラ天パうざ絡み関西人だ」
「でも、好きなんやろ?」
好きです」
「せやったらヘラヘラ天パうざ絡み関西人でもええわ」

もーなんでもええと言いながら、毛利は未だ顔を赤くしている彼女の頭をひとつ撫でてにっこりと笑った。

「好きやで」


――――――――――――――――――

「毛利くんって、ほんっと、へらへら天パ関西人だ」
「今更わかったん~?」




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