@bebenyui
1P:目次
2P:【悲しい夢の話】
3P:【喜びの夢の話】
4P:【巨人の夢の話】
5P:【蝶の夢の話】
6P:【日常の夢の話】
…
【悲しい夢の話】(21/12/18)
わたくしは"わたし"を見ていた。彼女は小さな両手で眼を隠しながらしゃがんでいる。小さい肩が震えていることから、"わたし"は目を閉ざして泣いているのだと理解する。それは、どうして?
わたくしがしばらく眺めていると黒い影が次々に現れて"わたし"を囲んだ。人のような形をしていた気がする。その影は白い目と口を開くとこう口にした。
『出来の悪いやつ』
『根暗』
『間抜け』
『兄より劣った妹』
『出来損ないだから母親に嫌われたんだ』
そんな酷い言葉ばかりを浴び続けている"わたし"は悲しみに浸りながら『たすけておにいちゃん』と泣き叫ぶ。
わたくしはにーにのことを"おにいちゃん"と呼んだ覚えはない。でもわたくしのような"わたし"はずっとずっとおにいちゃんと呼び続けている。
わたくしの意識は段々と薄くなり、身体が上へと上がっていく。わたくしはもがいて抵抗しても、"わたし"はずっとあの黒い影たちに囲まれながら酷い言葉で傷付けられたままだ。
あの子を独りにしないで――そう訴えたかと思ったら、気付けばベッドの上にいた。わたくしの眼は、涙で濡れていた。
【喜びの夢の話】(22/01/05)
さく、さく、と雪を踏む音が聞こえる。足元には真っ白い雪が広がっており、わたくしは仄かに灯る先へと進んでいる。何故か、どうしてか、そんな理由は分からないし考えない。だってこれは、夢だもの。
そうして辿り着いた先には、ドアがあった。見た事もない灰色で塗装されたドアでネームプレートは黒く塗りつぶされて読めない。
恐る恐る手を伸ばし、ドアノブに触れる直前――ドアは勝手に内側へと開いた。見慣れない内装だ、…少なくとも、この世界の一般家庭の家でもないし、自分の屋敷ともかけ離れている。…でも、何故か懐かしい気がした。
~♪
歌声が聞こえ、それに引き寄せられるようにわたくしはドアの向こう側へと足を踏み入れた。部屋には小さなテーブルと、小さなケーキ、そしてそれを囲む小さな"わたし"と男の子がいた。
『ハッピーバースデートゥーユー♪ハッピーバースデートゥーユー♪』
男の子は両手を叩きながらリズミカルに歌っている。それを"わたし"が楽しそうに聞いて、うふふ、と小さく笑った。そうか、これは彼女の――"わたし"の誕生日なのか。
『ありがとう、おにいちゃん。でも、わたしたちふたごだから、おにいちゃんのたんじょうびでもあるんだよ。』
『それはわかってるけど、***のたんじょうびなんだから、まっさきにお祝いしたいんだよ。おれにとって***は宝物だから!』
『わたしもだよ!うふふ!』
――まただ、"わたし"は彼のことを"おにいちゃん"と呼んでいる。こんなこと、記憶にないのに。思わず自分の胸元を握り締める。楽しい夢。嬉しい夢。なのにわたくしには違和感しかない。一体何を見せ付けられているんだ。この夢は、何を意味しているんだ。
はぁ、はぁ、はぁ…
息苦しさに膝をつくと、突然後ろでドンッ!と大きな音が聞こえた。目の前の2人もそれに気付いたようで、怯えた様子で身を寄せ合った。ドアが何度も、何度も叩かれる。見たくない。聞きたくない。来て欲しくない。その向こう側にいる"何か"はわたくしにとっても、怖いものである。
『おにいちゃん…』
『***、大丈夫、にいちゃんが守ってやるから…!』
お願い、夢なら覚めて。これ以上ここにいたくない。
お願いだから、はやく、めを―――
【巨人の夢の話】(22/01/20)
とても楽しい夢だった。学園の外にある街が小さなミニチュアになっていて、こんなに広いのだと初めて気付いた。以前、アウラの為にお洋服のお店を探していた時は迷ってしまう程入り組んで複雑だったのに、全体を見れば意外とすぐに表に出られる。
…なんだか、人生ってそんなものだと思う。わたくしが見ている世界はきっとまだ小さい。けれど、たくさんの人々と触れることでわたくしの世界がどんどん広がっていく。大聖堂で話してくれたトゥルケの言う通り、わたくしはもっと踏み込んでみるべきなのかもしれない。
…ええ、そんな教訓を得た、とっても良い夢だった!
【蝶の夢の話】(22/02/11)
"空っぽ"
"本来の力"
"壊れる可能性"
【日常の夢の話】(22/03/04)
…すん、と鼻に何かつく。悪い香りではない、食欲をそそるようないい匂い。それが何であるかは自ずと分かり、畳の上で寝転んでいた身体を起こした。
「――チャーハンだ!」
おにいちゃんの得意料理、"わたし"が好きな定番のご飯。台所には椅子の上に立ちながら鍋を振っているおにいちゃんの姿が見える。おにいちゃん、と何度も呼びながら近付くと、白くぼやけた顔が困ったように笑う。
「***、近付いたらあぶないって!もーちょっとで出来っから…」
「***も手伝うよ!そうだ、おさらのじゅんびする?」
「えぇ?あぁー…うん、わかった、そこの食器棚に入ってるから、気を付けて取れよ!」
おにいちゃんに頼まれると、大仕事を頼まれたかのような気持ちになり、嬉しくなる。ガスコンロの傍にある木製の食器棚の元に行き、同じように椅子の上に立ってご飯を盛る大きめの皿を取り出す。決して落とさないように、気を付けて。
「あ」
ガシャン
渡すつもりで差し出していた手の力の緩め方を誤ってしまい、大皿は大きな音を立てて割れてしまった。その瞬間、"わたし"はこんなことを思ってしまった。
(ああ、やっぱり、わたしってわるいこ。できのわるい、いもうと。)
いつも"あと一歩"の辺りで失敗を繰り返してしまう、できの悪い子。クラスメイトからも散々と言われているのに、そうじゃない、と言い聞かせながら何かをやって、結局失敗してしまう。ふたごなのに、おにいちゃんはなんでもできるのに、"わたし"は、"わたくし"は。
「…ぅ、ぅう……っうわぁぁぁああん!!!」
悲しみに耐え切れず泣き出す。割れた大皿を前にして、両手で涙を必死に拭いながら泣き叫ぶ。そんなことしたって解決しないのは、分かってるのに?
「***!!だいじょうぶか!?ケガしてないか!?!」
でも、おにいちゃんは、
「そこ、動くなよ!いまにいちゃんが片付けるから…!」
おにいちゃんは、目の前のことよりも"わたし"を大切にしてくれる。ちゃんと火を止めて、自分もケガをしないように椅子から下りてホウキとチリトリを持ってきて、動かない"わたし"の前から割れたお皿を集めて捨ててくれる。
「おにいちゃん…ごめんなさい…」
「いいっていいって!***がケガしてなきゃだいじょーぶ!」
自分よりも劣ってて失敗ばかりの"わたし"を、一番大事にしてくれる。クラスメイトよりも、めぐみちゃんよりも、おかあさんよりも。
「さ、アイツがもどってくるまえにばんごはん食べようぜ!」
"わたし"の、"わたし"だけの、大切な、おにいちゃん。
――ガチャン
「……何勝手なことしてんの…あんたら…」
…アイツが、もどってきた。