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ディカイオスの天秤 第0話

全体公開 7891文字
2021-12-28 18:12:23

第0話 紐解きのプロローグ

Posted by @dika_bal



1999年──世界各所に流星が降り注いだ。
季節外れの流星群かと思われたそれは、各地に破壊と異変をもたらした。

流星の夜をきっかけに、大なり小なり異能力を持つ人間が現れたのだ。
異能力者たち自身やそれらを利用しようとする者たちによって世界の均衡は崩れ行く一方。このままでは世界的大戦に発展するかと思われたが、世界は強制的に条約を結ぶことによって形式だけでも平和的解決を行い、人類は数十年の歳月を用いて均衡や平和を取り戻す。

世界全体の変革に伴い、日本も体制を大きく変えることとなった。
新生国家『ヒノモト』と国名を変え、統治機構の見直しが行われると、警察・消防・医療・交通・教育で構成される政府と切り離された独自の行政機関『ANIMA アニマ』が設立される。

そして時は流れて2099年、増えゆく特殊犯罪──主に異能力を悪用した犯罪に対応すべく組成されたANIMA アニマ警察省特務課──通称『GRIMOIRE グリモア
各課の優秀な人材、将来有望な若手を集めるとされていたそこは、何故だか『厄介払い』『問題児の捨て先』などの噂が絶えなかった。





「異動、ですか?」
班長からの突然の話に若干目を見開くが、すぐに気持ちを落ち着ける。

「あぁ、新設の課なのだが優秀な君ならやっていけるだろう。急な話ですまないが、期待しているよ」
……ありがとうございます。期待に応えられるよう今後も精進して参ります」
素直に頭を下げる。班長の言葉からは嫌味ややっかみを感じることはなかった。純粋な期待というものを感じられた。
「かなり大変になるだろうが、頑張ってくれ」
班長が彼女の──木端 きば かおるの肩を励ますようにそっと叩き、その場を離れる。

一息つき、木端 香 きば かおるが顔を上げると、窓から青い空が見えた。
「どこでだって、やれるさ」
土砂降りのあの日にできなかったことを。ただ、実直に。逃げられるわけもないのだから。






「突然だが、君は本日付けで特務課へと異動になった」
「特務課ですか」

突然の辞令を荒船 正太郎 あらふね しょうたろうは粛々と受け止めた。
飛ばされた、ということなのだろうかと思案するが、それを口にして確かめることはない。
「新設の課でな、君のような"優秀な人間"を欲しているそうだ」
…………。」
「君なら他所に行ってもしっかりやっていけるだろう。……まぁ、精々"次は気をつけろよ"」
「はい」

表情の変わらない荒船 正太郎 あらふね しょうたろうを見て、部長はわざとらしく舌打ちをする。
冷ややかな視線を送った後、部長はその場から去っていった。
荒船 正太郎 あらふね しょうたろうはその姿を最後まで静かな眼差しで見送った。





「おい」
乱暴にデスクへとボールペンが叩きつけられる。
「おい」
座っている椅子の脚が蹴られる。
イライラした男が続いてデスクの下部を蹴る。
ガタンッ──と結構な音が響くが、周囲は目にも留めない。チラリとそちらを確認する者もいるが、すぐに目をそらした。

「荷物まとめろ。異動だ」
その言葉に鈴丸 誓 すずまる ちかいはようやく顔を上げた。
「さっさと出ていけ」
男は再度、鈴丸 誓 すずまる ちかいのデスクを蹴るとわかりやすく悪態をついて立ち去った。
…………。」
男が去るのを見届けると、鈴丸 誓 すずまる ちかいはゆったりとした動作で立ち上がり、ほぼ ないに等しいデスクの荷物を片付け始める。

最後まで鈴丸 誓 すずまる ちかいが口を開くことはなかった。





「どうも、こんにちは~」
丹所 暖人 たんしょう はるとがにこやかに声を掛ける。声を掛けられた男はピクリと眉を動かした。

「お兄さん大丈夫ですか? 具合い悪い? 顔色あんま良くないなって思いましてね」
……なんだよ。なんもねぇよ。別に体も問題ねぇし」
「そうですか? でも何となく何でもないようには見えないので、念の為……
丹所 暖人 たんしょう はるとの言葉を遮るように、男が右手の拳を丹所 暖人 たんしょう はるとの前に突き出す。
その拳からパッと豆電球くらいの光量が弾けた。
「──ッ! クソ!!」
何か失敗したのだろうか、男はバツが悪そうに駆け出した。

丹所 暖人 たんしょう はるとは驚いて、ぱちくりと瞬きをしてから男が駆け出した方へ振り返る。
「あちゃー……すみませ~~~ん! その人止めてくださ~~~い!」
丹所 暖人 たんしょう はるとの声が響いた。




(…………?)
どこからか聞こえてくる声。

及川 鈴子 おいかわ りんこが視線を彷徨わせると、こちらに走ってくる男が目に入る。
「その人止めてくださ~~~い!」
後ろから叫んでいるのは交通課の人間だろうか。随分余裕ある声音にも聞こえた。
「どけどけどけ────っ!!!」
突っ込んでくる男は何ふり構わず走っている。……まずい、と及川 鈴子 おいかわ りんこは体を強張らせた。

「おい、及川 おいかわ! 確保!」
「は、はい!」
咄嗟に返事をしたものの、及川 鈴子 おいかわ りんこは逡巡する。

"一般人に触れて大事にならないだろうか"

男が振り回した腕が及川 鈴子 おいかわ りんこに接触するかどうかの寸前で、及川 鈴子 おいかわ りんこは反射的にその男を避けてしまった。人を傷つけたくない思いが瞬間勝ったのだ。
先輩が舌打ちしながら自身の異能力で発信機を男へと飛ばす。

及川 おいかわお前……!」
「はーい、どいてください~!」
及川 鈴子 おいかわ りんこへの叱責を飛ばそうとした先輩の声を遮り、白バイが遠慮なく走り込んできて、2人の前で止まった。
「すみません、とりあえず本部の方に連絡お願いします。俺このまま追いますんで」
白バイの男──丹所 暖人 たんしょう はると及川 鈴子 おいかわ りんこへ にぱっと笑いかけると「ご協力ありがとうございます」と声を掛け、そのまま走り去っていった。
「いえ……力及ばず……
走り去るバイクに向けた及川 鈴子 おいかわ りんこの声は、エンジン音にかき消された。





警察省 けいさつしょうから中央各局 ちゅうおうかっきょく、中央区にて男性1名逃亡中。異能力者の可能性有り。中央署が追跡中。異能405 いのう よんまるごにて発信機の情報有り。現場 げんじょう 上片 かみかた通り方面。近い局どうぞ』
異能607 いのう ろくまるなな上片西 かみかたにしより向かいます」
警察省 けいさつしょう了解。発信機データ送信します』

無線のやりとりを聞きながら、同乗する先輩がハンドルを切った。
助手席の美杜 暁 みもり あきら は窓から少々身を乗り出して車両上に赤色灯 せきしょくとう、サイレンを取り付けてから手元の端末を操作する。送られてきたデータのマーカーはこの付近を指している。

「近いです。上片 かみかた通り、繁華街を通過中」
「はいよ」
サイレンの音と加速するエンジン音が混ざり合う。





大鷹 荘次郎 おおたか そうじろうは本日付けで異動となったGRIMOIRE グリモアの本部へと足を踏み入れていた。

「いらっしゃい」
優しい笑みを携えた中老の紳士めいた男が大鷹 荘次郎 おおたか そうじろうを出迎える。
広いが細々 こまごまと物の置かれている室内は紅茶の香りが微かに漂う。今まで居た 怒号飛び交う捜査一課との温度感の違いに若干拍子抜けしてしまった。

しかし、あまりの違いにすっと足元が冷たくなる。耳にこびりついたような声がリフレインした。
『──────────』
足先から、指先から冷えていくような、もう慣れきった感覚。

大鷹 おおたかくん」
温度のある声にハッとした。
中老の男、局長と目があうと大鷹 荘次郎 おおたか そうじろうは軽く頭を下げた。
「お世話になります」
「まぁ、気楽にどうぞ。それと早速なんですけど頼まれてもらっていいですか?」





「全くもう」とこぼしながら、足を動かす。ガサ入れ最中に逃走した人間を追う桐野 藍 とうの らん
明らかに走り慣れていないであろう相手へ早々に追いつき、襟首を引っ掴むと地面へ投げ飛ばした。

「公務執行妨害だって」
「うるせぇ!!知るかよ!!」
白昼堂々 繁華街のど真ん中。投げ飛ばされた男は打ち付けて痛めたのか肩を庇う。
ガラの悪い いかにもな男と、長身でスーツの男──桐野 藍 とうの らんが対峙している。

「俺は異能力者 いのうりょくしゃだ! 貴様らみたいな無能な公僕とは生きているステージが違う! 力を持つ者が持たざる者を支配することの何がおかしい!!」
男は狂ったように喚き散らす。

腕に彫られた刺青は炎をイメージしたもののようだ。馬鹿正直に己の異能力をそのまま表しているのならば話は早い。
……だが、それにしても癇に障る。
だから、──────────」






警察省 けいさつしょうから中央各局 ちゅうおうかっきょく、中央区にて男性2名の喧嘩。片方は異能力者であると自称しているとのマル目 まるもく情報』
現場 げんじょうは中央区、一◯◯ ひとまるまる交差点から繁華街方面。近い局どうぞ』
異能101 いのう いちまるいち◯九◯ まるきゅうまるより向かいます」

一人の男が無線にそう応えると同時に、上着を肩から掛けた男がすぐに動き出した。
「オイ、燃々焼 えんしょう! だから単独の……っ!」
「うっさいのう、わぁっとるわボケ。やったら、てめぇらも すっと動きぃ」

燃々焼 十焔 えんしょう とむらを呼び止めた男の眉間に皺が寄る。それに構うことなく燃々焼 十焔 えんしょう とむらは上着を翻して歩きだした。





近接戦だけならまだしも、異能力を使用されるとかなり面倒くさい。
本来自分のような無能力者 ボーダーが相手をするものではないが、そうも言ってられない。

「面倒だけど給料貰ってるしなあ……
ボクシング経験者なのか、相手はひたすらにそれらしいステップを踏みつつ拳を向けてくる。
拳には炎が纏っており、異能力者だというのは本当のようだ。見たところ、ランクは良くてC程度だろう。異能力の感じにムラがある。
相手の攻撃を躱しつつ、どう対処すべきか桐野 藍 とうの らんは考えていた。
(やはり足を狙うのがセオリーか。だがしかし、先に本部連絡だろうな。相手が異能力者である以上、異能班対応が規則)

瞬間、ふと頭上に影が落ちる。
きぃて!」
頭上からは男の声と、ガツッと激しく何かが擦れる音がした。

頭上を確認するまでもなく、落ちた影でおおよその大きさを想定し、桐野 藍 とうの らんは身軽に跳んで後退する。受け身をとって、低く構えた先で見た光景は大きな炎だった。
燃々焼 えんしょう!!出力が高すぎる!!」
後から合流してきた他の刑事たちが、炎の前の男の名を呼ぶ。苛立ちを孕んだ声。

桐野 藍 とうの らんが対峙していた男は大きな炎の渦の中へと取り込まれている。
「問題なか。おうおう、よォ燃えとるわ」
燃々焼 十焔 えんしょう とむら十手 じってを収めると、ばつんと炎が破裂するように散って、その姿を消した。

炎の渦に閉じ込められていた男は、早々に他刑事が手錠をかけて押さえ込む。
押さえられた男は一瞬呆然としていたが、気を持ち直すとまたすぐに喚きだした。軽度の火傷はあるものの、命に別状はなさそうだ。

桐野 藍 とうの らんはその現場を、ただ静かに見つめていた。





「出なかったね」
「出ませんでしたね」
他数名の刑事と共に柚葉 優 ゆうは ゆう鳳条 一心 ほうじょう いっしんは押収物を詰めたダンボールを運ぶ。
最近急激に規模を大きくした新興宗教団体の分所。この手の団体に多い詐欺まがいの嫌疑が多くあったが、内情を調べるに現状は白。
うまく隠されているのか何なのか……はっきりしたことは何もわからなかった。

「そういえば柚葉 ゆうは たち今日で異動でしょう? 本件来てていいの?」
「人手が足りないってことで今日はね」

「えぇ、それにここは気になっていましたし」
……はぁ、そうですか。鳳条 ほうじょうさんも物好きと言うか何というか……
「ふふ、ほら、無駄話をしてないで仕事をしてください。手を動かしましょうね」
はぁい、と女性警官が気怠げに返事をした辺りでサイレンの音が聞こえてきた。……近い。というか、こちらに近づいている気がする。

音の方へと視線をやると、猛スピードの車2台が無遠慮に走り込んできていた。
前を走る車は停車中の捜査二課の警察車両にぶつかり、派手にドリフトのような回転を披露した後、街路樹へと頭から衝突。
追っていた警察車両側も急停止して、早急に逃走していたであろう車両へと駆け寄った。

「すごいことになってるね」
「おやおや、異能班ですかね。車両の修理代請求回さないと」
後から白バイも到着し、捜査二課側に「お疲れ様で~す」と場違いな明るさの声音で挨拶をした。





GRIMOIRE グリモア本部。
中々に広い室内には、12人の男女が集められている。

迎えのワゴンに乗っていたのは局長である風守 卓郎 かざもり たくろうと、彼が運転を依頼したであろう大鷹 荘次郎 おおたか そうじろうだった。
様々な現場の処理を他部署へとさっさと依頼して、目当ての人間をどんどんとワゴンで回収。途中、警察省内も巡って次々とメンバーを引き連れて本部まで辿り着いた。

本部のドアが開き、更に女性が2人入ってくる。
「やっぱり出ましたよ。そこの交通課の子が追ってた男の持ち物から予想内の物がネ」
眼鏡の女性──不寝喰 未環子 ねずはみ みわこは にひひと緩く笑う。
「いやはや、お手柄だったね。キミ、いい鼻してるよ」
丹所 暖人 たんしょう はるとは首を傾げながら「ありがとうございます?」と、とりあえず褒められたことに対する礼を述べる。
「ところで、何が出たんですか?」
「近年流行りのドラッグよ。これの出どころの調査に関して困ってたから、所持している人間 捕まえてきてくれて助かったわ。これでまた色々聞くこともできるでしょうし。あはっ」
薬師寺 菫 やくしじ すみれが楽しそうに微笑む。

パンパン、と局長が手を叩く。
「えーっと、改めましてご挨拶を。私はこのGRIMOIRE グリモアの責任者を任されております風守 卓郎 かざもり たくろうと申します」
GRIMOIRE グリモアは近年増えゆく特殊犯罪──主に異能力を悪用した犯罪に対応すべく組成された新設の課となり、試験的な組織と言っても過言ではありません」
「様々な課から異動されてきた面子ばかりであり、やり方も考え方も異なるかもしれませんが、ただ純粋に皆さんがやるべきこと、信じること、守るべきものを守って、"チーム"となっていきましょう」

「それでは皆さん、これからどうぞ よろしくお願いいたします」


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❖credit title(敬称略)

シナリオ:るーしー
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