了遊(付き合ってない)。
Aiと遊作の会話のみ、了見は出ません。
@d9_bond
「ちょっと出てくる」
と、遊作がダッフルコートを羽織ったのは元旦の昼すぎだった。Aiは首を傾げた。初詣は明日、草薙たちと一緒に行く予定だ。
「どこ行くの? 買い物ならオレも行くけど」
「いや年賀状を出してくるだけだ。少し昼を食べ過ぎたし、腹ごなしだ」
「ふーん?」
遊作は年末年始の挨拶は全てメールでやりとりしていたし、年賀状なんて一枚も書いていなかった。
Aiはちらりと窓の外を見やる。
冬空はきれいに晴れていてどこか白っぽい日差しが通りを温めているが、空気が冷たいので気休めみたいなものだ。いつもより格段に人気の無い街のせいか、ことに暖かい部屋の中からだと外は余計に寒々しく見える。そんな中、目的もなく出かけるわけがない。
「今日もけっこう寒いし、絶対海風きついぜ。ちゃんとあったかくしてかないとアイツに怒られんじゃない?」
「……」
遊作はトグルボタンをとめる手をぴたりと止めてAiを見た。Aiはにっこり笑みを返す。
「…………」
しばしの停止の後、なんとも言えない顔でコートを着終えた遊作はマフラーを手にした。そこへAiは追加で使い捨てカイロをポケットに入れてやる。
「センセのとこ顔出すならそう言えばいいじゃん」
「からかうだろう」
「まあそうだけど今更……」
言いかけてAiは気がついた。遊作は今日の外出について、前もって時間を空けるとか時計を気にするといったそぶりは全くみせていない。思いついてコンビニに行く、くらいの空気だった。
「もしかして、約束とかしてないのかよ?」
「悪いか」
「悪いとかじゃなくて、なんで? それなら行っても空振りかもだろ」
「あいつは忙しいからな。特に今みたいな時期に約束は難しいし、守れないかもしれない約束はしないからそもそも都合を聞いていない」
「そうじゃなくてさ~!」
鴻上邸は決して立地の良い場所とは言えない。こんな寒い日に無駄足はちょっときついだろうなんて気温を数字でしか感じないAiでも簡単に想像がつく。
それに二人は最近それなりに連絡を取ったりして出かけているのだから、元旦が無理でもいつもどおり都合をすり合わせて約束すれば良いだけの事だ。
少なくとも了見は、遊作が言えばいつものすまし顔のままその実がっちり時間を確保するくらいやるだろう。二人とも意識していないようだが、互いに対する優先度が非常に高いのをそばで見ているAiはよく知っている。
「マジで理解不能なんだけど」
「そうか」
遊作はふと、口元を緩めた。
「ただの計算だから難しい事もないんだがな」
そう言って端末でちらりと時間を確認して、遊作は玄関に向かう。止める理由もないので見送りのためについて歩きながらAiは小さく唸った。
「もしかして、口実があればがっつり時間とらなくても顔は見られるって算段?」
「ついでに年賀状を持って行けば、確実に無駄足にはならないだろう」
「いや、ええ……?」
つまりきちんと会おうとなると別日になるかもしれないから、と。
「そんなに今日がいいなら、普通に挨拶だけで約束したら良いだろ……」
「顔を見たいのは俺だからな」
遊作はあっさり言って、玄関を開けた。冴えた空気にちょっとだけ目を細めて、しかし躊躇するでもなく出て行く。
その様が何故かどうにも楽しそうに見えて、いってらっしゃいとひらひら手を振りながらAiは呟いた。
「やっぱり理解不能なんだけどな……?」