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流星群291

全体公開 7779文字
2022-01-04 22:47:05

張華文虎
※文鴦伝異聞ネタバレ含

 独りきりになった。兄の背中は一瞬で見えなくなり、それと同時に視界はぼんやりと靄がかかり始めた。
……ははっ。もう、起き上がれないや。情けないなあ」
 騎馬が駆け抜けた後の地べたは土埃が舞っていて、けれど、文虎はその場に寝転んだまま動くことすらままならなかった。立ち上がるどころか、指一本さえろくに動かせない。
 兄の手前、格好をつけてみたけれど。所詮、文虎はここまでの男だった。これ以上先に、兄の向かう未来には、恐らく辿り着けない。
「このまま、死んじゃうのかなあ」
 ポツリと思ったことを、そのままに呟いてみる。すると、ずっと頭の中を支配していた不安がどんどん膨らんでゆき、文虎に襲いかかる。怖い。小刻みに身体が震え始めたのは、血を失いすぎたせいでもあっただろうか。
「やっぱり、ボクは兄上みたにはなれないや……
 きっと、兄は死にすら恐れを抱いていないだろう。でなければ、戦場であんなにも真っ直ぐに駆け抜けて行けたりしない。でも、文虎は違う。死ぬのは普通に怖い。
 今日までずっと、兄の背中について行くのに必死すぎて、死について考えている余裕すらなかった。しかし、いざそれと直面し、文虎は恐怖する。そして、己の弱さを実感した。
……死にたくないよ。独りでなんか、死にたくない」
 暖かい布団の中で家族に看取られながらなんて、贅沢は言わない。だけど、せめて、死の間際は誰かに手を握っていて欲しい。そんな些細な願いすら、こんな時代には叶わないのか。
 もはや、文虎は瞼すら開くのが億劫になった。目を閉じれば、そこは何もない世界。死ぬ前は走馬灯が流れると聞いたけれど、そんなものすら文虎の脳裏には浮かばない。ぼんやりと、眠るように死を待つのみ―――
「なにを、呑気に寝ていらっしゃるのですか」
 やけに、鮮明な幻聴が聞こえた。その声に文虎は聞き覚えがあったような気がしたけれど、眠くて思考がうまく働かない。文虎は何の反応も示さず、死体のごとく微動だにしなかった。
「まだ、貴方はこの世界に必要な駒のはずです。文虎君」
 すぐ傍で、誰かが馬を降りた気配があった。これが敵ならば、数秒後には文虎の首は無くなっているだろう。だから、何だというのだ。どうせ死ぬのだ。死に方など、どうでも良かった。首と胴が繋がっていようがいまいが関係ない。死ねば何もかもおしまいなのだから。
―――文虎」
 冷たくなりかけていた文虎の身体の一部が、不意にじんわりと熱を取り戻した。ハッと現実に引き戻されたみたいに、文虎は両目をしっかりと開いた。
「張華どの……
 真上から見下ろすように文虎の顔を覗きこんでいたのは、敵であるはずの張華だった。右の手のひらが温かい。彼が文虎の手をギュッと固く握りしめていたからだ。
 その男は、今し方まで文虎らが剣を交えていた敵軍の将である。倒すべき相手だ。しかし、文虎にはもうその力は残っていない。
……ははっ。敵に情けをかけるおつもりですか。余裕だな。張華殿は」
 息をするのも苦しいはずの唇は、思いの外、流暢に皮肉の言葉が吐き出した。死の間際にあっても、つくづく自分の性格は変わらないものだと文虎は自嘲する。
「少し、違いますね」
 皮肉を言われたのに、張華は余裕の表情でニコリと微笑む。死に態の文虎から何を言われたとて、痛くも痒くもないということだろうか。否、張華という男は元からこういう人間なのだろう。
「情けは、かけます。けれど、貴方はもう僕の敵ではない」
 一瞬、文虎の手を握った力が強くなった気がした。振り解く余力のない文虎はされるがまま。その、兄の手ほどには大きくない、少し華奢で頼りなげな手の感触。だけど、文虎はその体温にわずかな安堵を覚えていた。
「流れは、変わりました。いいえ。貴方のお兄さんが変えたのです」
 いつしか、文虎の身体の震えは止まっていた。その変化に、文虎自身は気づいていなかったけれど。
「僕はそちら側に付きます。なので、僕は貴方の味方ということになります。ほら、情けをかける理由ができたでしょう?」
 のほほんとした口調で、張華は寝返りを宣言した。それは戦況を大きく覆す一言である。文虎はおろか、多くの人の生き死にが左右されるような。そんな重要な一言を、この人はまるで今日の夕食を決める程度の調子で、口にしてしまえるのだ。
……それは、ボクや兄上にとっては願ってもないことですけど。いいんですか。彼女を裏切ってしまって」
 乱世に裏切りや寝返りなど、珍しいことではない。そして、そういう人間を軽薄だと罵るほど、文虎は人を善と思っていなかった。なのに、どこか非難するような物言いになってしまったのは、きっとまだ張華を信用していなかったからだろう。
「群れを統べるものが変わる。ただそれだけです。僕はその頭がどんな人間であるか、その是非は問わない。だって僕はどうしたって、その“統べる者”にはなれない。その他の群れに過ぎないのだから」
 自分のことをさも、有象無象の人間のように語る彼は、この国を動かせるほどの権力と地位を持っていた。それでも尚、その上にいる者と比べれば、有象無象に過ぎないと言うのだろうか。
「僕は貴方と同じです。文虎君。彼女や彼のような強き者に統べられる、群れの一員に過ぎない。だけどね……
 グイと、確かな力で腕を引かれる。自力では動かせなかったはずの文虎の手が、天を仰いだ。
 指の間から差し込む陽の光が眩しくて、文虎は目を細めた。その向こう側で、張華が笑っていた。
「群れの一人一人にだって、それぞれ役割がある。僕にも、貴方にも。そして、僕たちにはまだやるべきことが残っている」
 国のためだとか民のためだとか、高尚な理想など文虎は持たない。この戦の果てに、国がどうなろうが知ったことではなかった。
 文虎が見届けたいのはただ、兄の行き着く先のみ。どこまでもその背中を追いかけて、隣でそれを見ながら一緒に笑う。それが弟である自分の役割であり、望みであると文虎は信じていた。
………まだ、生きたい」
 震える声で、文虎はほとんど無意識にその願望を吐露していた。こんなところで、死にたくない。生きたい。生きて、また兄をこの足で追いかけたい。
「では、立ちなさい。手を貸しますから。生憎、僕は君達のように腕っぷしの方は自信がないので、担いで行くのは難しい。自力で踏ん張って頂かなければ」
 本当に余力など残ってはいなかった。文虎は生きたいと強く願う気力だけで、どうにかもう片方の腕を自力で動かす。少し屈んで、張華が肩を貸してくれる。その自分より華奢な肩へ必死にしがみついて、文虎はようやく地べたから背中を離すことに成功した。
……ははっ。膝が笑ってガクガクだ。ほんと、情けない」
「命があるだけ上等です。志半ばで果てた者も沢山いる」
 ほとんどの体重を張華に委ねて、文虎はようやく立ち上がる。立っているだけでやっとだった。ここからどうやって足を動かし、歩を進めれば良いのか。歩き方を忘れてしまったみたいに、文虎の身体は動いてくれない。
「すぐそこに馬を止めていますから。もう少しだけ、頑張って」
 その、少しが文虎には永遠にさえ思えた。普通に歩けば、ほんの五歩ほどの距離。すぐ目の前なのに、まるで近付けない。
 わずかに靴底を地から離せたかと思えば、すぐ重力に負けて落ちてゆく。そうやって長い時間をかけ、文虎は微々と進んだ。途中から、張華の腕もその重みに耐えかねて震え出していた。そんなことに気付けるほどの余裕が、文虎には残されていなかったのだけれど。
「よく、頑張りました。まあ、ここから更に一難関あるのですけど。……登れます?」
 どうにかこうにか、張華の愛馬まで辿り着けたは良いが。乗馬するだけの余力が文虎にあるかと問われれば、無いと答える他ない。
 これが兄ならば、文虎の身体を軽々ひょいと担ぎ上げて、馬上に放り投げてくれただろうが。張華にそんな芸当ができないことなど、見るに明らかである。
「ここまで来たら、死んでも這い上がってみせますよ。ボクだって、これでも文家の男だ」
「ははは。死なれちゃ意味がないんですけどね。では、僕が引っ張り上げますから」
 そう宣言した張華ではあったが、こちらの体力が尽きているせいか、それ以前の問題で、張華が非力すぎるのか。文虎の身体はびくともしなかった。
 結局、馬に乗るだけのことにどれだけの時間を要したことか。戦場の真っ只中、大の大人が二人してすったもんだしている様は異様な光景だっただろう。幸い、目撃者は誰も居なかったし、居たとしたら、とっくに手を貸して貰っていた。
「ぜえはあ……
………大丈夫です?」
 よっぽど重症な文虎の方が心配してしまうくらい、張華の息は上がっていた。それでも、どうにかこうにか目的は達した。文虎はまるで、張華に抱き抱えられるような形で馬に跨る。
「だ、大丈夫です。ゆっくり進みましょうか。しっかり、捕まっていて下さいね。落ちたら、もう拾える自信がないです」
「はいはい。気を付けますよ」
 それは今度こそ、本当に死を意味する。張華の目が笑っていなかったから、彼もかなり余裕を失っていることが伺えた。
 ゆったりと馬が動き始める。その振動さえも、文虎にとっては辛い。転げ落ちないようにという一心で、文虎は腰に回された張華の腕をギュッと握った。
……なんで、そこまでしてボクなんかを助けてくれるんですか。あなたが」
「口を閉じていないと、舌を噛みますよ」
 そうは言っても、何か喋っていないと文虎は今にも意識を失いそうなのである。そうして、眠ってしまったらもう、二度と目覚めないような気がした。だから、文虎はそのまま口を動かし続けた。
「味方になってくれるからって、ボクなんて放っておいても良かったじゃないですか。兄上さえいれば……
 文虎がいなくても、兄はどこまでも突き進んでゆくだろう。頭は群れの一人くらい欠けたからと言って、振り返ってはいけないのだ。そう思うから、文虎は兄を一人、先へ行かせた。
「理由なんかありませんよ」
「そんな、いい加減な……
「では、お聞きしますが。貴方のお兄さんは、戦うことに理由を必要としますか?」
 その問いへの回答は、考えるまでもなく否であった。文虎の兄は直感で生きている人間だ。戦をするのに、熱くなりたいから以外の感情など持ち合わせていないのである。
「同じです。僕も理由なんてない。ただ、そうしたかったから、助けた」
「あなたは兄上みたいに、本能で行動するような人ではないでしょうに。ボクと同じで、慎重に考えて動く人間のはずだ」
 もっと言えば、張華は損得勘定で物事を判断するタイプだろう。自分に何の得もないのに、文虎を助けたりするはずがない。
「ですが、そういう貴方だって、こんな無茶苦茶な戦に身を投じている」
「それは……
 どんなに文虎が考えて慎重に動こうとしたって、兄が勝手に突き進んでしまうのだ。そうしたら、自分は考えるまでもなく、それについて行くのみ。
 本当に振り回されてばかりで、こんなところまで来てしまった。なんて、自分に対する言い訳でしかないのだ。結局のところ、文虎は望んでここにいるのだから。
「感化されたのかもしれませんね。あの途方もない熱量に」
 その言葉に、文虎は同意せざるを得なかった。兄は人を突き動かすだけの何かを持っていた。それに文虎も突き動かされていた。そして、張華も―――
「なんともまあ。信用の置けない言い分だ」
 などと容易に、彼に心を許せる文虎ではなかった。助けて貰っておいて、相手を疑うのは如何なものかという気もするが。
 どうにも、張華という男を文虎は信用しきれていなかった。絶えることのないこの微笑みの裏に、どんな腹が隠されているのか分かったものではない。
「うーん。じゃあ、貴方に恩を売ったということでどうでしょう」
「それこそ。何の得があるって言うんですか。あなたに」
 取ってつけたような理由を述べられても、余計に懐疑心が深まるばかりであった。
 文虎のような下っ端に、張華が恩を売る意味などない。わざわざ息を切らして、死に体の男を助ける労力に見合うだけのものを、文虎が彼に与えられるはずがないのだから。
「まあまあ。そう、深く考えずとも良いではないですか。貴方は命一つ分儲けて、得をした」
……そう、ですね。後からどんな無茶な要求をされたとしても、死ぬより損なことはない」
「その通りです」
 命を拾えたことほど、幸運なことはない。生きている。ようやく、その現実を噛み締める。すると、失っていた身体の感覚が徐々に戻ってきて、文虎は耐えがたいほどの身体の痛みを自覚した。
 グッと歯を食いしばって痛みを堪える文虎の身体が、勝手に小刻みな震えを生じさせる。血を失い過ぎた体温は、極端に下がってしまっていたのだろう。
……ああ、もう死ぬのかな。そう思った時、怖かったんですよね。すごく」
 流暢に口が動く割に、意識は朦朧としていた。それ故に、自分が何を口走っているのかさえ、文虎はもは曖昧にしか判断できていなかった。でなければ、懐疑的感情を抱いている張華相手に、こんな弱音を吐くことなどなかったに違いない。
「独りで死ぬのが怖くて、震えが止まらなかった。誰かに側にいて欲しくて、泣きそうになった」
 文虎を抱く腕の力が、苦しさを覚えるほど強くなる。背中からじんわりと伝わる張華の体温を奪って、文虎の身体はわずかに熱を取り戻す。そのせいか、震えも少し収まった。
「誰だってそうです。死ぬのは恐ろしい。僕だって」
 その胸に頭を預けながら、文虎はぼんやりと思うのだった。とてもじゃないけれど、そんな風には聞こえない、と。それほどまでに張華の声は穏やかで、恐れなど感じさせなかった。
「死をも恐れず突き進める者など、ほんのひと握りの人間だけなのです。凡人はみな死を恐れ、だからそこそ、戦うのです」
「なんでわざわざ、そんな無謀をしてしまうんでしょうね」
 死が怖いのならば、死と隣合わせの戦場になんて近付かなければいいのに。自分一人の命ならば、それで安全が保証される。何故。その理由を文虎は知っていて、あえて張華に問うたのだという気がした。彼の声で聞きたかったから。
「守りたいものがあるからでしょう」
 ぽんぽんと、まるで子供を寝かしつけるような調子で、張華の手のひらが文虎の腹の辺りを優しく叩いた。ただそれだけのことで、不思議と不安が抜けてゆくように思えた。
……兄上は、ボクなんかが守らなくたって平気なんですよ。なんていったって、強いから」
「そうでしょうね」
「そこは否定してくれないんですね」
 文虎がくっ付いていたところで、兄を守るどころか足手まといにしかならないことくらい分かっていた。現に今、まさにそうなっている。
「でも、守りたいんです。もし、万が一にも、ボクの居ないところで兄上に死なれちゃ嫌だから」
 きっと兄は独りでだって、笑って清々しく死ぬのだろう。その光景が鮮明に想像できた。だけど、文虎はきっと泣いてしまう。
………死にたくないです。独りでなんて」
「大丈夫。貴方はまだ生きる」
 力強い言葉が返ってくる。胴に回された張華の手に、そっと己の手を重ねてみた。予想外にその手が握り返してくれたから、文虎は少し狼狽えた。
「それでもまだ、怖いのであれば。僕が側に居てあげましょう」
「あなたが……?」
「はい」
 張華がニコリと笑う。と言っても、文虎にその表情を振り返って確認する余力はなかったから、声音でそう察しただけであるが。
「はは。それはいい。あなたと話していると、あまりに呑気で、恐怖を抱いている自分が馬鹿らしく思えてくる」
「それは褒め言葉として受け取って良いのでしょうか」
 兄もそうだった。一緒にいると、悲しいとか辛いとか、負の感情が不思議と吹き飛ぶ。そんなことを考える余裕のないくらい、別の感情で文虎の心を満たしてくれるから。
……約束しましたからね。ボクが死ぬ時はあなたが看取って下さいよ。どうせ、兄上はすぐ何処かへ行っちゃうだろうから」
 張華と兄とは随分違う。あの無茶苦茶なエネルギーも、底抜けな明るさも、彼は持ち合わせていない。なのに、どうして兄が側に居る時のような、心穏やかさを文虎は感じてしまうのだろうか。
「ええ。約束します。貴方がそう望むのであれば、僕がこの手を握っていましょう」
「本当かなあ。そんな、安請け合いしちゃってるけど」
「本当です」
 ついさっきまで敵だった、何なら今でさえ本当に味方なのか怪しい男。信用に値する要素なんか何もないはずなのに、優しげな声で告げられると、文虎はその言葉を信じてしまいたくなるのだった。
「ほら、もう黙って。傷に障りますから」
 呑気にお喋りしているが、文虎は紛れもなく重症患者である。今は意識があるものの、医者に見せる前にうっかりくたばってしまってもなんら不思議ではなかった。
「何か喋っていないと眠くなっちゃうんですよ。じゃあ、あなたが何か話して下さい」
「仕方がないですねえ」
 あたかも気心が知れた関係のように、平然と我儘を述べる文虎。その横暴をあっさり了承し、張華は眠る前の子に物語を読んで聞かせるみたいな調子で語る。
「貴方は流れ星を見たことがありますか」
「子どもの頃、一度だけ。兄上と見たことがあります」
 薄っすらとした記憶ではあったが、幼い頃、偶然見上げた夜空から降る、一筋の星を見た覚えがあった。
「では、流星群は」
「流星ぐん……?」
 張華は流暢に流星群という現象について説明する。そのほとんどは呪文のように難解で、文虎の耳を右から左へと通り過ぎていった。要するに、流れ星がいっぺんに沢山見られる光景のことを指すらしい。
「そんなの本当にあるんですかねえ……
「あります。僕も見たのは一度きりですが」
 流れ星を一つ見つけるのだって大変なのに、それが幾つも同時に見られるなんて、文虎には夢物語に思えた。張華はそれを現実に目撃したと言うのだけれど、俄には信じられない。
「生きていればいつか見られるでしょう。貴方も」
「本当かなあ」
「本当です」
 ほんの少し前にしたのと、まるきり同じやり取りをして、やはり文虎は同じことを思う。彼の言葉を信じてみたいと。
……一緒に見ましょうか。その時は」
 その言葉に首を振るでもなく、頷くでもなく。少しだけ、文虎は瞼を閉じた。そして、夢想する。見たこともない流星群を。真っ暗な空を、瞬く星が零れ落ちてゆく。幾つも、幾つも。その隣には、彼がいた。文虎の手を強く握って。
 てんで、へんてこな空想だった。だって、張華とこんな風に言葉を交わしたのは、今が初めてだったのに。まるでずっと、友人だったかのようなその光景。それは夢か現か。文虎にその後の記憶は無かった。次に目を開いて見たものは、弟の無事を喜ぶ兄の笑顔だった。


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