了遊(付き合ってない)。
寒いの平気な遊作とそれでも暖める了見の話。
@d9_bond
遊作が鴻上邸を訪ねる時、インターホンを押す前に玄関ドアが開く。そのため一番最初の侵入から現在まで遊作はこの邸宅のインターホンを押したことがないし、戸外で待たされたことも無い。
Aiはこのことに対して「アイツのことだから遊作の動向ストーキングしてるだろ絶対」などと悪態をつくが、遊作は単純に敷地内の侵入者に対して敏感なのだと思っている。初回のみかつ緊急事態だったとはいえ不法侵入をしたことのある身なので、正直そこにはあまり触れたくない。
ともかく玄関に入ると、出迎えた了見は眉をひそめた。
「またそんな薄着で出歩いて」
遊作は自分の格好を見下ろした。着慣れたダッフルコートにマフラー。コートの下は制服だ。
「今日はベストも着ているし、カイロもある」
「それでもこんなコートでは風まで凌げないだろう」
小さな子供にするように、了見は両手でぺたりと遊作の頬を包む。ここに来るまでにまともに海風にさらされていた頬は確かに冷えていて、触れる優しい手のひらが温かくて心地よい。
「寒いだろうに」
温かい手は耳を包み、次いで風で乱れていた髪を撫でる。
「前から言っているだろう。俺は寒いのは平気なんだ」
「冷え切っておいてよく言う」
了見は言いながら遊作から引き剥がすようにコートを脱がせて、コート掛けにかける。
「とにかく早くあがれ」
「本当に平気なんだがな」
こっちも多分そんなに冷えていないと保温バッグごと土産のホットドッグを差し出すと、了見は呆れた顔をした。
ふかふかのスリッパを履かされ、有無を言わさずリビングのソファに座らされ厚手のブランケットを投げられる。
「暖房を強くしてあるから、暑くなったら言え」
了見はそう言い置くと温かいものを用意するとキッチンへ行く。遊作はおとなしくブランケットにくるまってそれを見送る。
ここまで、寒くなってからずっと繰り返されている訪問時お定まりのやりとりだ。
鴻上邸は海辺の遮る物のない場所にある。温暖なデンシティといえども真冬の海風は冷たい。だが遊作はあまり気にしたことはない。
了見を含め周囲の面々はあまり信じていないようだが、遊作は寒さに強い。反面暑さには弱いので体質なのだろうと遊作自身は思っている。
なので冬になれば制服の下に指定のベストくらいは着るがそれでかなりしのぐし、真冬になってもコートひとつで通学する。さすがに雪でも降ればマフラーや手袋を使ったりもするが、デンシティでそこまで冷える日など年に数えるほどだ。
そもそも寒さより、あれこれ着込んだり身につけたりが煩わしかった。今日だってマフラーやカイロは家を出る時、Aiに強制的に持たせられたようなものだ。
(──だからそんなに気を遣わなくても、本当にこの程度の寒さなんて平気なんだが)
暑さよりよほど耐えられる。
それでも了見が気を回してくれるのをまるごと享受するのは、遊作のささやかな欲からだ。
ふわふわのブランケットに顔を埋めて遊作はとろりと相好を崩す。
(どうせ、寒い日の客は誰だっておまえにこうして暖めてもらえるんだろう。だったら必要なくとも俺がこうしていたって良いはずだ)
ブランケットは日向の匂いがして、うっとりと目を閉じる。暖かくて柔らかくてとても気持ち良い。
(……俺にだけなら良いのに)
了見が遊作だけに優しいのなら。
それなら多少煩わしくてもコートだろうがセーターだろうが何枚でも着るし、イヤーマフだって手袋だって何でも使う。そうしたらきっと了見は安心するのだろう。
でも実際は、そんな風に自分で自分の面倒を見てしまえばこの手厚い待遇は無くなってしまうに決まってる。
(それに、もうあとひと月かふた月だけだ)
寒い寒い今だけだから。
「ほら、そんなところで寝るんじゃない」
何をしに来たんだと困ったように言う了見にすまないと口だけ謝罪して、緩んだ顔のまま遊作はゆるゆる起き上がる。
差し出されたホットココアを受け取り、礼を言って口にする。
甘くて温かい。
ここには自分を甘やかす物しかない。そう思うと腹の奥からじわりと温まるその感覚すら嬉しくて、遊作は目を細めた。