@syuu_29
[A5/36頁/本文二段/500円]
・ハロー、ミスター・ダイアリー
・ホワット・ユア・ネーム
という短編2本立て。全部で3万文字ぐらい。
日記にお悩み相談してて情緒不安定になるパダキンの話と、EP4前にユー・ガット・メールするオビの話です
「ホワット・ユア・ネーム」の前日譚が「ハロー、ミスター・ダイアリー」というかんじです。
サンプルそれぞれでページ切っています。
ハロー、ミスター・ダイアリー サンプル→2≫
ホワット・ユア・ネーム サンプル→3≫
ハロー、ミスター・ダイアリー
「待たせた、すまないなアナキン」
彼がようやく姿を見せたのは、ダイナーの客の注文が夕食から軽食へと変わりはじめた頃のことだった。それはちょうど一通りの注文を捌き終わったデクスターがキッチンから出てきて、カウンターで待ちぼうけているアナキンにフライを出してやった頃でもあった。
オビ=ワンはカウンターでフライを摘まむ弟子の肩を軽く叩き、その隣に並んだ。それから旧友である店主に軽く挨拶をしながら、かぶっていたローブのフードを後ろにはらった。
彼は見るからにくたびれて見えた。フードを脱ぐ前からそうだったが、うなじを覆う髪が静電気で乱れたことで余計にその印象は強まった。だがアナキンもデクスターも、カウンター越しに視線を交わすだけで、指摘するのはやめておいた。
それでもカウンターに寄りかかるように両肘を置いた彼を労り、デクスターは「テーブルにするか?」と尋ねたが、やはりオビ=ワンは首を横に振り「長居するわけでもないんだ」と断った。そのつれない態度にもデクスターは四本の腕で大袈裟に歓迎のポーズをとってやり「軽食がよさそうだな」とキッチンにひっこんでいった。きっとすぐにあの巨大な手で切り分けたご自慢のスライダーでも持ってくることだろう。
アナキンは口の中のフライを飲み込むと、まだ湯気のたつフライが乗った皿をオビ=ワンに差し出した。
「ちょうどこれをもらったところです。あと、お先にバーガーをいただきました」
「かまわない。すっかり待たせてしまったからな」
「揚げたてには間に合っていますよ」
悪戯っぽく笑ってみせたアナキンの言葉に同意するようにオビ=ワンは微笑み返して、自分も皿からフライを一切れ摘む。中身がなんの切り身かは知らないが、確かに中はまだ熱いと言えるほど暖かく、衣もサクサクしていて美味しかった。
二人がこうして顔をあわせるのは昨晩ぶりだった。
任務で離れているわけでもないのに、ここ数日はすっかりすれ違った生活を送っている。こうして日報を直接聞く口実で食事の約束でもしなければ、何日も会えていない状態だったかもしれない。だがそれは不本意なことではあるのだろう。次の夕食を一緒に取る約束を毎晩取り付け直すのはいつもオビ=ワンからで、パダワンと過ごす時間を取れないことを引け目に思っているのは明らかだった。
アナキンとしても顔を合わせることができるのは嬉しい。たとえ目の前に現れる彼がくたくたでヨレヨレでも、自分を見て微笑むその瞬間を直接見られるのは安心につながった。それに軽い冗談で、その唇を綻ばせることができたならなおさらだ。
***
慣れた指先が迷いなくアプリケーションを起動すると、期待通り新着通知に1と数字がついていた。
毎晩書く日記へと送られてくる返事――むしろこれを読むための日記だ。返事と言っても人工知能の書くものなのだが、掲示板のような不特定多数とのやりとりではなく、一対一の閉じられたやりとりは意外にも単調なものにならず、飽きることなど今のところは考えられない。つまり日記といえど、書いているのは一人で読み返すための日記ではなかった。匿名で決まった相手に手紙を書いているというほうがきっと正しいだろう。
もちろん、こんなふうに日課になるなんて、最初はとても想像できなかったことだ。おそらくは同じように利用しているアナキン以外のパダワンたちも似たり寄ったりのはずだ。この“日記”は導入されてしばらく経つ。
ジェダイは平和の守護者であり、その守護者を育てる組織――つまり子どもを育てる組織でもある。そこに目をつけた企業に売り込まれ、新しい試みとして導入された仕組みだ。
ジェダイ候補生たちの健全な思考と精神のためのプログラム。もしもなにか気がかりなことを書いていたのが検知されれば、まずマスターたちに連絡が行くという説明があった。教育機関で子供が抱える問題の発見に役立てるのが目的だとか――教育機関が機能した場所で育っていないアナキンとしては「ふうん」以上の感想はないが――とにかく日々のことを書き留めさせた日記を人工知能がチェックし、その上で日記が続くように個人個人の性格や言葉の文脈を理解して日記に対しての返事を返す仕組みが売りだという。
たしかに、アナキンへの返事には真面目だが茶目っ気のある性格まで感じられる。
***
「まあいい。さすがに賭博レースの優勝旗を抱えてお前が聖堂に乗り付けでもしないかぎりは口うるさく言う気もないしね」
「ないんですか?」 アナキンは思わず鸚鵡返しに尋ねた。
監視の目が緩んだ意味を計りかねていたぶん、驚きを隠すことはできなかった。それにそれを寂しく思う本音についても。
その動揺にオビ=ワンは訝しげに目を細めた。
「なんだ? まるで口うるさくされたいような口ぶりだが?」
「いえ、失言でした」
「そうだな。いや、つい先日もフェラスにも言われたのだ。わたしがお前を押さえつけすぎているのではないかと。耳に痛い意見だし、いいかげんお前を信用した振る舞いを――アナキン?」
「……なんですか」
「不満だと顔に出ている。喜ぶかと思ったが」
「そりゃ――嫌ではありません。信用してもらえること自体は。でも……あなたの意思からじゃないなんて。がっかりです」
「なんだって? わたしの意思だよ」
「言われて決めたのでしょう? あなたの意思じゃない」
「アナキン、違うぞ。もともと迷っていたことなんだよ。だから耳に痛かったんだ。いや、わたしの言い方が悪かったな」
「言い方の問題ではありませんよ、マスター」
「言い方の問題だ。現にお前は誤解をしている」
「誤解なんてしていません」
「しているぞ。落ち着きなさい、アナキン。お前は誤った怒りに支配されているぞ」
「とても落ち着けやしないから困っているんじゃないですか!」
アナキンはとうとうはっきりと声を荒らげて噛み付いた。
「だって、僕が信用できるか判断できなくても、フェラスの意見なら素直に納得できるんでしょう、マスターは!」
勢いのままに手が寝台の縁を叩き、その音で我に返ったアナキンは今度こそ失言だったと自覚した。
だが咄嗟に取り繕うこともできなかった。なにしろオビ=ワンは驚きで言葉を失っていた。彼が無自覚だろうとは思っていても、改めて口にしたことで驚かれると余計にアナキンの中でそれは真実味を持った。これから否定の言葉が向けられるに違いないとわかっていても、疑念にはすっかり色がついてしまった。
二人は視線を噛み合わせたまま黙り込むより他になく、しばらくしてアナキンは項垂れて、彼の視線から逃れた。
***
このあと喧嘩して仲直りする、というお話です
ホワット・ユア・ネーム
吹き付ける冷たい潮風をもろともしない二重構造の窓と扉が、この列車の最大の特徴だった。そして他に誇れる唯一の長所でもあった。それ以外の長所はせいぜいが価格だけだ。なにしろこの長距離列車の振動ときたら、控えめに言っても最低だった。無理やり切り崩された山に引かれた線路を高速で走るくせに、まともにクッションをつめた座席なんてものさえないのだ。指定席などない座席は早い者勝ちだが、それだって教会の長椅子のように長時間座ることなど前提にされていないつくりの硬い椅子だ。それしかないので結局皆それぞれに工夫して座っている。椅子よりはまだ柔らかな荷物に腰をかける者、気にせずそのまま座り続ける者、持ち込んだ毛布で簡易的にクッションを作っている者だっていた。長距離列車といえど、ここでは乗り心地を期待するほうが間違っているのだとよくわかる光景だった。どうせ一時間も乗っていればすっかり慣れてしまう。だから結局それもそうかと納得はできるのだ。これで駅の間隔が短ければ、文句もつきやすかったかもしれないが。
そう、慣れる。だから居眠りぐらいは簡単なことだった。もちろん誰かが人の荷物に手をだしたりしなければ。
不意に隣の席に移ってきた何者かの気配に、彼は目を覚ました。目深くかぶったフードの下で相手に気づかれないよう薄目を開き、それが置き引き狙いのスリであるのを確認すると、なにげなく足を組み替えるふりをして相手の足をブーツの踵で思い切り踏みつけた。そしてそのまま人のユーティリティベルトを探ろうとしていた手首を素早く捉えて体を引き寄せると、相手の額に触れるように指先をかざした。
フードを目深くかぶっているおかげで、まともに露出している皮膚はその指先ぐらいだった。彼はいかにも慣れた手つきでフォースに干渉すると、目の前の男に言葉通り振る舞い、けっして疑わないようにと暗示をかける。
抑えた声は教えを授ける教師のような響きになった。
「おまえはわたしから興味をなくし、ここから立ち去る」
「おれはお前から興味をなくし、ここから立ち去る」
立ち上がり、暗示のとおりに車両を移っていく背を見送って、彼はため息をついた。
しばらく砂漠で暮らしているせいか、ふいに視界に入った指先は自己認識よりもずいぶん乾いており、皺が深くなっていた。
そういえば近頃は髪や髭にも白いものが混じりはじめてきたのだ。彼は自分の顎を撫でながら、自分の老いに想いを馳せた。
そして思考に対してもその影響が出始めてはいるのかもしれないと思い当たり――もう一度ため息をついた。
この日の彼には迂闊さを悔いる出来事しか起きていなかった。
タトゥイーンはまだ遠い。この先何度かの補給停車を予定されているこの磯臭い列車の終着地から、うまく高速艇を借りられたとしてもまだ世界の果てのように遠い目的地だった。
しかしすべて彼自身の準備不足のせいだ。向かう先がクレジット通貨の通用する土地ではないことを失念していたなどあまりにもお粗末な顛末ではないか。それこそアウター・リムの惑星で暮らしているのだ。まずもって頭にあるべきことだったのに、どうやら久しぶりの遠出で頭がろくに回っていなかったらしい。
結局帰路を得るのには手持ちの貴金属では支払いにまるで足りず、換金のためにはこうして別の手段で大きな街に出るより他に選択肢がなかった。もはや明かすつもりのない身分といえど、いくら困窮したからと言ってライトセーバーを溶かし、クリスタルを売り払うわけにもいかない。
これで終着地で換金所がまともに機能していなければ、マインド・トリックでいっそ直接船を借りるか、誰かに換金させるしかないだろう。さすがにトリックでハイパージャンプが可能な船を借りたことはないのでうまくいくかはわからないが――。
いずれにせよ、到着してみなければわからない課題が彼の気持ちを沈ませていた。
だが幸いにも列車は雑談や噂話の宝庫だ。もちろん、帝国軍の締め付けが日増しに強まる暗い時代に明るい話題は少ないにしても、気を紛らわせるには十分なほど賑やかだった。
どこぞの末娘が結婚しただとか、有名店の味を継いだ店がどこかにできるらしいだとか、そんな他愛のないささやかな話から、帝国軍の悪口混じりの噂まで。真偽の不確かな噂話にいたっては、いくらでも出てくるようだったし、話をするのはなにも人類だけでなく、主人と一緒に乗り合わせたドロイドたちまで囀るものだからなんとも賑やかなものだ。
だが、どこの検問が厳しいだの、入隊窓口が故郷の惑星にもできただの――それらの日常の延長にある噂話とは一線を画して、銀河帝国軍の黒い装甲服の男の話ともなれば、なぜかみんなとっておきの秘密を打ち明けるように少しだけ声を潜め、驚愕と期待の入り混じった囁き声になる。そして気がかりな描写が端々に飛び出す怪談になりがちだった。
誰もが又聞きに違いない噂はどれも、まるで人間味に欠けるものだ。それこそが船の壁面にとりついて平然と歩いてみせただの、飛行中の船にとりついて無理やりハッチを剥がすように乗船しただの、手をかざすだけで船の内装を凹ませたなんてのはまだかわいいほうだ。姿を現すだけで周囲の者を震え上がらせるその男は、赤白く輝く万能の剣をもっていて、その刃が空気を揺るがす音を聞いた者は助からないのだなんて話まで出ているのだ。人を持ち上げるようなジェスチャーで士官の首をへし折って見せた――なんて物騒なものも少なくない。決して素顔を見せない装甲服の男は言葉数も少なく、ともすれば不気味な呼吸音が静寂を満たすとも言われている。
そうした眉唾ものだと言われる話は概ね事実なのだろうと彼は思っている。聞けば聞くほどそれはフォースの力を借りた振る舞いだ。かつてのように銀河中にジェダイ騎士がいた時代なら、彼らが同じように飛び回り、万能の剣をもち、触れもせずに物を操ると気づく者もいたかもしれない。だが共和国が死に、ジェダイが粛清されたのは一昔前のことだ。このまま忘れ去られていくだろう。
彼は、まだその姿をホログラムの投影でしか見ていなかった。
だがあの装甲服があの日ムスタファーで殺しそびれた命を繋ぎ止め、多くの虐殺に関与させたことを思えば、何かが自分の胸の内にこみあがってくる事を自覚していた。なにしろ皆が男の噂に声を潜める以前からその名は彼の頭に焼き付いていた。焦げたプラズマとタンパク質の燃える匂いを伴う記憶。男が犯した罪は、名前と共にいつも彼を苛むものだった。
過去に囚われてはならないとわかっていても、こればかりはどうにもならなかった。
それは、たびたび一瞬にして薪を入れた火のように膨れ上がる。膨れ上がるそれが一番近いのは怒りで、次が悲しみだった。それも今の自分が立っていたのかさえわからなくなるほど強い。時が風化させてくれることなどなく、その暗い感情を自覚するたび、彼はただそれを手放してきた。何度も何度も手放せた。だから今もいつもと同じように手放した――その瞬間。
無自覚にシャットアウトしていた周囲の音がいきなり飛び込んできて、彼は思わず体を揺らすことになった。まるで深い眠りからいきなり目覚めるときのように。
「ようはマッチングの仕組みなんだけど。どこかの誰かと手紙を交換してくれるってやつ――気に食わなかったらパスできるし、知らない誰かと仲良くなれたりもするし、色んな人の投稿みるのも結構楽しくて。で、反応あるかなってついつい通知欄を見る癖がついちゃうの」
耳に入ってきた会話の主は少女だった。
ちらりと視線をむけてみると、いかにも出稼ぎでそれぞれの田舎から出てきていることがわかるような背格好の少女が二人、膝を突き合わせるようにして喋っている――匿名の電子通信で「手紙」を送り合うための《文通》サービスのことらしい。
***
結局彼はたちまち画面の向こうの誰かと意気投合した。
名前はもちろん、性別も種族もわからないまま、自己紹介らしいものもないまま話は弾み、二人はさまざまなことを話した。
苦手なものをどう乗り越えるか? 人と意見が違った場合にどうするか? 秘密を守るのは得意か? そんな真面目な話もすれば、あとになれば思いだすこともできないようなくだらない話だってした。いくらでも話題は尽きないように思えた。
――なるほど。わかってきました。伺うにあなたはパワフルに振る舞うために瞑想をなさっているようだ。さぞ気苦労の多い日々とお見受けします。
――お気遣いをどうも。とくに今は上司との信頼関係の修復に取り組んでいるところなのです。
――それは大変な仕事です。ですがやり遂げる必要がある。
――ええ。おっしゃる通りです。ただ、このような話を人に話すことなどないと思っていたので自分でも驚いています。
――私もなかなかありません。こんな風に気を許すのは久しぶりのことです。
――わたしこそ。あなたと話していると狭い人間関係のなかで自分が自家中毒になりかけていたのがわかるようです。
***
「海と陸じゃ生きてる以外は全部違います」
「ああもう、わかったよ、交換してやろう。だがたぶん、それはお前へのサービスだぞ。給仕の娘がお前を熱心に見ている。私の皿に入れなかったのはたぶんそれは特別なオプションだからだ」
指摘に瞬いた青年はダイレクトメールじみた言い回しをした。
「特別なあなただけに送る特別なご案内?」
「まあ、多分だが」
「それなら余計に交換を。意思表示をする必要があります」
「ふうん? 返品せずに連れと皿を交換することの意味は?」
交換の手が伸びてきたので匙を抜き取ってやると、青年は皿を入れ替えながらそんなのは常識だとでも言いたげに答えた。
「僕はあなたが好きってこと」
「何?」
「ノーってことは伝わるでしょう。だって貢ぎ物ですよ」
「貢ぎ物か?」
「好意のプレゼントならね」
「むむ」
訝しむ彼に青年は神妙な顔で返し、それから給仕の娘のほうをちらりと伺った。
「ほらね。ちゃんと伝わった」
釣られるようにそちらに目を向けると、娘は傷ついた顔をしていたし、信じられないと言いたげに彼に無言の視線を向けた――というか、半ば睨まれていた。
「なにか誤解を受けている気がするのだが」
***
といったかんじで回想をしたりしながら現実に戻って《文通》で二人がモメる話です
オビほんとそういうとこやぞ!と、アナキンおまえはかわいいですね…ていう話として書きました
内容的に暗くはないんですが、後味はいつものかんじです
ご縁があったらよろしくね