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思い出し笑い。

全体公開 10 1925文字
2022-02-12 14:48:46

リク

Posted by @uk_plus_



 キリキリと音をたてながら、伸ばしたメジャーから帯が出てくる。そして私は少々震える手でそれを構えて、目の前に立つ巨躯のクラスメイトに対峙していた。

 「あの、失礼します」
「よろしく頼む」

 クラスで一番大きな越知くんの採寸をすることになった私は緊張していた。
 事の発端は文化祭で行う出し物の衣装決めの時だった。
 私のクラスは教室内で喫茶店を開くことになったのだが、給仕の際の服装をこだわろうということで一から作ることになったのだ。その為には給仕する人数分の採寸が必要で

 「え!?私が越知くんの採寸を!?」
「だって時間が合うのあんた一人だけだったんよ~」

デザインを担当したクラスの友達がへらへらとそう言いながら、まあ頑張ってと私の肩を叩いたのは先ほどの話だった。
 そこから私は越知くんに事情を話して放課後に採寸をさせてもらうことになったのだ。しかし私が緊張する理由は他にもあった。それは放課後あまり時間を取れない彼に配慮して“越知くんの部活動の部室で”採寸をしなくてはならないことだ。あの寡黙で有名な彼と“二人きりの密室”で。

 私の目の前にいる彼はジャージ姿で直立して私を見下ろしている。

「ま、まずはウエスト、採らせてもらうね」
「ああ」

醸し出しているつもりはないのかもしれないがほんのり感じる圧に圧倒されながらも、おずおずと彼に近づいてえいと腕を彼の腰に回した。するりと回した腕がジャージに擦れて衣擦れの音をたてる。後ろに回した手でメジャーの帯を取り、回したそれをへそと思われる位置にぎゅっと絞った。

お、おっきいな。

初めと終わりの位置で帯を回して私はなんとなく狼狽した。痩身と思っていた彼の体は意外と筋肉質で、メジャー越しに伝わる肉体ががっちりとしていたからだ。緊張にいらぬドキドキまで加わって、私は目盛りを確認してすぐに帯を彼の腰から離した。

 そうして順調に腕、足とサイズを採って、いよいよ最後の場所になった。

「じゃあ肩幅で最後だから」
「わかった」

そして私は肩幅を採る為にぐっと腕を目一杯伸ばしてメジャーの帯を横に持った。しかしもちろん彼に対する私の身長が足りるはずもなく、爪先で立っても彼の胸部に届くか届かないかのところまでしかいかない。

「すまないが
「え!?え何!?」

すると今まで静かに採寸されていた越知くんが少々申し訳なさそうに口を開いて、私は驚いて声を上げてしまった。

「必要なら座るか?」
「えっあっ、そ、そうだね!そうしてください

なんでそんなことに気付かなかったの

あんまりにも緊張していたのだろうか。全く思いつかなかった彼からの提案に、私は顔から火が出そうなほど恥ずかしくなってしまった。部室にあったパイプ椅子に越知くんは座りながら、ふと私の顔を見て言った。

「意外とそそっかしいんだな」
「ごめんなさい
「責めてはいない」

そう聞こえたならすまないと更に続けた越知くんの言葉にまた熱くなってしまった私の顔は、きっともう真っ赤だろう。

 「はい、これでおっけー。越知くん、協力ありがとう」
「こちらこそ面倒をかけたな」

全ての採寸を終えて数字をメモした紙を見直しながら彼に声をかけた。当の越知くんは立ち上がりながら返事をする。その声は一寸も感情の揺らぎはないが、採寸を始めた頃よりも穏やかに響いた。

「じゃあ頑張って衣装作りするね!」
楽しみにしていよう」

そんな心強い言葉に私が笑うと、越知くんも少しだけ笑ったような気がした。


――――――――――――――――――――――――――――――


 「……

後輩たちの練習の様子を眺めながら、越知はぼんやりとしていた。先ほど部室で行われた採寸の時からだった。何故なら

「部長!次の練習メニューについてなんですが部長?」
ああ、すまない。なんだろうか」
「どうかしたんですか?部長。その、なんか
「なんだ」
「その少し笑ってたんで、どうしたのかなって」
そんなことは、ない」
「ええー?本当ですかー?」

何故なら“採寸を頑張るクラスメイトの姿”が何度も繰り返し過っていたからだ。

思いの外、面白かったな。

後輩の見えないところで越知は今一度口元を緩め、内心くすりと笑うのだった。


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