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罪の味

全体公開 5 1996文字
2022-02-14 20:50:32

バロ龍バレンタインSS

Posted by @saeki_f

 二月十四日の夜。仕事を終えたバンジークスが家に戻ると、ちょうどエレベーターを待っている龍ノ介と合流した。
「あ、おかえりなさい。思ったより早かったですね」
「君こそ、今日は私より遅くなりそうだと言っていなかったか?」
「頑張って終わらせてきました。というか、明日にならないとどうにもならないことが多くて……
 憂鬱そうに肩を落としていた龍ノ介も、二人の部屋に入ると元気を取り戻した。仕事の悩みは尽きないが、ここからはプライベートの時間だ。

 コートを脱いで部屋着に着替えると、龍ノ介がテーブルに紙袋を置いた。
「これは寿沙都さんから検事へ。今年もおいしそうですよ」
 中を覗くと四角い包みと小さな手紙が入っている。中身はブラウニーのようだ。手紙を開くと、寿沙都からの感謝の念が丁寧な文字で綴られていた。毎年のことだが、彼女はいつまでも龍ノ介の保護者のようで微笑ましい。
「大事に頂くとしよう。明日にでも礼を伝えてもらえるだろうか」
「ええ、そうします」
 そう言いながら、龍ノ介は帰り道で買ってきたものをキッチンに広げた。板チョコと生クリーム、マシュマロ、コーンフレーク。夕食を作る前に、今年のチョコレート作りが始まる。
 龍ノ介もバンジークスも料理が特別に得意というわけではないが、イベントの時は調理も含めて楽しむことにしているのだ。ただ今年は仕事のタイミングが悪く、ケーキを焼くような時間が取れそうにないと事前に分かっていたので、手間の少ないレシピが選ばれた。
 湯煎の湯を沸かす間に二人がかりで板チョコを砕く。ボウルに入れて溶かす間にもう一人がまな板を洗う。実に連携の取れた動きだ。
「溶けたら生クリームを加えて、マシュマロとコーンフレークを入れて混ぜるだけです」
「簡単すぎるほどだな」
「深夜になるかもしれないと思っていたので……
 二人ともどうにか予定より早く帰ってきたが、普段と比べるとニ時間近く遅い。チョコレートを食べるには些か罪悪感のある時間帯に差し掛かっている。
 材料を全て混ぜて、スプーンで掬ってクッキングシートを敷いた皿に落としていく。これを冷蔵庫で冷やし固めれば完成だ。
 洗い物も少なく済み、今年のお菓子作りは非常にコンパクトに収まったのだった。

 夕食後の片付けを終えてから二人分の紅茶を用意し、冷蔵庫からちょうど食べ頃になったチョコレートを取り出した。非常に手軽で見た目も手作り感が溢れているが、実においしそうに出来ている。
「しかし、君達のチョコレートに対する熱意には毎年驚かされる」
「はは……会場に行くとつい熱くなってしまって」
「年に一度の楽しみだろうが、ほどほどにな」
 誤魔化すような笑いを浮かべる龍ノ介の背後には、デパートの催事で買ってきた高級チョコレートの山があった。先日、仕事が休みのタイミングに合わせて寿沙都と行ってきたものだ。初回こそ寿沙都の付き合いだったが、そこで買ったチョコレートの味に感動してからというもの毎年欠かさず参加している。バンジークスも少しばかりその恩恵を受けていた。
「あれも美味かったが、今日はこちらだな」
「寿沙都さんに教えてもらいましたから、味は保証しますよ」
 そもそも混ぜて固めただけなので味は想像しやすい。期待しながら二人で最初の一つを口に入れた。コーティングのチョコレートは生クリームによって固くなりすぎず、マシュマロとコーンフレークの食感を邪魔しない。感覚としてはチョコクランチに近く、しかし手作りならではのバランスが味わい深かった。
「美味い」
「ですね。こんなに簡単ならまた作りましょう」
 一口サイズのチョコレートは気軽につまめて、あっという間に減っていく。龍ノ介は残り二つになった皿の上を見て名残惜しそうに呟いた。
……あと半分、冷蔵庫に入っているんですよね」
「それくらいで止めておけ。太るぞ」
「うっ」
 ただでさえ龍ノ介は、少しずつとはいえデパートで買ってきた分を毎日食べている。しかもここ最近は帰りも遅く、そろそろ摂取カロリーを気にしなければならない。
「で、でも一晩置くと食感が損なわれると言っていましたよ!」
「駄目だ。いま何時だと思っているのだ。楽しみは明日に取っておけ」
「ぐっ……分かりました……
 自覚があるからこそ従うしかなかった。悲しみを堪え、龍ノ介の最後の一つを噛みしめるように味わう。また明日も楽しめると思えばいいのだ。それに先ほど龍ノ介が言ったように、また何度でも作ればいい。材料ならば簡単に揃えられる。
 龍ノ介の考えは全て顔に出ていた。それを見たバンジークスは苦笑するしかない。まったく食い意地の張ったパートナーである。
……私の最後の一つくらいは譲ってもいい」
 バンジークスが吐いた溜息は、そんなパートナーに甘すぎる自分に対するものだった。


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