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越知月光は見ているだけではなくなった2

全体公開 10 2279文字
2022-02-17 21:30:27

続編

Posted by @uk_plus_



 とうとうこの日が来たと、越知は内心焦っていた。いや、焦りというよりも緊張していたのだろう。何度も部屋の中をうろうろしてはおかしなところがないか確認して約束の時間が来るのを待った。

 そしていよいよ彼女を最寄り駅へ迎えに行く時間になり、待ち合わせしていた場所にいた彼女と二三言やり取りをして二人は歩き出した。
 越知宅までの道中、いつもとは違う装いの彼女に越知はどぎまぎとしていた。女子とはたったひとつのことでこんなに雰囲気が変わるものなのかと驚きもした。そして越知はいつも以上に口数が少なくなってしまう。

 「越知くん」
「なんだ?」

すると隣を歩いている彼女が眉を下げて声をかけてきた。ふと見下ろして越知が問うと、彼女は苦笑いしながら首を振る。

「今日は誘ってくれてありがとうね」
「礼を言われることでは

そんな彼女の言葉に、友人からの助言もとい脅しがあってようやく誘えたなどとは口が裂けても言えないと越知は思った。

「ううん、一緒に勉強しようって話してたこと、覚えててくれて嬉しいよ」

そう笑いかけてくれた彼女を見下ろして、越知は内心で小柄な友人に感謝をした。


―――――――――――――――――――――――――――――


 「ここからここまで、見直してけばいいかな」
「そこらで問題ないだろう」

ありがとうと返事をしてから開いている目の前の英語の参考書とノートに視線を落として、だけどちらりと斜め右にいる彼を私は盗み見た。いつも教室で見ている距離感とは少し違った空気に一寸私は息を呑む。何故ならここは越知くんの部屋で、今私は彼と、つまりは“おうちデート”という名の受験勉強をしているのだ。初めて見た彼の私服姿も一層緊張に拍車をかける。

 事の発端は数日前。越知くんから連絡が来たかと思えば、何やら焦った様子の彼本人が目の前に来て「今度の休み、時間をくれ」と言い出したのだ。それは前に話した一緒に受験勉強をしようという話題についてで、つまりデートのお誘いだった。
 急な誘いに驚きはしたものの正直にもちろん嬉しかった。なんとなくした話題について彼が覚えていてそれを確約にしてくれたことも、とても嬉しかった。

 「あ」
「どうした」
「ううん、ここ、この単語ってなんだっけ」
「これは

あまり集中できない頭で英文と睨み合っていると、うっかり理解の浅い単語とぶつかった。思わず上げた声に反応してくれた越知くんがすらすらと説明してくれる。そんなことを二回ほど繰り返していると彼がペンを置く音がした。

「今日は、急な誘いになってすまなかったな」
「え?全然そんなことないよ、それに
「それに?」
「こうして越知くんと一緒にいれて嬉しいなーって

そこまで言って自分の口走ったことにびっくりする。しかしそれ以上に越知くんがびっくりしていたらしい。前髪で隠れた表情は固まっている。

「お、越知くん?」
「あ、ああ」

遠慮がちに声をかけると我に返ったように越知くんが声を出した。

「俺も、その、嬉しく思う」

そして少し小さな声で返された言葉に、私は急に熱くなった顔を俯かせることしかできなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――




 「少し休憩するか」
「うん、そうしよっか」

そこそこ勉強が捗ったところで越知くんが声をかけてくれた。それを聞いて私も小さく伸びをする。

「待っていてくれ、茶を入れ直してこよう」
「あ、何かお手伝いすることぁ痛!」

思わず立ち上がると右足にびりりと痺れが走って、その痛みは一直線に爪先まできて私は思わず屈み込んでしまった。

「大丈夫か?」
「平気平気、ちょっと足が痺れたみたい

だから大丈夫だよ、と続けたかった言葉は急に顔を上げてしまったことで引っ込んだ。何故なら上げた顔のすぐ目の前に、越知くんの前髪と口元があったからだ。前髪の間から見える瞳とかち合った視線が逸らせない。対する越知くんもそうなのか前髪越しの目は見開かれている。きっと屈み込んだ私を心配して寄ってくれたのだろうことは想像できた。だけどその距離はあまりにも近くて

えっと、その、越知くん」
……すまない、行ってくる」

うんと返事するより先に越知くんが立ち上がって部屋を出て行った。

……なんだろう今の、今のは!

彼がいなくなった部屋で未だ痺れる足と共にじたばたした私は今日一番熱い顔を両手で覆った。




―――――――――――――――――――――――――――――


近かった」

ばたりと茶を取った後の冷蔵庫の扉を閉めながら越知はひとり呟いた。そして受け止めたその事実に熱くなった頬をひとつぴしゃりと己で叩く。
 彼女が家に来てから一時間弱。まだあと数時間は彼女と部屋で二人きりで過ごすだろう。だのにこんな調子では心臓は持つのだろうかと越知はため息を吐いた。

 その時、ポケットに入れていたスマホがぶるりと震えたのを越知は感じた。そっと取って見てみると、余計な世話を焼きがちな友人たちから数件メッセージが入っていた。それをつらりと見て、越知は更にため息を吐くのだった。





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