@tachik_k
「あ!!」
隣で眠っていたはずの薫が大声を上げて飛び起きたのは、まだ太陽が昇りきっていない早朝のことだった。
「な、なんでござるか!?」
正月と言うこともあり、珍しく日の出の時刻まで薫を抱きしめて布団の中でまどろんでいた剣心も、何事かと声をあげて飛び起きる。……まぁ、起きる拍子に突き飛ばされては、起きないわけにもいくまい。
「か、薫殿!?」
慌てて身体を起こすと、薫が縁側の雨戸を開け放ったところだった。
とたん差し込んでくる朝の光。薄暗かった室内がさっと明るくなる。
「……っ」
立ち並ぶ家々の屋根の間から今にも顔を出そうとしている朝日のまぶしさに、剣心は目を細めた。
……そうだった。今日は一年の始まりの日。これは、その最初の光。
「初日の出でござるな」
「うんっ」
振り向いた薫が、朝日に負けないまぶしさで笑う。
「やっぱり初日の出って特別な感じするじゃない。今年もいいことたくさんありそうな気がするもの」
祈るように手を組み、静かに目を閉じる薫。
朝日に照らされたその横顔に胸が疼く。
……それはこの世の何よりも神聖なものに見えた。
「薫殿」
何を願っているのか――一心に祈る薫の肩に、剣心はそっと半纏をかけた。
「あまり薄着だと風邪をひくでござるよ」
慌てて布団から飛び出した薫は寝間着のままだ。急いでいたのは仕方がないが、今は真冬。しかも早朝とあっては、さすがにこのままでは冷え切ってしまう。
「ありがと、剣心」
照れくさそうに笑って、薫は隣に並んだ剣心の肩にこてんと頭をもたせかけた。その華奢な肩をそっと抱き寄せながら、薫に倣って徐々に姿を現していく朝日を見やる。
――新しい年の朝を照らしていく、始まりの光。
「剣心」と、少しはにかんだ声に呼ばれて、彼は軽く首を傾げた。
「なんでござろう」
ほんのりと染まった薫の頬が嬉しそうに緩む。
「今年もよろしくね」
「……」
胸に光が満ちる。
今まさに昇ろうとしている朝日が、心の中にまで差し込んでくるかのように。
愛しさに目を細め、頷く。
「……ああ。今年もよろしくでござる」
――『今年も』。
その言葉を願うことのできる幸福に、剣心は幸せそうに微笑んだ。
剣薫top