アズ誕企画に投稿したものです。
ユニオンバースデーのアズのスカジャン姿とポージングを見て、他の人に見せないでと拗ねるフロの話です。
あのアズのポージングを思い出しながらお読みください~!
※過去について捏造があります。その後に解禁された情報によっては齟齬が生じる可能性があります。
@matayu0621

オレ以外に見せないでっ!
「ふんふん~」
語尾に「♪」がつきそうなくらい、アズールは上機嫌に鼻歌を歌いながら、全身鏡に映った自分を見る。アズールがこんなにもあからさまに機嫌が良いのは理由があった。なぜなら本日はアズールの誕生日だからだ。
二月二十四日。アズールの誕生日。この日は、いつもは一日の摂取カロリーを超えないために我慢している、好物の唐揚げも好きなだけ食べていいと決めている。あぁ、唐揚げ。ただ鶏肉を油で揚げていると思うことなかれ、鶏肉の品質、油の温度、油から揚げるタイミング……美味しい唐揚げには様々な極意がある。外側の皮のパリパリ感も、鶏肉を噛む瞬間の弾力のある歯ごたえも、肉汁と油がじゅわ……と舌の上で広がる旨味も、すべてがアズールを虜にした。だがカロリーだけでなく健康のためにも、日ごろ油物は食べないようにしているが、誕生日だけはそれを解禁しているのだ。
それに、誕生日には毎年リーチきょうだいがサプライズをしてくるのだ。いつだったか、巨大なびっくり箱から飛び出てきたこともあれば、得体の知れない何かを持って追いかけてきたこともあった。初めの頃は驚いて逃げ惑い、「こいつら嫌がらせか」と憎々しく思っていたが、しかし必ず最後にはアズールが心から喜ぶプレゼントを用意してくれていた。そしてそれは昨年までずっと変わっていない。「初めからそれを渡してくれればいいものを」と思わないでもないが、普通を嫌う彼ららしいといえば彼ららしい。今ではどんなふうに驚かしてくるのかも楽しみにしていた。
今年はどんなものをくれますかねぇ。
くすりと笑い、アズールは再び鏡の中の自分を見る。ナイトレイブンカレッジでは、誕生日直前になると当日用の学生服が学園側で用意されるため、アズールもいつもの制服ではなかった。誕生日ぐらいは素直に皆に祝われるべきもの、という学園の理念のもと(まぁ学園長のことだ、「誕生日ぐらい、この服を汚すような騒動を起こさず大人しくしてろ」という無言の意味が込められているのかもしれないが)、毎年違うデザインのそれは、今回はスカジャンだった。きちんとした格好を用意されることが多いので、ラフなものは珍しい。だが黒のワイシャツに黒のズボン、その上に黒と紫が入ったスカジャンを羽織る、という着方のもので、スカジャンといってもかなりシックな雰囲気となっていた。
悪くないデザインじゃないですか。
アズールは満足げな笑みを浮かべる。陸に来る前に一通りファッションの勉強はしたが、基本的にアズールはシンプルでかっちりした服装が好きなので、スカジャンはほとんど着たことがなかった。そのため似合うか少し心配だったが、このデザインなら着こなせそうだ。
鏡の前で入念に様々なポーズをとってみる。これからインタビューの予定だが、その前に写真撮影があるので映りを確認したかったためだ。
この身体の向きがいいかな。いや、こうか。顎を少し上げて、眼鏡のつるを指先で持つ感じにしたほうが知的さが出るか? なら右手はこうだな。真っ直ぐ立つよりも少し斜め立ったほうが格好良く見えるのでは。なら、腰の角度はこうして……ふむ。左腕は胸の前に持ってきて、胸を遮るようにしたほうが腰が高く見えますかね。よしよし、いい感じでは?
アズールが「よし」と気合を入れていると、
「アズールぅ、用意でき……」
と、カチャ、と何の前触れもなく部屋のドアが開いた。そこから、朝の気怠げな雰囲気を漂わせたまま、フロイドがのっそりと入ってくる。
だがアズールの姿を目に入れるなり、何故かぴしっと固まった。
「おや、フロイド。まだ約束の時間よりも早い……どうしました?」
アズールは振り返り、首を傾げる。ちらりと時計を見たが、約束の時間まであと十分程あった。それにジェイドもいない。朝、鏡舎まで三人で連れ立って向かうのはもう暗黙の了解となっており、二人がアズールを呼びに来るのが恒例となっているが、ジェイドを待つのに飽きてフロイドだけが先に来たのだろうか。だが何故かフロイドはアズールを見て固まったままだ。
しばらくフロイドは呆然とした様子だったが、ふいに、ふる、と唇が震えた。
「……」
ぼそっと何か口にする。だがよく聞き取れない。
「……なんです?」
と、アズールが聞き返すと、フロイドが勢いよくキッと睨んできた。
「……あ、」
「あ?」
「アズールのえっち——っ!」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。凄い言いがかりだ。
「なんです、急に!」
驚きつつもむっとする。大体何だ「えっち」って!
アズールが訳が分からずにいると、フロイドが逆にくわっと言い返してきた。
「だって、何そのポーズ!」
こうしちゃってさ、とフロイドが先程までアズールが鏡の前でとっていたポーズを完璧に真似する。あの一瞬で覚えるとは、さすがフロイドだ。指先の細かい位置まで完璧である。アズールは感心しながらも、首をひねった。
「何かおかしい所でも? シックな服装に合った、大人っぽい立ち姿だったでしょう?」
「ハァ〜〜〜??」
今度はフロイドが素っ頓狂な声を出す番だった。どこか怒っているように見えるのは気のせいだろうか。アズールは怪訝な顔を浮かべた。
「なんです、おかしかったならそう言えばいいでしょう」
「いや違……そうじゃなくてあ〜〜〜」
「あ〜もう〜」とフロイドが何やら頭を抱えている。なんなんだ、本当に。いつもならはっきり言うくせに、妙に歯切れが悪い。
「……あのさぁ」
「はい」
フロイドがひとしきり呻いた後、ちろりとアズールを見る。アズールは素直に返事をした。
「さっきのポーズ、『かっこいい』と思ってやった?」
「? はい」
「~~~ハァ~~~……」
アズールが答えると、フロイドが頭を抱えてその場にずるずると座り込んだ。「これだからアズールは……」と何やらごにょごにょ言っている。バカにしている雰囲気でもないが、なんだか困っているような、言い淀んでいるような、そんな雰囲気を感じる。
アズールはフロイドがその状態になっている理由にとんと見当がつかなかったので、黙って様子を見守る。すると、しばらくしてフロイドがすくっと立ち上がった。そのまま真顔でずいっと寄ってくる。
――いや顔が近いな!?
「いや、本当にお前なんなんだ……」
身長百九十一センチに上から、しかも間近で顔を覗き込まれている。それぐらいならもう怯える間柄でもないが、しかし威圧感といえばいいのか、フロイドから凄みのあるオーラがびしびしと放たれている。雰囲気に圧されてアズールが思わずたじろぐと、フロイドがゆっくりと口を開いた。
「アズール」
「はい」
「さっきのポーズ、オレ以外に見せないでね」
「は?」
なんて?
アズールが目をパチクリさせていると、フロイドが焦れたように「……だからぁっ!」と声を上げた。
「さっきのポーズがぁ!」
可愛くて、えっちくて、他の奴が惚れたらヤだから、
オレ以外に見せないでって言ってんの!
「……は?」
アズールはぽかんとする。
その言葉、まるで……。
喚くようにして先程の言葉をぶつけてきたフロイドといえば、今まで見たこともないほど顔を真っ赤にして、なんなら耳まで真っ赤にしていた。よく見れば、握り締めた手がぷるぷると震えている。
悔しそうに唇を噛み締め、しかも涙目となっているので、伝えるのは不本意だったのだろう。
だがじっとアズールを見つめるその瞳の強さが、先程の言葉が心からのものであることをはっきりと示しているのだった。
2022.2.27. Take the Floors 2nd Step
アズ誕企画 『オレ以外に見せないでっ!』