@_rookwebonly
*注意*
※受けの年齢操作あり
※少しですがモブが出ています
君に夢中
この学園では殴り合いの喧嘩は勿論、教室が爆発したり、突然男子生徒がアイドルになったり、と普通では考えられない事が当たり前のように起こる。
そのため、難易度の高い魔法薬が偶然出来上がり、喜びのあまり提出用の瓶を持ったまま盛大に転び、他人にぶっかけてしまう事も至って稀な出来事ではない。そう、それが反射神経抜群のルーク・ハントにかかろうとも、この学園の様々な出来事から思えば些細なことなのだ。
しかし、彼の恋人からすれば大問題であることは間違いない。
その知らせが入ったのは四限目が終わった昼休憩だった。
学食の日替わりAランチを無事ゲットできたトレイ・クローバーは同寮であるリドルやケイトの座る席へと向かった。その際、入口がザワついていたが、誰かがコロッケパンの取り合いでもしているんだろうと我関せずでいた。
そのため、トレイは背後から早歩きで向かってくる足音に気づけないでいたのだ。
「あ、」
トレイの前に座るリドルとケイトが同時に声を上げた。二人の視線はトレイの背後に集まる。
一体なんだ、と振り返ると周りのざわめきの原因がそこにあったのだ。
「げっ……」
「クローバー。貴様にしばらくの間、仔犬を預ける」
それはトレイが所属するサイエンス部の顧問である、クルーウェルだった。
クルーウェルからの頼み事は多々あった。
あの薬草を取ってこいだとか、俺の代わりに学会資料を用意しておけだとか。無茶な事も多くあるが、それでも成し遂げるのがトレイだった。
そのため、こうして急に依頼される事が多い。だが今回ばかりはトレイも目を見開いた。
クルーウェルはまるで仔犬でも抱えるように、小さな子どもを抱っこしていた。年齢は四歳ほど、だろうか。
綺麗に揃った前髪と肩上のボブカット。艶のある髪はさらりと靡き、天使の輪が浮かんでいる。睫毛は髪と同じカナリヤイエローで大な目を縁どっている。エメラルドの瞳には驚愕して口をパクパクとさせるトレイが映っていた。
そう、その子どもはどこからどう見てもルーク・ハントなのだ。
「なっ、なっ、なっ……!」
「えー、可愛いっ!ルーク君だよね!」
「ハント先輩、退行薬でも被ってしまったんですか?」
トレイの心境なんてそっちのけ。ケイトもリドルも好き勝手にクルーウェルに言った。
「ご名答。おっちょこちょいのマシューとハントのペアにしていたんだが、退行薬は完璧な……いや、完璧すぎる出来で仕上がった。だがマシューが提出用のものをハントにぶちまけて、このザマだ……」
クルーウェルは眉間にシワを寄せながら説明した。
「ハントもハントだ。こいつだったら絶対避けられるだろうが」
クルーウェルに抱かれているルークは大人しくちょこんとしていたが、クルーウェルが険しい顔をしたために眉を下げ、今にも泣きそうな顔をする。
「ひっ……」
「あ!コラ、泣くな!今のお前を叱っている訳じゃない!」
ほら、と慌ててトレイの膝へ、向き合うように座らせられたルーク。うるうると大きな瞳に溜まった涙を堪える姿は健気にも見える。
「あの、もしかしなくても記憶まで?」
「言っただろう。完璧、な退行薬だと」
トレイは頭が痛くなるばかりで、言葉が出てこない。
「完璧って言っても解除薬でちょちょいじゃない?ていうかこの服絶対先生の趣味だよね!かわいー!」
「クルーウェル先生、生徒が小さくなったら基本この服着せますよね……」
ケイトはスマホでトレイの膝に座るルークを色んな方向から撮った。
リドルも半ば呆れながら昼食のサラダを再び食べ始める。
ルークはダルメシアン柄のフード付きパーカーを着、ショートパンツに膝下の靴下。ついでにフードには犬耳、ショートパンツには尻尾が付いているという徹底ぶりだ。
この人、実は子供好きなんじゃないか、と思うほどに可愛らしいダルメシアンセットなのだ。しかし、本人が言うには犬が好きなだけであって子どもは苦手らしい。
そのため、トレイにルークを預けに来たのだ。
「あぁ、完璧と言ったが一つだけ欠陥がある」
「え、なんですか」
「ニワヤナギを磨り入れる工程があるだろう。ハニーウォーターに三分程浸し、七十五度まで下げた鍋に入れる。この工程を省くとどうなる?ダイヤモンド」
急に当てられたケイトは、えっ!?と戸惑った。
サイエンス部のトレイからすればそんな問い直ぐに答えられる。だからこそ自分の所へルークを連れてきたのにも合致がつく。
「えっ、そんな急に言われもぉ……」
リドル君助けてぇ、とケイトは隣のリドルに泣きついた。
「ニワヤナギは解除の際に必要ですよね。ハニーウォーターで浸すことによって薬の持続時間も左右される。つまり、ハニーウォーターを省けばその薬の効果は永続的に続き、ニワヤナギすら省けば解除薬すら効果は……」
「Good boy ローズハート、正解だ。だからあとはクローバーに託すぞ。俺様も暇じゃないのでね」
じゃあな、とクルーウェルが小さいルークの頭を撫でると、ルークはバイバイ!とその小さな手を振った。
「えっ、えっ!?どういう事!?解除薬効かないんでしょ!?効果も薄れないってヤバいんじゃないの!?」
慌てるケイトとは引き換え、リドルは、いや……と人差し指の背を下唇に添えながら言った。
「全ての解除薬が効かない訳でもないよ。これは古い解除方法にはなるのだけど……だいぶ条件が限られているんだよ。何故トレイの元へハント先輩を連れてきたんだろう」
そう、リドルが言うように解除方法は一つだけある。それは呪いを解く魔法。
愛しい人からの口付けだ。
「古い解除方法ってアレ?プリンセスあるある、大切な人からのキス?」
恋愛事情に疎いリドルは知らないと思うが、情報通のケイトやサイエンス部では俺とルークが付き合っていることは承知の上。
そのためケイトは、なるほどね~とニヤニヤとしながら俺とルークを見るのだ。
トレイは重いため息を吐いた。それもそのはず。性転換薬や、人魚や獣人になる変身薬とはまた違う。
退行薬という事は今のルークは俺の事を全く知らない。
つまり、今のルークが俺を好きにならない限り、その解除方法は効力を示さないのだ。
よくわかっていない小さなルークは、通りかかったエースから棒付きキャンディ受けとっていた。
可愛い声で、めるしぃ!と満面の笑みを向ける。
透明な包装が取れないようで葛藤していたため、トレイはビニールを取りルークに渡す。その自然なやりとりは流石長男、とでも言うべきな程にスムーズだった。
キャンディはルークの小さな口には全て入らないようで、ぐちゅぐちゅと部分的に口に咥えたり、小さな赤い舌でぺろぺろと舐めあげた。
「せ ぼん!」
ご満悦なルークにトレイ以外はみんなその可愛さに夢中になっていた。
だいじょーぶ!だいじょーぶ!トレイ君なら大丈夫だよ!
ケイトはそう言ってトレイを励まそうとするが、トレイの心配は変わらない。
少なからずトレイの負担が増えるため、リドルはしばらくの間ケイトに副寮長の仕事を頼むことにした。
「だからその間はなるべくハント先輩と一緒に居るといいよ」
「ありがとう。すまない、二人とも」
しかしながら授業をサボる訳にもいかない。仕方がないのでルークにも同伴してもらうことにした。勿論、先生方は皆事情を把握してくれているようだった。
ルークはトレイが思った以上にいい子だった。
このぐらいの年齢の子どもであればまだまだやんちゃな時だ。高校生の授業なんてつまらないはずなのに、ルークはきちんと席に座り、静かにしていたのだ。
わがままを言うことも、立ち歩くこともせず。
トレインの授業ではルチウスがルークの遊び相手になってくれた。そんな様子をトレインは微笑ましく見ていたし、そんなトレインを見て生徒はゾッとしていた。
体育育成は流石に危ないので見学することにする。
グラウンドの隅。ルークは花に集まる蝶を追い、短い足を懸命に動かしていた。
トレイは芝生に寝転がりそんな無邪気なルークを眺める。
恋人という記憶もなければ、今は全く赤の他人といった状態。そんな状態でキスをしても伝わるはずがない。
ではルークに好きだ、愛してると伝えればいいかと言えばそういう簡単な話でもない。
そもそも二人が付き合ったのも積極的なルークの行動があったからである。
トレイからすれば自分のなにが魅力的か、どこに惹かれてくれたのか知ったもんじゃない。
トレイ自身はルークの容姿は勿論、なによりその素直さや、純粋さに惚れたのだ。
姿形は変わってもルークはルークだ。
小さなルークは大人のルークと比べ、より本能のままに行動する。よく笑うのは変わらないが、哀しみや痛みなど、きっと大人のルークが隠したがる所まで見ることができるのはトレイにとって新鮮だった。
心地よい日差しとそよ風に思わず瞼が重くなる。
昨日も寝るのが遅くなってしまったんだ。トレイはそう自分に言い訳をして惰眠を貪ろうとしたが、その間にルークが何かあってはいけないと重い瞼を開く。
「ぅ、っ!?」
すると、目の前にはトレイを覗き込むルーク。
いつからこんな至近距離にいたんだ。そもそも気配がなかったぞ。いや、相手は子どもといえどルークなのだ。侮れない。
じぃっと穴が空くんじゃないかと思うほどに見つめてくるため、なんだか気まずくなり目を逸らす。
「な、なんだ?」
「……くろーば!」
一瞬、名前を呼ばれたかと思ったが、スートのことだろう。
「そう。クローバーだよ」
ルークは小さな手でスートをそっと擦る。特殊なクレンジングでないと落ちないリキットを使っているのだ。そう簡単にとれやしない。
細く、指先が硬くなった指先ではなく、今トレイに触れているのは、ふにふにと柔らかくクリームパンのようなふんわりとした指先だ。
自分の知らないルークがここにいる。それならこの機会を活用しないでいつするのだ、とトレイはルークの薄ピンク色の頬を撫でながら思い立ったように聞いた。
「なぁ、ルーク」
「う?」
なんだい?と大人のルークなら返しただろう。
「ルークの好きなもの教えてくれないか?」
ルークは自分のプライバシーを暴かれるのを嫌う。そのため、トレイもルークの事を知りたくてもどこまでがグレイゾーンなのか未だわからないのだ。
小さなルークに全てを聞こうだなんて無礼なことはしない。しかし、自分の知らない恋人の姿を堪能できるのも今だけだ、と思い無難な質問からしたのだ。
ンー、と悩んだと思えば、あ!と閃いたように目を大きくした。
「ねこしゃん!」
トレイは拍子抜けした。余程ルチウスと遊んだのが楽しかったのだろうか。
「ハハハッ!そうか、猫さんか!またトレイン先生のところに会いに行かなきゃな」
「あのね、あのね。えっと、ママンも、お手伝いのサニーも、お隣のチェシーもすきだよ!お散歩もお絵描きもお歌もすき!あとはね、あとはね」
「ハハッ、ルークは大好きが沢山あるんだな」
次々出てくるルークの〖好き〗にトレイはホッとした。あぁ、小さくなってもやはりルークはルークだ。
俺が好きになったルーク・ハントは人や物の輝いている点を見つける天才だ。
その変わらぬ姿にトレイはほっとした。
放課後、騒ぎを聞きつけたヴィルはトレイの元へ訪れた。
駆け足で来たヴィルは通学用のバッグに加え、書類を抱えていた。また寮ごとの書類でも配られたのだろうか。リドルとケイトに任せてしまっているが大丈夫だろうか、とトレイは思わず気が逸れてしまう。
「ごめんなさいね。見てもらって」
「あ、あぁ……。いや、ヴィルも忙しいだろ。副寮長不在になって大丈夫か?」
「大丈夫……ではないけど、」
ヴィルはトレイの足元へ目を移した。熱い視線に気がついたのだろう。トレイの足にしがみついていたルークは、ぽ~っと顔を赤らめてヴィルを見つめた。
「と、とれびあん!」
どうやら面食いなのは小さい頃かららしい。
「ふふ。可愛い仔犬に免じて許してあげるわ」
ヴィルが屈み、よしよしと頭を撫でると身体をビクリと跳ねさせた。なんとも可愛い反応に二人して笑った。
一日経っても、三日経っても、やはりルークの身体に変化は見られなかった。クルーウェルが言うように時間の制限はないようだ。
ケイトに副寮長の業務を任せたからといってトレイに全く仕事が無いわけではない。
部活動に必要な魔法植物の観察に、来週末のお茶会の試食品作り、毎日のように出る課題とルークの世話に相変わらず休む暇がない。
トレイは未だにルークにキスどころか、好きだという言葉すら伝えることができていなかった。
毎朝小さいルークを抱っこして部屋から出る度、ケイトから「まだなのー?」と呆れられ、リドルからは「僕も解除薬作ってみようか」と助け舟まで出される始末。
いや、俺の甲斐性がないだけなんだ、とほとほと自分が情けなくなる。
「そんなに落ち込まなくてもさぁ。ねー、ルーク君はトレイお兄ちゃんのこと好きだもんねー?」
「う?……ねー?」
同意を求められたルークはよくわかってないくせにケイトに同調する。首を右に傾けたケイトに鏡合わせのようにねぇーと言いながら身体ごと傾ける姿はなんとも可愛らしい。
「ヴィル先輩も僕らには見せないけど、結構な負担になっているだろう」
だから解除薬を作ってみるよ?とリドルは提案するが、トレイは頷くことはできなかった。
「リドル君、それじゃ解決にはならないよぉ」
やんわりとケイトがリドルを止めてくれているから助かっている。
でも、だって、と歯切れの悪い言葉を並べるリドル。
わかっている。リドルがトレイやルーク、それにヴィルやケイトの事も心配して言ってくれているのだ。
「ありがとう。すまない、もう少しだけ時間をもらえるか」
ため息をひとつ。
最近ため息をつくことが増えてしまった気がする。
「あぁ、勿論だよ」
「ルーク君、またねー」
少しだけ、少しだけ休もう。
放課後。言葉通りヘトヘトになったトレイはなんとか自室へとたどり着いた。
今日中に終わらせる課題もあるが、今は何より身体を休ませたかった。最後の気力を振り絞って、抱っこしていたルークをラグに座らせる。ルークは疲れなんて言葉知らないといった様子で、今日はトレイとどんな遊びができるのかとワクワクしている。
しかしトレイはそのままフラフラとベッドに倒れ込んだ。靴の踵を踏み、乱雑にベッド下へ落とす。
「おにいちゃ……?!」
当然倒れ込んだトレイに驚いたのだろう。ルークはベッド下のラグから、ベッドによじ登ろうとした。小さな身体では一人でベッドに登るのは難しいようで、ジャンプをしたり、布団に掴まりよじ登ろうと必死だ。
普段のトレイならルークを持ち上げ、一緒に横になるのだが、そんな気力すら残っていない。
もう意識が飛ぶ数秒前といったところなのだ。
「ルーク、ごめ……五分……いや、十分したら起こして……」
眼鏡のフレームが歪まぬよう顔だけ横に向け、息を吐くと同時に、グゥ……と眠りに入ったのだ。
なんとか布団を使ってよじ登ったルークは、すっかり寝入ってしまったトレイの頭を撫でてやる。
「くーくー、トレイおにいちゃん」
ルークがトレイの頭を撫でながら、自分がさもお兄ちゃんのような顔をしていたのは知るはずもないだろう。
それから何分が経っただろうか。十分程は休んだろうとタカをくくっていたがルークからすればどうやら随分と暇な時間だったらしい。
なぜかと言うと、トレイが目覚めるとルークは満面な笑顔で油性ペンを持っているのだ。しかもペン先をトレイの顔に向けて。
ズレた眼鏡を戻さなくても、そのいたずらっ子な笑顔は確認できる。
「ルークぅ?」
「ぼんじゅーる!」
「ボンジュール。ルーク君は何をしていたのかな?」
ルークは悪びれる素振りもなく、ヘヘッと笑って答えようとしない。自分で確認しろという事だろうか。
油性ペンか~弟にもやられたことあったなぁ、なんて懐かしい昔を思い出す。
トレイは重い体を乗り出し、デスクの上からメイク用の手鏡を手にとった。何が書かれているんだろか、と恐る恐る鏡を除く。
「……え」
それは思ってもみないものだった。
眉毛が繋がっていたり、瞼に目や下まつげがくっきりと描かれていると思っていたのに、トレイの考えは何ひとつ当たらなかったのだ。
「おにいちゃん疲れてたから……たっくさんしあわせになりますようにーって!」
描かれていたのは自分のスート、三葉のクローバーに加えられたもうひとつの葉っぱ。そう、四葉のクローバーが出来上がっていたのだ。
ため息ばかりの自分が笑顔になれるよう、幸せになれるようにと描いてくれたのだろう。
お前はいつも、自分以上に相手を想うやつだよなぁ。
トレイは目頭がじわりと熱くなるのを感じ、堪らなくなってルークを抱きしめた。
「……お前が隣にいる限りずっと笑っていられる気がするよ」
「ほんとぉ?」

トレイの愛の告白はきっと小さなルークには伝わっていないだろう。それでもよかった。やっと、トレイの決心がついたのだ。
「なぁ、だから……」
撫でるのは、いつもより小さな後頭部。
「そろそろ、本当のお前に会いたい」
ごめん。そう言って空いた手でルークの顎を掴み、上を向かせた。小さな、ふっくらとした唇へキスを落とす。
次に目を開けば、しっかりとした腕がトレイの首にまわる。ギシリとベッドが軋み、トレイは言葉にできない安堵感を感じた。
まん丸だった瞳は色を変えず、尚も美しく鋭さを増す。
にっこりと無邪気に笑うルークも好きだが、何かを企んでいるかのような笑顔も嫌いじゃなかった。いや、一緒に鍋を混ぜるときはよくこんな顔をする。そう、これは悪友の顔だ。
「ん……ッ」
離れた唇をもう一度重ねる。顔を傾けるタイミングもバッチリだ。それだけ俺たちは何度も唇をあわせてきた。
「ふっ……ぁ……」
薄い唇からは熱い吐息が漏れる。
エメラルドに欲が増し、悪友は恋人の顔に変わる。
ずっと、ずっと会いたかった、俺の恋人。
そのままルークをベッドに押し倒せば、キスはより深く、しっとりとしたものになる。
もっと、もっと、ルークが欲しい。正直こんなに長い間一緒にいた時はなかった。これ程ずっと傍にいたというのに、トレイは寂しさを埋めようにと渇望しているのだ。
舌で薄い唇の隙間をこじ開ければ、迎え入れるようにルークの舌と絡まる。
「トレ、……く、ンっ……」
どちらの唾液かわからないそれをルークはコクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
そしてルークはふふ、と眉を下げて微笑むのだ。
「私は君の全てが愛おしいと言ったじゃないか」
忘れちゃったのかい?とルークは困ったように笑う。
このルークの言葉から考えるに、どうやら身体が小さかった時の記憶は持ち合わせているようだ。
そのため、これ程までに時間がかかってしまったことに、ルークは少なからず思うところがあった。しかし、それは責めている訳ではなく、ルーク自身今までの自分の伝え方が足りなかったのだろうかと疑問にも思ったのだ。
そう、トレイと違ってルークは事ある毎に愛の言葉を送ってくれる。
だからこそ、トレイはそれら全てを受け入れられずにいたのも事実だった。わがままなことである。
言葉が足りなければ想いは伝わらないし、言葉が多様すぎてもいけないのだ。
ルークからの愛の言葉を素直に受け入れられなかったのは、トレイの自信のなさからくるものだった。
ルークは美しいものが好きだ。なにかとすぐに目を奪われては、駆けて行ってしまう。
そんな風にいつかは自分の元から去っていってしまうのではないか、と不安だったのだ。
「俺が真に受けると思うか?」
なんせ自分は平凡な男だ。貴重なライオンの獣人でもなければ、スーパーモデルでもない。
「そうかい?それなら……」
ルークはしょんぼりした顔を一瞬見せたが、すぐに表情を変えた。
「恋人にしかできないことで伝えるしかないようだね」
そう、それでもこの輝くような男は俺を選んでくれたのだ。
美しい顔が近づく。
こんな表情は俺にしか見せないでほしい。
こんな愛の言葉は俺以外に使わないでほしい。
そんな独占欲がトレイの中で蠢いた。
「愛しているよ、トレイくん」
トレイの短い髪を愛おしそうに、梳くように撫でるその指も、足や腰に絡みつく意外にも行儀の悪い足も、鼓動の早いこの胸の音すら愛おしくて、愛おしくてたまらない。
「俺も、愛している……ルーク」
ルークは目を見開き、そして微笑んだ。
「ふふ、メルシー。やっと言ってくれたね」
自身のネクタイを緩めながら、すっかり成長したルークを見下ろす。挑発的な笑顔を向けられれば、明日提出の課題なんてどうでもよくなってしまう。ずっとお預けをくらっていたんだ。トレイだって年頃なのだ。
ルークからはグリーンシトラスの香りがする。それはトレイと同じシャンプーの香りだ。一緒に過ごした時間がこうして残っていた。
自身の香りを身にまとっている事に嫌な思いをする男はいない。トレイは思わず頬を緩める。
「おや、なにかイタズラでも思いついたのかな」
「いや、なんでもないよ」
「秘密にするつもりかい?それではまた拗ねてしまうよ!」
小さい子みたいに!なんて可愛いことを言うもんだからトレイはついに吹き出してしまう。
「悪い悪い。気を悪くしないでくれ。ルークの事が好きだなぁ、って思ったんだ」
愛おしい。それは言葉にせずとも表情に、態度に滲み出るものである。ルークは自身へ向ける愛情を真正面から感じ、キュンと胸が締めつけられた。
「トレイくん……ずるい事をしないでおくれ……」
「え、なんの事だ!?」
「無自覚なのが君の怖いところだよ」
「本当になにを言っているんだ……?」
その後トレイは当然のように課題も追加になったし、ルークはヴィルに自身の不在を謝罪しにいくのであった。
しかしそんな事、今はどうでもよかった。
目で、鼻で、指で、全てで互いを感じたかったのだ。
「私はずっと君に夢中だよ」