@_rookwebonly
待ちに待ったこの日がやってきた。
なんといっても今日は恋人とのデートの日。
少し早く、待ち合わせ場所へと到着したルークはのんびりとフロイドを待っていた。ふと空を見上げればピンク色の花びらが視界に入り、新たな季節の訪れを感じた。
「春、か……」
出会い、そして別れの多い季節だ。ルークは今年で4年生になるため、実習で学校を離れて生活することになる。必然的にフロイドと会うことも少なくなる事を考え、少し感傷的な気持ちになってしまった。
そんな時だった。
「ばぁ!」
しんみりとした事を考えていたルークはフロイドが近づいていることに気づかず、驚いて一度後退りをしてしまった。
「おや驚いたよ、……ボンジュール!」
「あはっ♡びっくりしたぁ?ウミネコくんぼーっと突っ立ってるからさぁ。何考えてたの」
「いや、大したことではないのだけれど……」
ルークが口を開こうとすると、フロイドが「あっ!」と声を出した。
「ウミネコくん鼻……」
「え?」
「ほら、見てみなよ」
フロイドは鼻をちょん、と触りくすっと笑った。鏡を取り出し見ればルークの鼻は寒さで赤く染まっていた。
「赤くなってんのかわいーね♡」
「ああ……今日は少し肌寒いような気がしないかい?」
「んー?普通じゃね?……うわ!手冷えてんじゃん!」
グイッ!とルークが装着している手袋を剥ぎ取り手を触ると、指先まで冷えていた。
「この手袋意味ねーじゃん」
「ここまで冷えるとは思わなかったんだよ」
「じゃあ〜…ウミネコくんのために、ほら!ぎゅ〜って……ね♡」
「──!」
「オレはこんくらい慣れてるけどー、ウミネコくん寒いの苦手でしょ?」
フロイドは冷たい手を自身の両手で包み込んだ。恋人の優しくて大きい手がじんわりと温めてくれる。その行為だけで身も心も温かくなっていった。

「ありがとうフロイドくん。もう全身ポカポカだ!」
「いいよぉ♡じゃ、行こっか」
はい、と手を繋ぎ、2人は本日の目的地へと歩き出した。
────
「うっわぁ……」
「……オーララ」
目的地へと到着すると、そこには溢れんばかりの人だかり。
「結構人いんね」
「やはり皆考えることは一緒なのだろう」
今日の目的地は春の花が満開に咲く場所。この季節にしか満開の花が見れないことで有名な観光地だ。老若男女問わず人が集まりみんな楽しんでいる様子である。
「ここ来たことある?」
「ないよ。でも一度はここに来てみたかったんだ」
「じゃあオレと来れて良かったね♡」
「ふふっ♡今日は最高な1日になりそうだ」
この地で一番名物の木は、世界でもTOP5には入るほど大きいらしく、そこに行くまでに先導するようにずらーっと木々が並んでいた。
「あ!見てよウミネコくん、あそこ」
「ん?」
フロイドが指を差した方向を見ると出店が並んでいた。
「屋台あんじゃん!ね、なんか食べない?」
「そうだね!小腹も空いたし、いただこうか」
少し近づいてみると焼きそばやフランクフルト、ベビーカステラにミルクせんべいなど……祭りでよく見るようなラインナップのものが売っていた。
「あ、たこ焼きみっけ!オレたこ焼き買うわ」
「ウィ!私は……隣の唐揚げを食べようかな」
一旦離れて列に並んだ2人。ちらっとフロイドの方を見るとバチッと目があった。フロイドは小さくピースサインをするとルークも同じことをやり返した。こんな小さな事も幸せに感じて思わず笑みが溢れた。
「お待たせ〜」
「大丈夫だよ。食事スペースに行こうか」
屋台の食べ物を食べれるように休憩スペースがちゃんと設置されてあった。少し小走りで向かうと2人と同じように、休憩がてら軽食を食べる人たちが既にいた。椅子はあったが"立って食べた方が美味しく感じる"と、そのまま食べる事にした。
「いただきまーす♪はふ……」
「セ・ボン!非常にジューシーで美味しいね!」
「たこ焼きうま〜!」
屋台の食べ物はなぜこんなにも美味しく感じるのだろう……。さらに恋人と一緒に食べると美味しさが倍増する気がして手が止まらなかった。
「ねぇ、それ美味しそう。一口ちょうだい」
「ウィ!」
爪楊枝で唐揚げを一つ食べさせてあげると、フロイドは熱そうにはむはむと食べ出した。美味しかったのか目を開き嬉しそうに微笑んだ。
「おお……!口いっぱいに頬張るフロイドくん、実にトレビアンだ!よく見せておくれ!」
「そんな見んなって!食べれねーじゃん!」
目を輝かせたルークがじっくりとフロイドの口元に集中する。が、やめてと顔を困らせた。するとルークの目線がフロイドの手元に落ちていくのがわかった。
「……ウミネコくんも一個食べる?」
「…!いいのかい?」
「いいよ。はい、あーん」
口をパカっと開けるとたこ焼きが口の中に入った。一口噛めばタコの食感、カリッとした生地に濃いソースが口いっぱいに広がり瞬時に"美味しい!"と脳が反応した。

「ど?美味しいでしょ?」
「んん!とても美味しいよ!これはフロイドくんが好きなのも納得出来るね」
「でしょ?今度たこ焼きパーティーでもしない?いろんな具材持ち寄ってさぁ」
「ウィ!今度計画を立てようか」
"また新しい予定が出来たね〜"と、フロイドは嬉しそうにルークを見つめた。それに頷くとフロイドは頭をポンポンと撫でる。ルークは不意な行動に心臓が高鳴ったのを感じた。
「「ごちそうさまでした」」
食べ終わると、また手を繋ぎ歩き出した。お昼を超えたからなのか、先ほどよりも人の流れが多くなっていた。歩くスピードも必然的に遅くなり
「おっせーな……」
「まぁまぁフロイドくん……。そ、そうだ!出店を見よう!たくさんあるからね」
思うように歩けずイライラした雰囲気を察して、とりあえず出店を見るように促した。
「なんかいっぱいあんねー……」
「おや?あれは……」
ふと目に入ったものに気を取られた。
そこには射的と書かれており、ルークはそれに反応してしまった。
「射的?」
「あれはね、銃で欲しいものを狙って落とすんだ。落とせたら景品として貰えるんだよ」
「なにそれおもしろそーじゃん!やろうよ」
「ウィ!」
景品の一覧にはお菓子やぬいぐるみなどが並んでいた。フロイドはこれがいい、と言い指をさした先にはウツボのぬいぐるみがあった。
「じゃあオレからね〜……オラァ!!!」
「ああフロイドくん!!そんなに乱雑に打っては落とせないよ……どれ、私が手本を見せるからよく見ていておくれ」
ぬいぐるみ目掛けてポポポポン!!とコルクを連写したが、全く動かず「こんなん落ちるわけなくね?」と嘆いた。それを見かねたルークは自分がやると銃を構えた。
「こういうのはね、しっかりと狙いを定めて……こうだ!」
何を隠そう彼は狩人である。しっかりとコルクをはめ、位置の調整をする様はまさにプロだった。
ポンッ!
「うっそ……一発で落としちゃった……」
「狩人として獲物は一発で仕留める……それくらい出来ないとね。これはプレゼントするよ」
連写でも落ちなかったものがなんと一発で落ちたのである。これには店主も驚いて「こんなの初めてだ!」と拍手を送っていた。

「まじ!?ありがと〜ウミネコくん!」
「ふふっ喜んでもらえて何よりだよ」
「オレってちょー幸せ者じゃん?」
よほど嬉しかったのか、ぬいぐるみを持ち上げて子どものようにはしゃいだ。ありがとね、とルークを抱きしめると微笑んで抱きしめ返した。
「さあ、次はあの大きな木の下まで行ってみようか」
────
本日のメインディッシュとなる大樹へとやってきた。そこに到達すると驚きの光景が広がっていた。先ほど列になっていた桜の木とは別格に大きく、まるで漫画の世界の植物かのような規格外さであった。
「あ、圧巻の景色だ……!なんと美しいのだろう。生命の持つ力の偉大さを思い知ったよ。この木の下にいるだけでパワーが溢れてくるような気がしないかい?」
「え、オレ普通」
あっけらかんとして答えるフロイド。さすがに驚いたルークは目を丸くした。
「パワーとかはわかんねぇけどすっごい綺麗だね」
かなりの人数がこの木の下にいるのに、全ての人を覆えるくらい大きく広がった枝。下から見上げる桜色の花はとても綺麗で、散っていく花びらでさえも儚く美しかった。
「でもさー。なんでそんな簡単に落とせたの?オレが打った時はビクともしなかったのに」
「ああ、実はね。当たったと同時に風の魔法を使ったんだよ」
「……ゴリゴリの不正じゃん」
いっそ清々しいくらいに白状するルーク。さすがの彼でも屋台の射的では狙ったものを撃ち落とすことが出来なかったらしい。
「パードン……でもね、キミが欲しそうな顔をしていたから、つい……」
「ウミネコくんは悪い子だねぇ……あ、そうだ。お仕置きしーちゃお」
そう言ってルークの顎をクイッと持ち上げると唇を重ねた。不意に来た熱くて柔らかい感触に痺れて動けなくなった。
「……んっ……」
「……桜の木の下でちゅーすんの、なんかロマンチックじゃない?」
「ふふっ……ドラマのワンシーンのようだね」
そのまま顔に両手を添え、じっ……と見つめるだけ。目を逸らすと同じ方向にフロイドの顔が移動し、強制的に目が合ってしまう。心の中まで見透かされているような眼差しに胸の高鳴りは止まらなかった。
「あのさ、今日……オレが来るまで何考えてたの?」
思い出したようにフロイドが口を開く。
「ああ、言っていなかったね。こうやってお花見デートをすることはもう終わりなのかな……なんて」
「……なにそれ?オレと別れるつもり?」
少し怪訝そうに尋ねた。別れを考えてると感じた彼を誤解させないよう再度説明をする。
「いっ、いやそうではなくて……。4年生になると離ればなれになってしまうだろう?」
ルークは今年から実習で時間を取る事があまり出来なくなる。去年、一昨年と続いてきた恒例のお花見デートが無くなることに寂しさを感じていたのだ。
しゅん……と俯いたルークがぼそっと静かに「寂しいんだ……」と呟いた。
「そんなん卒業してからでも出来んじゃん」
「えっ……」
ふと顔を上げると、見上げた先のフロイドは優しい笑みを浮かべていた。頭をポンポンと撫でるとルークの心臓の鼓動が早くなった。
「お互いが卒業してからまた見に来れば良くね?別に毎年じゃなくてもさー。オレたちずっと好き同士なんだから」
「!ま、また一緒に来てくれるのかい?」
「当たり前じゃん。その代わりオレが行きたいところにも付き合ってよね」
パァァッとルークの顔が明るくなっていった。離れ離れになったその"先"で、また来ようと言われ思わず涙が出そうになった。自分だけの片想いじゃない、ちゃんとこれからも好き同士なんだと。
「オレはウミネコくんのことずーっと好きだよ」
「……ありがとう。私もフロイドくんのことがいつまでも大好きだ」
「やっと笑ったぁ。ウミネコくんはそうでなくっちゃ」
こぼれ落ちそうになる涙を必死に食い止めて笑顔を見せた。それを見たフロイドも笑顔になった。こんなにも幸せな時間を過ごしていいのだろうか。と考えてるうちにどちらからでもなく、気づけばハグをしていた。
「じゃ、卒業したらまたここ来よう」
「とても嬉しいよ……ありがとう、フロイドくん!」
「指切り、小指出して」
「ウィ!」
「約束ね」
指切りなんて幼少期の時以来だろうか。童心に戻って約束をしたその時、風が強く吹いた。宙には無数の花びらが舞い、ふわりと2人を包んだ。

「……風の魔法使った?」
「ふふ、残念ながら今のは私じゃないよ」
まるで2人を祝福しているかのようなタイミングで風が起こり、それでまた笑い合った。
数年後、大人になった2人はこの景色を見ることになるだろう。そして今日の日を思い出してまた語り合うのだろう。
それはもちろん
約束した木の下で