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越知月光は見ているだけではなくなった5

全体公開 2 1700文字
2022-03-02 21:07:24

続編

Posted by @uk_plus_



 それは土曜の休みの日に学校へ訪れた時の出来事だった。
 美術部の友人にどうしてもとデッサンのモデルを頼まれて、私は土曜の日に制服を着て学校へと向かっていた。

「休みだとやっぱり人少ないなぁあれ?」

校門を通って少しした時だった。パカーンと気持ちのいいショット音が聞こえてきたのだ。その音は彼氏である越知くんが所属する男子テニス部の練習の音だった。

コートはこっちだよね。

広い敷地を歩きながら、何度も聞こえるショット音が私の心拍を早めるようだった。何故ならその先にはジャージ姿で頑張っている彼がいるはずなのだから。
 約束の時間まではまだ余裕があったので音につられるまま歩を進めると、その景色は見えてきた。広々とした緑色のコートが何面も並ぶそこには、ジャージ姿で練習をする男子たちの姿があった。そしてその中に頭一つ以上飛び抜けて大きい影も。

越知くんだ。

ひと際大きな彼はどうやら男子たちに指導をしているようで、ラリーをしている彼らを立ってじっと見つめていた。いつも授業で見ているはずなのに部活中の彼のジャージ姿は新鮮に私の目に映る。

頑張ってって伝えたいけど、流石に邪魔だよね

ポケットの中からスマホを取り出しつつ、私は本来の目的である美術室へ向かうため踵を返した。名残惜しく思いながら。



――――――――――――――――――――――――――――――



 「小休憩だ。次は各自の苦手分野の練習とする」
「はい!」

力強い複数の返答を耳にして、越知はメニューが記載されているボードを見ながらベンチに座した。

「越知部長」

するとマネージャーがそばに来て越知に声をかけてきた。

「なんだ」

ボードを見つつ越知が返事をするとマネージャーがおずおずと尋ねてきた。

「あの、部長って、最近彼女さんできました?」
「!?」

部活とは全く関係のない言葉を投げかけられて越知は噴き出し、ぐるりと首をマネージャーに向けた。

「な、何がだ」
「あ!その反応はマジですね?じゃあ見間違いじゃないってことかあ」

どうして急にそんなことを聞かれたのかまるでわかっていない越知は、絶句してマネージャーを見ることしかできないでいる。そうしていると彼女の方から話をしてくれた。

「いえね、さっきフェンスの向こうに女の子がひとりでいて、越知部長を見てたんですよね!」

珍しいなーと思ってと続ける彼女はにこにこと越知を見ている。するとそんな彼女の脇からぬっとひとりの男子部員が現れて余計なことを言うなと手を引いていってしまった。少し離れたところで“部長は隠してるつもりなんだぞ!”だとか“彼女さんが来てることがわかったら練習が倍やばいことになるぞ!”だとか何やら密談丸聞こえだがをしているようだ。ちなみに越知に彼女がいることは別段秘匿しているわけではない。言う必要がないだろうという判断と、単に恥ずかしいからである。

すまない、少し部室へ行ってくる」
「はい!」

再びたくさんの元気な返事に見送られながら越知は部室へと向かった。
 部室へ入って越知はすぐさまスマホを取り出した。そして先ほどのことが事実なのか彼女に尋ねようとしたが、それは聞くよりも先に越知はわかってしまった。越知が目にした先には、こんなメッセージが入っていたのだ。

『部活頑張ってね、越知部長』

これはつまり、やはりフェンスの先にいたのは彼女自身であったことの何よりの証拠であった。どこかおかしなところはなかったろうか、彼女の目にはどんなふうに自分が映っただろうか、色々な不安が巡ってしまい越知はその場に膝を着いた。

 内心穏やかではない越知がコートに戻り練習を再開する号令を出すと、部員たちのやる気が妙に高かったのはまた別の話だ。


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