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いっぱい食べるきみが好き

全体公開 了遊 2 14 6734文字
2022-03-06 02:19:29

了遊(付き合ってる)。本編数年後で遊作が大学生かなんか。ゆるい。

Posted by @d9_bond

※前にポイピク投げた会話文を清書(?)
※内容同じでほぼ食べ物の話しかしてない

※例によって勝手な設定がついてます。そういう設定なんだなーって流して下さい

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 遊作は、街を見下ろす高台のベンチにかけて広がる景色を眺めていた。春の終わりの気配のする穏やかな日差しと裏腹に、そのまなざしは苦悩をはらんでいる。
……いや、しっかり伝えなければ」
 自分に言い聞かせるように呟いて遊作は、ポケットから端末を取り出す。

 連絡はさして間を置かずに繋がった。端末に映る恋人──鴻上了見は今日も顔が良い。
[──どうした、遊作]
 小さく首を傾げて尋ねてくる。
[夕飯のリクエストならまだ間に合う]
「そのことなんだが、今日はいらない。食べてから行く」
 了見の所へ顔を出す時、彼は遊作のために夕食を用意する。ちょっと顔を出すだけのはずが何だかんだ長居をしてしまい(帰ろうとしても引き留められることもままあったが)、結局そのまま夕食を一緒に食べてから帰る、という流れから習慣化している。翌日大学が休みだったりすると泊まっていくため翌日三食も、ということもよくある。
[珍しいな。何か用ができたというなら、うちに来るのは明日でも構わないが]
「いや、今日だけじゃない。了見──俺は、しばらくお前の作った料理は食べない」
 思い切って告げる。
[なぜだ]
 了見は、ひどく傷ついたような顔をした。
 言い方がまずかっただろうか、やはりやめようかとぐらついたが遊作は踏みとどまった。殊勝な顔をしたところで裏で何を考えているのか分からないことがあるのが鴻上了見だ。それに遊作だって好きで言っているわけじゃない、苦肉の策なのだ。
[急に──この前のメニューで嫌いなものであったか? 言えば次は抜くといつも言っているだろう]
「そうじゃない。むしろお前のおかげで好き嫌いはなくなってるくらいだ」
[味が気に入らないなら]
「違う。全然違う」
[太った、ということはないだろう。お前は平均からすると細すぎるくらいだ]
「言うほど細くないし違う」
[健康診断にひっかかったか? いや、塩分は計算しているしバランスも]
「そんなんじゃない」
[ならば一体なにが不満だというんだ]
「不満……というか苦情というか」
 遊作は大きくため息をつくと、了見を真っすぐに見た。
 意を決して口を開く。

「──お前の料理が美味すぎる」

 さしもの了見も意味が分からなかったようで、珍しく呆気にとられたような顔をした。
[どういうことだ?]
 聞き間違いかと眉を顰める。遊作はことさらゆっくり、はっきり繰り返した。
「だから、お前の料理が美味すぎるんだ」
……不満ではなかったのか?]
「苦情だ」
[いや褒め言葉だったが]
「ともかく、お前の料理がうまいからしばらく食べない。一緒に食べるのは問題ないから、外食なら行くが」
[それで『食べてから行く』か]
「ああ。料理それ以外には何も問題ない」
……そこまで言うからには、納得のいくを説明してもらおうか]
 困惑をそのままに顔をしかめる了見に遊作は言った。
「最近、牛丼屋チェーンの牛丼が前ほどおいしく感じない」
[うん?]
 幾通りか予想していた出だしのどれとも違ったため、了見は困惑を深めた。それを見ながら遊作は、ゆっくり指折りメニューを挙げていく。
「駅ビルの喫茶店のナポリタンも、学食の唐揚げ定食も、ファミレスのチーズハンバーグも定食屋のアジフライ定食もタラの西京漬定食も近所のパン屋のBLTサンドもバーガーチェーンのハンバーガーもポテトもコンビニのちょっといいデザートプリンも、食べても食べても物足りない」
[なんだ成長期か]
「物量の話じゃない、食べてもこう……なにか違う気がして満足感が減っている」
 成長期という年じゃない、と遊作は顔をしかめるが了見は聞き流した。再会した十六の頃よりいくらか背は伸びたし、よく食べ良く休んでひと頃よりぐっと健康的な生活をしているようだが、燃費が悪いのか食べる割に肉が付かないのでもう少し育っていいと思っているのだ。
「おいしくないわけじゃない。周りにも聞いたが、特に味が変わったことはないという。だが違和感はぬぐえず、俺は原因をずっと探っていたのだが──ようやくわかった。原因はお前だ、了見」
[私が?]
「ああ。おまえの料理が美味すぎるせいだったんだ……‼」
……
 了見は言い間違いだろうかとじっと遊作を見返した。遊作は、彼にしては恐らく精いっぱいの厳しい顔を作ってこちらを見ている。
「例えば、学校そばの店の牛丼を食べるとするだろう。人気チェーンだけあって腹は膨れるし、普通においしい。だが食べ終わる頃にはお前がいつも作る牛丼を思い出して無意識で比較してしまう」
 高級レストランのコース料理しか食べなさそうな顔をしているが、了見は料理上手で遊作のリクエストとあらばどんな品でも喜んで作ってくれる。なので丼物も普通に作る。
 そして、了見の作る牛丼は非常においしい。
 大きいのに箸でつまむと切れそうなほどにとろとろで味が芯までしみた玉ねぎに、煮込んであるのにぱさつくことなく、しかし口の中でホロホロほどけるほどよく甘辛い牛肉。その出汁のしみたご飯はややかためでつやつや輝き、具がなくてもお代わりできるレベルだ。上に落とされている卵黄を絡めてやればまろやかな味わいになってまた別のおいしさが味わえる。刻んだ青ネギをたっぷり乗せても、チーズを足してもこれまたおいしい。
 もちろん店の品だって十分おいしい。ことに、学生の懐に優しい値段、調理スピードを鑑みれば十分すぎるクオリティだ。だが、遊作の舌は完全に了見の作る牛丼に魅了されてしまっていたのだ。
 ほかの料理もそうだ。何を頼んでも了見は美味しい物をだしてくる。いや、頼まなくてもとにかく美味しい物を出してくる。
 例えば大衆料理の代表格、ナポリタンだってそうだ。もっちりとした麺にしっかり焼き色のついたソーセージ、火は通っているのに緑の美しいピーマン、シャキっとした歯触りを残しつつも甘く炒めた玉ねぎを濃厚なトマトケチャップがまとめている。ダメ押しに、目の前でパルメザンチーズを削って出された。食べなれたはずのメニューだったが、こんなおいしいものだったのかと感動した。
 肉料理をリクエストして出されたハンバーグもおいしかった。割れば中からたっぷりチーズがあふれ出し、絡めてハンバーグを噛めば肉汁が口いっぱいに溢れるような代物だ。それをひきたてるデミグラスソースがまた絶品で付け合わせの野菜につけてもおいしかった。先日出された時は一滴も残したくなくて意地汚くも一緒に出されたパンで思い切り皿を拭ってきれいにしてしまった。
 魚も食べろと出されたアジフライは揚げたてで、まずアジが大きくて驚いた。皿いっぱいの肉厚のアジは何もつけずに食べてもおいしく、ザクザクの衣とふわふわの身の食感の違いがたまらない。添えられた手製とかいうタルタルソースがまたおいしい。淡白なアジにやや濃い目のタルタルはやはり鉄板で、付け合わせのキャベツと一緒にどんどん食べられる。一緒に出された赤だしのなめことわかめの味噌汁もほっとする味で、箸休めのほのかな塩味がこれまたおいしい白菜の浅漬けと共に間に挟めばおかずもご飯もいくらでも食べられてしまう。
 雑誌で見たパンケーキが美味しそうだと感想を言ったら、おやつに作ってくれたこともある。小さな塔のように積み上げられたパンケーキに生クリームとマスカルポーネ、手製のミックスベリーソースをたっぷり掛けて出してくれた。あえて甘さを抑えられたクリームと甘酸っぱいベリーの取り合わせは絶妙で、それぞれで食べても一緒で食べてもおいしかった。結果パンケーキタワーは一瞬でなくなった。
 と、まあ数え上げれば枚挙に暇がない。
……思い出したら、腹が減ってきた)
 くう、と小さな音をたてた腹の音をごまかそうと遊作は小さく咳払いした。
「とにかく──唐揚げも天ぷらそばもマグロの漬け丼もグラタンもぶり大根もサンドイッチもハニートーストも大福もフルーツタルトも、何を食べてもどうしてもお前の料理がちらつく。おかげで満足感の減衰がひどい」
[要約すると、私の料理の味に慣れたために外食に物足りなさを感じていると]
 何事かと思えば、とあきれ顔の了見に遊作は眉間にしわを入れた。
「お前にとっては大したことはないだろうが、こっちは死活問題なんだ。出先でものを食べるたび、おまえの料理が食べたくなってるんだぞ」
[リクエストがあるならいつでも言えば良い]
「そうじゃない」
[解決策としてはそうだろう。今日も何か食べたものが不満で、わざわざ連絡してまでそんな事を言いだしたんじゃないのか]
 あきれ顔のまま指摘され、遊作は呻いた。
「それはまあ、その……プリンが」
 自然と語尾が小さくなる。
 指摘の通り遊作は今日、授業の合間にちょっと甘いものが食べたくなって学内の生協でちょっと良いプリンを買ったのだ。北海道産のブランド卵と有名企業の牛乳を使ったものでおいしかった。おいしかったが、食べ終わって一息ついたら了見のプリンが食べたいと思ってしまったのだ。
 一方の了見は、仕方ないなと小さな子供を相手するような鷹揚さで微笑んで見せる。
[プリンか。材料ならあるからお前がこちらに来るまでに用意しておこう]
「いや、だから──」
[今日はどんな気分だ? 普通のものか、それとも固めにしようか]
……
 ぐぬぬ、と遊作は再度呻いた。食べないと言っているのにリクエストを聞くとは。
 たちの悪いことに、確かに遊作は固めのプリンが好みであるが柔らかとろふわプリンだって好きだし、出されたものは全て喜んで食べている。つまり固めの方がより好みだなんて一度だって言った記憶は全くないのに了見は遊作の好みを把握している。どういうリサーチ能力だ。ちょっと怖い。
……かためで、この前作ってくれたカラメル苦めなやつが食べたい」
 ちょっと怖いと思いつつも、抗えなかった。胃袋を掴まれた人間の意志力などそんなものだ。
[気に入ったんだな。良かった]
「ああ。プリンの甘さにあのカラメルがとても──」
 言いかけて、我に返る。
「──いや、そうじゃない。聞いてくれ了見、頼むからあまり俺を甘やかさないでくれ」
[分かっている。無理なときは無理と言うから、遠慮無くリクエストしていい]
「く……話が通じない……
[要するに外食がしづらいという事だろう。その解決方法なら簡単だ]
「というと?」
[明日から弁当を作るから朝取りに来るといい]
「了見、俺の話を聞いていたのか……? その流れだと悪化する」
 普段は一を言えば十把握する勢いというのに、まったく遊作の希望を理解する気がみられない。どういうことだ。
(わざとか)
 遊作は心中で歯噛みする。
 まあわざとなのだろう、さっきから自分に都合の良いことしか聞いていないし言ってこない。
[以前ほど美味しく感じないだけで、食べられないわけではないのだろう]
「だからそれが」
[それに、どんな形でも出先でも私を思い出してくれるのは嬉しい]
……っ」
 にっこり笑って言われてしまい遊作は言葉に詰まった。
 その言い方はずるい。ずるすぎる。まるで自分が、了見のご飯に釣られているだけみたいじゃないか。
「別に……飯時じゃなくても思い出してる」
[それは結構]
 言葉と共に漏れた小さな笑いで、わざとそんな言い方をしたのだと気がつく。本当にこの男はタチが悪い。
「笑うな……! だいたい毎日おまえの家まで飯をたかりに行かせる気か」
 ただでさえ、ただ飯になってしまうからせめてと渡そうとする料理の材料費を受け取り拒否されている。せめて何か返そうと手土産を持っていけばそれ以上のものを持たされて帰されたりする現状、これ以上は文字通りたかりになってしまう。いや既にそうなってるともいえる。
[ふむ──私としては毎日顔が見られる確約がとれるのだから大歓迎だが、確かにおまえがここまで来る手間はネックだな。駅前に越すか……
「前提がおかしい。どう考えたって俺が行くより弁当を作る方が手間だろう。そもそも俺が問題にしたいのはそこじゃないんだ、話を聞いてくれ」
[聞いている]
 ほんとかどうか怪しい軽さで頷いて、それから芝居がかった仕草で手を打つ。
[ではそうだな、いっそうちに住むのはどうだ]
「は……?」
[三食良い物を食わせてやれるし、ここまで来る手間も省ける。妙案だな]
 遊作は思考が一瞬止まった。なぜそうなるんだ。
「まて」
[ああ、家賃か。持ち家だから気にしなくていいのだが]
「そんなこと言ってない」
[お前はそういうところはしっかりしたがるからな。譲歩できる範囲ではそうだな、家賃光熱費食費はなしで代わりに家事を半分受け持ってもらう、というところでどうだ]
「どうだも何も」
[悪い条件ではないだろう。部屋は余っているから好きな場所を選ぶと良い]
「おい了見」
[朝は洋食にしているが、こだわりがあるわけじゃないからな。お前の要望にあわせるし、なければこちらでメニューは用意する]
「ちょっとまて、少し聞いてくれ」
[──ああ、そうだな。急に言っても困るだろうから、今は考えるだけにしておいてくれ]
……
[悪い話ではないだろう? それにこれはあくまで、そういう選択もあるという提示だからな]
 遊作は半目になった。
(うそをつけ。絶対本気だ)
 そう思いつつ──しかし強く拒否できなかった。
 あんまり具体的なことを言うからつい想像してしまったし、正直なところ朝から了見と一緒だなんていい生活じゃないか、と思ってしまった。忙しい彼との逢瀬は危急の事態で流れることがある。一緒に暮らしていたら次の機会をやきもきして待つこともないし、何なら手伝ったりだってできるかもしれない。それに率直に、毎日彼の手料理を食べられる環境は非常に魅力的だ。
 まんまと術中にはめられている。
[話を戻すがプリンはいるということでいいな?]
……それは、食べる」
 今更断る気にはどうしてもなれなかった。了見のプリンはとてもおいしい。
[分かった。用意しよう]
 当然とばかりに頷いた了見は、それからいきなりわざとらしく眉を下げてため息をついてみせた。
[それにしても困った。お前と食べようと色々準備をしていたが、無駄になってしまうのは心苦しいな。今日はいいメバルが手に入ったし、菜の花も出回り始めたから辛子和えにしようと準備をしていたのだが。いや白和えの方が良かったか?]
……
[メバルの煮つけに菜の花の白和えと豆ご飯、汁物ははまぐりの吸い物──だとボリュームを考えると物足りないか。具だくさんの豚汁にして、はまぐりは酒蒸しにするのもいいな]
…………
 食べないと言っているのにこの仕打ちである。
[その後でデザートにプリン、のほうが食材も下ごしらえも無駄にならなくてこちらは助かるんだが。どうだ?]
 にこにこして聞いてくる。
 なにが、どうだ? だ。メニューを聞いただけでよだれが出そうだ。食べるに決まっているが悔しい。
……分かった。今日は、予定通りおまえのところで飯にする」
[素直で結構]
「だから、笑うな……! いいか、俺は昔は食べ物なんて何でも良かったんだ。こうなった事に責任はないとは言わせないからな」
[だから責任をとる手段を提示しているだろう。それに、私の方こそ料理など興味はなかったというのに、お前がおいしそうに食べる姿を見るのが楽しくてこうなってしまった。お相子だ]
「それはそう、なのか……?」
[ああ。だから安心して、私の料理なしで生きられない身体になってくれ]
……
 笑顔の了見に、遊作は真顔になった。
 それが本音か。
 おいしい料理があろうがなかろうが、この先自分が彼から離れて生きる事なんてないだろう。
 だから実のところおまえの努力は無用なのだと余程言ってやろうかと思ったが、やめた。細かいことまで人の事をよく見ているくせに単純で肝心なことに気づけない了見が悪いのだ。
 それに了見の料理が美味しいのは確かで。
……やっぱり、しばらくおまえの作った料理は食べない方が良い気がしてきた」
 そう嘯くのが精いっぱいだった。


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