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なにも知らない6

全体公開 2 1703文字
2022-03-07 20:37:51

△関係

名前変換
Posted by @uk_plus_



 これは彼女の知らない、二人がそうなる前の夏の話。



「あー予定入れたいけど、男の子と遊びたいよね」

「ええ?なんで?」
「なんでってあんた、夏休みじゃん」

友達のそんな言葉で、来週から高校生活初めての夏休みが始まることを名前は思い出した。夏休み前の教室は、日毎に空気が浮き足立っていくようだが、どうやら自分一人だけが取り残されていたようだ。

「え、あ、そ、そっか!」
「名前さぁ、夏休み忘れるってなかなかじゃない?」
「そそうかなぁ」

だって夏休みは

心で思いながら名前はその先について考え、一人寂しく感じた。周囲の友人は長い休みに心を躍らせていたが、自分はどうにもそう浮かれることができないでいたからだ。

 それは数日前に越知と会話をした時だった。現在彼が所属する予定のすごい合宿とやらは、学生の長期休暇を利用して大きく強化合宿をすると話してくれたのだ。それはつまり二人が住まう地域からしばらく越知が不在になるということ。名前はその話を聞いて、正直に寂しさを感じていた。


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 夏休みがあと数日で来るということは、越知にとっては強化合宿まであと数日ということだった。部活終わりの度に必要な物を揃えたりと動いていたら、あっという間にその日が近づいていた。

 しかしひとつだけ片付いていないことが越知の心の中にはあった。教室で見かける名前の存在が、日毎己の中でどんどん大きくなっていることだ。考えないようにすればするほど脳裏の端で名前の姿がちらついて、煩わしいほどに越知の思考の隙間が彼女で埋まっていくようだった。

 そこに付け足すように突き付けられたのが、夏休みと強化合宿だった。

しばらくは会うことも話すことも、ないだろう。

休みの時間までを共有する接点が互いにはないこと、自身がその間は長く住んでいる土地を留守にする事実が、より越知の中の寂しさに拍車をかけるようだった。


 図書委員の昼休み業務を片付けて越知が教室に戻ると、席について友人と談笑している名前の姿が目に入った。考え事が増える度に越知の視界では彼女の姿がよく目についていた。そして盗み聞きをするつもりはなかったが、その会話も微かに耳に入る。

「名前は誰かと約束しないの?ほら、たとえば越知くんとかさ」
「えっ、ど、どうして越知くんが出てくるの?」

自分の名前が彼女の会話に出たことに、小さな驚きが越知の中で湧き出る。
 名前は一体どんな話をしていたのだろうか。平静を装い己の席について、スマホに手をかけながら越知はそのまま会話に耳を澄ませてしまった。

「最近仲良くしてない?あれ?違った?」
「そ、うかなぁ普通だと、思うけど」
「付き合ってるとか?」
「え、ない、ないよ!そんな、そんなこと

付き合うという言葉に越知のスマホを握る指に力が入った。そして同時にそれを強く否定する名前の返答に落胆している自分がいることにも越知は内心驚いていた。

「ふーん。好きとかじゃないんだ」
……好きとか、違うよ。越知くんとは、友達、だよ」

歯切れ悪く発せられた言葉たちに、越知の心臓はサッと冷えていく。この感覚の正体は越知にはわからない。ただわかったことは、己がひどく自分勝手に傷付いたということのみだった。

 そうして迎えた初めての強化合宿と夏休み。日々出される厳しいトレーニングや試合に念頭を置いて、越知は持ち越してしまった複雑な感情をそれらで昇華させた。以前のように、何もあるものかと己の思考と感情を一蹴しようとしていたのだ。
 そうして越知自身の気持ちが晴れたかどうかは、簡単すぎた答えであった。


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