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洋菓子交差点

全体公開 1950文字
2022-03-08 17:09:38

柳の場合1

名前変換
Posted by @uk_plus_



 ケーキはあまり、というか洋菓子はあまり好まない。バターや小麦の甘さよりも、小豆の軽い甘さのほうが柳は好きだった。

しかしそんな柳にも例外がひとつだけある。それは中学時代の同級生が営む洋菓子店で売られているケーキだった。

 「今日も二つお願いしたい」
「あいよ」

硝子のケースを隔てて、恐らく店主がいるであろう奥のほうへ柳は声をかけた。そうすると同じ奥から返事が聞こえた。そしてひょっこり顔を出したのは、赤毛を揺らす同級生の丸井だった。

「今日もありがとよ」
「名前がこの前のやつを随分と気に入ったみたいでな」

ショーケースに肘を付きながら丸井が柳と対面する。人懐っこい笑みは昔のままに、その姿は専用のユニフォームを着ていた。

「ありがてー。閑古鳥とまでは言わないが、忙しいとも言い切れなくてね」
「前回来た時よりも繁盛しているように見えたが」
「まだまだ、これからさ」

ふふんと鼻を鳴らしながら不敵に笑うその顔は、彼がかつてコートの中で見せた表情のようだと柳は思った。

 共にコートの中で戦っていた時から、丸井は甘いものが大好きだった。それは柳も鮮明に記憶している。しかし彼はそこからプロになる道を選び、そして見事にそれを形にした。柳はそんな仲間を誇らしく思っていた。そのためか足は自然と彼の店へと向かうようになっているようだった。少しでも彼の力になれたらと。そして柳のそんな気持ちを誰より後押しし、丸井のケーキを絶賛したのは同棲をしている彼女の名前だった。

 「さて、二つってことだけど、何にする?」

談笑の後、丸井は軽く手を叩いて商売の姿勢に入った。それを見て柳はうんと唸る。前回は完全に彼のおすすめを頂いたが、それを省みて考えてみる。

「もう少し、控えめな味のものはあるだろうか」
「そうだな、この前はこっちのムースを選んだから、今日は
こっちのピスタチオのなんかどうだ?そんなにくどくないぜ」
「そうか、ならばそれと、前と同じチョコレートケーキで」
「おっけ。少し待っててくれ」

柳は丸井の勧めに頷くと、ケーキを取っていく彼をケース越しに眺めていた。慣れた手つきで綺麗なケーキたちをトレーに載せる丸井は、もう立派なパティシエの顔をしている。

「まだ丸井一人なのか。誰か雇うことはしないんだな」
「雇いたいのはやまやまなんだけどな。これからどうにかする」

あてはあるしな、なんて笑いながら丸井はあっという間にケーキを箱に詰め込んだ。

「ほう、そうなのか」
「ま!これから連絡しようと、思ってたんだ」

優秀な奴がいてと呟いた丸井の顔が、一瞬翳ったように柳は見えた。だが彼はすぐにいつもの笑顔に戻して、商品が入った箱を柳に差し出した。

「ほらよ、名前さんによろしく伝えてくれよ」
「あ、ああ、わかった」

気のせいだったか。見間違えかと思うくらいにニコニコ笑い、丸井はケーキが入った箱を柳に差し出していた。支払いを取り出そうと鞄に手を入れる柳を見ながら、丸井は目を細めてひとつ小さく言った。

「喧嘩すんなよ」
「はは。どこぞの紳士と一緒にされたくはないな」
「へへへ、それもそうだな」

よくここへ来るもう一人の同級生を思い浮かべ、互いに笑いあう。そこへ丁度柳の携帯が着信を知らせた。

「お、名前さん?」
「そうみたいだ。悪い」

一応断りを入れて通話ボタンに指をかけると、少し弾んだ声が柳の耳に入ってきた。

「ああああ、そうか。ああ、ああ、わかったよ」

仕事を終えてすぐに柳に電話をかけてきた名前は、最寄駅までの道を歩いているようだった。気をつけるように伝え、柳は電話を切る。

「さて、俺はそろそろ行こう。長居したな」
「なんてことねぇ。また来てくれよ」

会計のやり取りを交わし、柳はひょいと箱を摘むように持った。

「きっと喜ぶよ、名前」
「嬉しいね。二人で来るの待ってるぜ」

笑いながら返事をして、柳はプッシュ式の自動ドアを開けて丸井の店を後にした。

きっと彼女はこの箱を見ただけで笑うだろう。友人の役に立てて彼女が笑顔になるなんて、こんな素晴らしいことがあるだろうかと柳は思う。自然と緩む頬を隠すように、顔に手を何度も当てる。こういう気持ちの時こそ、伝えるべきだろうか。

そして柳は、彼女が降りるであろう駅へと向かった。


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