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恋人の面影

全体公開 4 6559文字
2022-03-10 21:28:20

◆クロルク

絵:沸いてる炭酸(スペース番号:マレルクう2)
小説:ナナシ(スペース番号:クロルクう2)

・クロウリーがルークの養父という幻覚を見てます。
・クロウリーの元恋人の女性を捏造しています。故人です。
・内容は暗いですが、暴力描写などはありません。
・お口に合いそうになければ、どうぞ引き返してください~!



養父であるクロウリーとは血が繋がっていない。家を留守にしがちな両親に代わって古くからの縁である彼が五年前から私を引き取り、面倒を見てくれている。
引き取られてすぐの頃は親子というにはぎこちない関係であったが、今では大好きな父となった。
クロウリーは優しくてたくさんのことを教えてくれた。少し過保護すぎる気もするが、私のことを大切に育ててくれた大好きな人だった。
クロウリーに向ける感情がいつしか恋愛感情に変化したのはいつだっただろうか。
最初は勘違いだと自分に言い聞かせいたが、彼に対しての想いは止められなかった。
初めてクロウリーに想いを伝えた時、彼はとても驚いて申し訳なさそうな顔をしていた。そして、諭された。それでも、彼を必死に求めてようやく頷いてくれた。
恋人となった彼と過ごす日々はとても幸せで心が満たされていた。

◇◇◇

そんなある日のことだった。
学校で出された課題に役立つ本を探しに書斎に来ていた。
ずらりと並ぶ本棚から目当ての本を探すが見つからない。もう一度、順に探すがやはり見当たらず、クロウリーの部屋に向かう。
この前、クロウリーがたくさんの本を抱えて部屋に向かっていたので、もしかしたらそこにあるかしれないと検討をつけたからだ。
彼の部屋に入り、机に目を向けると積まれた本の中にそれは見つかった。やはりクロウリーが持っていたようだ。
崩さないように慎重に取り出した時、近くにあったものが手に当たり落ちてしまった。それはクロウリーが大切にしていた本だった。
急いで拾い上げるとひらりと一枚の紙が舞い落ちる。栞にしては大きいような気がしつつそれを拾うとそれは写真だった。写真を裏返すと一人の女性が写っていた。肩まである金色の髪に緑色の瞳を持った女性。彼女はカメラを向けている相手に微笑んでいるようにも見える。
この女性は誰なのだろうか。そんな疑問を抱きながら写真を本にしまおうと本を開くと、ディアという文字が目に入った。クロウリーと同じ名前が気になってもう一度本を開き、そこに目を通した。

『今日はディアから花束をもらったわ。私の大好きなスターチスの花。この前話した時のことを覚えてくれていたのね』

それはどうやら日記のようだった。
では、この日記の持ち主はこの写真の女性だろうか。それなら、どうしてクロウリーが持っているのだろうか。クロウリーに引き取られてから彼の知人には何度か会ったことはあるが、この女性とは出会ったことはない。それに書かれている日付は私がクロウリーと出会うより前だ。
ここに書かれているディアというのは、やはりクロウリーのことだろうか。ディアと呼べるほどの親しい関係。1つの考えが頭に過るが、それを振り払いページを捲る。

日記にはたくさんのことが書かれていた。嬉しかったことや楽しいかったこと、家族や友達のこと、少しの悲しい出来事など。その中でもディアと呼ばれる人物との思い出が一番多く書かれていた。
読み進めて次のページを捲ると、何も書かれていなかった。代わりに一枚の写真が挟まっていた。先ほど見た女性とその隣にはクロウリーの姿があった。
やはり、この日記に書かれていたディアというのはクロウリーのことで、彼女の恋人だ。
そのことに少なからずショックを受けている自分がいる。クロウリーの年齢を考えれば、過去に恋人がいても当たり前だろう。しかし、こうして実際にこの事実を目の当たりにするとキツイものだ。
ただ、事態はそれだけではないと胸がざわつく。

その時、玄関のドアが開く音が聞こえた。急いで日記を戻して部屋を出る。そのまま玄関へ向かうとクロウリーがいて、「おかえり」と声をかける。いつものように笑えているだろうか。クロウリーは顔を綻ばせて「ただいま帰りました」と言う。
その後、夕食を食べる間も彼女のことが気になっていたが聞くことはできなかった。

入浴を済ませ、鏡台の前に座り髪の手入れをする。
引き取れられてまだ間もない頃、クロウリーは私の髪を綺麗だと褒めてくれた。彼の大きな手のひらで頭を撫でられるのが大好きで、髪の手入れは欠かさずするようにしていた。
鏡に写った自分を眺める。金色の髪に緑の瞳。彼女と同じ色をしている。髪は彼女より少し短いが容姿は少し似ていたなと思い出す。

『君の髪は綺麗ですね』

よくクロウリーが私に言ってくれた言葉だった。でも、それが向けられた言葉ではなかったら……嫌な考えが頭を支配する。
なぜ彼女の日記を大切に持っていたのだろう?別れたから?あんなにも幸せそうな内容だったのに?何か事情があるのだろう。例えば死別?だから、日記の続きが書かれていなかった。
クロウリーが時折、遠くを眺めていた瞳が陰っていたのはなぜ?よく魘されていたのはなぜ?
そういえば、なぜ私を養子として引き取ったのだろう?

もし、クロウリーが彼女と私を重ねていたら……

あれも、それも、あの時も、あの言葉も……完成前のパズルのように次々とピースが揃っていく。
その度に、彼に裏切られたように感じる。
綺麗だと褒めてくれたこの髪も今では忌まわしく思えてしまう。
彼に愛してほしい。彼女に似ている私ではなく私自身を。
それなら彼女の面影となる部分を変えてしまえばいいだけのことだった。しかし、その姿を見た彼はどう思うだろうか。彼女とかけ離れてしまった私に愛想をつかして見捨てられてしまうだろうか。それだけはどうしても嫌だった。

時間をかけてしていた髪の手入れを切り上げてベッドに潜り込む。
結局、思考が邪魔をして一睡もできずに朝を迎えてしまった。

◇◇◇

よく晴れた空の下、私は初めて彼女の墓の前に立っていた。

クロウリーはいつもこの日に休みを入れて1人でどこかに出かけていた。一度彼に尋ねたことがあった。その時彼は墓参りとだけ教えてくれた。今となっては彼女のだと分かる。
あれから、クロウリーに彼女のことは聞けなかった。聞いて杞憂で終わる可能性もあった。しかし、肯定されてしまえば、どうすればいいのかわからない。ましてや、今までの彼との関係が崩れてしまうのが怖かった。
しかし、どうしても彼女のことが気になって朝、一緒に行きたいと強請った。最初はクロウリーも渋っていたが強引に押し切ってついていった。
やはり、目の前にある墓石は彼女のものだった。
クロウリーは花束を置き、そのままじっと見つめていた。
置かれた花束に視線を落とす。スターチスの花。彼女が大好きだと日記に書いてあった花だ。あの日記でも、クロウリーは彼女にプレゼントしていた。今でも彼女のことが大切なのだろう。

こんなにも愛されている貴女がとても羨ましいよ。

帰り道。あんなにも晴れていた空は雲で覆われていた。
その時、クロウリーに腕を引かれて木陰で抱きしめられる。
突然の出来事に戸惑い、固まってしまう。一度離れようと身じろぎをすると視界の先に彼女の墓が見えた。
ああ、彼はまだ彼女が受け入れられていないのだろう。だから私を求めてしまったのかもしれない。彼女と似た容姿を持つ私を。胸にあった様々な感情が不思議と凪いでいく。

今のクロウリーは現実から目を背ける子どものように見える。彼の顔を上げさせ目を合わせる。仮面の奥の瞳は悲哀に満ちていた。
すると、唇を寄せられ、キスを交わした。
唇が離れるとまた抱きしめられる。先ほどより強く。今度は私も背中に腕を回して抱きしめて彼の耳元に口を寄せる。

「大丈夫……私がいるから……

私が彼女の代わりになるからーー



◇◇◇

『ねえ、ディア。やっぱりあなたの瞳は綺麗ね』

頬を撫でて微笑む彼女は慈愛に満ちていた。
そんな彼女と過ごす時間はかけがいのないものだった。
それが崩れ落ちたのは彼女の誕生日だった。
彼女への誕生日プレゼントを渡しに彼女の家に向かった時、そこで待っていたのは冷たくなった彼女だった。

彼女の葬儀が終わり、彼女の家族から日記を渡された。それは彼女がいつも楽し気に書いていたものだった。
彼女の日記には私と過ごした日々が書かれていた。とても懐かしい気持ちと彼女を失ったやるせなさ、怒りが私を支配する。
とはいえ彼女がいなくなっても私の日常は続いていく。慌ただしく過ぎていく日々の中で気持ちの整理がつけられないまま、季節は回り、彼女が一周忌を迎えた。
その時、出会ってしまった。

彼女とそっくりな少年に。

彼女の家に行く前に、夕焼けの草原の古くからの友人の家に訪ねた。相談があると連絡を受け、休みをとっていたこの日に予定を入れたのだ。暇を作ると彼女のことばかり考えてしまいそうだった。
きょうだいの多い家庭だが、多忙な両親は満足に子どもたちの面倒が見れないことに懊悩していた。彼らの話をきいていると、ノック音がして、1人の少年が部屋に入ってきた。金色の髪を揺らし、緑の瞳を輝かせた一人の少年が。
彼女を思わせる色を宿した少年と彼女を失った日に出会った。私はこの時、神がこの少年と彼女の代わりに、私のもとへ遣わしたのだと思ってしまった。

すぐに、この少年を引き取る手配をして、少年を我が家に迎え入れた。
少年の名前はルーク・ハントという。私はルークを我が子のように愛した。
だが、その過程で最大の誤算が起きてしまった。ルークが私のことを愛してしまったのだ。
いくら最愛の人に似ているからといっても親子として愛そうと決めていた。
しかし、ルークが成長する度に彼女に似ていき、健気に何度も私を求める姿を見ているうちにとうとう頷いてしまった。
ルークと彼女が別人ということは理解している。もちろんルーク本人を愛している。しかし、ほんの少し彼女と重なってしまう時がある。その時、本当にルーク本人だけを見て、愛しているのかと問われれば、それはもう分からなくなっていた。

◇◇◇

またあの夢だと目が覚める。冷たくなった彼女の夢。彼女が亡くなってから何度も見るそれは慣れることがない。特に最近はよく見ていた。彼女の命日が近いせいだろう。
隣に目を向ければルークがすうすうと寝息を立てている。そっと頬に触れると温もりを感じる。そのことに安堵していると、ふふと笑いながらルークがゆっくりと目を開けた。

「どうしたんだい?」

頬をすり寄せて笑うルークが彼女と重なる。

「すみません、起こしてしまいましたね」
「大丈夫だよ。それより顔色が悪いよ。何かあったのかい?」
「いえ、ただ夢見が悪くて」
「そうかい……眠れないなら温かい飲み物でもいれてくるよ」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。さ、寝ましょうか」

横になるとルークはもぞもぞと身体を寄せる。ルークの温もりが伝わる。
こうして何も言わずただ寄り添ってくれる優しさに救われていた。それと同時に言い知れぬ罪悪感に胸が締め付けられていた。ふとした瞬間に彼女を重ねてしまう後ろめたさがあるのだろう。心の中で謝罪をして、眠りについた。

それからしばらくして、ルークが彼女の墓についていきたいと言った。

◇◇◇

ルークと彼女の墓参りに行ってから3か月が経った頃、ルークの様子がおかしいと感じていた。
最初はなんだっただろうか。確かあれは、ルークと過ごす穏やかな時間でのことだった。
「飲み物を入れてくるよ」と席を立ったルークの髪がふと目に入った。ルークの髪が肩につくぐらいまで伸びていた。いつもはその長さになると髪を切っていたので何気なく聞いてみると、ルークは照れくさそうに髪を触りながら「少し伸ばそうかなと考えているのだけれど、長い髪は嫌いかい?」と答えた。
……いえ、君が伸ばしたいのならいいと思います」と返したものの、彼女と似ていると思ってしまった。

そしてある夜、ルークの部屋を訪ねた時、鏡台の前で髪を梳く姿に立ち尽くしてしまった。どうして彼女が目の前にいるんだ。一歩踏み出したところで彼女は振り返った。
「どうしたんだい?」と尋ねたのは彼女ではなくルークだった。そのことに背筋に悪寒が走る。あまりにも後ろ姿が彼女にそっくりだった。

もともとルークと彼女の容姿は似ていたのが、最近では、些細な言動でも彼女の面影を見ることが増えていった。
それが積み重なり、ある考えが過ぎった。
ルークが彼女のことに気づいたのではないかと。
一体いつから?彼女の墓参りに着いて行きたいと言った時にはもう……いや、それよりもっと前からかもしれない。それぐらいの時期にルークの笑顔に違和感を覚えた。

ルークに確認するべきだろうか。
もし、私の勘違いだったら、ルークを傷つけてしまうだろう。
もう少し様子を見たほうがいいと自分に言い聞かせるものの、嫌な予感は拭いきれなかった。

◇◇◇

「やめてください……

懺悔にも似た情けない声が口から漏れ出た。
ルークが新しく買った口紅が彼女と同じものだった。不確かだったものが確信に変わる。
嬉しそうに口紅を引くルークは彼女とそっくりで、耐え切れずついに言ってしまった。
それを聞いたルークはなんのことかわからないと首を傾げてこちらを見つめている。
揺れた髪は彼女と同じ長さまで伸びていた。

「何を言っているんだい?」
「彼女のこと気づいたのでしょう?」

ルークは「ああ」と遠い目をして呟いた。が、すぐに眉を寄せて申し訳ない顔をする。

「すまない。彼女にもっと似せたいのだけどね。彼女の情報が少ないから上手にできないだけなんだ。だから、彼女のことをもっと教えておくれ。そしたら、彼女になってみせるから、だから……

嫌いにならないでと消え入りそうな声で呟くルークは酷く歪んでいた。
ふっと力が抜けてその場に膝をつく。ここまでルークを追いつめてしまったのは私だ。ルークの優しさに甘えてしまっていた。
正しい親子としての愛情を注いでやることも、純粋にルーク本人を愛してあげることもできなかった。その結果がこれだ。どうすればいいのか、どう償えば……
そのとき顔を上げられ、頬に手を添えられる。それが記憶の彼女と重なる。

「ねえ、ディア。笑って」

微笑む恋人には以前のような面影はなかった。


◆後書き

・沸いてる炭酸
ナナシさんと楽しく、暗いお話を創作させて頂きました!クロルクを初めて描いたのですが、学園長が大変難しく、普段クロルクを描かれている方々を改めて尊敬しました……
クロウリーの元恋人のお墓を視界に入れながらキスを交わすルーク、悪い子で本当に好きですね。ですので、そのシーンを描かせてもらいました!ルークの髪の毛を褒める言葉や髪を伸ばすくだりも、私の好みドストライクです。好きしか詰まってません。楽しめる方は限られるかもしれませんが、私が何度だって読み返そうと思います!この度はたくさんお付き合い頂きありがとうございました。制作している間もとっても楽しかったです!

・ナナシ
ここまで読んで頂きありがとうございます。
とても好き嫌いが分かれる話になってしまいましたが、気に入って頂ければ幸いです。
今回、あまり書かないタイプの学園長を書いたので、とても難航しましたが、なんとか形になりました。
お相手の沸いてる炭酸さんには相談に乗ってもらったり、アドバイスを頂いたりして、たくさん助けていただきました。また、こんなにも素敵なイラストを描いて頂き、ありがとうございます!
この度は、ありがとうございました!とても楽しく創作することができました!


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