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被虐待児真月と保護人格ベクター

全体公開 遊戯王ZEXAL(Pixiv未UP) 1 6 4543文字
2022-03-11 00:03:00

「Ⅳ体目ギミパペ本」ネタバレ

【被虐待児真月と保護人格ベクターと漫画版璃緒】

真月零君は離婚した父親の方に引き取られていましたが、元々ネグレクトでろくな食事が食べれられず、服はいつも臭く、父の酒瓶の横でゴミを漁るように食い繋いでいました。いつ父の酒瓶が頭を殴り飛ばすか怯えながら。零は学校を知りません。ですが、たった一人の友達がいました。目を閉じれば会える、もう一人の自分。心の安寧のために自分で作り出した、強い強い自分、ベクターでした。
ある日、頭を酒瓶で殴り飛ばされ、割れた酒瓶と割れた頭で、アパートの階段下に転げ落ちた零は、真っ白な雪の中、真っ赤な血を撒き散らして空を見ていました。空は真っ青でした。青く青く、どこまでも高く在りました。ぼうっと、ふわりとした感覚のまま、真月は気を失いました。死んでいく自分を、ベクターだけが叫んでくれました。そうして、目覚めた時、そこは病院でした。通り掛かった通行人の通報があったのです。父は逮捕され、禁固になったそうでした。零は、もう生きていたくないな、と思いました。初めて優しくベッドに寝かされ、清潔な衣服に包まれて、とてもきもちがよくて、このまま眠ったまま起きたくないな、と思いました。
瞼を落とした零は、その夢をベクターに叶えてもらおうと思いました。自分は寝てしまおう、後は全部ベクターにしてもらおう、よかれとおもって、起きるのはぼくじゃなくてベクターですから、だいじょうぶ ぼくはもう、ずっとねてしまおう
そうして人格を放棄してしまった零に、ようやく人格を持ち始めたばかりだったベクターは戦慄しました。保護人格だったベクターには、まだ真月の身体を動かすほどの主導権がありませんでした。精神的昏迷で全く起床しなくなった真月は、ようやくありつけるようになったはずの飯を食いません、点滴がされていましたが、このままでは死んでしまいます。
小児外科にいた真月は、内科の長期療養病棟に移されることになりました。車椅子に乗せられて起きていないまま目を開けていた真月の身体は、そうして、璃緒のいる病室の前を通ります。
チカ、と目を焼いた紅い光は、何だったのでしょうか。真月はわかりません。考えません。真月は目を閉じました。そうして、その晩。眠っている自分を抱いてずっと何かを叫んでいるベクターの前に。
心の部屋。真っ暗な場所。真月とベクター、──ぼくたち以外、誰もいないはずのそこに。
お客さんが、やってきました。可愛らしい、女の子でした。
璃緒との邂逅が、真月の、そしてベクターの運命を動かしていきます。

肉体を動かすことのできないベクターも、この場所でだけは無敵です。ベクターは眠り伏したままの真月の頭を抱いて、余所者を全霊で威嚇して攻撃します。ここはベクターの領域、念じれば全てが吹き飛ぶ。けれども、女の子は、頬を切られてもそこから居なくなりませんでした。ベクターは戦慄しました。
「おい、てめえは何なんだ、何でここにいる!来んな、寄るんじゃねえ、触るな!!」
半狂乱で叫んだベクターに、女の子は、そっと、ベクターの抱く真月の頭を撫でました。撫でられたことなどなかった真月は、眠ったまま穏やかに表情を緩めました。ベクターは目を見開きました。女の子は、それから毎晩、ベクターと真月の元に現れました。
やがて、どんどん心を許していった真月は、璃緒の膝に抱かれるようになりました。
璃緒は、ペタンと座ったまま、そっと真月の頭を自分の膝の上に抱いて、ただただ、いいこ、いいこ、と撫で続けました。そして、『真月』が璃緒の膝に抱かれた朝、ベクターは、目覚めました。自分の両手を驚愕で見つめるベクターの、そう、この体は、真月の身体は、ベクターの物でした。
ベクターに身体を与えなかったのは真月でした。ベクターを片時も手放さなかったのは真月でした。璃緒という保護の元で安心して眠った真月は、それゆえに、ベクターは身体の自由を手に入れました。ベクターは、まず、与えられた食事を貪るように食いました。ベクターは生まれました。璃緒に守られ、真月は眠り、ベクターが、この世に生まれ落ちました。



◇ ◇ ◇


漫画版 ここは、バリアン世界が無い世界。
七皇がバリアン世界に縛られることなく、全員が生を全うし、人間の子供に転生した、本来あるべき姿の世界。

この世界で。
神代凌牙は孤児だった。


「席が逆なら、死んでたのは俺だった。頭から離れねえんだ、血ぃ吐いてじいっとコッチを見てた璃緒の顔が」

きっと俺を怨んで死んだ、と。
凌牙は片手で顔を覆ってうなだれた。


孤児院で生きるもう一人の神代凌牙。
彼のトラウマは、妹の形をしていた。




璃緒の肋骨の飛び出した姿と
口から流れる血と
呆然とした真っ黒な光のない目

それが、凌牙が最後に見た妹の姿だった。


両親、双子の妹と車に乗った凌牙は。
あの日、悪夢としか言いようのない、陰惨な事故にあった。

事故の直後。即死を免れた凌牙は、うろり、と目を開けて、璃緒がコッチを見ているのを霞む視界で見た。

ああ、りお、りお
おまえ無事だったか、り、お

そして、ハッキリと目を開けたとき。
目を見開いた凌牙は、絶叫する。

凌牙の方を、目を開けたまま凝視する璃緒の目は真っ暗で。
口から血泡を吹いて微動だにせず。
可愛らしいフリルの服から
真っ赤に、『白いもの』が飛び出していた。

肋骨だ。


「う、わああああああああああああ!!」


そして、病院に運ばれて即死が確認された、と思われた璃緒は。

e・ラーの手で連れ出され、死亡が確認された、とだけ凌牙に伝えられる。
火葬や埋葬、そういうものが欠けてることは、錯乱した幼い凌牙にはわからなかった。

璃緒は黒い瘴気に囲まれて、遠い病院でずっと意識不明のまま永らえていた。

どうして、どうして
なんで、迎えに来てくれないの、りょうが、りょう、が

魘されながら凌牙の迎えを待っていた
e・ラーによって狂わされたもう一人。

遊馬は父と母を、八雲の弟に呪いを、ハルトに呪いを、そして、凌牙には、璃緒を。

e・ラーは、アストラル世界の神官を穢すために全力を尽くした。
彼らの運命を歪め、絶望に落とすために、あらゆる手を尽くしていた。

光、空、地の神官の家族に呪いをかけていたe・ラーが、海の神官、神代凌牙の家族にだけ手を出さないはずがなかった。
この事故はすべて、e・ラーが仕組んだものだった。


非業の死を遂げた璃緒に、恨まれてると感じている。
それが凌牙の傷になっていた。
孤児院で周囲と関わらなかったのは、大切に懐に入れてしまったら、また、という恐れと、璃緒以外の誰かを大事にすると、璃緒を裏切る罪悪感があったから。
折れた心は、最後まで、凌牙を躊躇わせた。八雲とのデュエルで、カードを発動できなかったのは、迷っていたからだ。躊躇ったから、だから、タイミングを逃した。
そのとき、優勝に喜び光を享受し笑顔にあふれた八雲と子供達を見て、ああ、と凌牙は悟ってしまった。

これでよかった。自分は、この笑顔を奪う価値などない。
「俺の、弱さだ。それが八雲を追い詰めた。八雲を歪めちまったんだ」
「凌牙……
顔を覆う凌牙に、肩に手を置いて八雲は寄り添う。


父と母、双子の妹を交通事故で亡くし、天涯孤独な少年、神代凌牙と。
飛行機墜落で両親を失い、弟と生き別れた少年、八雲興司は。

孤児院で出会い、共に育ち、そして。
数奇な運命で、ねじれ、こじれた。

何の因果か、神代凌牙は、次元を越えた先でも、不正の烙印を負うことになる。



瑠奈を懐に入れてしまったのは、重ねてしまったからだった。
キツめのつり目に、物怖じしない強い視線の美人、強気の姿勢と一皮剥けば崩れる脆さ、とにかく瑠奈は璃緒にどことなく似ていたから、拒めなかった。

初めて凌牙が瑠奈を見た時、驚いていたのは、似ていたから。平静を取り戻したのは、別人だから。



潰れた車の中で、璃緒は俺に覆い被さってた。俺を庇ったんだ。

「たった一人の妹すら守れなかった。俺だけ無様に生き残っちまった。潰れ死んだのが、俺なら良かった。親父も母さんも璃緒の命すら踏み台に、俺は生き残っちまったんだ。幽霊が居るなら、どうして俺の前に出てきてくれねえんだ。なんで俺を取り殺しに来てくれねえんだよ、なんで、なんで、」

凌牙は勢いよく顔を覆う。
「璃緒!」
残った指輪は、二つ。

 



この世界の七皇は、アストラル世界からの転生者、だった。そして皆孤児。
神官である遊馬たちと運命が合流しないよう、e・ラーに歪められ結束したもう一つの神官達だった。
璃緒と五皇の絆は固く、璃緒を心の底から護ろうと思ってる。あのベクターでさえ、だ。

いや、彼のこの世界での名前は真月零。虐待から一時保護されて病院で璃緒と邂逅した、二重人格の少年である。
彼らの共通点は、難病や様々な事情で同じ病院に長期入院したこと。そして、特別室にずっと放置されて意識不明の璃緒と、夢の中で会った事がある、ということだ。
夢の中で、璃緒はいつも事故に遭った時の姿そのまま、つまり幼い9歳の子供のままだった。虐待された真月零、落馬で足を複雑骨折して危うく歩けなくなる所だったドルベ、野生の狸に噛まれて破傷風で生死の境を彷徨った喜楽、龍の幻を見続けて周囲と相容れずかんしゃくを起こし続け精神病を疑われて鍵付き病棟に入れられたミザエル、ボクシングの試合中に脳出血で開頭手術になり痺れが残って選手の夢を挫折しかけたアリト。皆、まだ10に満たぬ幼い頃、入院中に夢の中で璃緒に出会い、励まされた経緯があった。みんな、璃緒に恩義と憐憫を感じていて、e・ラーの手で目覚めた璃緒に付いてこのバリアン戦争に身を投じる。
既に彼女が璃緒でなく、e・ラーそのものであっても。




光の消えた瞳。真っ黒な空っぽの目をした璃緒が、目をかっぴらいたまま首を傾げた。
「どうして、幸せそうなの?どうして?
その女はダレ?わたしは、ずっと、ずっと、ずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと
ずっとーーー待ってたのに」



神代。
絶望の神、e・ラーの依り代、神代璃緒。生贄の巫女。

「どうして迎えに来てくれなかったの、どうして幸せそうなの、どうして?」

空っぽの瞳。
巫女は、e・ラーをその身体に降ろす。

e・ラーが滅ぶ時、璃緒の命綱もまた滅ぶ。
世界を滅ぼしながら、璃緒の延命に戦い続ける五皇。
世界に散ったe・ラーの欠片、アストラルから離れた石化の破片の争奪戦が始まる。

真月零、喜楽壮八 ギラグ、ドルベ、ミザエル、アリト、そして────神代璃緒。
璃緒を中心に集う五皇、いざ、漫画版バリアン大戦の開幕。


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