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洋菓子交差点

全体公開 1555文字
2022-03-11 19:35:03

柳生の場合

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Posted by @uk_plus_



「何故なんでしょう……何か不満なことでもあるのでしょうか……
「なんでもいいけどここは相談窓口じゃなくてケーキ屋だからな」

きっかりと分かれた茶髪の七三に、奥が見えない度の強い眼鏡を光らせて柳生は大きくため息をついたが、その場所は丸井が営むケーキ屋の店内だった。

「なんだって今、今日なんだよ……連絡くれたら夜にでも時間作るっての」
「今でないとだめなのです!それに夜に出掛けなどしたら彼女に寂しい思いをさせるではありませんか!」
「ああ……あっそ……

かける言葉も無い。そういった様子で、丸井は返事をした。時間は土曜の十時。サラリーマンをしているという柳生は休みだが自営業の丸井は通常日であった。そんなことも相まって、犬も食わないだろう夫婦のいざこざについて聞かされている丸井は、殆ど右から左に話が流れているのだった。

「んで!なに、なんでうちきたの……
「はい。ここは一つケーキでも買って彼女にプレゼントしようかと思いまして」
「ちょっと頬染めんのやめろよ」

いい歳の男が愛しい女性を思って頬を赤らめる姿は、懐の広い丸井といえども耐え難いものがあった。

「そもそもだ、原因はなんなんだよ」
「それが!」
「ひっ」

対処は原因が知れてからだと丸井が吐き捨てると、柳生の眼鏡がギラリと光ったようだ。詰め寄られた丸井が男らしからぬ悲鳴を上げれば、対面の柳生は強めに歯を食いしばり負けじと吐き捨てる。

「それがわかっていればこんなところに相談など来ません!」
「こんなところって……

腐っても自力で立ち上げた店を、こんな呼ばわりされては丸井も黙ってはいられなかったが、しかしそれよりも柳生の剣幕は鬼気迫るものが迫りすぎるほどあり、責める言葉が出なかった。

「じゃあなにか、わからねーうちに不機嫌になったってか」
「さっきからそう言ってるでしょう!」
「あんまでかい声出さないで……ほんと、真面目に聞くから……

そろそろ耳が疲れてきた。丸井がそう思ってようやく話を聞こうと姿勢を正した時だった。ピリリと響く音が、柳生の懐からした。失礼と一言断りを入れて、柳生はさっとその電話に目を向ける。そして気持ち悪いほどに満面の笑みを浮かべて、目にも止まらぬ速さで電話に出た。

「はい!名前さん!?」
「お、おい……
「はい、はい、いえ、そんな私こそ……ええ、ええ!?はい、はい!」
「や、柳生……?」

なんだろう、この変わり身の速さは。彼が店に入ってから一時間は経っていなかったが、丸井はいつも以上の疲労を感じていた。

「わかりました!すぐ、すぐ帰りますね!」

そう言ってやたらと優しく切られた電話の先には、どうやら件の奥さんが話していたらしかった。

「お、奥さんか……
「はい!なにやら私の誤解だったようです!」
「はぁ……
「今すぐ帰ると約束しましたので!すみませんが丸井くん!私はこの辺で!」
「えっ、お、おい!」

自動扉が開ききるよりも前に扉を通ろうとしたためか、柳生は盛大に硝子のドアに肩をぶつけていったが、気にしない様子で駆けていった。

……せめて買っていけっての」

散々話を聞かされた後に放り出された丸井は、口を尖らせて小さく呟いた。

しかしその数週間後に、また柳生がこの店に来店した。今度は奥さんと二人で。そしてにこにこ笑いながら子供ができたのだという報告をされたのはまたその時のお話。


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