冬が来ると思い出す。
美しい女神と過ごした輝かしい日々のことを。
ヴィル × not監♀ラブストーリー。
※not監の女性に名前と特殊設定あり
※捏造設定あり
※全年齢向けではありますが、身体の関係があることを匂わせる描写あり
@natsu_luv
アタシは冬の季節が好き。
空気が乾燥して肌がひりつく、風の冷たさで身体の芯から冷えてしまう季節でもあるけれど。
灰色がかった空から舞い降りる白い花と銀色に煌めく景色を見ると思い出す。
雪降る学園の中庭で出逢った女神と過ごした冬の日々を。
学園を離れた今でも、記憶が鮮明に甦ってくる。
その記憶は変わらずに、学園生活で得た輝く結晶となっている。
時はアタシが一年生だった頃まで遡る。
故郷の輝石の国ほどではないけれど、ナイトレイブンカレッジの中庭も白粉を塗ったような雪景色だった。
冬の冷たさが頬を刺す中、アタシは同じポムフィオーレ寮のルークと中庭を歩いていた。
身体が冷えてしまったから、早く寮に戻って温かいローズヒップティーでも飲みたい。
そう言いながら、鏡舎まで足を進めていた矢先のことだった。
「おや、今日は一段と景色が光って見えるね」
「そう? いつもどおりだと思うけど……あらやだ!」
ルークの言ったとおりだった。
雪に太陽の光が乱反射し、中庭の一角に光の粒が徐々に集まっていく。
集結した光がひとつの大きな柱を築き上げていく。
やがて、創り出された光の柱からひとりの女性が現れた。
銀色のまとめ髪に紅いリップ、豊満な身体に白銀のマーメイドドレスとガウンを纏った美しい女性だった。
彼女の目が開いた瞬間、アタシとルークは紫色の瞳の輝きに吸い込まれそうになった。
アタシたちの姿を目で捉えた彼女は、一歩ずつこちら側へと歩み寄ってきた。
「オーララ、まるで雪の女王だね!」
「あなた達、私の姿が見えるの……?」
「ええ、はっきりと見えるわ。ところで、あなたは一体誰なの?」
「私はスカディナ、冬を司る神よ」
ナイトレイブンカレッジの中庭に神が住んでいるなんて初耳だった。
アタシとルークは驚きのあまりに黙り込んでしまった。
冬の中庭に気まずい空気が流れようとしている。
なんとか気まずさを打破しようと、ルークが自己紹介を始めた。
アタシもルークに倣い、女神に自己紹介をした。
「あなた達に出逢えて嬉しいわ」
「私も貴女に会えて光栄だよ」
「冬が来る度にこの場所に降り立っていたけれど、今まで誰も私の存在に気付いてくれなかったの」
「そうだったの!? これだけ派手な登場の仕方だったら、誰か気付く人がいるでしょうに」
こんなにも美しい冬の女神が、今まで誰にも存在に気付いてもらえなかっただなんて。
アタシには甚だ不思議で仕方がなかった。
仕事柄、アタシはあらゆるタイプの女性と共演することが多い。
だけど、ここまで輝かしいオーラを纏っている女性を見たのは初めてだった。
アタシとルークは時間の許す限り、冬の女神と話し込んだ。
「たくさんお話ししてくれてありがとう。またあなた達に会えることを楽しみにしているわ」
「もちろんだよ!」
「えぇ、アタシもよ」
淡雪のような微笑みを浮かべ、女神は光の中へと消えていった。
女神の柔らかな笑みを見た瞬間、アタシの心に灯が点いた。
灯はゆっくりと心の内を暖めていき、雪解けのように初めて抱いた感情の塊を優しく溶かしてゆく。
ルークに呼び止められるまで、アタシはさっきまで女神がいた中庭の一角を見つめたまま佇んでいた。
ポムフィオーレ寮に戻った後、アタシはルークと温かいローズヒップティーを囲んで話をしていた。
話題はもちろん、中庭で出逢った冬の女神のこと。
アタシは冬の女神に抱いた自分でもよくわからない心境をルークに伝えた。
ルークは茶化すことなく最後までアタシの話を聞いてくれた。
「ヴィル、キミは恋をしているね」
「アタシが……恋をしているですって?」
「そう、はじめての恋をね。ヴィル、誰かに恋をすることは美しいことだよ」
誰かを好きになることは、人間としてごく普通の感情だ。
ルークが悠然とした微笑みを浮かべながらそう言った。
幼少の頃から仕事に追われていたアタシは、誰かを好きになるということを経験してこなかった。
周りの大人たちが異性と親しくしている光景は何度も見てきたけれど、自分がそうなったことは一度も無かった。
だからこそ、今のアタシは自分が抱えているものに対して戸惑っているのかもしれない。
しばらくして、アタシは自室へと戻った。
気付けばもう太陽が沈みかけていた。
窓の外を眺めながら、アタシはまた冬の女神に会いたいと願った。
願うだけでは終わらせない、アタシは冬の女神に会いに行く。
アタシはもう後戻りなんてしない。
だって、アタシは冬の女神に恋をしている。
アタシが初めて抱いた感情の正体は『恋心』だった。
今日のこの日から、アタシの初恋が始まりを告げる。
冬の女神と初めて会った日から少しばかり日が経った。
仕事や課題に追われていたから、平日は中庭に訪れる機会がほとんど無かった。
女神と出逢った後の初めての週末、自分の時間が出来たアタシはさっそく中庭を訪れた。
初めて女神と会った場所の付近でしばらく待ってみると、光の粒が雪に乱反射してきらきらと輝き出した。
段々と光の粒が一箇所に集まってゆき、その中から女神が姿を現した。
「また私に会いに来てくれたのね。嬉しいわ。あなたは確か、ヴィルだったわよね?」
「ええ、そうよ。スカディナに会いたくてここに来たの」
「ありがとう。せっかくだから、ゆっくりお茶でも飲みながらお話ししましょう」
女神がくるりと人差し指で円を描いた。
雪が積もった中庭の景色が徐々に変化してゆく。
アタシはあっという間に部屋の中へ導かれた。
アイボリーを基調とした壁紙、深い赤のベルベットのカーペットやブランケットが目を引く。
部屋の中には薪のストーブもあるから、空気全体が暖かい。
女神に掛けて待っているように言われたアタシは、羽毛に覆われたふかふかのソファに腰を掛けた。
落ち着いた雰囲気を醸し出すこの部屋は、どうやら女神の住処みたい。
部屋の中を見渡していると、女神が雪結晶柄のカップを持って戻ってきた。
「お待たせ。温かいローズヒップティーを持ってきたわ」
「ありがとう。アタシもローズヒップティーが好きなの」
「まぁ、そうだったの! 嬉しいわ」
女神が可憐な少女のように微笑んだ。
愛らしい笑みを浮かべる女神に釣られ、アタシも思わず顔を綻ばせた。
女神にアタシ自身のことを尋ねられた。
アタシは自分が俳優とモデルの仕事をしていること、同じ芸能界のライバルのこと、ポムフィオーレ寮に入ったこと、思い付いたことを差し支えのない範囲で話した。
「ヴィル、あなたは色んな人々を魅了しているのね」
「ありがとう。でも、アタシはまだまだ上を目指せるわ」
「そうね。こんなに美しい子ですもの。きっと、あなたは美の頂に立てるわ」
アタシの髪をそっと撫でた後、女神は包み込むようにアタシをそっと抱きしめた。
突然の出来事にアタシの心臓の鼓動が速くなっていく。
女神のドレスからふわりと漂う甘やかな薔薇の香りと体温がアタシに伝わっていく。
アタシは戸惑いと喜びに震える手で女神にぎゅっとしがみついた。
母親以外の女性に抱きしめられるなんて今まで経験したことがなかった。
幼い頃の記憶が蘇っていくような錯覚に捉われそうだった。
気がつくと、もうすぐ日の入りの時間が迫ろうとしていた。
「スカディナ、ありがとう。アタシ、そろそろお暇するわね」
「ヴィル、こちらこそありがとう」
「また会いに行くわ」
女神と約束を交わし、アタシは元いた中庭の一角の地に足をつけた。
その足でポムフィオーレ寮へと帰り、部屋でルークに今日の出来事について話した。
まだ身体に冬の女神の温もりが残っている。
「ヴィル、すっかり紅潮しているね。暖房の温度を下げようか?」
「だっ、大丈夫よ。ちょっと顔が熱いけど、なんだか心地良い気がするの」
アタシは敢えて火照った身体を冷まそうとはしなかった。
女神への恋情が心の中から身体中にまで伝播しているような感覚を失いたくなかったから。
就寝時間がやってきた時も、顔の火照りは未だに冷めていなかった。
アタシは心地良い火照りをそのままにしながら眠りについた。
女神に抱きしめられた日以降も、アタシは週末の空き時間に中庭を訪れた。
話の内容のほとんどがアタシの近況報告。
それでも構わないくらいに、女神とは充実した時間を過ごしていた。
女神と逢瀬を重ねる度に近付いてくる春の足音。
それは冬の女神との別れの兆しでもあった。
中庭に積もっていた雪が溶け出してほとんど無くなっている。
この日がアタシと女神との今年最後の逢瀬なのでしょう。
今日も女神に秘密の住処へ誘われた。
いつものようにソファに腰を掛け、女神がお茶を持ってきてくれるのを待つ。
「もうすぐ冬が終わるわね」
「そうね、スカディナともしばらくお別れかしら」
「ヴィル、あなたの言う通りよ。私は次の冬が訪れるまで違う場所へ旅に出るわ」
「ちょっと寂しくなるわね」
「ねぇ、ヴィル。お別れする前にあなたに特別な加護を授けるわ。こちらへいらっしゃい」
女神がアタシをベッドの方へと誘導していった。
誘われるがまま、アタシは深紅のベルベットのブランケットが掛かったベッドの上に座った。
ドラマや映画に出てくるラブシーンのような展開がこれから繰り広げられるのかしら。
そういった体験を一度もしてこなかったアタシは、動揺を隠そうと必死になっていた。
取り繕うとしている内に、女神がアタシの隣に座った。
そして、あの時と同じようにアタシの髪を撫でてぎゅっと抱きしめた。
「ヴィル、私の愛しい子。私と契りを交わしましょう」
「スカディナ……。アタシ、こんなこと初めてよ……? 本当に大丈夫なの……?」
「心配はいらないわ。私がしっかり導いてあげるから」
女神がアタシの耳元でそっと囁き、そのまま唇にキスをした。
アタシはファーストキスを冬の女神に捧げてしまった。
女神との口付けは甘やかで身体の芯から蕩けてしまいそうな心地がした。
力の抜けたアタシの身体は、雪崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
女神は照明を落とし、倒れ込んだままのアタシに口付けて制服のネクタイを解き始めた。
とうとう、アタシは官能世界の扉の向こうへと足を踏み入れてしまった。
アタシの『はじめて』は冬の女神に捧げられた。
何もかもが初めてでおぼつかないアタシを女神は優しくしっかりと導いてくれた。
世の中には不本意に初めての経験をしてしまう男も多いことでしょう。
それを考えると、アタシは随分と幸福だと思える。
目を覚ましたアタシはベッドから出て、服装と髪型を元通りに整えた。
アタシより先に起きていた女神がソファに掛けて待っていた。
女神はすくっと立ち上がり、アタシの方へと歩み寄ってきた。
「ヴィル、あなたにこれを授けましょう」
「これは……雪の結晶?」
「これは御守りよ。あなたが美の頂に立ち、気高く尊い存在となるように。そういった願いが込められているわ」
「ありがとう。必ず成し遂げてみせるわ」
「また冬が訪れたら、私に会いに来てちょうだいね」
「もちろんよ。約束するわ」
女神と強く抱き合った瞬間、景色が一気に真っ白になった。
ホワイトアウトを連想させる白いもやが晴れると、アタシは雪解けの中庭の地に足をつけていた。
ひとまず、アタシはポムフィオーレ寮へ戻ることにした。
抱きしめ合った時の温もりが未だに身体に残っていた。
自分の部屋に戻った後も、アタシはどこかうわの空で窓の景色を眺めていた。
冬の終わりに心にぽっかりと穴が開くことなんて初めて。
ぼうっと窓に映る景色を眺めていたら、ルークに呼び止められた。
「ヴィル、何か悩みごとかい?」
「冬の女神とお別れしてきたの。次に会えるのは来年の冬よ」
「そうか……。ヴィル、賢者の島にはこんな伝承があるみたいだよ」
「これは……神話の本?」
ルークがアタシに見せた茶色のハードカバーの本は、賢者の島の伝承や神にまつわる民話が綴られたものだった。
図書室でこの本を見つけた時、ルークはすぐにアタシに知らせようと思って借りてきたみたい。
読み進めていくと、賢者の島に降り立つ四季の女神のことが書かれたページにたどり着いた。
「女神と契りを交わした少年は、今後の人生で多幸に恵まれる……か。素晴らしいね」
「ルーク、実はアタシ……」
アタシは冬の女神と契りを結んだことをルークに話した。
アタシの『はじめて』を全て女神に捧げたことも何もかも。
最後まで話を聞いたルークは、絶対に口外しないとアタシに約束してくれた。
「キミの美しさは女神をも堕とすほどなんだね」
「そういうことにしておきましょうか。来年はさらに美しくなってみせるわ」
「キミなら出来るさ」
ルークが満面の笑みでアタシの背中を押してくれた。
アタシは冬の女神に選ばれた男、必ず美の頂にたどり着いてみせると雪の結晶の御守りに誓った。
それからは、勉学も仕事も美容も何もかも全力で取り組んだ。
そして、アタシは二年生に進級した時、ポムフィオーレ寮の副寮長に任命された。
進級してから月日が流れ、また冬の季節が訪れた。
アタシは女神との再会を心待ちにしながら、真っ白に染まった中庭に足を踏み入れた。
積もった雪に光が乱反射して輝き出す。
去年と同じような光景がアタシの目の前で繰り広げられていった。
集結した光の粒で創り出された柱から、再び女神が現れた。
女神は去年と変わらない美しい出立ちをしている。
「ヴィル、またあなたに会えて嬉しいわ」
「アタシもスカディナに会えて嬉しい! この時を待っていたのよ」
「ありがとう。嬉しいわ。ヴィル、去年よりも美しくなったわね」
「あら、そうかしら。ありがとう」
女神は柔和な笑顔を浮かべながら、アタシの髪をそっと撫でた後にぎゅっと抱きしめた。
女神からアタシに伝わってくる温もりも去年と変わらない。
抱きしめ合った後、女神はまたアタシを秘密の住処へ連れて行ってくれた。
ソファに並んで座りながら近況を話し、キスを交わした後はベッドで身体を重ね合わせた。
アタシは女神と過ごす時間を一分一秒も無駄にはしなかった。
二年生の冬も女神との逢瀬は続いた。
春が足音を立ててやって来るまで、アタシは自分の時間を女神と過ごすことにも割いた。
二度目の別れの前に、アタシは女神に誓いの言葉を告げた。
次に会う時には、ポムフィオーレ寮の頂点に立つ存在になってみせると。
月日は流れ、アタシは三年生に進級した。
ポムフィオーレ寮のしきたり通り、最も強い毒薬を創り上げたアタシは寮長に任命された。
とうとう、アタシはポムフィオーレ寮の最高峰に君臨することができた。
副寮長には長い付き合いで信用できるルークを指名した。
これからはアタシがポムフィオーレ寮を率いることになる。
美しき女王の奮励の精神を讃え、アタシは誰よりも美しく輝ける存在になってみせる。
そう思っていた矢先に、入学したばかりの新入生から喧嘩を売られたり、式の最中にモンスターが侵入してきたり、散々な目に遭ったけれど。
入学式でアタシに喧嘩を売ってきた新入生、エペル・フェルミエに手を焼く日々を送りながらも、アタシは学業や寮長としての仕事などに手は抜かなかった。
冬の女神の御前で立てた誓いを胸に秘め、アタシはさらに美しさに磨きをかけていった。
時が流れ、ナイトレイブンカレッジで過ごす三度目の冬が訪れた。
アタシは女神に初めて見せる寮長服を身にまとい、中庭へと足を運んだ。
今のアタシの頭上には黄金に輝くティアラがある。
このティアラはポムフィオーレ寮の頂点に君臨する者である証。
背筋を伸ばし、ランウェイを歩くように一歩ずつ冬の中庭へ向かった。
白い花々が舞い落ちる中庭の一角で、アタシは女神の降臨を待っていた。
真っ白な雪に光が乱反射する。
きらきらと輝く光が七色に映り、ひとつの場所へ集まっていく。
溢れんばかりの光の中からアタシの愛してやまない冬の女神が現れた。
さっそく、女神はアタシを秘密の住処へと導いてくれた。
今年もまた、冬の女神との逢瀬が始まる。
「ヴィル、今年もあなたに会えて嬉しいわ」
「アタシもずっと、スカディナに会いたかった!」
「あら、今日は初めて見る装いね」
「そうよ。ねぇ、スカディナ。アタシの話を聞いてくれる?」
アタシはポムフィオーレ寮の寮長となったことを女神に報告した。
ついに、美しき女王の奮励の精神を讃えたポムフィオーレ寮の頂点に立てたこと。
手を焼くほどの問題児である後輩がやって来たこと。
寮長に就任してからも自身の美しさに磨きをかけていること。
芸能界の仕事も順風満帆であることも思いつくまま話した。
「ヴィル、こんなにも美しくなって……。宝石以上に輝いて見えるわ」
「当然よ。だって、アタシは女神に選ばれた男ですもの」
「誇らしいわね、ヴィル」
「ありがとう。嬉しいわ」
アタシはそっと女神を抱き寄せ、紅い唇に口付けた。
初めて出逢った時よりも女神の姿が小さく映ったのは、アタシが心身共に成長したからかしら。
なんてことを思いながら、アタシは女神と目を合わせて微笑み合った。
夢中になって立ち話をしていることすら忘れていたアタシたちは、語らいの場をソファに移した。
アタシは女神がお茶を運んできてくれるのを待っていた。
ローズヒップティーの甘酸っぱい香りが部屋の中に漂う。
女神がご馳走してくれるローズヒップティーは、学園で過ごす三度目の冬でも変わらずに美味しい。
女神がエペルのことについて知りたいと言ってきた。
アタシは入学式の時のエピソードを織り交ぜながら、女神にエペルのことを紹介した。
「ふふっ、随分と面白い子ね」
「笑いごとじゃないわよ。本当にあの子には手を焼いてるんだから。せっかく恵まれた容姿をしているのに勿体ない……」
「その子のことを大切に思っているのね。実は私も四季の女神の中では年長の部類なのよ」
女神の言うとおりだった。
アタシはエペルのことを気にかけている。
今はまだお行儀の悪い問題だらけの子だけど、いつかはアタシの跡を継がせたいと思っている。
そのために、アタシはあの子に品性と美しさの中にある力を教え込みたい。
冬の女神が他の四季の女神のことについて教えてくれた。
彼女は明瞭な声で他の女神のことを紹介してくれた。
「どの子も本当に個性的よ。中でも夏の女神は私にとって妹のような存在なの」
「スカディナにとっての大切な存在なのね」
「ええ、そうよ。もしかしたら、あなたの後輩も他の四季の女神に選ばれるかもしれないわね」
「あら、それは楽しみだわ」
アタシの他にポムフィオーレ寮の寮生が女神に選ばれたら、ナイトレイブンカレッジのポムフィオーレ寮は女神に愛される城となることでしょう。
アタシが在学しているうちに、そういった奇跡が起こったら面白いことになりそう。
あれこれ考えながら、アタシは珍しく子供のように心を弾ませてしまった。
女神がアタシをベッドに誘ってきた。
アタシはティアラを外し、寮服の上着を脱いだ。
今のアタシは女神を満足させる手腕を身に付けている。
そっと女神を抱き寄せ、口付けを交わしてそのままベッドに倒れ込んだ。
幾度経験しても、冬の女神との契りはアタシに高揚感をもたらす。
久しぶりの共寝の余韻に浸りつつ、アタシたちは他愛のない会話を交わしていた。
隣で女神が恍惚を浮かべながら、アタシの顔を見つめている。
時計の針がそろそろ寮に戻る時間だとアタシに告げた。
アタシは服装を正し、帰る前にもう一度だけ女神に寮長としての姿をしっかりと見てもらった。
「本当に綺麗だわ。あなたによく似合ってる」
「ありがとう。スカディナのためなら、また寮服を着てこようかしら」
「楽しみだわ」
「またね、スカディナ」
女神と帰り際の挨拶を交わした後、アタシは元いたナイトレイブンカレッジの中庭の地に足をつけた。
白い綿雪がはらりはらりと舞い落ちている。
今はまだ冷たい空気が肌を刺すけれど、徐々に暖かくなっていくのでしょう。
気付かないふりなんて出来なかった。
今年の冬が女神と過ごす最後の冬であることに。
春の訪れが近付いてくることは、女神との最後の別れが近付いてくることと同じ。
四年生になると学外研修でナイトレイブンカレッジを離れるから、冬の時期に中庭を訪れることもなくなる。
だからこそ、今年の冬はより女神との逢瀬を濃密な時間にしようと心掛けていた。
学業や仕事に追われる日々も多かった。
それでも、アタシは女神との逢瀬に自分の時間を費やすことを惜しまなかった。
だけど、時は残酷なほどに春の兆しへと進んでいく。
刻一刻と迫ってくる春の訪れ。
白粉のように真っ白に染まっていた中庭も、だんだんと草木の色が見えてくるようになった。
気候も少しずつ温暖になっていき、雪の下で眠っていた花々も目覚めようとしている。
ある晴れた日、アタシは放課後に中庭へと足を運んだ。
学園の屋根や至るところに積もっていた雪は、跡形のなく溶けていってしまった。
足を踏み入れた中庭も春の景色へ変化しようとしている。
アタシはいつものように女神の降臨を待った。
「ヴィル、待っていたわ。さぁ、行きましょうか」
「ええ、わかったわ」
アタシはまた女神に秘密の住処へと連れられて行った。
この部屋に訪れることも今日が最後になりそう。
今日も今までと変わりなく、ソファに腰を掛けて女神がローズヒップティーを運んできてくれるのを待つ。
女神の住処で出されるローズヒップティーも今日で飲み納め。
ひと口飲んでから、じっくりと舌と喉で甘酸っぱさを味わう。
「ヴィル、冬の季節ももう終わりね」
「そうね、アタシたちが会えるのはこれが最後ね」
「……覚悟はできていたわ。あなたはこの学園の生徒だから、学園を離れる時が必ず来ると」
かすかに震えた声で女神がそう言った。
冬の間は一緒に過ごすことが多かったアタシたちだから、余計に寂しく感じてしまうみたい。
ソファに並んで座りながら他愛のない話をすることも、ベッドの上で身体を重ね合わせることも、何もかもが今日で最後。
時は止まることなく流れていく。
時計の針が進むたびに、別れの刻が迫ってくる。
アタシは女神と過ごす時間の一分たりとも無駄にしなかった。
気付けば最後の別れの時が訪れていた。
「ヴィル、あなたもまた巣立っていくのね」
「えぇ、その通りよ。寂しくなるけれど、アタシが成長するには、この別れを乗り越えないといけないわ」
「きっと、あなたは力強く羽ばたけるわ。宝石のように気高く尊い存在ですもの」
「スカディナ……!」
太陽の光を浴びた雪が溶けるかのように、目から涙がどっと溢れた。
女神はアタシの初恋の女性であり、冬の季節を一緒に過ごした大切な存在。
共に過ごした日々が充実していたからこそ、別れの時がより一層寂しい。
あまりの寂しさに胸が張り裂けそうで、アタシは子供のように泣いていた。
「アタシの故郷にも……雪が積もるの……。とても良いところよ……。スカディナもきっと気に入るわ……」
「素敵なところね」
「そうよ……。真っ白な景色を見たら……スカディナのことを思い出せる……。だから、アタシのことを忘れないで……」
「忘れないわ。ヴィル、あなたに出逢えて本当に良かった……」
女神は泣くアタシの頭を優しく撫で、あやすようにぎゅっと抱きしめた。
アタシの頬を伝う涙をそっと拭い、唇にキスをしてくれた。
女神の目にもうっすらと涙が浮かんでいた。
真珠のような涙をぽろぽろ流しながら、女神は少女のように微笑む。
柔らかな笑顔を見届けた後、光の粒を放ちながら女神は姿を消した。
七色の煌めきがアタシの周りを囲み、秘密の住処までも真っ白な光に包まれて消えていった。
これがアタシと冬の女神の逢瀬のフィナーレ。
気付けば、アタシはまた雪解けの中庭の地に足をつけていた。
「ヴィル、そこにいたんだね」
「ルーク……。あまり見ないでちょうだい。恥ずかしいわ」
「ノンノン、気にしないで。今は私とキミしか中庭にいないよ」
ぼうっと中庭の一角に佇んでいたアタシに、ルークが声を掛けてきた。
ルークは制服のポケットからハンカチを取り出し、泣き顔を浮かべるアタシに差し出した。
それから、ルークはアタシをかばうように寄り添って歩いてくれた。
鏡舎の近くにたどり着いた頃には涙も乾いていた。
ポムフィオーレ寮の自室に戻った後、アタシは雪の結晶の御守りを眺めながら女神との日々に想いを馳せた。
冬の女神と最後のお別れをして、数ヶ月の時が経過した。
太陽の光が色濃くなった緑を照らす、一年で最も暑い季節がやって来た。
アタシは今までと変わらず、学業と仕事に追われる日々を送っていた。
ある日、麓の街に出掛けていたエペルの姿を見かけた。
いつもの元気が良すぎるエペルから、アタシが感じたことのある空気が流れているように思えた。
その後、エペルはアタシに外出届を出してきた。
誕生日を迎える友人への贈り物を買いに行くためという理由だったから、アタシはあっさりと了承した。
それからも、エペルは何かしらの理由で麓の街へと出掛けるようになった。
もしかしたら、エペルの身に何か起きているかもしれない。
アタシに思い当たることはただ一つだった。
エペルの邪魔をしたくなかったアタシは、気付かないふりをして麓の街行きだけはあの子の好きなようにさせた。
夏の終わりが近付いてきた頃、エペルの顔つきが変わっているように見えた。
アタシはエペルに声を掛け、雪の結晶の御守りを見せながら自分の体験談を話した。
「ヴィルサンも僕と同じ経験をしたんですね。これは僕が夏の女神から貰った御守りです」
「あら、綺麗な貝殻ね」
「女神に選ばれた人間がポムフィオーレ寮に二人もいるなんて奇跡ですよね」
「そうね。エペル、これからも美しき女王の奮励の精神を讃えて自分を磨くのよ」
ポムフィオーレ寮から女神に選ばれた人間が二人も出てくるという奇跡を在学中に見られたことは実に幸運だった。
もうすぐアタシは四年生になる。
寮長の座をエペルに引き継がせたい、そう思ってアタシはさらに話を続けた。
契りを交わした後も何度か会ったこと、寮長になったことを報告した時に女神が自分のことのように喜んでくれたこと、他にもたくさん話した。
そして、最後はアタシからエペルに伝えたい言葉で締めた。
「エペル。女神はわざわざアンタを選んだのだから、それに恥じない行いをなさい」
「はい、寮長!」
力強く返事をしたエペルは、入学した頃よりも遥かに精悍な顔つきになっているような気がした。
アタシたちは女神から授けられた御守りに誓いを立てた。
その数日後、エペルは最も強い毒薬を創り出すことに成功した。
次期寮長の座は満場一致でエペルに決定した。
サマーホリデーを経た後、アタシは四年生に進級した。
寮長の座をエペルに継承し、アタシは学外研修のために学園を離れた。
数ヶ月の月日が経ち、ナイトレイブンカレッジを離れて初めての冬が訪れた。
アタシは得意科目である魔法薬学の知識を活かし、化粧品の開発をしている企業で研修に取り組んでいた。
芸能界の仕事と両立させながら、アタシは目まぐるしい日々を過ごしていた。
ある日、アタシは故郷である輝石の国を訪れていた。
真っ白な雪景色を見た時、ナイトレイブンカレッジの中庭で初めて冬の女神と出逢った時の記憶が蘇った。
冬は冷たい空気が肌を刺す、身体の芯から冷える季節。
だけど、アタシにとっては女神との輝かしい日々を過ごした記憶を呼び起こすことができる季節。
だから、アタシは冬の季節が好き。