@ameagari_fuhto
プロローグ 春の神社に探し者
春の日差しが眩しい史縫高原。
その中にある一つの神社、木野森神社。比較的広い境内は、隅々まで掃除が行き渡っている。
ここは当代神主の水夜岐とその巫女である狼月の二人が管理しており、先代神主である深淵夜花ミゾレと先代巫女の天之道水結も一緒に暮らしていた。
だけれど、今日は違った。
この神社の中には、私と狼ちゃん以外居なかった。本殿や拝殿、社務所に行ってもミゾレさんと水結さんが見当たらない。
しかも、出掛けるなどを書いた紙の見当たらない。いつもなら書置きくらいは残しているはずなのに。
「ねえ狼ちゃん。ミゾレさん達知らない?」
一応、狼ちゃんにも聞いてみる。
もちろん答えは――
「知らないが……」
だった。
おかしい。こんなことはなかったはず。もしかして……
「狼ちゃん。いくよ」
「え、ちょっと待て、いきなり襟元を掴むな!」
私達は、勢いよく神社を飛び出した。

第一章 雨水が流れる川
苔むした石を踏みしめながら川の周りを散策する二人。
天気は晴れ。草についた水滴が日の光を反射して、結晶のように輝いている。
この川は「神想川」と呼ばれており、木野森神社の境内を横切るように流れている。よく神霊が湧き出るため、
川の流れる音と風を身に感じながら、水夜岐はふと呟く。
「この前はここらへんに居たんだよねー」
昨日までいたミゾレさん達がいなくなったので、探すついでに狼月を連れて来た。
「本当か? 全然そんな感じがしないが」
疑問の言葉をぶつけてくるが、おそらく私の記憶に間違いはないだろう。
狼月の方を向いたとき、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おや。水夜岐と狼月じゃないか」
山に降る雨の神格化というの異名を持つ「木野山神高雨」。私の神社である木野森神社の祭神でもある。
いつもなら神社の中ににいるはずなのだが、今日はそこに居た。
少々驚きながらも、私はごまかすように言った。
「あ、タカオカミ様」
私の声に反応して、狼月も続けた。
「お久しぶりです」
さっき私が言った「タカオカミ様」というのは、信仰する人間がよく使う言葉らしい。私たちは、尊敬の意味もこめて「高雨様」ではなく「タカオカミ様」と、そう呼んでいる。
「何か用か?」
「ミゾレさん達ってどこに居ますか?」
「ミゾレ? ああ。知っているぞ」
驚いたように狼ちゃんも言う。
「本当ですか?」
「ああ。もちろん」
「……だが」
だが?どういう意味だろうか。
「私と勝負してからだ」
その声と共に弾が張り巡った。
撃破後
タカオカミ様も私達も、軽い気持ちで勝負に挑んでいたらしく、どちらとも、少し息が上がったくらいだった。
「やはりニ対一はキツいな……」
「で、ミゾレ達はどこにいるんですか?」
私がそう尋ねると、タカオカミ様は観念したように言った。
「あの道を進んで行ったぞ」
「ありがとうございます。じゃ、水夜岐」
狼ちゃんがこちらに顔を向け、私は頷いた。
「ええ。行きましょう」

第二章 水流紀行(草の生い茂る道)
二人は木野森神社から離れ、横に神想川が流れる道を進んでゆく。
草木は生い茂っており、ざわざわと音を立てながら靡いている。
「確かこの道だったよね」
私が聞くと、狼ちゃんは少し不穏な表情を浮かべた。
「ああ。そのはずだが」
それもそのはず。いくら歩いても一向にミゾレさん達が見つからないのだ。
道を間違えたか?と思い、引き返そうとした。
その時に、
「まさかここにいるとは」
「あ、久しぶり!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
第二十五代目の木野森神社神主の深淵夜花ミゾレと、先代巫女の天之道水結だ。まさしく、私が探していた人達だ。
嬉しさと呆れの気持ちが同時にこみあげてくる。
「元気にしてた?」
水結さんが顔を近づけながら尋ねてくる。
「つい先日会ったばっかりでしょ」
少し呆れ気味に言った。
するとミゾレさんが口を開け、
「だが、なぜここにいるんだ?」
と。もちろんその答えは明確で、
「ミゾレさん達を探すためです」
「探す?」
ミゾレさんは少し驚いたような声を出した。
「ええ。急に居なくなったからどこに行ったのかと」
「私たちはねー、あの山に行こうとしてたの」
水結は小さな指で私たちの神社が麓にある山――天津岳を指さした。
「あの天津岳へ?」
もちろん。と言わんばかりにミゾレさんが答えた。
「あそこに神社があるでしょう」
神社?と思いながら山肌を凝視した。
あった。確かにそこに神社があった。ただ、木に隠れて見えにくいだけだ。
「確かに……昨日までは無かったはず」
「今からそこに行くところだったんだー」
すると、ミゾレさんが口を開けた。
「……そうだ。こうしよう」
「うん?」
ミゾレさんが何かを思いついたようだが、狼ちゃんはきょとんとした表情をしている。私もそうだ。いったい何をするのだろう。
そう思っていると。
「私たちと勝負をして、あなた達が勝ったらあの神社へ調査しに行く」
「もし私たちが勝ったら私たちがあの神社へ調査しに行く。こうしてみないか?」
うん……私達本来の目的とは違うけれど、それはそれでいい暇つぶしになるかもしれない。
「いいね……そうしよう!」
私がそう言うと、すぐさま弾幕が張られた。
撃破後
勝負が終わると、ミゾレさんは地べたに倒れこんだ。
「負けた……」
勝った。これで二回目の勝利だ。
「じゃ、私たちが行く、っていうことで」
「頑張ってねー」
「ああ」
ミゾレさん達に手を振り、私たちはこの道をまっすぐ進んでいった。

第三章 妖しき鉱石(幻珠加工場)
草木の生い茂る道の先には、見覚えのある場所が広がっていた。高原に住む者にとっては馴染みのある場所。
この場所こそが「幻珠」というものを精錬している加工場だ。
幻珠とは弾幕を張る上でとても重要な役割を果たす物であり、所持者の魔力を増強させて弾を作りだすという効果がある。
「へぇ……この道からでもここに着くんだ」
水夜岐は草木をかき分けながらそう言った。
おかしい。水夜岐はよくこの場所に遊びに行ってるのに、なんでこの道を知らないのだろうか。
「知らなかったのか?」
「うん。いつもは違う道で行ってるから」
なんだ、道が違っただけか。
そんなことを少し話していると、
「おや。二人ともどうしたんだい?」
聞き馴染みのある声が聞こえた。
鉱石製錬師であり水夜岐の親友でもある鉱舞華。
この場所は、彼女がよく使っている場所でもある。俺も何度かこの場所へ来たことがある。
「ここから来るのは初めてじゃないか?」
水夜岐は久しぶりに会ったためうれしくなったのか、少し口調が明るくなっている気がする。
「そうだね。ここから来るのは初めて」
「で、どうしたんだ?」
疑問符を頭に浮かばせながら聞いてきたので、ミゾレさん達から聞いた「あの話」を尋ねた。
「天津岳の違和感について聞きたくて」
「天津岳?」
再び、舞華は疑問符を頭に浮かばせた。
「いや、私は全然感じないが」
「そう? じゃ、私たちは行ってくる」
ほぼ毎日天津岳の麓で作業している舞華でも分からないようだ。
水夜岐はそう言って、この場所から離れようとした。
「あ、そうだ」
急に、舞華が思い出したように言った。
「最近、新しい幻珠を作ったんだよ。だからさ、試させて」
舞華の周りに様々な色の石が漂い、一斉に弾が飛び出してきた。
撃破後
「くそっ……」
観念したのか、地面に座り込んでいる。
「それ、作り直したら?」
少しからかうように水夜岐は言った。相変わらず人をからかうのが上手いな。
一方舞華は水夜岐を睨みつけている。
「覚えてろよ……」
舞華の冷たい視線を横目に、俺たちは天津岳を登って行った。

第四章 結界的流域(天壌の滝)
天津岳を登り始めて数時間がたった。水夜岐たちは鬱蒼とした森を進んでおり、その足は疲労がたまりだしていた。
目的地に向かって進んでいるはずだが、いくら歩いても同じような景色しか見えない。
一歩一歩進んでいき、狼月はかすかな水の音に気が付いた。
「ん? ここにも川があったのか?」
以外だった。てっきりこの高原には神想川しかないのかと思っていたが、こんな山奥にも川があったのか。
すると、息を荒げながら水夜岐が答えた。
「そう……というか、ここは、神想川の上流」
「へぇ……こんなに長いのか」
てっきりそこらへんの泉から流れているものかと思っていた。
「というか普通すぐ分かるでしょ」
「まあそうだけど」
そう言った後、後ろから、
「ここに何か用?」
聞き覚えの無い声が聞こえたので振り返ると、見知らぬ顔が見えた。
白いドレスを身に纏った彼女は、この高原に似つかわしくない雰囲気を醸し出していた。
「天水分澪。神想川と機静川の分水嶺を管理する者よ」
天水分澪、か。聞いたことない名前だな。
「澪、か。いい名前だな」
「ええ。そうよ」
少しうれしくなったのか、自信満々に答えていた。
あ、一つ疑問に思ったことがあった。
「というか川って二つに分かれているんだな」
「知らなかったの?」
水夜岐が割り込んで話してきた。
「そりゃ知らないだろ。こんな山奥まで行くことなんてないし」
実際、機静川があるのは知っていた。
この山の北側に向かって流れている川だ。俺は元々その川が流れているところに住んでいたからだ。
だが、神想川とつながっていたことは知らなかった。もう少し早く気づけば、少し得したかもしれない。
「で、この結界を通らせてくれないのか?」
少し口調を強くして言った。気付くのが遅かったが、この川に沿って結界が張られている。この先に行かせないためにしているのだろう。
これを張ったのは目の前にいる澪の仕業としか考えられない。
「いやだ」
きっぱりと、そう言われた。
「何で?」
「何でって、そりゃあ……」
すると、澪は空をふわりと飛んだ。
小さな結晶を散らばせ、口を開けた。
「私を倒してから通ることね!」
撃破後
「負けた……」
勝負に負けた澪は川のそばで倒れこんでいる。どうやら力の差はこちらが強かったようだ。
澪の負けと共に、川に沿って張られていた結界も薄くなってきた。
「あ、結界も無くなった」
すぐさま、水夜岐は川にある石を器用に飛んで対岸へ足をつけた。
速いな。さすがだ。
「じゃあな」
狼月は澪に手をふり、水夜岐と同じルートを進んでいった。

第五章 鬱蒼とした森の川(天壌川 上流)
あの分水嶺より上は天壌川と呼ばれているらしい。水が澄み渡っており、所々に小さな川魚の群れが見える。
川の上流ということもあり、だんだんと石が大きくなっている。そのうえ苔も生えているため、とても歩きづらい。
本当にこの道で会っているのか心配になったのか、狼ちゃんが尋ねてきた。
「なあ、本当にこっちなのか?」
不安さが顔にまで現れている。
「私の直感が言ってる。絶対にこっち」
少し心配そうな顔をしていたが、私は構わず進んでいった。
私は私の直感を信じる。そうすれば目的地も見えてくるはず。
すると、
「この山に何の用があるのか」
声が聞こえた。
稲妻を生む神として名高い「大雷 耕樹」だ。
山に住んでおり、雷を鳴らして稲穂に実をつけることができる、という噂を聞いたことがある。
ゆっくりと近づいてきて、
「これ以上進んでも何もないぞ」
そう、言われた。
本当か、と思い付近の霊気の流れを探る。
……向こう側から漂ってくる。
だとすると、あいつが言っていることは嘘だ。これはこの先に行かせないようにするための嘘だ。
だから絶対にこの先に何かあるはず。
「この先に神社はないの?」
「一応あるが、お前らには関係ない」
「はぁ?」
しびれを切らしたのか、狼ちゃんも口調が強くなっている。
「今すぐ立ち去れ。以上だ」
そう言い放つと共に、無数の弾が飛び交った。
「何だと……」
悔しそうにこちらを見てくる。折角だから、カッコイイ雰囲気で終わらせよう。
「悪いわね。私たちは行く義務があるの」
「そんな義務ないだろ」
狼ちゃんがつっ込んできた。もう……
「せっかく良い雰囲気だったのにぃー」
結局カッコイイ雰囲気は崩れたが、水夜岐たちはそのまま進んでいった。

最終章 山に神は存在するか?(廃れた神社)
昼時の木漏れ日は参道を照らし、風は草木を靡かせる。
水夜岐と狼月の二人は、一歩一歩参道の階段を休みながら進んでいった。
数多もの階段を上り、ついに神社へと到着した。
「ついた……ここがあの神社か」
やっと目的地に着いた。長かった……。
「あ、ああ。……少し寂れているな」
狼ちゃんも息を切らしている。それほどまで疲れたのだろう。
「これってさ、もしかして昔からあったんじゃないの?」
この神社の古さといい参道の荒れ具合から見て、私の神社よりも古くからあったように”感じる”。
「だが、今まで全然気づかなかったが……」
その時、
「その通り」
声が聞こえた。さあ、顔を見せてもらおうか。
大山を守る神である「大山積 花峰」。
私の神社の祭神でもある。
やはりか。この霊気はオオヤマツミ様しかない。
「ここは木野森神社より前に存在していた。だが、我がこの神社を不可視にした。存在しているが目に見えない。そのような結界を張ったのさ」
自信満々に答えていた。
「なるほど……そういう結界もあるのか……」
狼ちゃんは不可視になる原理に感心している。だが、
「オオヤマツミ様。嘘を言わないでください」
この原理は嘘だ。”不可視”にさせるんじゃない。
「え、お前何言ってるんだ?」
「うん?」
狼ちゃんは驚いたような表情をしているが、私は、構わず続けた。
「この神社はただの幻想にすぎない。この場所は元々何もなかった。ただ、枯れ葉が積もっているだけだった」
私はこの場所の元の姿を知っている。
「だけれど、この場所は死者の霊が多く湧き出ていた。それを使って、この幻想を作り出していた。でしょ?」
私が言い終わると、オオヤマツミ様は感心したような表情を浮かべていた。
「……さすがね。当代神主の実力を見くびっていたわ」
「だが、どうやって死者の霊を使うんだ?」
まだ話を完全に理解していなかったのか、狼ちゃんはオオヤマツミ様に疑問をぶつける。
「簡単よ。”霊は脳に干渉する”ということを利用したのさ。霊をこの高原にばら撒くことで、ここに神社があるように見せる。それをしたの」
胸を張って答えていたオオヤマツミ様の言葉に、狼ちゃんはやっと理解したようだ。
「おい……それはヤバくないか」
「ええ。ヤバいわね」
その言葉を待っていたと言わんばかりの返事をした。
さあ、ここからは私たちのターンだ。
「だから、今すぐ解決しなくちゃね」
撃破後
勝負には勝った……のだが、オオヤマツミ様はまだ元気そうだった。
「さすが……私の神社の神主と巫女ね」
「いや……いくらなんでも強すぎでしょ……」
狼ちゃんは疲れたのか、地面に仰向けになって寝転がっている。
「ほら、狼ちゃん立って」
「あ、ああ……」
そのまま、私たちは幻覚の神社から去った。
天津岳から下山したとき、もうすでに暗闇が広がっていた。
私たちは何とか木野森神社へとたどり着いた。まだ明かりがついている。
「ただいまぁ……」
「今帰りました……」
「あ、お帰りー!」
疲れた目で水結を見てみると、そばには桜の木があった。
「夜桜……か」
「一緒に見るか?」
ミゾレさんは羊羹を頬張りながらこちらを見ている。
「ええ。そうさせてください」
少しきしむ縁側に座ると、桜が花を散らばらせた。
一瞬だけ、あの人のことが頭によぎった。

GOOD END A 春の桜に思いを馳せて
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