あなたは3時間以内に8RTされたら、喫茶店員と常連客の設定で受が片想いしているここのかの了遊の、漫画または小説を書きます。
#shindanmaker
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@d9_bond
※というわけで書いた話です
※構ってくれた方ありがとうございました<(_ _)>
※喫茶店員了見×常連客遊作(大学生)の現パロ
※無糖に近い
※文字数のわりに全然進展しない。片想いにはこぎつけたから許してください……
※2ページ目はおまけという名の補完
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春先の天気は変わりやすい。
いきなり降り出した大粒の雨に追い立てられるようにして、遊作は手近なビルの軒下に駆け込んだ。
大通りの裏道ということもあって同じ通りを歩く人は少なかったが、その人たちも遊作と同じく手近の店先に逃げ込んだり、手にした鞄を雨よけに小走りで去ってしまいすぐに通りから人はいなくなる。それを眺めている間にも雨であっという間に道路の色は変わっていた。
少し乱れた息を整えながら空をうかがう。雲は辺りを覆っているものの空はさほど暗くない。通り雨だろうとは思うが、止むまで多少時間がかかりそうだ。
どうせ今日の授業は全て終わっている。濡れるの覚悟で走って帰ってしまおうか、と遊作は少し考えた。しかし雨粒が大きいことから駅に着くまでにそこそこ濡れるだろう。コンビニでもあれば傘を買ってしまうところだが、ビルはオフィスビルのようで店舗らしい店舗は入っていない。
なおも迷って考えていると近くで足音が聞こえてきて、遊作は思考を中断してそちらを見た。分かりづらいが植え込みに隠れるようにして地下階へ続く階段があり、そこを誰かが上がってきたのだ。
何となく見守っていると、現れたのは遊作とさして年の変わらない青年だった。雨粒を気にする風でもなく、階段を登りきると足を止めて空を眺める。
すらりとした体躯を白いシャツと黒のパンツに包み、茶のカフェエプロンを着けている。遊作は知らなかったが下に店があるようだ。たしかによく見れば植え込みのそばに店名が入っただけのシンプルなスタンド式の看板が置いてある。
彼は雨の時間を計っているのだろうか。遊作がそのまま見ていると、何の前触れもなく彼はこちらを振り返った。
淡い青の切れ長の目に意志の強そうな眉、整った顔だちだ。
彼は遊作と目が合うと何かひどく驚いた顔をした。それはすぐに浮かべられた柔和な笑みに代わってしまったので、見間違いかもしれないが。
「こんにちは。急な天気ですね」
「……こんにちは」
知り合いだろうか、と遊作は反射的に身構えたが考えても見覚えはない。遊作の警戒を気にする様子もなく青年は、自身が今片づけようとしていた看板を示した。
「雨宿りされるならうちの店はどうですか?」
ぱらぱらと大きな雨粒はその間にも落ち続けている。そんな中で何事もないような笑みを浮かべているものだから、なんだか雨が彼をよけているようにも見えた。
とても不思議な印象で──普段ならば適当に断るところだが、遊作はつい頷いてしまった。
看板を手にした彼に続いて階段を降りる。
階段前に大きな空間があり、降りきると半地下のような状態で建てられているのだと分かった。店の前にも植え込みがあり、色とりどりのビオラが雨に濡れて揺れている。深い焦げ茶色の木製のドアには喫茶店と書かれたガラスがはめ込まれていて、OPENの札が下がっていた。開けるとドアに下がっていた鐘が乾いた音を立てて来客を知らせる。
青年は遊作へ、どうぞ、と先に入るよう促す。遊作はちょっとだけ戸惑ったものの、まあどのみち時間をつぶせるならたまにはいいかと敷居をまたいだ。
店員である青年の印象からカフェだとばかり思いこんでいたが、店内は喫茶店と検索したら真っ先に出てきそうなクラシックな空間だった。
天井からは優しい色のガラス灯が下がっている。片面の壁の天井際には明り取りの窓がはめ込まれていて、おそらく店員はそれで外の雨に気づいたのだろう。手前にはテーブル席、奥にはカウンター席があってカウンターにはぴかぴか光るガラスのコップやサイフォン、缶やカップが並んでいる。テーブルも椅子も使い込まれて艶が出ている木製のものでそろえられていて、壁には小さな絵がかけてある。
客はテーブル席に会社員らしい青年と、新聞を広げた初老の男性がいるだけだった。
店内には古い外国の曲が低くかかっているだけだ。穏やかで、埃の一つもなく、隅々まで手入れの行き届いた落ち着いた空間だった。
お好きなところへどうぞ、と言われたのでカウンターの端にかける。
店員は奥からタオルを出してきてくれたが、さすがに悪いので断った。バッグにフェイスタオルがちょうど入っていたのでそれで適当に頭や体を拭う。元よりそこまで濡れていない。
メニューをちらりと見てブレンドを頼み、店員がカウンターに戻ったところで遊作は小さく息をついた。
(こんな店、あったんだ)
目立たない立地で、値段的にもちょっと良いチェーン店と同じかやや高めだ。ということは自分と同じような学生は──特に、近場であっても同じ学校の人間はまずここへ来ないだろう。
(こういうのが隠れ家的な店というんだろうか)
ぼんやり考えながら遊作はカウンターの向こうを眺める。
カウンターは店内と同じく整えられており、器具や道具は色々あったがすべてがあるべき場所へ置かれている感じがした。奥の壁は半分飾り棚のようになっており、色とりどりのコーヒーカップが並んでいる。店員は並ぶカップの中から一客を選ぶとケトルを火にかけ、コーヒーの入っている缶を取り出した。
サイフォン式でコーヒーを抽出する、カウンター席からはその工程が良く見えた。長い指先が迷いなく器具を扱う様は職人めいた印象で、いいな、と思う。元より店内に満ちていたコーヒーのいい香りが一層濃くなって、遊作は深呼吸した。
出されたコーヒーは今まで飲んだもので一番おいしかった。
ゆっくり、少しずつ口にする。その間店内はやはりずっと静かで、時折食器の触れる音や新聞をめくる音がするくらいだった。外と時間の流れが違うと言われても信じそうだ。
「雨、もうすぐ止みそうですね」
店員の言葉にちらりと明り取りの窓を見やると、外は店に来た時よりだいぶ明るくなっている。
「そうみたいだな」
すっかりくつろいでいたが、雨宿りのつもりだったのだと思い出す。
カップが空になる頃には雨は上がっていた。
*
遊作が次にその喫茶店を訪れたのはそれから十日後の事だ。
大学の講義で討論だのグループワークだのが重なりその日はひどく疲れていた。遊作は他人と関わるのが苦手なのでほぼ気疲れだ。
幸い遅い時間の授業はなく三時前には学校を出た。早く帰って休もうとそれだけを考えて──だが駅に向かう道の途中でふと、あの妙に居心地のいい喫茶店を思い出した。
(この前の人はいるだろうか)
自分とそう変わらない年だろうが、あの静かな店に馴染んだ不思議な雰囲気の人だった。優しい人なのだろう、と思う。
(……いや、雨宿りを口実に新規客を呼び込む辺りはやり手なのか?)
それならそれで面白い。
一見するとただ懐かしい雰囲気の静かな空間のようで、その実徹底的に手入れされ、一杯のコーヒーを手間をかけて淹れるような店だ。そこの店員なのだから、一見すると物腰は穏やかでも裏にはなにがしかの強固な信条や信念があったって不思議はない。むしろ納得だ。
夕方まで休憩がてらあそこで時間をつぶして、駅前で軽く食べて家に帰ろう。そう決めて遊作は店に向かった。
店先には相変わらず花が揺れている。
そっとドアを開ければあの日と同じく小さな鐘が来客を知らせて、それに応えて奥から出てきたのも先日と同じ店員だった。
「いらっしゃいませ」
ちょっと目を細めて、お好きな席をどうぞと店内を示す。
今日の店内にはスーツ姿の青年が二人と初老の男性がひとり、テーブル席にばらばらに座っている。青年の一人はスマホを見ながら黙々とサンドイッチを食べており、もう一人はコーヒーを横にノートパソコンとにらめっこ。初老の男性は恐らく前回来た時もいた人で今日も新聞を読んでいる。
人がいるのにほぼ環境音しかしていない。
遊作はあまり考えず、カウンター席──前回と同じ場所に落ち着いた。店内もカウンター内の仕事も良く見えていい席だ。
ちらりとメニューを見て、ちょっと考えたがおいしかったので今回もブレンドを頼む。それからバッグを下ろして大きく息を吐いた。
意味もなく店内を見回す。よく見ると、店内に下がっているガラス灯は全部同じではなく、似たようなデザインで何種類かが混じって下がっている。何種類か数えようとしたのだが、疲れているせいか数えるたびに数が変わる。
「お疲れですか」
小さく問われて遊作は店員を見た。彼は取り出したカップを温めているところだ。
「……まあ」
戸惑いながらも頷く。
会話はそのまま切れて、どういう意図だったのだろう、と思ったもののすぐどうでもよくなって遊作は考えるのを止めた。そのまま店員がコーヒーを淹れるのをぼうっと眺める。
(それにしても、どうしてこの店は人が少ないんだろう)
丁寧な仕事から提供されるコーヒーは、普段意識したことのない遊作にすら分かるほどはっきりとおいしかった。店員の対応も丁寧で店も雰囲気が良く申し分ない。立地には難があるが、周辺にオフィスが多いのだからビジネスで使ったり、コーヒー愛好家の口コミでそれなりに客が付いてもおかしくなさそうなのだが。
(俺がたまたま空いてるときに来ているだけなんだろうか)
行儀悪く肘をついて遊作はロートをセットする店員の手元を眺める。少し眠たくなってきた。フラスコの底で揺れるバーナーの火を、湯が上がっていくのを意味もなく見守る。目盛もないのに正確にカップ一杯分のコーヒーが出来上がるのは経験みたいなものなのだろうか。
眠い目のまま、遊作は店員の所作を見ていた。長い指がきれいだと思う。あまりじろじろ見るのも失礼だったろうが彼はさして気にする様子もなく、遊作の目線に気が付いても「サイフォン式はこの辺りではうちだけですからね」と慣れた様子だった。
出来立てのコーヒーと、続けて砂糖とミルクを遊作の前に並べた後で彼は砂糖の入った陶器の壺に手を置いた。指先の短くそろえられた爪がきれいに磨かれているのが目に入る。
「この砂糖ですが、コーヒーに合うように作られたものでして」
「コーヒーに」
特定の目的で作られた砂糖というのは初めて聞いた。意外に思って目を瞬く。
「疲れたときには甘いものといいますし、よろしければどうぞ。たまにはいいものですよ」
ごゆっくりどうぞ、と微笑して店員は戻っていった。
遊作はせっかくの勧めなので砂糖壺の中を覗いてみた。不揃いな明るい褐色の砂糖の塊がごろごろ詰まっていて、ちょっとにおいをかいでみたが普通の砂糖との違いはよく分からなかった。ミニトングでひとつ、コーヒーに落とす。
ぐるりと混ぜて一口飲んでみるが、甘みは仄かだ。味見しつつ二つ追加してみるとちょうどいい甘さになった。
コーヒーとの相性については普段砂糖を使わないからよく分からない。砂糖が香りを損ねることもなく、また甘いコーヒーというのも案外おいしくて、遊作はそのままのんびり味わう。ここにきてようやく肩の力が抜けた気がした。眠気の残滓はあるが、一息ついてガラス灯をもう一度数えると今度はちゃんと五種類と数え切れた。砂糖のおかげでいくらか回復したのかもしれない。
それからふと、気が付いた。
(『たまにはいい』──か。俺が普段からブラック派だとよく気づいたな)
付け加えれば遊作が店に来たのは今日が二回目だ。つまり一回来ただけの客の顔を覚えていて、おまけにその一回でどういう理屈だか遊作の嗜好を見抜いていたわけだ。
(別に意図した言い回しではなかったのかもしれないが……それはさておいても、気遣ってくれたのは間違いない)
やはり優しい人なのだろう。少なくとも商売とはいえ客の様子をよく見ていることには違いない。
遊作はそのまま、おかわりを挟みつつ店員の仕事やほかの客を眺めたりして夕方までゆっくり過ごした。
*
その日以降、遊作は店に通うようになった。
この前のように疲れた時も、ただ時間を潰したい時も、一人になりたいだけの時も使えるとてもいい場所だと気が付いたのだ。
店にはいつ行ってもあの店員──四度目に行った際に初めて気づいたが名札に「鴻上」とあった──と、新聞を読んでいる初老の男性がいた。五割くらいでノートパソコンを叩く青年もいた。常連ということだろう。だが常連だから、顔を覚えたからと言って何か言葉を交わすということもなかった。
そして鴻上は店の事も客の事もよく見ているようだった。いつも店は隅々までぴかぴかで整っていて、店内の空気は落ち着いていた。
カウンターを陣取るせいか彼は遊作にはしばしば声をかけてきたが、煩わしく感じることは全くなかった。むしろコーヒーをはじめとする遊作の知らない話を色々きかせてくれて楽しいくらいだ。付け加えると、遊作が一人になりたがってここにきている時はほとんど話しかけてこないあたり、本当に客をみて配慮をしてくれていると感じた。
そうして通ううちに遊作も分かってきた。
この店を愛する人たちは、たぶんこの店がこのままであってほしくてことさら宣伝するようなことをしないのだろう。遊作も、仲の良い幼馴染に近況ついでに話した程度だ。店側としてはあまり歓迎できない話かもしれないが、変に有名になったりして人が大勢おしかけてしまったら今まで通りの楽しみ方はできなくなるだろうことは明白なので。
*
そうして──喫茶店に通うようになって三か月ほど過ぎたある日のことだ。
その日、遊作は多少落ち込んでいたため、一休みのつもりで店へ入った。
この場所があってよかった、と遊作はカウンターのいつもの端を陣取る。以前ならばもやもやした気持ちを引きずりながら数日過ごしていた。だが今は違う。この店はいつも静かで平穏でどこまでも整っていて、同じ温度で迎えてくれる。その居心地のよさは多少の憂鬱など簡単に拭ってくれると遊作は知っていた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
この人もだ、と注文をとりにきた鴻上に挨拶を返しながら遊作は無意識に表情を緩めた。商売だからだろうが、いつも丁寧ながら背筋を伸ばした立ち姿の美しいこの店員の穏やかな声は、不思議な安心感を与えてくれる。
「今日は、良くないことでもありましたか」
遊作の様子に何を見て取ったのやら、鴻上はいつもの手際の良さでコーヒーを淹れながら尋ねてきた。
「合コンに誘われて」
「行くのか?」
ため息交じりに告げたところやや食い気味に問われて、遊作は少し驚いた。遊作の様子に鴻上もらしくなかったと気が付いたようで、小さく咳払いする。
「──大変失礼致しました。立ち入ったことを」
「別に。それに誘いは断った」
意外に思いながら首を振る。興味があるのか問えば向こうもあっさり首を振った。
誘ってきた相手はいくつか授業が重なっててたまに話すくらいの間柄だが、大勢で集まって騒ぐのが好きなタイプなので正直相性は良くない。向こうはそこまで思っていないらしく、声をかけてくれたようだが。
「とにかく、俺は正直そういう場は苦手だしそもそも恋愛について興味が薄い。恋もしたことがないんだが……それはおかしいと言われてしまった」
遊作は色恋沙汰が良く分からない。
恋愛の一般的な意味なら理解している。誰かを特別に愛しく思う気持ち。だが遊作は、例えば大切に思う存在なら幼馴染たちや保護者代わりの面々が浮かぶが恋愛となるとまるでぴんとこない。不便も何もなかったから気にしてこなかったが、面と向かっておかしいまで言われてしまうととても悪いことのように思えてしまった。
「色々考えて、少し塞いだ気分になっていたんだ」
「そういうことでしたか」
鴻上は手元に目を落とした。フラスコに湯を入れ、ついた水滴を真っ白な布巾で丁寧に拭いながらやや低い声で言う。
「少し強い言葉を使う方のようですね」
「そうかもな。悪気はないみたいなんだが」
言われたときの語調から、ニュアンス的には変わったやつだな、くらいの感覚だったろうとは遊作も分かっている。自分が勝手に引っかかっている自覚はあったが、気落ちは止められなかった。
そんな遊作へ、私見ですがと鴻上は口を開く。
「……そういう気持ちは自然なものですから無理に興味を持つ必要はないと思います。恋をしたことがない、というのもそういう方に出会っていないだけかもしれません」
確かに、遊作はさほど多くの人とは交流していない。機会がなければ何も起こらないのも道理だ。
「それに──そもそも恋愛感情というものが希薄だったりなかったりする方もいます。でもそれはその方の個性であって、矯正したり強要するものではありません」
「おかしくはない?」
「はい。恋をしないから愛を持たない、情がないということでもありませんし、気にされなくていい事ですよ」
「そうか……」
どこか言い含めるような柔らかだが力のある声音のせいか、その言葉で遊作は随分と楽になった気がした。
(……鴻上さんは俺を宥めるのが上手いな)
自然と口の端があがる。今日ずっと否定されたような気持ちでいたので、彼の優しさに触れるのは本当に快かった。
そんな遊作を見てか、鴻上もまた微笑する。
──そうして、
(あ、れ)
ふと気が付いて、遊作は目を瞬いた。彼のみせた笑みに──というか、人がそういう顔をする時に覚えがあった。
ロートで二度目の撹拌を終え、落ちるコーヒーをじっと見つめるその整った顔を見る。
「鴻上さんは、今付き合ってる人はいるのか」
プライベートに突っ込むような真似、普段ならしなかった。いや、気にすらしなかった。
ただこの時はなぜか、何も考えずほとんど反射的に尋ねていた。幸い鴻上の方は気を悪くするでもなく穏やかにいいえと首を振る。
「恋をしたことは?」
重ねて問えば、少しの間の後鴻上は小さく頷いた。
「小さな頃によく遊んだ幼馴染かな。大きな目で元気な、強くて優しい子でした。引っ越しで別れて以来会っていませんが」
初恋というやつですねと浮かべられた微笑にひどく甘いものが混じる。
「もう随分前ですが、忘れられない存在です」
「それは、忘れられないというのは、今も、か? もしその子が大きくなって再会したら……好きになるのか?」
「かも、しれませんね」
遠い日の存在を懐かしむように目を細めて、鴻上はフラスコからカップへコーヒーを注いだ。
「そうか」
遊作は目を伏せた。
(いいな)
ぽかりと浮かんだ言葉の意味は遊作自身にも分かりかねた。彼が自分と違い大切な想いを持っていることを羨んでいるのか、あるいは。
(……バカなことを。あるいは、なんだっていうんだ)
出されたコーヒーはいつもと同じはずなのに、なぜだか少し苦く感じて遊作は砂糖を手に取った。
(おまけ)
※行間の話
※尊くんと仁くんは遊作の幼馴染
※ということで捏造仁くんがよく喋る
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遊作が最近喫茶店によく行くと話し出した時、尊と仁は驚き顔を見合わせた。
遊作と尊、仁の三人は世間でいう幼馴染の間柄で、その付き合いは遊作が転校してきた小学校の頃から中高を経て現在まで続いている。高校卒業後は仁は隣県の大学へ、尊と遊作も同じ大学へ進学したものの学部が違ったため昔ほど三人で顔を合わせることはなくなったが、時間が合えばよく集まった。
今日も三人の休みが合ったため、遊作の家に集まってカードゲームなどしつつ近況を話していたところで──ただ、いつもなら話すのは尊と仁が主で遊作は聞き手に回ったり二人に問われて話すことが多かった。寡黙ではないが自分のことを積極的に話すタイプではない。
そのため話を振ったわけでもないのに自らプライベートの話をしだしたのはほとんど初めてといってもいいレベルだった。
「それって、個人ブログとかの喫茶店巡り、みたいにあちこち行くやつ?」
「いや。とても雰囲気のいい店を見つけたんだ。そこによく行っている」
「あー、そういうことか」
遊作はその店が相当に気に入っており、誰かにその店の話をしたいのだろう。
これは何かある、とみた尊がちらりと仁を見ると同じ事を考えていたらしく仁も小さく頷いて同意を返した。そうでなくともこの物静かな幼馴染が足繁く通う店がどんなものか気になったのもあり、二人は続きを促した。
「結構人気のとこ?」
「目立たないが昔からある所だ」
「そっか。喫茶店、てことは最近よくあるカフェとかじゃなくて本当の意味で喫茶店て感じ?」
「ああ、そうだな。本格的というか──あそこで飲むまで俺は、コーヒーがあんなに美味しいとは知らなかった。いい店だと思う。雰囲気も落ち着いていて居心地が良いんだ」
遊作はそう言って、ふと微笑した。
「それに、店の人がとても感じが良かった」
べた褒めだ。
いい店を見つけたねと尊が感想を述べると遊作は自分が褒められたかのように嬉しそうな顔をする。
「……本格的なところって、カウンターとかで豆ひいたり淹れるとこみせてくれる店あるけどそういうやつ?」
「ああ。カウンターに座るとまさにコーヒーを淹れる工程がちょうど見えるんだが、それを見ているだけで楽しい。店の人が豆の話なんかもしてくれて、それを聞くのも面白いんだ」
「挽きたてのコーヒーっていいよね。兄さんがたまにやってるけど香りから違うもの」
「僕はあんまり詳しくないけど、前テレビで見たときはビーカーみたいのでなんかやってたけどそういうやつ?」
「尊が言ってるの、サイフォンのこと?」
「俺も詳しくはないが、それのことだと思う。そういう専門器具の扱いも目新しいし、手際がいいというか仕草とか洗練されていてずっと見つめてしまう」
「その店員さんて、結構年上? ベテランって感じ?」
「俺たちより年上とは思うが、そこまで離れてもなさそうにも見えるな」
「美人?」
「どうだろう……そういうのはよく分からないが、所作が丁寧で話し方も落ち着いていて、俺はとても良い人だと思った」
尊は仁と、もう一度目配せした。これはおそらく。だが自覚はなさそうだ。
店員さんの感じがいいと居心地が良いの分かるよ、という仁の感想に遊作はまた嬉しげに同意した。
「いやー……あの遊作がなあ」
「びっくりしたね……」
遊作の家を出て、並んで帰り道を歩きながら尊と仁はそろって言った。
というのも遊作は昔から人付き合いを苦手としていて、いつもどこか周囲から一歩引くような面がある。気を許している尊や仁、二人の家族に対しては普通にやり取りできるので警戒心が強いともいえるだろうか。
ともかく本人は真面目で優しいのだが無愛想だの生意気だのと誤解を受けることも多く、そのせいもあって積極的に他人に関わったり好意的な話をするなどまったくなかったのだ。二人にとっては青天の霹靂、頭でも打ったのか遊作、というレベルだ。
「まあでも年上ってのは納得かな。遊作って冷静なようで無鉄砲なところあるし相性良さそう」
「そうだね。ただ店員さんとお客さんだと、けっこう難しいところだよねえ」
「あー、それはあるかもな」
ひとまずは余計な詮索をせず様子を見ようと二人は決めて、その日は別れた。
*
それからしばらく尊は仁と共に遊作の様子をうかがっていたが、彼は無自覚にその喫茶店──の店の人にご執心のようだった。
「名前は鴻上さんというそうだ。似合っている」「オーナーが親御さんだそうだ」「勧められて食べたがワッフルもおいしかった」「二つしか歳が違わなかった」「俺が好きそうだからってわざわざ豆をとっておいてくれた」等々、ほかに話す人間がいないせいか逐一報告してくる。
そのため一度も店に行ったことがないのに、二人はその鴻上さんとやらの情報がやたら増えていった。
「尊、聞いた? 遊作が喫茶店代稼ぎたいって兄さんの店でバイト始めたの」
という仁からの電話があったのは、遊作の喫茶店通いが分かってひと月ほどしてのことだ。
「うん。心配されて翔一さんに逆に聞かれちゃったよ、遊作に悪い仲間でも出来てたかられてたりとかしてないかって」
「今まで物欲とか発揮してきたことなかったからね……」
「極端なんだよな、遊作。これって目標決めたらつっこんでくから」
そもそも自分で小遣いを稼いでその分で行動しようというのだから、何も悪くはないことなのだが。
「というか『鴻上さん』の方は遊作の事どう思ってんだと思う?」
「聞いた感じ常連の多い店みたいだから、傍から見たら常連が一人増えただけなんだろうけど……話聞いてると、けっこう優遇というか構われてるっぽいよね」
「それさ……仁は知ってる? こないだのグループワークの件」
「聞いてない。なに?」
「僕、全部終わってから遊作から聞いたんだけどさ──」
遊作の話によると、先日学校のグループワークで何やら失敗したらしい。だが件の鴻上さんが話を聞いてくれて励ましてくれた上、助言までくれたそうだ。
今までならば尊や仁、もしくは仁の兄に相談しに来ていたところが、だ。
「──てことで、完全に失敗より『鴻上さん』の話のついでで出たんだよねこの話」
付け加えるともらった助言のおかげで色々うまくいったらしい。
「ぼくたち飛ばして相談してたのはちょっと寂しいけど、それはそれとして。話だけ聞くとすごく優しい人なのか、遊作に好意的なのか微妙なラインだね」
「年上だし、弟か何かみたいに思ってのガチ親切だったら肩透かしどころじゃないよな」
「遊作に自覚ないまんまだから、余計に微妙なのがまた厄介」
「……」
「……」
「まさか、遊作がこういう心配かけてくるとかなぁ」
「予想もしなかったね……」
*
そんなこんなで基本的に見守るつもりではいたので、尊と仁が件の『鴻上さん』と対面したのは遊作から初めて話を聞いてから三か月以上たっての事だった。
言い出したのは尊で、遊作には「そんなにいい店なら一回行ってみたい」という建前を挙げていたが、実際は敵情視察だ。
実のところ遊作はもう子供でもないし本当に困ったり悩んだりすれば二人か、でなければ仁の兄辺りに相談するだろう。そういう判断はできるし、本来なら彼の憩いの場には足を踏み入れない方がいいと思って我慢していた。だが、あまりにも遊作が話を繰り返すものだから実物と会ってどいういう人となりか見たくなったのだ。
その日遊作に連れられ店を訪れ初めて『鴻上さん』を目にしたふたりは、口に出しはしなかったもののその美貌に驚いた。そういえば遊作は人の美醜がよく分からないと言っていたことがあった。分かっていないから触れられなかったのだろうが、改めて遊作は人という存在に興味が薄い。
ともかく、それ以外のきれいな姿勢や穏やかな語り口、洗練された所作は聞いていた通りだった。
「ご友人ですか」
「幼馴染なんだ」
水を出しながら尋ねる鴻上に、遊作が頷く。続けて挨拶されて尊は仁と一緒に小さく頭をさげた。同時に、尊は自身に向けられたどこか剣呑な気配の視線を見逃さなかった。一瞬の事だったが。
(……絶対なんか品定めされてた)
半目になる。
仁も気づいたようで、注文を取った鴻上がカウンターに戻ったのちに二人は顔を寄せた。
「どう思う?」
「気のせいじゃないと思う」
ひそひそ言葉を交わす二人に、疑問符を浮かべた遊作も顔を寄せる。
「二人ともどうした?」
身を乗り出すものだからテーブル越しに三人でくっつくみたいになっている。
「なんでもない」
「なんでもないことはないだろう」
なんと誤魔化したものかと尊が唸る。その横で仁はカウンターからの視線を感じてちらりとそちらを見た。
(ものすごくこっち見てるな、鴻上さん)
仁も半目になった。
「尊? 仁?」
「……なんていうか、僕たちすごい取り越し苦労してたんだなって感じかな」
「同じく」
二人は同時にため息をついて、ソファに背を預けた。取り残された形の遊作がちゃんと説明しろと不機嫌そうに眉を寄せる。実際、一切合切説明した方がきっと色々早いが、それはさすがに野暮というものだ。
「そっか。この店って言ってみれば遊作のとっておきの隠れ家みたいなところだもんね」
「そんなところに連れてくるような存在が……ってとこか」
「本当に、何の話だ?」
「そのうち分かるよ」
やや投げやりに言って、とりあえず尊はテーブルの水を口にした。