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越知は見ていた

全体公開 12 1401文字
2022-04-11 20:24:56
Posted by @uk_plus_



 ぐらりと視界が揺れたのをきっかけにおかしいと気付くのは遅すぎたらしい。大丈夫?と声をかけてくれた隣の子に少しだけ笑いかけてから私は立ち上がりお手洗いを目指した。何かが込み上げて気持ち悪い胸を抑えながら。居酒屋の店内はガヤガヤとうるさい。



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 越知は見てしまった。自分の座する居酒屋のテーブルで、ある女の子のグラスへ隣に座る同級生の男が何かを入れた場面を。

「お〜ち〜もう飲まないのかぁ?」

自分のグラスを握ったまま黙っているとだいぶ酔った別の同級生が呂律の回らぬ口で話しかけてきた。

「飲みすぎだ」
「硬いこと言うなって〜」

厄介な酔っぱらいだ彼がそう思った時、気にかけていた例のグラスの女の子が席から立つのを越知は見逃さなかった。少し青い顔をしていたようだ。

まずい。

そう思うと同時に越知もガタリと腰を上げる。

「あれぇ越知、逃げんの?」
手洗いだ」


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 ――ぅえ気持ち悪

そんなに飲んでいないのに何故と思いつつ、手洗い場の鏡で少し乱れた髪や服を私は直していた。込み上げていたものはだいたい出たようで気分はそこそこすっきりしている。それでもやはりどこか気分が悪い。

――皆には悪いけど先に帰るか

そう思いながら手洗い場のドアを開けて私は驚いてしまった。女子の手洗い場ドア前の壁に、越知君が凭れて立っていたからだ。

「あれ?越知君?」
なんだ」
「ここ、女子トイレだよ?」

酔ってる?と適当に聞けば、そんなことはないと静かに返された。すると居酒屋の喧騒の中、越知君は屈んで私の顔を覗き込み言った。

「具合が悪いのだろう。家まで送って行く」

ただ静かにそう言って、なんの躊躇いもなく私の手を握り引いて歩いて行く。何が起きているのかわからない私はされるがまま彼の後ろについていった。握られた手は、とても熱かった。


―――――――――――――――――――――

 彼女が手洗い場から出てくる数分前のことだ。彼女と同じようにそこに向かった越知は、何も気にすることなくそのドア前の壁に背を預けていた。すると彼女が出てくるよりも先に、一人の男が近付いてくる。それは先程彼女のグラスに何かした男だった。

「あれ?越知じゃん、何してんだよこんなとこで」

男は悪びれる様子もなくそう言って軽薄そうに笑う。その様子を静かに見ていた越知は、男に近づいてからそっと言った。

「彼女のグラスに何をした」
「は?」
「何をしたか聞いている」

更に屈んで顔を近付けて問えば、男は少々青ざめる。

「な、何って何にもしてねぇよ!」
「そうか?」

それじゃあと男の肩に手を置いて越知はゆっくりと双眼を開き睨み付けた。

「お前、彼女のグラスの中身飲んでみろ」

飲めるだろうともうひと睨み、肩に置いた手に力を込めると男はぶるりと体を震わせてそそくさ席へと戻った。そして越知は彼女を待ったのだった。


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