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始業式

全体公開 5469文字
2022-04-13 01:04:46
Posted by @EmptySeat_

2022/04/11

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 昼の柔らかい日差しに包まれた校舎に、生徒達が緊張した面持ちで向かっていく。見慣れた顔から新しい顔まで様々な生徒が硬い声で挨拶をして行くのを、私は頬を緩ませながら眺めていた。
「まつり」
 振り返ると、そこには同僚の倉坂高明が居る。彼は「いくぞ」とだけ無愛想に言い放つと、さっさと校舎の中に入っていった。──相変わらずだわ。やや呆れを含んだ視線でそれを見送った後、私もそれに続いたのだった。



▶視点 後縫まつり

 教室に入ると、既にほとんどの生徒が集まり終わっているようであった。教壇には1人の生徒が立っており、私達が入って来るのを見た彼女はこくりとひとつ頷く。
「うん、揃ったようだね」
 教室によく響くその声に、室内の視線が集中する。彼女はそれを微動だにせず受け止め、そして微笑んだ。
「改めて、舞台表現学科へようこそ。
 本当はこの場を仕切るのは僕じゃなく彼、倉坂高明なのだろうけれど──」
 ちらり、と壁際に目を向ける三鶴さん。私も隣に立つ倉坂先生の横顔を覗き見る。三鶴さんが目を向けた事で視線が集まっているのだが、当人はしらっとした顔で知らぬ存ぜぬを貫いていた。思わず視線が冷ややかなものになってしまったのも仕方がないだろう。
……ま、いつも通りあの有様だからね。職務放棄の腑抜けは放置して、僕が進めていこうと思うよ」
 そう言って三鶴さんが正面を向いたことで、向けられていた視線が霧散する。己に向けられた毒すらも聞き流し、くあぁと欠伸をする彼の脛に私はコンッと強めに蹴りを入れた。崩れ落ちる倉坂先生、呻き声を無視して私も正面──三鶴さんを見る。
 ……まあ、なんでしょうか。教育的制裁も時には必要だと思うのです。

閑話休題。
「さて。何はともあれ、まずは自己紹介といこうか。彼を知り己を知れば百戦殆うからず、というだろう? 知る事は何よりも重要なファクターなのさ」
 


 壇上で流れる様に一礼する彼女。手慣れたものだわ、と思うのはもう2年の付き合いになるからだろうか。彼女ほど人に見られる事、壇上で動く事に慣れている生徒はそういない。常に舞台の上に立っているかのような隙の無さ、"普通"である事との緩やかなズレ。御剣三鶴はそういうものが普段から垣間見える、特殊な生徒であった。──生まれ持った気質なのかしら。そう思い、特別気にせず一生徒として関わっているが。
「在校生はともかく、新入生諸君は不安も多いだろう。右も左も分からず戸惑っているに違いない。もしも何かあったら、気軽に相談しに来るといい。出来る範囲でそれに答えよう。
 僕が苦手だったら他の先輩にでもいいしね? なんにせよ、この3年間は君の夢を叶える為の礎となる大事な時期だ。無駄にすることのないように」


「さて、僕の紹介が終わった所で、次は、そうだね、慣れている奴からにしようかな。
 3年生、起立」
 14名が一斉に立ち上がる。座っている生徒──主に新入生に見えやすいようにする為の立ち位置調整が終わり静まるのを待った後、三鶴さんが再度口を開いた。
「それではテンポ良く行こうか。この場には教師含め48名もいるんだ、冗長的では観客も飽きてしまうものだよ」

「ではまず、市村将次」


「篝里慎」


「此花初音」


「花御白雪」


 自己紹介を聞きながら、1年生の頃とは比べ物にならないほど成長した彼らを眺める。私がこの学園に就職したのは2年前だから、ちょうど彼らとは同期になるのだ。色々なことがあったと思う。楽しいことも、苦しいことも、…………
 ──ジリリリリ。脳裏で電話の鳴る音が響いた気がした。

( 閠ウ縺ョ螂・縺ォ縺薙?繧翫▽縺?◆髮サ隧ア縺ョ魑エ繧矩浹縺梧カ医∴縺ェ縺上↑縺」縺ヲ縺励∪縺」縺溘?縺ッ荳?菴薙>縺、縺九i縺?縺」縺托シ )

「以上15名、着席。
 2年生、起立」

「烏星黎」


「灰破沙里」


「福瀬一稀」


「蜂谷柚季」


 ──電話を取る。陶酔したような声、怒りに満ち溢れた声、呆れたような声。人は違えど、言われる内容はだいたい同じだった。

(豁」縺励>遲斐∴縺後o縺九i縺ェ縺上※)

「以上、15名。
 1年生、起立」

「相良阿良々」


「光本才治」


「海月光」


「水無瀬遥」


 ──ただ、耳を劈くような棘の声も、心を溶かすような毒の言葉も、あの子はなんでもないようにまるっと飲み干した。いつものようににこりと笑って、そして────……

「まつり」
 目の前で叩かれた拍手に驚いて、ようやっと思考の海から逃げ出した。息が荒い。冷や汗が背中を伝う。
 目の前には崩れ落ちていたはずの倉坂先生が、面倒くさそうな顔でこちらを見ていた。先程の拍手は彼がしてくれたらしい。慌てて周りを見渡すと、すでに自己紹介が済んでいて、どれだけほうけていたのかと頭が痛くなる。
「す、すみません、私…………
「後縫先生」
 壇上の三鶴さんがじっとこちらを見ている。その赤い双眸だけが、正しく私の状況を理解している気がした。
「後は教師陣の自己紹介だけだよ。無理はしなくていいと思うけれど、どうする?」
 どうせこれからいくらでも会うことになるのだし、と続ける彼女を慌てて制する。
「だ、大丈夫ですよ。ちょっと昨日は──あまり寝れなくて。それだけです、それだけですから」
……そう」
 黙って引く彼女を尻目に、私は息を吸って、吐いて、自己紹介を始めた。



 あまりにも短すぎる自己紹介に、慌てて横から口を出す。──だって、これじゃあ何も分からないじゃないですか……
「彼は演劇科目の中でも実技や公演を担当しているんです。1年生の初めの方はどちらかと言うと座学が多いので授業でこそ会いませんが、初公演もありますし関わることは多いんじゃないかと思いますよ」
 三鶴さんの視線が痛い。あれは多分『甘やかすな自分で言わせろ』って思っている顔だわ……、でも自分で言わないんだからしょうがないじゃない……。心の中で小さく言い訳をするが、こればっかりは向こうが正しいような気もするので仕方ない。倉坂先生本人は相変わらず何処吹く風で、もう1回脛を蹴ってやろうかしらとぼんやり思った。いえ、しないけれども。

「さて、後は──、」
「ボクかな?」
 倉坂先生の隣からひょっこりと顔を出すのは、くまのカチューシャをしたまだ見なれない派手なスーツに派手な髪の男性であった。童顔だが意外にも背は倉坂先生よりも高いらしい。並んで立っている所を初めて見たから気づかなかったな、と私はぼんやりと思った。
 ツカツカツカと勢いよく教壇に向かうと、三鶴さんが開けた壇上の中央に立ち、彼はニコリと微笑んだ。


「此処での新たな生活に胸踊らせる生徒皆さんが、様々な自分を表現し、またそれを通して内側のみならず他人や未来を見つめ直すことで新たな可能性を引き出せるきっかけとなるよう、同じ若手として尽力___、
 あ、忘れてた」

 丁寧な挨拶の最中、ふと何かを思い出したかのようにジャケットの中を漁り出し──、取り出したのは、虎のカチューシャ(?)だった。
 息を大きく吸う彼に、視線が集中する。何が起こるのか、どこかドキドキとした空気を──

 大声が吹き飛ばした。
「卯月!!!!!!!!!!!!」

「そう、世は卯月!つまるところ4月であり春、『出会いの季節』である!そして干支は虎!哺乳綱食肉目ネコ科ヒョウ属に分類される食肉類で熱帯雨林や落葉樹林、針葉樹林、乾燥林、マングローブの湿原など(wikipediaより引用)!
ボクが何をここで言いたいか、改めてハッキリと申し上げよう!オオミミトビネズミのように耳を大きくして聞きたまえ!」

「諸君!キミたちは雛だ!現代社会のピラミッドでは下から数えたほうが楽な存在、世を知り知識を蓄え飛行の術を母から教わる、或いは無惨に死を遂げるいわば圧倒的弱者さ!
そんなひよっ子のキミたちに、ボクが力を授けてあげようじゃないか!自分を、他人を、世界を沸かし腐った大人たちの汚いレッテルに風穴あけるための力を!
その手でナイフを持つか、拳を掲げて歌を歌うか、」


「これからどうぞ、よろしく頼まれたまえよ。以上」

 自己紹介が終わった後、満足そうに元の位置に戻る彼に反応する人は1人として居なかった。なんなら倉坂先生は初手の時点で嫌な予感がしたのかガッツリ耳を塞いでいる。かく言う私も至近距離で聞いたものだから耳鳴りが酷く、頭がぐらぐらとしている状態である。──エイプリルフールの時点でわかっていたけれど、やっぱりこの人も、問題児なのでは…………。少し胃が痛んだ気がした。
 三鶴さんが呆れた目を向けながら、全体に声掛けを行う。それで何とか戻ってこれた人もいれば、そうでない人もちらほら見えた。諦めたのか、彼女はとりあえずその場をまとめにかかる。

……以上、48名がこの学科の在籍者だ。これから一丸となって舞台を作り上げていく仲間、とも言えるだろうね」
 
「沢山交流して、仲を深め合うことだ。最初にも言っただろう? 彼を知り己を知れば百戦殆うからず 、ってね。──共に、最高の舞台を作り上げていこう。以上、解散」

 三鶴さんがペースを崩されるの、初めて見た気がするなぁ。未だに耳鳴り状態から元に戻らない耳を擦りながら、呆然とそう思った。
 

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