了遊(つきあってない)。本編後、友達しようと真面目に頑張った結果明後日へ行く二人とツッコミAiちゃんと見守る草薙さん
@d9_bond
「おまえと、友達になりたいんだ」
遊作が告げると、了見はひどく難しい顔をした。
鴻上了見は責任感の強い男だ。過去にある程度区切りをつけたとはいえ、二人の加害者側と被害者側という立ち位置がなくなったわけじゃない。そのため簡単に了承しないだろうと遊作は長期戦のつもりでいたのだが、意外にも長考の後に了見は頷いた。
「お前がそう望むなら」
非常に消極的な同意だったが同意には変わりない。そして言ったことは守る男だ、間違いなく了見は友達になってくれるだろう。遊作は素直に喜び、よろしく頼むと手を差し出した。
──が、了見は差し出した手を困惑した様子で見るばかりで手を下ろしたままだった。
「友達は握手するものじゃないのか?」
そう尋ねてから遊作は、ハッと気づいた。自分には友達と呼べる存在は片手で足りるほどしかいない。つまり世間一般でいう友情の築き方などさっぱりなわけで、遊作の考える〝友達〟は世間とはかけ離れているのかもしれない。
(親しくなりたい相手とは握手するものだと思っていたが、そういえば尊とはわざわざやっていない……財前との握手も意味が違う)
そもそもの話、了見とどうしても友達になりたくて考えた末に頼みがあると直接呼び出したわけだが、関係を成立させようというのならそこからして誤りだったのかもしれない。
「すまない、間違えたようだ。こういうのはあまり慣れていないんだ」
少し気恥ずかしく思いながらも手を引っ込めようとしたところで、了見が阻むように遊作の右手を両手で強く握った。
「了見?」
「間違ってはいない──」
ともだちなら、と了見は呟くように言った。目を伏せる。
「──私も、友と呼べる存在は近くにいない。お前と似たようなものだ」
その言葉に遊作は目を瞬いた。確かに彼の周囲にはハノイの関係者ばかりに見えるしそのほとんどは年上の大人だ。スペクターだって了見に対しては友人ではなく主として接している。大切な存在ではあるだろうが、家族みたいなコミュニティの方が感覚としては近そうだ。
「そもそも人の関係など、型にはめるものでもない。恋人、友人、親子などと呼んだところで形も中身も人によって違うものだ。だから間違いなどはない」
それから顔を上げて、まっすぐ遊作を見る。
「こちらこそ、よろしく」
言葉と同時に浮かべられた笑みはとても優しかった。
*
「……でもオレが思うに、アレはともだちじゃないね」
Aiは調理台の端に置かれたデュエルディスクで肘をつき、唸った。
遊作が、了見と友達になったと喜び勇んで報告してきてから三か月──二人はなんだかんだと試行錯誤しながら新しく関係を築いていたのだが。
「そう言うなって。名目が何であれ仲良きことは美しきかな、ってやつだ」
気楽に言う草薙とため息をつくAiの目線の先では、了見と遊作がいちゃついていた。
そう、いちゃついていた。そうとしか形容できない状態だった。
今日はカフェナギでバイトをしていた遊作のところへ了見が顔を出した、それはいい。彼は遊作と〝友達〟になってから店の常連にも復帰しているし、遊作がいてもいなくてもよくホットドッグを買いに来る。
問題はその距離感だ。
テイクアウトの包みを遊作はわざわざバンを出て、テーブルで待っていた了見のところへ持って行った。
他に客がいなかったこともあり、そのまま二人は何やら雑談をして笑いあう。
それから遊作は店に戻ろうとして──しかし席を立った了見に呼び止められて足を止める。手招きされて顔を寄せると一言二言交わし、こつりと額を合わせてまた小さく笑いあった。それから名残惜しげに、指先を絡めるだけの握手をしてようやく離れる。
「……今の見た? 距離感おかしいってオレでも分かるんだけど⁈ アイツ毎度毎度うちの遊作ちゃんにくっつきすぎだろ‼」
「そうかもなあ」
「草薙は心配じゃないわけ? この前もアイツうちに来た時イス使わないでわざわざベッドに並んで座ってベッタベタしてたし! おやつシェアするとき『あ~ん』とかやるし! 隙あらば顔くっつけて話すし! あとこの前なんか有線イヤホンなんて骨董品持ち出して二人で音楽聞いてんだぜ~! ふっるい学園ドラマで見たやつだよあれ! 他にもさ、」
「黙れ」
いつの間にやら戻ってきた遊作が低く言う。あーんまでは言ってない。
「だいたい、友達だから仲良くして何が悪い」
「その仲良くの方向性がなーんか違うんじゃないって話だろ」
言われて遊作はちょっと眉を寄せた。
「……確かにお前の言う通りバイト中に雑談は良くなかったな。すまない草薙さん」
「オレが指摘したのそこじゃないんだけど???」
「まあまあ、他に客もいないしちょっとくらい構わないさ」
「そうか。ありがとう」
ふ、と表情を緩める。その様子に草薙も微笑した。了見と〝友達〟になってから遊作は楽しそうだ。Aiは不満そうだし心配も分からないでもないのだが。
「まだそこまで構えなくてもいいんじゃないか、Ai。ふたりとも無自覚みたいだし──自覚が出ても、人間は関係に名前がついてる方が歯止めが効くケースもある」
草薙の言葉に、Aiは腕を組んでまた唸った。
「無理じゃないかな。アレ、結局はリボルバーの中の人だぜ?」
「……難しいか? 表面上だけでもせめて成人までは持ってほしいところなんだが」
「草薙はアイツ信用しすぎ!」
じたじた身体をよじり不満げな声を上げるAiに遊作は首を傾げる。
「おまえは何がそんなに不満なんだ、Ai。……おまえがあいつに思うところがあるのは分かるが」
「そりゃまあ、その人選からしての話もあるんだけど」
Aiは言い淀む。
しっかりはっきり指摘するのは簡単だが、変に自覚してその結果もめても困る。Aiは遊作には極力幸福でいてほしいのである。
といってくっつかれても腹が立つ。Aiとしては遊作が言った通り鴻上了見に思うところがないわけでもなくもなくもないため、大事な相棒を任せるのは業腹なのだ。
「ま、今は〝友達〟もいろんな形があるもんだって思っとけ」
フォローのつもりか曖昧に草薙が言うと、そういう話なら以前に了見したなと遊作は楽しげに語り出した。