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勘違いシリーズ1

全体公開 2 8 2129文字
2022-04-26 21:33:23
Posted by @uk_plus_



 「あの、大丈夫、誰にも言わないし、大丈夫」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている二人に言った私の精一杯の言葉は馬鹿みたいだった。どうしよう、私が動揺している以上に二人はもっと大変だというのに。

 時は遡っておよそ十分前だった。私は見てしまったのだ。帰りに寄ったカフェで、越知君と仲良しな赤毛の後輩君が話し込んでいるのを。両者はとても深刻そうな顔をしていて、盗み聞きをするつもりはなかったが会話が聞こえてしまったのだ。

好きなんです」
お前もか」
「でも、俺は身を引きます」
「毛利お前はそれで平気なのか」

聞こえてしまった会話に私は凍り付いた。

これってつまりそういうこと?

そう二人は“互いに思い合う仲”だったということを、私は聞いてしまったのだ。

「平気平気に、します」

赤毛の後輩君は気丈に振舞いながらも声は震えていた。それはつまりたくさん思っている先輩の越知君を諦めるということに他ならない。

そ、そんな

そして衝撃を受けた私は思わず口に出してしまっていた。

「そんなの、だめだよ!」


――――――――――――――


 本当に、本当に偶然だった。越知は日頃から見ている彼女を。毛利は時たまこうして訪問する仲の良い先輩の学校で見かけた彼女を。本当に偶然に同じ人間に好意を持ってしまっていた。

 それにお互い気付いたのは必然だったのだろう。相棒同士の勘とでも言おうか。気付いてから確認するまでに時間はそう必要なかった。久々に互いに膝を突き合わせ、腹を割って話すことにしたのは毛利の吐露から始まった。

「すんませんツキさん。俺彼女のこと……好きなんです」
お前もか」

苦々しい顔をした毛利に対して越知は涼しい顔で返答する。言われるまでもなく知っていたことだったからだろう。しかしひとつだけ想定できなかったことがあった。それは毛利の心中である。

「でも、俺は身を引きます」

彼自身がどれほど自分を慕ってくれているのかは越知は理解しているつもりだった。それでも自身の求めるものまで諦めてしまうほどとは予想外であった。

「毛利お前はそれで平気なのか」

平気なわけあるまいと越知が言葉を続けると、毛利は一寸俯いてからゆっくりと口にする。

「平気平気に、します」

毛利の肩は震えていた。平気にするなどと簡単なわけがない。この意地っ張りな後輩にさてどんな言葉をかけたものかと越知がため息を吐こうとした瞬間だった。

「そんなの、だめだよ!」

ひとつの声が二人の空気を裂いたのだ。

 越知と毛利は驚愕した。何故ならたった今本題に上げていたであろう件の人が二人の目の前に現れたからだ。そしてその彼女の顔は青くなったり赤くなったりと忙しなく、間違いなく話を聞かれていただろうから。

 そんな彼女に対して毛利がおずおずと口にした。

「聞いて、ました?」

それは三人の間で宙に浮いたようだったが、目の前の彼女がハッとしてから小さく頷いたことで越知と毛利の眼前は暗くなるところだった。しかし状況が変わったのは彼女の次の言葉のせいだった。

「私、誰にも言わないから」

それはどういうことだろうと越知は思った。今話をしていたのはたった今目の前にいる彼女本人のことであり、彼女が秘匿することなど何もないのだから。

「言わないとは、何の話だ」

そして越知は率直に聞いた。すると彼女はきょとんとした顔で首を傾げる。その様子を見ていた毛利は確認するように彼女に言う。

「え、や、何か勘違いしてません?」

その言葉にもう一度彼女は首を傾げてこう言った。

「え?何が?つまりは二人って、そういう、関係ってことでしょ?」
「「は?」」
「あの、大丈夫、誰にも言わないし、大丈夫」
「ちょ、ちょお待ってや」
「私は二人のこと応援するよ!」
「ま、待ってくれ」

越知と毛利の声は上ずった。大変な勘違いをしている彼女の圧にやられたようだ。二人はそれでもなんとかこの誤解を解こうと彼女に対して更に言葉を続けようとしたが、当人の彼女は毛利の両手を握り、きらきらとした表情で言った。

「だから諦めて平気なんて、言わないで!ね!」

その一言は毛利の動きを止め、折角触れられた両手もひゅうと寒くなった気がした。対面している越知はというと毛利が彼女に触れていることと未だ誤解の解けないことに硬直してしまった。

「あ、そろそろ私行かないと。でも本当に、安心してね誰にも言わないから。じゃあまたね」

二人が固まっている間に、彼女はスマホの時間を確認してから店を後にした。残ったのは絶句するばかりの大男二人だけだ。


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「ど、どないしましょ、ツキさん
どうにかするぞ」










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