@nabibi47
※十二、三歳くらいのまだ仲良くない🐉👑
別に気になってなんかない。
知ったこっちゃあないさ。
俺をべっこべこにへこませるちっちぇ暴君様が何をどうしようとも知ったことか。
だけど、でも、だって。
一緒にされた控室、ベンチに腰掛けた天敵はロトムも入れてない端末を見つめていた。
いつにない穏やかで、そう、なんというか、うん、うぁ、この。
「ふ、ふふ」
愛おしい、という言葉がよく似合う。
横顔は笑みに埋もれてそこにある。
いつにない、だって、いつも俺には顰め面だ。
チャンピオンという立場がそうさせるか、こいつは、ダンデは俺にはにこりとも微笑まない。
無言で隣に無表情。
そんな事ばかりだ。
俺だって、声をかけてくれりゃあちょっとは会話してやるのに。
唇が自然ととんがっていた。
誰だよ、相手、誰なんだよ、お前にそんな顔させるの。
俺には、見せてくれないのに。
別にいいけど、構いやしないけど、でもだけどだって。
いらりと腹を焼くもやつきに俺はぶすくれた。
それからじっとしているのも、何やら腹立たしくて落ち着かない。
だから、子供っぽいと言われても知ったことか。
俺はそそっと近寄り、少しの衝撃にこちらを向かせてやることにした。
決して意地悪なんかじゃない、俺は子供じゃないんだから。
そうやって、どんっと肩をぶつけてやった。
わ、声を上げた華奢な肩の持ち主。
それでも決して離さない端末に眉を顰めた。
「何、誰」
俺との待機時間にいい度胸だ。
短い言葉に滲ませた不満をダンデは目を丸くして受け止めた。
手元がお留守だぜ。
ふんっと鼻を鳴らして端末を取り上げる。
ダンデはまた、あ、と短く声を上げた。
何だよ、そんなにいい相手かよ、俺と喋りもしないでよ。
むっとして見つめた画面、そこにあった姿に目を丸くする。
「キミこそ、なんだ。弟の勇姿だ、返してくれ」
いつもの無表情に戻るダンデ、手元の端末では子供番組に合わせて踊る小さな幼児。
ぽかんとした。
取り返される端末を目線が追いかける。
ダンデはそっと目を伏せた。
「最近会えてないから、送ってくれたんだ」
母さんが、しょぼつく声、それから気付く。
こいつ、別に無表情って訳じゃなかったのか。
多分、俺の隣だと静かなだけだったのだろう。
表情も、行動も静かになるだけだった。
意図して無視されていた訳じゃない。
ふぅん。
それを理解して、俺は少しだけ気分が前を向く。
とすん、今度は柔らか肩をぶつけて画面を一緒に覗き込んだ。
「かわいーね」
短く告げる言葉にお前はぱっと顔を上げた。
その双眸にはきらきら小さな煌めきがある。
ダンデはこくこく頷くとふにゃっと笑った。
笑った、俺の前で、笑った、ダンデが、笑った、のだ。
奥歯を噛み締めて、平静を保った。
ダンデはふやふや笑ってもう一度頷く。
「そうなんだ、ホップって言うんだぜ、あのな、最近ウールーと仲良くなってきてな」
「お、おう、聞いてるからゆっくり話せよ」
家族とポケモンのことになると、随分とおしゃべりになる。
そんな些細な発見が嬉しい、短かな待機時間のことだった。
※子守唄を歌う👑
昔から寝かしつけは俺の役割だった。
せっかく帰ってきたんだからそばに居たい、寝ぐずるホップに根負けをして、俺はよくよくその寝床の隣に入った。
毛布をかけてやって、柔らかなお腹に手を当てて、ぽんぽん一定のリズムに撫でてやり、そうして歌う。
子守唄は母さんから教わったものだった。
歌詞なんてない、るららと口ずさむだけのもの。
それでも決まった調律に、ホップの安らかな眠りを願い口ずさめば、不思議ところり、すぐに寝た。
ダンデは寝かしつけが上手ねぇ、母さんが微笑ましそうにしては、今日もありがとうね、そうやって抱きしめてくれるのが好きだった。
ホップが大きくなってからはやらなくなった習慣は、しかして、幼体相手にはよく馴染んだ。
ベビーとも言うべき孵ったばかりのポケモン相手にする事は多数。
本日も、まだボールで眠るに慣れていないヒバニー、サルノリ、メッソンを寝室に備えたベビーベッドに転がして、ゆったり歌ってやったのが数分前。
まぁ確かに、客人が来ていた最中、あの子達の寝かしつけに向かった俺も悪かったのかもしれないが、それを許してくれるだろう相手だったからしたことだ。
多少の放置は相棒達に関わるならば目を瞑ってくれる。
そういう男だから一言謝りを入れて席を立った。
それで話は終わると思っていた。
信頼を、していたのだ。
そうである、はずだったが。
「キバナ、知らなかったぜ。キミ結構心が狭いな」
「ノンノン、意地悪なんかじゃなくて、オレさまもしてほしいなぁってだけの話」
怪訝にも腕を組み眉を顰めて見下ろした先、にぱにぱゲストルームのベッドに転がる男がいる。
俺はやはり唸ってしまう。
何が悲しくて、同僚の大男を寝かしつけなければならないのか。
深いため息、天井を仰ぎ先程を思う。
三匹を寝かしつけて寝室を出た先、出迎えたるは好敵手。
業務上は対立する立ち位置だが、これがどうして気があって、よくよく自宅に招いては食事を共にし楽しく過ごすには最適な相手だった。
キバナは、気の良い友人でもある。
その信頼に席を外したのに、何故だかにっこり微笑んでは俺の手を取り彼の寝床に引き摺り込まれた。
酒も少々入れる時はシャワーを先に浴びてすぐにでもベッドに入れるようにしていた。
今日は結構飲んでいたし、気分も乗ってきていたのかもしれない。
それが仇となったか、彼はベッドにすぐさま転がり要望する。
「ね、子守唄、歌ってよ」
聞かれていたのか、気づきが一つ、君はいい大人だろう、呆れが一つ。
放置に対する仕返しならばあまりに幼稚だ。
眉を寄せたままの俺にキバナはぽんぽん隣を叩く。
このまま出て行っても良いが、キバナの事だ、また俺をずるずる引き摺り戻す。
友人として楽しい相手だが、こうと決めると付き合うまで何度でも粘る厄介さもあった。
それを、面倒の一言で済ませられないのはキバナの可愛げだろう。
からりと笑って許してくれるだろなんて笑うのだ、この男はどうにも憎めない。
だから俺は溜息を繰り返しながらもベッドに乗り上げた。
「オーケー、でも大人しく寝てくれよ」
「んふふ、やっりぃ」
キバナは嬉しげに声を弾ませ、はやくはやくと急かしに隣を繰り返し叩いた。
わかったから、そうやって小さく笑ってしまう。
乗り上がった姿勢からゆったりキバナの横に寝転がる。
枕は大きな彼に合わせて大きめに作ったのだが、何故だか頭はちんまりしてるものだから広さが余る。
だから俺とキバナで半分こに枕を使った。
キバナは仰向けに、けれど、顔は横倒す。
近付く顔、随分と端正な造りの男だ、ふと思う。
手を取られて、腹の上に連れていかれる。
目的地に落ち着くとキバナは手を外した。
寝かしつけられる準備が万端なキバナにふはりと笑ってしまった。
キバナもくすくす笑うから俺はゆったり口を開く。
「るらら、りら、るららるら」
軽やかに喉が開く。
ぽんぽん、腹を撫でる手先は彼を眠りへ差し向ける。
真っ直ぐにこちらを見つめる蒼穹がある。
とろぉと甘やかに垂れていく目尻はこちらを優しく見つめる。
おちつかない。
「るりりりら、ら、っらるらら」
少しだけ、舌がもつれる。
キバナの手が戻ってきて、腹を撫でる俺の手首をすりすり撫で始める。
キバナはうっとり睫毛を揺らしては、俺から目を逸らさない。
瞬きに隠れてもまた現れる瞳は俺だけを写していた。
おちつか、ない。
「る、っららっるら、り、っらぁ」
音が、素っ頓狂に一節崩れる。
するると手の甲を辿った指先に腹を撫でる手がぎこちなく止まる。
俺の調子外れの子守唄をキバナは優しい顔して見つめ聞き入った。
お、おちつか、ない。
「る、りっらら」
「ダンデ」
おちつかない、キバナが顔を寄せてくる、おちつかない、寝かしつけるはずなのに彼は俺だけ見つめてる、おちつかない、名前を呼ばれただけなのに、おちつかない。
口を閉じて身をひいた。
先程まで飲んでいたアルコールの香りが濃くなった。
キバナは少し酔っているのかもしれない。
唇が、薄く開いて、いた。
彼の、綺麗な赤が、咥内に見えた。
両手を、キバナに伸ばす。
「ん、ぐぅ」
「ね、寝れないなら!もうやめだ!」
居た堪れず、俺は飛び起きキバナの顔面を枕に沈めた。
滅茶苦茶にキバナの顔を引っ掴み、ぐっと抑え込む。
キバナは苦悶の声をくぐもって上げ、動きを封じられる。
それをよしとしてばたばたベッドから降りてやる。
背中を向ける俺に、キバナがくすくす笑う声が掛けられる。
肩越しぎこちなく振り向けば、キバナはきゅうっと目を細めていた。
「残念、あともうちょっとかなぁ」
その意味は分かりかねる。
しかし、揶揄われた事は理解した。
だから俺はキリキリ眦を釣り上げる。
「よしわかった、叩き出してやる」
「わぁごめんごめん!おやすみなさい!」
慌ててベッドに潜り込む姿に溜息。
キバナは時々、人の事を揶揄って遊ぶのだ。
いつも分かりやすく反応して構う俺も悪いかな。
やれやれと肩を竦めて出て行くゲストルーム。
その中で虎視眈々、人の心を狙い澄ました竜がとぐろをまいているなどと知る由もなかった。