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猫の寿三郎1

全体公開 14 1097文字
2022-05-12 21:56:10
Posted by @uk_plus_



 「寿三郎ー行ってくるねー?」

玄関先から廊下の方に声を掛けるとたしたしと足音が聞こえて赤毛の猫が私の方へとやって来た。そして目の前に来たその子は私を見上げてひとつ声を掛けてくれる。

「ほいほい、気を付けてな!」
「ちゃんとお留守番しててね」
「大丈夫やって」
「悪戯とかしちゃだめだからね」
「だ~いじょうぶやって。任しとき!」

ふんすふんすと鼻息を荒くした猫元寿三郎は私を見送ってくれた。

 朝の通勤時間。後ろ髪を引かれる思いで私は家の玄関を閉めた。

 事の発端は一週間前だった。家の風呂場から何やら悲鳴が聞こえてきて何事かと覗いたら、何故か寿三郎が猫になっていたのだ。それがどうして寿三郎だとわかったのかと言えば、特徴的な癖毛が赤色をしていたこととドライヤーを極端に嫌ったためだ。そして何より特徴的な関西弁を喋っていたから。ドライヤーを嫌だ嫌だと爪を立てて抗議する寿三郎を乾かすのには骨が折れた。

 それから一週間ばかり、何故こんなことになったのか考えながらも猫になった彼といつもの同棲生活を続けている。寿三郎は仕事に支障があるから長い休みをもらって様子を見ていた。

 「にしてもどうしたもんかなぁ」

昼休みの間に色々検索したりしてみたものの、具体的な解決策になるものはひとつも出ない。それは当たり前だ。突然“猫になってしまった 解決策”なんて間抜けなものに引っ掛かるものなんてありもしない。
 そして私はなんとなく気になって寿三郎に電話をしてみた。ニコール目で繋がった通話の先でがさごそと音がした。

「寿三郎?」
「おう、どないしたん?」
「ううん、大丈夫かなぁって思ってさ」

そう声をかけると電話口からちょっと残念そうなため息が聞こえてくる。

「なんや、寂しくてかけてきたんと違うん?」
「そんなことはありません」

きっぱりとそれを否定してあげると残念そうな鳴き声が聞こえてきた。こうして聞くとますます猫なんだなぁと不思議な気持ちになる。

「とりあえず今日も早く帰るから、いい子にして待っててね」
「はいはい」

そしてぷつりと電話を切ってから私はため息を吐いた。この状態がいつまで続くのだろう。楽しいようなけれど不安が大きく、とにかく今日の仕事も早く終わらせようと私は仕事用のパソコンに向き直った。



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