※生贄パロディ。ハス探。
@hirop573
「…いっ……つ…」
今日も激痛で目を覚ます。寝たわけじゃない。
気絶していただけだ。気絶したままそのまま睡眠に入り、そして朝を迎える。そんな日課だった。
そう、僕は差別を受けている。
それが始まったのは僕の家が火事で燃えて、両親が亡くなってしまった頃からだ。
火事で僕の顔左側に大きな火傷跡ができて、それからは化け物と罵られて人としては扱われなくなった。
同じ年頃の子達には殴られ、年上に口答えしようものなら物が飛ぶ。
アレをしろコレをしろと言う割にお金も食料もくれず、初めこそ泣いていたけど今や涙も引っ込んでしまった。
両親がいた頃とは雲泥の差な扱いだな。くそったれ。
そんな不遇な状況が覆ったのは、こんな辺鄙な村に一つの存在が来訪してからだった。
この村には昔から言い伝えがあり、少し離れた所に大きな城がありとある存在が暮らしているのだという。
村は潰されない代わりに毎年供物を捧げるという約束を交わしたそうで、しかしここ数十年とこの村から貢ぐ事はなかったという。
数十年待つのも大概だと思うけど、そこでようやっと痺れを切らしてやって来たようだ。
『供物が無いのはなにゆえか』
どこから声を発しているのか。まぁそんな事はどうでもよくて。危機感の無かったこの村人達は異形のひとを一目見るや足が竦んで動けずにいた。
僕も遠目で驚いたけど、あの輪の中に入る気はない。
けれどそんな僕をあの異形のひとは許してくれなくて。
(……あ)
『…………』
目が、あってしまった。僕は二つの目だけど、あのひとは沢山の目をこちらに向けていた。
『あれを』
その声に我を取り戻した人達は、あのひとの視線の先にいた僕を捉える。
「!?ヒッ……!」
あのひとの無数の目より何倍も怖い、生きた人間の目が僕に迫ってくる。手が捥がれるのかというぐらいに数人に掴まれ引きずられていき、あの異形のひとの前に差し出された。
どうぞこれを、とか何言ってるんだこの人達。
供物って言ってたから、かみさま、なんだろうか。
そのかみさまは手を一振りすると、地面から触手を生やして僕を掴む。まじまじと見られるものの、不思議と僕はこの村の人達ほどの怖さは感じられなかった。
何故だろう。
『ふむ…。よかろう』
村人達がホッとした気配を感じる。
安堵している村人を見て僕も安心した。
あぁ、僕は死ぬのだろうか。やっと、死ねるのだろうか。もうこの地獄に耐えなくてもいいのだろうかと。
ここから出ようと思った事もあった。けれど出られた所でこの見目だ。どこへ行っても雑な扱いしか受けられない。そう諦めてここで暮らしていくしかなかった。
だったら捧げられて楽になった方がマシだろう。
『しかし数年、否…数十年と供物がなかった事への罰はあらねばな。して、子よ』
「……え、僕、ですか?」
先のない供物、抵抗する気も口答えする気も更々無かった僕に尋ねてきたかみさまの声に驚く。
僕の問いにかみさまは肯定する気配を見せて、村人達を見遣りながら続きを応えていく。
それはまさに"神の所業"といわせるもので。
『見ていたぞ、お前の運命を。お前は我の物となった故、この者達をどうするか決める事ができる。…如何様にもだ』
「…………」
それが聞こえるや否や、村人達は僕に向かって謝罪の言葉や土下座までしてきた。今更なにをしているんだろう。許す許さないの問題じゃないんだ。いつもいつも手の平を返して接してきて。人として扱わなくて。
僕の判断を待つつもりなのだろう。触手から解放され、神に委ねるか彼らを許すのか。
決まっていた。そんなものは。
だって火事が起きたのも、そのせいで両親が死んだのもこの村人達がやった事だからだ。
かみさまの袖を掴んで、噛み締めるように呟いた。
両親の顔を思い出して泣きそうになるのを堪えながら、僕はかみさまにお願いする。
「消して。誰一人として生かさないで…!」
両親以外にした最初で最後の願いかもしれない。
それを聞いた村人は逃げ出し、かみさまは腹の底から笑い声を村中に響かせる。
『フ、ハハハハ!よかろう。その願い、確かに聞き届けた!』
蹂躙される村人の悲鳴を聞きながら、ボロボロのままの僕はまた気絶するように眠りにつく。
意識が遠のく中、かみさまが僕を抱えてくれる感覚があった。
あぁ、今度はよく眠れそうだ。
↓以下小ネタ
▼
「…あの、ここ何ですか」
『禊の場だ』
「みそぎ?」
『お前は我の供物となった。しかし供物のまま終えさせるには惜しいと思ってな。我のものは変わりないが、寵愛してしまえば良い』
「ちょうあい……あなたの言っている事は難しくて分からないです。すみません」
『フ…人の子には難解であったか。そうさな…我が妻に、と言えば伝わるか』
「つ、つま…?…………妻!?」
『おお。これで伝わるか。良い、良い』
「良くな…良くないです!妻の意味分かってますか!?」
『我を誰と心得る。人の知識は網羅しているのだぞ』
「そうだけどそうじゃな…。ぼ、僕はもう死ぬのかと思って…。どうして!」
『惜しいと言ったはずだが』
「何をですか!」
『そなたのその命をだ。良い色をしているからな』
「色…?」
『左様。我から見れば生きとし生けるもの全てに命の色がある。特にお前の色が我は好みであったからな』
「……っ。ぼく、僕は…」
『この古城では好きにせよ。ただし我の傍を離れるな。よもやあの村に戻りたいなどと吐かすのではあるまいな?』
「………僕、生きてもいいんですか」
『そう伝えたはずだが。…人の子の感情までは理解しきれずか…』
「殴らないですか」
『殴る必要がどこにある』
「怒らないんですか」
『必要ない』
「……………死ななくていいんですか」
『我のものだ。許すと思うてか?』
「…う……ひ、う…」
『叱咤しておらぬはずだが。何故泣く』
「ちが…嬉しくて。僕、ずっと殴られて、怒られてばかりだった、から」
『それは僥倖。これからは安寧を得られると心得よ』
「…はい。よろしくお願いします」
▼
『時に子よ』
「なんですか」
『その服では見窄らしいままだ。即席ではあるが用意しておいた故、着替えておくとよい。ここは浴場として使え』
「あ、ありがとうございます」
『うむ』
「………あの」
『何か』
「脱ぎたいんですけど」
『構わぬ。それ如きで尋ねる必要はない』
「いや、その」
『?』
「見られてると脱ぎづらいです…」
『む。そうであったか。しかし子よ、心配はいらぬ』
「な、なんですか…わっ!?な、なに、ヌルヌルする!」
『都度必要な時に我と禊をするのだ。慣れてもらわねば困る』
「へ、えっ!?禊って、そういう事ですか!?ひ、うっ…!」
『次いでだ。羞恥を捨てさせるためにも今済ませてやろう。身を委ねよ』
「………!………っ!!ううう…!」
▼
「今更言うんですけど、こんな良い服僕が貰っていいんですか」
『正に今更だな。我が勝手にしている事だ。黙って着ておればよい』
「…分かりました」
(慣れないなぁ。こんなヒラヒラの服…)
『以前の物が良ければ同じ物を作らせよう』
「え?作らせて…?誰にですか?」
『ほう。興味があるか』
「あ、ええと…やっぱりいいで、」
『ここでは遠慮などするな。どれ、こちらへ来い。案内してやろう』
「わっ…う、うう…」
(僕の馬鹿!僕の馬鹿!)
▼
「ハスター様、自分で歩けますから…」
『ならぬ』
「……すみません」
『そなたは我の寵愛を受ける者。我が自らしている事だ。大人しく為されるがままおればよい』
「……。ありがとう、ございます」
『まぁ、散々と喘がせれば足腰も立つまいな?』
「ッ!?は、ハスター様っ!」
▼
「ハスター様、誰か来てますけど」
『放っておけ。誰とも会う約束はしておらぬ』
「…でも」
『ノートン』
「っ…う、ごめんなさい」
『よい。今後誰が来訪しても決して扉を開けてはならぬ』
「分かり…ました」
(このひとの知り合いとかどんな存在なんだろう…)