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さよならスーパースター

全体公開 2500文字
2022-06-01 20:55:22

零敬 2016年11月29日投稿

Posted by @saeki_f

過ぎた日々を懐かしむこともある。卒業式だ、それくらい許されるだろう。
あの日あの人が古いアルバムを引っ張り出した場所で、俺は一人佇んでいた。


式は滞りなく終了した。俺は生徒会や弓道部への挨拶を済ませ、夕方から行われる天翔院家主催の全校パーティまでの時間をここで過ごすことにした。
春の訪れが近いとはいえ、まだ日は少し短い。オレンジがかり始めた陽の光が眩しくて、半分だけカーテンを引いた。こんな日に図書室に来る物好きなど居ないだろう。俺には、誰にも邪魔をされず眺めたいものがあった。
昔、と言うほど昔ではない。入学当時から現在までの学院の記録。捨てることはなくても、もう二度と開くことはないと思っていた。あの人のせいだ。するりと人の懐に入って来ては、色んなものを乱していく。それは三年間ずっと変わらなかったな。


UNDEADは一度解散するが、朔間さんと羽風は卒業後も組んで活動するのだと聞いた。いずれ……いや、一年後には大神と乙狩も合流するのだろう。バラバラに見えて、実は結束の強いユニットだったと実感する。あの羽風が芸能活動を続けると聞いた時には驚いたが、奴も変わったということだろう。最近は良い顔をするようになった。

「UNDEADの二枚看板」。誰が呼び始めたか知らないが、伝統あるユニットでもないのに随分と様になっている。

(あの人との付き合いは、俺の方が長いのだが……

ふとそんな言葉が頭を過る。今何と? 俺が、そんな……嫉妬みたいな言葉!
度し難い! そんな訳あるか。卒業式で少しノスタルジックになっただけだ。そう、あの時代を少し思い出しただけ。


アイドルへの憧れを抱いて英智と共に入学したが、その頃の夢ノ咲は酷いものだった。ただ一人、一学年上のあの人以外は。
どういう因果か俺はあの人とユニットを組むことになった。あの人は生徒会長だったし、英智が策略を巡らせるより前から世界中を飛び回っていたから、あまりまともな活動はできなかったけれど。
それでも、あの経験は有益なものだった。薬どころか劇薬に近い指導によって、今の俺の実力が培われたと言っても過言ではない。大神はあの人に似た所が多かったから、俺よりさらに色濃く影響を受けていたな。俺達はひたすらに、あの人の背中を追いかけていたんだ。
昼間は動けぬ奇人という点を除けば、とんでもない人だった。アイドルとしての実力はトップクラス、知識も豊富で指導力があり、並々ならぬ求心力を兼ね備えている。正直なところ、英智が直接対決を避けたのも頷ける。

五奇人を潰して紅月を作ったことは無論悔いてなどない。紅月は俺の居場所で、誇りだ。ただ思い返すほどに、様々な後悔が沸き上がるのも事実。俺の選択は全て正しかったなんて、思えるはずがない。

苦い顔をしていたら、不意に扉の開く音が聞こえた。地獄耳なのは知っていたが、こいつには心の声まで聞こえるのだろうか? 別に呼んでいたわけではないのだが。

「やはりここにおったか」
……朔間さん、俺に何か用か?」
「皆に挨拶しておるのじゃよ。二度と会えんわけではないが、一つの節目じゃからの」

博愛主義者らしい言葉だ。腕にはいくつもの花束を抱えている。きっと抱えきれない分が軽音部の部室あたりに積まれているのだろう。
俺の向かいに座ると、卒業証書の黒い筒を見せてきた。花束に隠れて見えなかったが、まだ持ち歩いていたらしい。

「どうじゃ、ちゃんと卒業したぞい」
「社会に出てもそのキャラクターでやっていくつもりか」
「ううむ、我輩もう老骨じゃし、一度ついてしまった癖はなかなか抜けんよ」

返礼祭で俺が卒業について聞いたのを覚えていたのか。わざわざ報告しなくても、ちゃんと分かっている。俺を誰だと思っているんだ?
それに、老人ぶってはいるが成人もしていない奴が何を言う。あんたはこれからもアイドルだろうが。牙を落としたフリをして後ろから噛みついてくるような奴が、引退でもするみたいな口ぶりで話すんじゃない。

「あんたはこれから羽風とやっていくそうだな。あの軟派男に何が起きたのやら」
「くくく、蓮巳君も分かっておろう。あの嬢ちゃんの力じゃよ。我輩もあの子に感化されてしもうたかのう。ちょっと今やる気に満ちておる」
……そうか、それは何よりだ」

そんな言葉が出たのが自分でも意外だった。明日からはもう学院の生徒ではなくなるからだろうか。皮肉でも何でもなく、素直にこの人の熱意が喜ばしいと思えた。
この人のステージは、いつ見ても鳥肌が立つ。デッドマンズ、S1での対バン、返礼祭。形は様々だが、学校という特殊な環境でなければ、同じ場所に立つことなどなかったかもしれない。そういう意味では、俺も青春を謳歌できたのだろうか。後悔は多いが、今となってはここでやり残したことも思いつかない。

絶対口に出してなどやらないが、最後にもう一度あんたとステージに立てて良かった。

「念願じゃった晃牙との対決も果たせて、いよいよこの学院に思い残すことは無い。いやはや、もう一年残った甲斐があったわい」

そう笑う朔間さんの顔は晴れやかで、何のしがらみも感じられない。俺もきっと似たような顔をしているんだろう。俺達が二人共に笑い合える日が来るとは。一年前からは考えられなかった状況だ。

「今日までは学生だが、これからは生き残った者が勝者だ。年上だろうと、呆けていたら食ってやるからな」
「言うようになったのう……望むところだ、坊主」

荒っぽい物言いがスイッチだったのか、相手が俺だからか。眠れる魔王が爪をちらつかせた。
そうだ。あんたはもっと暴れればいい。明日から俺達は、責任と引き換えに自由を得る。

どうしようもなく憧れていた。あの悪夢のような夢ノ咲に一人、燦然と輝くスーパーアイドル、朔間零に。
もう背中を追いかけはしない。肩を並べて歌うこともない。向かい合っていがみ合いもしない。それぞれが自分の思う方向へ進むだけだ。

俺の歩む道の先に、きっとあんたはいない。だから、

さよならスーパースター


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