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as long as I live

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2022-06-02 10:14:46

あずあら(吸血鬼パロ) 2022年5月8日
超吾が手無配

Posted by @saeki_f

 他人のために生きることは、人生における一つの価値だ。両親を喪い、東に拾われたあの日から、荒船はそれを実感し続けている。ある時は自分が生きるための仕事が東を生かし、ある時は友達を守るために戦地に赴き、今は自分の全てが東のためにあると思っている。
 しかし東と思いを通じ合わせたことで問題も発生した。荒船が僕となったので、東が血の対価を支払えなくなってしまったのだ。吸血鬼が血に金銭を出していいのは人間だけと法で決まっている。僕は人間であって人間ではないので、荒船はその枠から外れてしまった。
 もう自分の眷属だからと東が荒船を養うことを提案したが、荒船は自分で働いて収入を得たいのだと言って聞かなかった。一方で東は荒船と長時間離れたくなかったので、人間社会ではなく東の補佐の地位を与えたのだった。荒船はコネで職を得たのが不本意そうだったが、東の傍に居る利便性もあり譲歩した形だ。

 そういった経緯で、今の荒船は東と一緒に仕事をしている。今日は人間が行う学会と、その後の交流パーティに参加する東に同行していた。
 学会の内容は薬学に関するものだ。純血の吸血鬼にはほぼ必要が無いのだが、人間の血が混ざっている者には必要になることもある。荒船も興味があったので参加してみたのだが、そこで分かったのは内容を完全に理解するには膨大な量の専門知識が必要だということだけだった。
「東さんは分かったのか? 話の内容」
「うーん、半分くらい」
 荒船は開いた口が塞がらない。学者の話を聞く東はまるで完全に理解しているかのような顔をしていた。この学会にはもっと向いた人材を寄越した方が良かったのではないかと思ったが、ほとんど病気にならない吸血鬼やダムピールが薬に興味を持つとは考えにくい。
「おいおい、報告書作るんだろ」
「まあ、なんとかなるよ。分からなかったことはこの後のパーティで聞くから」
 二人は荷物をまとめて学会の会場からパーティ会場へと移動した。ホールは広く、先ほど壇上で話していた学者達が開会前から話に花を咲かせている。荒船は学会というものに初めて参加したが、学生や教授だけでなく企業の人間も来ているようだ。
 長い開会の挨拶を聞いて、ようやく自由に歩き回れるようになった。人間たちは酒や食事を楽しみながら歓談や議論に興じるが、東に食事は不要だ。
「お前は食事してていいぞ。腹減っただろ」
「分かった。何かあったら呼んでくれ」
 荒船には相変わらず食事が必要だ。このパーティは自分で好きな料理を取りに行くスタイルで、普段は食べないような珍しい料理の数々が並んでいる。正直なところ、学会の途中から荒船の腹の虫が鳴いていた。
 年齢的には酒を飲んでも問題ないが、見た目が若いままのため家の外ではあまり飲まないようにしている。一人で存分に飲み食いして満足した頃、身なりの良い男性が近付いてきた。
「こんばんは。お一人ですか?」
「? はい」
 地元や職場以外だと、知らない人間から話しかけられるのはいつも東の方だ。慣れない状況に荒船はやや警戒度を上げた。
「ご一緒されていたのは吸血鬼の方でしたね」
「ああ、ご存じなんですか。しばらく他の先生方と話すと言っていましたが……
「あ、いやいや。君とお話ししてみたかったのですよ。お若いのにこんな学会を聴きにくるなんて驚きだ」
「見た目ほど若くありませんよ。今日は主の付き添いで来ただけですし」
 見た目だけで判断するなら東も十分若い方だが、荒船はいまだに未成年と間違えられることもある。会場内で目立つのも理解はできた。
……もしやと思いましたが、君は吸血鬼の僕なのですかな?」
 好奇の目を向けられていると気付き、口が滑ったと後悔したがもう遅い。東にもあまり公言しないように言われていたというのに。
「ええ、まあ」
「実は私、製薬会社を経営していましてね。今も色々と薬を開発中なのですが、最近は思うように研究が捗っていなくて……ああこちら、私の名刺です」
 男は急に雄弁になり、声からは若干のわざとらしさを感じる。初めに警戒度を上げたのは正解だったようだ。少し泳がせてみようと、荒船は大人しく話を聞く。
「研究が捗っていないというのは?」
「薬を世に出すには治験といって、人に使って問題ないことを確認しなければならないのですが、なかなか被験者が集まらなくて」
 男が話題に対して上機嫌で話すのを見て、これを荒船に伝えたかったのだと分かる。
「それは大変ですね。早く薬ができれば、それだけ助かる人も多いでしょうに」
「ええ、まったくその通りで……どうです、君も治験に協力してみませんか。吸血鬼の血を持つ人間のデータは貴重ですから」
「俺はどこも悪くありませんけど……
「健康な人にも害が無いことを証明したいのですよ」
 なるほどこれが目的か。適当なことを言って、人間より丈夫な体を使って違法な実験をしたいのだろう。男の目の奥で欲望が光っている。
 自分の思い通りに話を進めていると思っているのだろうが、話の流を作っているのは荒船の方だ。こんなに単純な人間が会社の経営をしていて大丈夫なのかとむしろ心配になった。
「危険でないのなら、お話は伺ってみたいですね」
 無論付き合ってやるつもりはないが、そんなことを考えている時点で既に何か違法行為を働いている可能性が高い。証拠を探してみるのもいいかもしれない。
「ここで込み入った話をするのもなんですし、奥の部屋でお話ししませんか」
 荒船は一瞬躊躇った。別室が用意されているのは準備が良すぎる。ここで荒船を見つけたのは偶然だろうが、もしかすると部下が待ち構えていて、最悪の場合誘拐されるかもしれない。しかし自分の身の危険と悪事の可能性を天秤にかけると後者を暴かずにはいられないのが荒船の性格だ。迷った素振りは見せずにそのまま男について行こうとした。しかし。

『待て』
 二人の背後から声がした。男は思わず振り向いたが、荒船はぴたりと立ち止まって微動だにしない。
 人混みの向こうから近付いてくるのは東だった。穏やかな表情をしているが、その下には怒りと焦りが満ちている。
「私の僕に何かご用でしょうか」
 東が荒船の肩を抱き寄せながら男に尋ねる。すると石のように固まっていた荒船が再び動き出した。あの命令は男に向けられたものではないのだ。
「ああ、彼が私の事業に興味があると言っていたので、詳しい話をと思いまして」
 男の言い分は至極真っ当である。どちらかというと首を突っ込んだのは荒船の方で、その点は荒船も分かっていた。しかし東は許すつもりがないらしい。
「申し訳ありませんが、我々はそろそろお暇いたします。日が出る前に戻らなければ動けなくなってしまいますので。荒船、名刺は頂いたのかな」
……ここに」
「なら良かった。それでは失礼」
 東は荒船の肩をしっかりと掴んだままくるりと踵を返して、風のようにパーティ会場を後にした。

 二人きりになると東はわざとらしく溜息を吐いた。
「なにフラフラついて行こうとしてるんだ」
 東には男との会話が聞こえていたのだろう。自分は自分で大事な話をしていたはずなのに、余計な心配をさせてしまった。
「騙されたふりして悪事を暴いてやろうと思ったんだよ」
「あんまり無茶なことはしないでくれ……
 いまだに東は荒船の保護者のような言葉をかける。主人と僕なのだから当然ともいえるが、二人は限りなく対等に近い。別に世話を焼かなくていいと普段から言っているのに、東がそれを止める気配はない。
「東さん、昔より過保護になったよな」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「俺のせいかよ?」
「ちょっと体が丈夫になったくらいで、すぐ危ないことに首突っ込もうとするようになっただろ」
 確かに荒船もそれは否めない。吸血鬼の血を手に入れてからというもの、少々の怪我なら恐れずに行動するようになった自覚はある。東と行動していると自然と感覚が鋭くなるのでその弊害ではないかとも思うのだが、また減らず口をと呆れられるのが分かっていたので荒船は口には出さなかった。
「そもそも吸血鬼の僕は珍しい存在なんだ。あいつみたいに悪事に利用しようとする奴もいるんだぞ」
「分かってるって。もう勝手にあんたから離れたりしねえよ」
 荒船の我儘で家を出た時、やむを得ない事情があったとはいえ東をひどく傷つけてしまった。あれ以来、荒船は東から離れないと繰り返し約束している。そんなに心配しなくても荒船は東のために生きると決めているのだが、東が安心できるのならば何度だって伝えよう。

 二人は建物の外に出た。これから飛べば日が昇るまでには十分間に合うだろう。
「話は聞こえてたと思うけど、あいつの会社はやばいことしてる可能性が高そうだ」
「そうだな。あの言動は放置できないし、報告書と一緒に忍田さんに知らせよう。証拠は無いけど警戒くらいはしてくれるだろう」
「報告書のネタは揃ったのかよ」
「そっちは問題ないよ」
 なら良かったと、荒船は東の肩に腕を回した。東がそれに応えるように体を抱き上げ、翼を広げて一気に飛び上がる。二人で飛ぶのももう慣れたものだ。
「荒船と居ると、なんかお節介になるんだよな」
 吸血鬼が人間社会に口を出すのはあまり良い顔をされない。東は適度な距離感を保とうとしているのだが、荒船があちこち首を突っ込むのでそれに追従する羽目になっている——と東は考えている。
「元からだろ。東さんはお人好しだからな」
「そうか……?」
 しかし荒船はそうは思っていない。荒船が居なくとも、東は困っている人に手を差し伸べずにはいられないし、目の前で起こっている不正を見逃せないだろう。そこに人間や吸血鬼の区別は無い。そんな主だから荒船も好きになったのだ。
「いいんじゃねえか? 長い人生なんだし、人間と仲良くしといて悪いことはねえよ」
 寿命が延びても、荒船は吸血鬼ではない。どうあがいても荒船は東を置いて寿命を迎えてしまう。大分先ではあるが、荒船が居なくなった後のことも考えておかなければならない。
 戦争が終わってから科学が急速に発展し、これから世界は狭くなると言われている。吸血鬼も更に人間と歩み寄っていく必要があるかもしれない。その中で荒船の代わりに東と一緒に生きてくれる人が居たらいいと思っていた。
……俺は荒船が居ればそれでいいよ」
 東も荒船の意図は分かっているのだろう。しかし今はそこから目を逸らしているようだ。今はまだ仕方ない。今日明日で解決しなければならない問題でもないのだ。
 置いていかれるのは寂しい。二人はその痛みをよく知っている。きっと置いていく方も同じくらい寂しいのだと思う。だから生きている限りは一緒に居たい。とても単純な話だ。ただひたすら、後悔が残らないように。
「今日は一緒に寝てやろうか」
「どうした、お前から言い出すなんて珍しい」
「嫌なら別にいいんだぜ」
「嫌とは言ってないだろ」
 しんみりした空気を払うように二人は軽口を言い合う。風の音しか聞こえない闇の中、主人と僕の笑い声だけがささやかに響いていた。


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