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ジョルモ・ジョルァーナ プロローグSS

全体公開 プロフィール・プロローグ 4789文字
2022-06-11 22:23:19
Posted by @DSSmafia

『ジョルモの母親』はとても美しい女性であったけれども
決して良い母親ではなかった

幼いジョルモをおきざりにして
彼女はよく夜の街に遊びに出かけた

寝ていて夜目を醒ますと 母親が家にいない

1~2歳の子供にとってそれはどんな恐怖と絶望なのだろう……
……ジョルモは暗闇の中で 泣いても無駄なので
ただひたすらふるえていただけだった

ジョルモが4歳の時 母親は再婚した
相手はガトー・アイランド出身で 以後ジョルモは島の住人となった

しかし この男は母親の見ていないところで
よくジョルモを殴りつけた

「人の顔色ばかりチラチラのぞきやがって イラつくガキだぜ」

これは逆だった……
他人の顔色ばかりうかがう性格にしたのは 明らかにこの男が原因だった

そしてジョルモのこうした態度は
街のガキどもがうっぷんをはらすのに もっとも好まれる性格だった

彼は自分がこの世のカスだと信じるようになり
このままでは ジョルモが心のネジ曲がった人間に育っていく事は
誰が見ても時間の問題だった


しかし ある事件がきっかけでジョルモは救われる事になる


いつものようにジョルモが学校の帰り道を歩いていると
男が石壁のかげに倒れていた

生きているのか?死んでいるのか? わからなかったけれども
体のどこかを銃で撃たれているみたいだった

するとそこに別の男たちがわめきながら走ってくる……

「チクショーどこ行きやがった」
「逃がすな捜せ!」

あきらかにこのケガをした男を捜している風だった……
どんどんこっちへ向かってくる

男たちはジョルモに質問して来た……

「あっちへ行ったよ」

ジョルモはウソをついた……

恐怖はなかった

ただ倒れている男に対し
『自分と同じようにひとりぼっちでさびしそうだな』と思っただけだった

そして幸運な事に男の体は『草』がのびて隠れていた

これはジョルモの『モールド・エクスペリエンス』の能力なのであるが
まだジョルモ自身はこの能力に気付いておらず 無意識の行動だった
この事はだれにも言わなかった

『男』がジョルモの前にあらわれた

『男』は生きており
そしてジョルモがかばってくれた事を覚えていたのだ……
――そしてこう言った

「君がしてくれた事は決して忘れない」

なぜ撃たれていたのかそれは言わなかったが


ほどなくして 義父がジョルモを殴らなくなった
町の悪ガキどもが満員の映画館でジョルモに席をゆずってくれる
男は『マフィア』だった

『男』は遠くからただ静かにジョルモを見守ってくれているだけだったが
他人の顔色ばかりうかがっている子供に対し
ひとりの人間として 敬意を示してくれる付き合いをしてくれた

両親から学ぶはずの『人を信じる』という当たり前の事を
ジョルモは無言の他人を通じて知ったのだ

奇妙な事だが……

悪事を働き法律をやぶる『マフィア』が
ジョルモの心をまっすぐにしてくれたのだ

もうイジけた目つきはしていない……
彼の心にはさわやかな風が吹いた……

男は決してジョルモを『マフィアの世界に巻き込まない』という
厳しい態度をとっていたが……

政治家が汚職をやり警官が弱者を守らない
ジョルモの住むような環境では
ジョルモの気持ちを止める事はできない……
彼の中に 生きるための目的が見えたのだ……

こうして『ジョルモ・ジョルァーナ』は
セリエAのスター選手にあこがれるよりも……

『島のマフィア』(アイランズマフィア)にあこがれるようになったのだ!













そのジョルモの命が今、失われようとしている。












ジョルモはその日、いつものぼったくりタクシーのバイトに精を出していた。

マフィアまみれのこの島「ガトー・アイランド」にも、それなりに観光客は訪れる。
誰かが「カタギは全員逃げ出した」なんて評しているらしいが、
それは決して、島に人がまるっきり居ないということではない。
農業・漁業・林業などの一次産業に、飲食・運輸・製造・ホテルなどの観光業と、
求められる人材は非常に多く、また多岐にわたる。
この島においてはそれら全てに満遍なくマフィアの息がかかっている、というだけだ。
マフィアと全く関わりの無い「逃げることが可能なカタギは全員逃げ出した」というのが真実である。

ジョルモの小遣い稼ぎは島のタクシー屋である。
空港か港で観光客を探しては、親切に声をかけて相場ガン無視の金額でお客様を運んであげていた。
あんまり無警戒なお客様がいらっしゃった際には荷物だけ運んであげることもあった。

その日は、夕方に隣町のホテルまで行きたいお客様が見つかって、
ジョルモは大いに膨らんだ財布に満足しながら帰路につくところであった。

ふと、通りの向かい側、レストランの裏手から銃声が響いた。
同時に何人かの男の声。
マフィア同士のいさかいだろうか。
この島に住んでいればいつものこと……とまではいかないが、この手の出来事は周囲に起こりうる。
当然、我々小市民が積極的に関わろうとするものではない。
ジョルモは何も聞かなかったことにして、今晩の贅沢をどこの店で過ごすか考えはじめ、

「追い詰めたぞ、■■■■――!」

決して聞き流せない、恩人の名前を聞いた。




確信を持って覗き込んだ路地の先で、あの人の姿を認めた途端にジョルモは走り出していた。

間違いない。ジョルモに『敬意』を示し続けてくれた、マフィアの男である。
彼に救われて今の自分があると断言できる、人生の恩人。
その彼に対し複数人で迫るマフィア――おそらく「バンブー・チルドレン」の連中だろう――が、
今まさに拳銃やら、各々の武器やらを構え襲い掛かろうとしたところであった。

「生まれろ、生命よ……!」

あの人を守らなければ。
魔人能力、『モールド・エクスペリエンス』発動。

ジョルモの魔人能力は、そこら中に植物がワッサワサと生えてくる能力である。
自然界において、繁茂する速度が速い植物であるほど瞬間的にワッサワサさせられる。
具体的にはセイタカアワダチソウとか、アレチウリとか、オオフサモとかである。
特定外来種生やすな。
ともあれ、瞬間的なワッサワサが彼の能力。となればやることは決まっている。

「!?」「なんだ!」

刹那、レストランの外壁と路地の石畳から一気に緑が広がる。

量と密度があるとは言え、強度はほとんど望めない自然植物の繁茂である。
「バンブー・チルドレン」の連中の視界から彼を外すことは出来ても、
飛んでくる銃弾を弾くなんて芸当は出来やしない。早くあの人とここから逃げ出さねば。
ジョルモはそのまま走って彼の眼前に飛び出して、


そこに、何発もの銃弾が突き刺さった。



そこに居た「バンブー・チルドレン」の刺客は3人。
不運にも、そのうちの銃使いは魔人能力者であり、
彼が適当にでも放った弾丸は射角15度以内の最も近い目標に「必ず当たる」という能力を持っていた。
眼前に突然繁茂した緑に視界を遮られた銃使いは、しかし躊躇わずに前方の「人間」を目標に撃った。
ジョルモの魔人能力による「視界切り」は意味を成していなかったのだ。


「ジョルモ……!!?」

「ッチ、飛び出したガキに当たっちまったのか?待ってろ■■■■、すぐ殺してや……
「がっ」
「ぐぎゅ」


否、意味はあった。

ジョルモの飛び出しは刺客らの気を逸らし、また銃使いの弾丸を全て引き受ける結果になった。
それは、ジョルモが守りたかった恩人である彼の命を間違いなく守り、
かつ反撃をするための時間を捻出した。
彼は効力を失い輝き消えていく植物の間から狙いを定め、
極めて正確な銃撃で「バンブー・チルドレン」の刺客を始末したのだ。

路地裏に静寂が訪れる。

ジョルモの意識は一気に遠くなっていく。
久し振りに会えたというのに、言葉を交わすことも出来なかった。
でも、自分の名前を叫びながら大粒の涙をぼろぼろと溢れさせているこの人が無事だったのだ。 
よかった。

ジョルモは、全身が凍えるほどに寒かったけれども。
彼の腕が触れているところだけは、そこだけが、とても、ひどく熱く感じられた。








「あああああああああ。あああああああああ。」

「ジョルモ……ジョルモ・ジョルァーナ……!」

「うああああ……なんで……なんで……!!」



ジョルモに命を救われた『マフィアの男』……ファビオ・ヴァザーリは悲しみに暮れ、泣き崩れていた。


幼い頃に自分を助けてくれた、誠意ある心を持った少年。
自分みたいなものに憧れの気持ちを向けてくれた、真っ直ぐで気持ちの良い子供だった。
難しい家庭環境の中にあって、ひねくれていた時期もあったようだけれど、
成長の途中であった素晴らしい精神力で前を向くことが出来ていた。
将来が本当に楽しみな、前途ある少年だった。

そんな子が。何故。


「なんで……この街に居るんだ……


「どうして……こんなところに居合わせてしまうんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・……?」



この島の二大巨頭の一角である「マッシュ」に所属するファビオの身には、度々、謎の現象が起こる。

それは『彼のことを慕う子供』が『彼を庇って死ぬ』というものだ。



幼い頃、歩道に乗り上げたトラックからファビオを庇って弟が死んだ。

人を守れるようになりたいとハワイで親父から銃を習ったが、
その腕が発揮されたのは偶然居合わせた強盗に友人が殺された後であった。

死んだ強盗の頭に何度も弾を撃ち込み続けたファビオは罪に問われかけたが、
その話を聞きつけた「マッシュ」が彼をスカウト。
選択肢はほぼ与えられぬまま、彼はガトー・アイランドを拠点とするマフィアとなり……
そして今日まで生き続けている。

          
何度も、この現象……不幸な事故・・・・・に見舞われながら。


「ジョルモ……可哀相に……君には未来があったのに……


「こんな……こんな悲しいことがあるだろうか……


原因は分からない。
本当に、ただの偶然としか言えないのだ。

彼を慕う子供が、たまたま彼の身の危険に居合わせ、彼を庇って死ぬ。
友人と買い物に来ていた、家族と食事に来ていた、
なんとなく散歩のコースを変えた、夜中にふと目が覚めてしまった……
そんな本当にただ偶然の結果として、その子供が自分の目の前で死ぬ。

銃の腕と、それ以上に人格と人当りの良さを組織から買われているファビオは、
縄張りとして島の孤児院と周辺地域を与えられ、日頃からそれらを支え、慈しんでいる。
というのに。その孤児院の子たちまでもが、「偶然によって」何人か死んでしまっている。

本当に偶然のはずなのに。作為をする人も、作為が可能な状況もどこにもないのに。

何度も、これからも、それが起きてしまうとしたら。

不甲斐ない自分が身の危険を晒す度に、誰かが犠牲になるのだとしたら。



……これ以上、君のような犠牲を出さないために……


「ぼくは……『魔石エリーゼ』を、あのあらゆる災厄を回避する石を手に入れなければならない……




大粒の涙をぼろぼろと流しながら、自分を慕ってくれた勇敢な少年の亡骸を抱きしめながら。

ファビオの瞳に、確かな意思が灯っていた。


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